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混沌都市襲撃 ~魔物の暴走と混乱~

二章のラストの開始です!

軽めの戦闘シーンがあります。多分問題無いですけど、一応気をつけて下さい。

「あれ? どうしたの皆?」

「ふわふわする~」「ムズムズする~」「あっちに行きたい!」

「フェアリーさん、どうしたんですか?」


 カケル達が何時も様にライトフェアリー達と遊んでいたら、いきなり彼等の様子がおかしくなった。

 良く分からないが、ある方向へと移動したいらしい。

 でも確か、ライトフェアリーは魔素に汚染される可能性があるから、聖域からは殆ど離れられない筈なのに何故?

 そう思っていた僕の隣で、ミミが舌打ちをした。


「チッ! 面倒な事をしてくれましたね!! キーリ様! ホーリーフィールドの効力を強めて下さい!!」

「あ、あぁ……」


 有無を言わせない迫力で、ミミがキーリに指示を出す。

 その指示に従ってキーリが、ホーリーフィールドを強化すると聖域の中がいつもよりも澄んだ空気になった。


「あれ?」「何で、あっちに行きたかったんだっけ?」「フワフワ治った~?」


 どうやら、ライトフェアリー達が元に戻ったらしい。


「ミミ、どう言う事?」

「精神汚染のスキルの一種です。主様は無効化されるので、関係ありませんがライトフェアリーの方々には影響が大きかったようです」

「ミミ様、私に影響が無いのは何故なのでしょうか?」


 精神汚染と聞いて、レナが疑問を呈する。

 キーリ達の様な高位の魔物ならいざ知らず、自分のようなただの人間が何故掛からないのかと。


「それは、このスキルが魔物に対して効果を発揮する類の物だからです」

「魔物専用……」

「ミミ、誰がそんな事を……?」

「私達に敵対してる者が居たか?」

「いえ、これは無差別のスキルです。しかも、かなり強力な……。発動場所は――」


 ミミは暫く目を閉じた後、再び目を開く。


「場所はシャンティナです。恐らく現在シャンティナは、引っ切り無しに魔物に襲われているでしょう」

「え?」「「なんだって!!?」」


 そのミミの口から語られたのは、そろそろ行こうとしていた一番近くの街であるシャンティナの襲撃情報だった……。


 ◇ ◇ ◇


 カン、カン、カン……!


 シャンティナに響き渡る、警報の鐘の音。

 意味は、緊急事態、魔物の襲撃ありだ。


「おい! どうなってやがる!!」

「そうだ! 魔物の襲撃だと!?」

「落ち着け! 儂の口から説明するわい!」


 総合ギルドには、多くの人が詰め掛けていた。

 先程から聴こえる、警報の鐘の音が原因だ。


 ギルマスであるローグは騒ぐ冒険者達を鎮めて、口早に現状の説明を行う。

 つい先程、物見櫓(ものみやぐら)から魔物の大群の発見情報が届いた事。そして、それが四方から迫っている事を……。

 所謂(いわゆる)スタンピードが起きた事を……。


「嘘だろ……?」「魔物の大群!? 数は!?」「四方から挟撃されるって事か!?」「スタンピードが何でこんなに大規模なんだよ!!」

「静まれ!!」


 騒ぎ出した冒険者達を、ローグが再び黙らせる。


「今回は緊急依頼じゃ! 全ての冒険者は強制参加じゃ。今から言う奴等の指示に従って動くけ!!」


 ガルクは東、ザランは西に行けと言い、南はローグ自身が、北は兵士達が担当する事になった。

 更に、チーム毎に三方の門へと振り分けを行った。

 当たり前だが、今回は一方向が片付いたら他の門へと応援に行く必要がある。

 何故なら、魔物が一定以上街中に入られたらそれで終わりだからだ。

 そして、この依頼を断る事も不可能。もし断れば、犯罪者として処断されてしまう。


「さあ、分かったら持ち場の門へと急ぐのじゃ!! 魔物は待ってはくれんぞ!?」


 その言葉に従って、冒険者達が各々の場所へと向かう。

 自分達の街を守る為に……。


 ◇ ◇ ◇


「くそっ! どうなってる!!」

「貴方、落ち着いて!」

「四方から魔物の大群だぞ!? 同時にスタンピードが起きたってのか!?」


 領主館はいつもの穏やかな雰囲気では無く、怒号が飛び交っていた。

 その怒号の主は、領主館の主でもあるティザークだ。

 先程部下が一人慌てて執務室に飛び込んで来たのだが、殆ど時間を置かずして更に三人飛び込んで来たのだ。

 そして、全員が口を揃えて魔物の大群を視認。応援求むと言って来たのである。


「それは後回しでしょ! 先ずは敵を退けるのが先決よ!! ローグさんと連携を取って、敵を殲滅しないと!!」

「ああ、そうだな!」


 ローグへと連絡を飛ばし、兵士は北を守護する事に決めて、部下に指示を飛ばす。

 その指示を受けて、ゲヤルトが指揮する事となった。


 ◇ ◇ ◇


 ローグに指示を受けたザランは、他の冒険者と共に西門へとやって来て居た。

 そして、門へと辿り着いた頃には、敵は先頭が見える程まで近付いていたのだ。


「クソが! 魔の森の四天の群れとか何かの冗談だろ!?」


 目の前に居る魔物はザランから見て、デススパイダー、ジャイアントグリズリー、オーガ、ツインコブラの最上位種の四種にしか見えなかった。


 魔の森で四天に属する魔物が、群れを成してやって来るとか何の冗談だよ!


「ザ、ザランさん……。一体どうすれば……!」

「クソ! やるしかねぇな! 弓使いは前へ、その後ろに魔術師が付け!!」


 その言葉に、弓使いと魔術師が前に出る。


「良いか? 弓使いは合図で撃てよ? 三……、ニ……、一……。放て!!」


 ザランの合図に、弓が敵兵の頭上に降り注ぐ。

 その攻撃により、敵の進みが遅くなり、何匹かは戦闘から離脱する。


「次は、魔術師だ。テメエ等の最高の一撃を当てて見せろ! 三……、ニ……、一……。放て!!」


 その後を続く様に、火や水、風と言った魔術が無差別に降り注ぐ。

 先程とは比べ程にならない強力な攻撃に、何匹もの魔物が纏めて戦闘不能になった。


「ちっ! これで終わる程優しくはねえか!! 弓使いと魔術師は、デススパイダーを重点的に狙ってくれ!! アレがいるまま乱戦に入るとマズい!!」


 その言葉に従って、数多くのデススパイダーが殺されていく。

 だが、敵の数が多く全てを殺し切る事は出来なかった。


「弓使いは後ろから隙を狙って攻撃していけ! 魔術師は範囲攻撃から、精密攻撃若しくは支援に切り替えろ! 接近戦の奴等はそろそろ出番だぞ? ――さあ、俺に続け!!」


 そして、ザラン達は乱戦へと突入する。

 強力無慈悲な魔物達との乱戦へと……。


 ◇ ◇ ◇


 東に向かったガルクは、東方向から来る敵の影に頬を痙攣させていた。


「マジかよ……。グランドワームの群れとか嘘だろ……?」


 ガルク達の目の前から迫って来てるのは、グランドワームと呼ばれる大地に潜むワームの一種だ。

 彼等は獲物が来るまで、土の中に潜んで何日も待ち続ける性質を持つ。

 だがそれは、グランドワームの戦闘力が低いと言う意味では無い。

 彼等は狡猾に獲物を待つハンターの性質もあるが、最初の攻撃で獲物を仕留めれないと執拗に殺そうとする性質も持っている。

 そして、その戦闘能力はハンターに徹する必要が無い程に高い。


 巨大な身体を覆う皮は非常に弾力性があり、打撃は殆ど通さず、斬撃や刺突もかなり割合で無効化する。

 更に魔術への耐性もそこそこ持っており、その防御を抜けるだけで非常に手間が掛かるのだ。

 次に攻撃はと言うと、巨大な身体――最低でも二十ナレイはある――を使った押し潰しと鋭い歯での噛み付きが主で、そこまで特殊な攻撃は無い。

 特殊な攻撃は無いとは言え、そもそも巨大な身体から繰り出される攻撃だけでも厄介であり、更に土の中に自在に潜れる為、一度潜られると場所の特定は非常に難しくなるのだ。

 しかも、この潜った状態で数十日も潜伏する事もある為、対峙する側の体力や集中力が続かなくなる事も多い。


 そんなグランドワームがガルク達の目の前に、百匹以上の群れで迫って来ているのだ。

 ガルクで無くとも、現実を否定したくなる物である。


「ガ、ガルクさん……。と、どうすれば……?」

「どうすればって、やるしか無いだろ!! おい、お前等よく聞け!! アイツの弱点は、風と水、刺突と斬撃だ! それ以外の攻撃しか持ってない奴等は、牽制に努めろ! 幸いアイツ等は頭が悪い。牽制の攻撃でも十分に釣れる筈だ!!」


 ガルクの作戦はシンプルだ。

 ダメージを与えられない奴等でグランドワーム達を引き付け、その内に隙の大きな強力な攻撃を弱点を付けれる奴等で叩き込むだけである。


 とは言え、正直ガルクは攻撃力が足りて無いと感じていた。

 何故ならグランドワームの防御力と言うのは、本来夕闇マイナスのレベルでやっと貫ける様なもので、ガルク以外の奴等には荷が重いのだ……。


「だが、この俺が諦める訳には行かねえな!! お前達! 無理するなよ! 倒せないなら、牽制だけにしてろ! 俺が着実にミミズ野郎を殺して行ってやる!!」


 そして、グランドワームとの距離が魔術の射程圏内に入る。


「よし、魔術師放て! 遠慮は要らねえ! 魔力全部を注ぎ込んでぶっ放せ!!」


 その声に、水と風の攻撃魔術や、何かの補助魔術がグランドワームに降り注ぐ。

 打ち終わった魔術師が全員下ると、今度はガルク達接近戦の冒険者の出番だ。


「行くぞ! 俺達冒険者の力を見せてやれ!!」


 そしてガルクは、冒険者達を引き連れてワームへと突撃する。

 それが、死に場所になるかも知れないと分かっても……。


 ◇ ◇ ◇


「隊長! アレはまさか……!!」

「――あぁ……、スカイワイバーンの群れだ……」


 ゲヤルトは領主から任せられた防衛の為に、北門へとやって来ていた。

 そこには距離があるのにも関わらず、群れて飛んで来る魔物の姿を捉える事が出来た。


 スカイワイバーン。それはドラゴンと呼ばれる魔物の一種だ。

 但しドラゴンの中では最弱の分類で、他のドラゴンと区別する為に偽竜(ぎりゅう)と呼ばれる存在である。

 とは言え、ただの兵士程度に討ち取れる魔物では無く、本来は一体相手に対して数十人から数百人で犠牲覚悟の上で対峙する様な魔物である。

 他にもワイバーンと名の付く種類の魔物は幾つか居るが、スカイワイバーンは特殊な攻撃を行わない一番対処しやすいワイバーンである。


「――とは言え、空を飛べない我等では厳しい相手だ……」

「隊長、如何致しますか?」

「無論潰す。弓兵は隊列を組んで、敵の翼を狙え。他の奴等は急降下して来た所を上手く狙うぞ!」


 ゲヤルトの部隊は、凡そ五百人。

 それに対して、スカイワイバーンの数は三百を超えていた。

 単純に考えれば、一万人程の兵が必要な敵の数である。


 それを迎え撃つと言う事は、彼等が確実に死ぬ事を示していた。

 だが――。


「我らはこの街の防衛を担う者。この地に屍を晒そうが、魔物の好きにはさせない!」


 ゲヤルトが揺るがない闘志を胸に、周りに聴こえる様に高らかに咆える。

 その彼を隊長と仰ぐ彼等の中に、この場から逃げ出す様な愚か者は居なかった。

 それはゲヤルトに対する信頼であり、彼等の誇り高き矜持である。


「お前達、来るぞ! 構えろ! 我らの強さを見せつけてやれ!!」

「「「おおっ!!」」」


 だが、ゲヤルトの思惑は外れてしまう。


「マズい……。弓兵何とか奴等を地上に落とせ!」


 スカイワイバーンの中に、ゲヤルト達を無視して上空から街中へ侵入しようとする個体が居たのだ。


「駄目です! 隊長間に合いません!!」

「どうする……? このままでは街が……!」


 ギャー!


 侵入されると思った個体は、飛んできた何かによって焼かれながら地上へと落ちて行く。


「ゲヤルト! 大丈夫かい!?」

「マリクスか……? 済まん、助かった!」


 城壁の上に応援に来たエルフのマリクスが、そのまま入ろうとしたスカイワイバーンを撃ち落としたのだ。


「構わないさゲヤルト! ティザークに頼まれたし、何よりも愛するミランダと子供達の為だからね!!」


 実はマリクスは、ゲヤルトとも仲が良い。

 ティザークの紹介で知り合った両者は全く性格が似ていなかったのだが、強さを求めると言う点で同調し仲良くなっていた。


「これが、凶眼(きょうがん)の魔術師の実力……」


 二人が話し合っている横では、部下が思わず言葉を漏らしていた。

 凶眼の魔術師。それはマリクスを指す二つ名だ。

 彼の実力は数十年前から伝わっており、現在は丸くなった為知らない者も多いが、その凶行を伝え聞いてる者も多い。


「マリクス、済まんが壁を乗り越えようとする奴を落としてもらっても良いか?」

「あぁ、構わないさ。ではパーティー結成と行こうじゃないか!」

「あぁ、そうだな! おいお前達、あのマリクスが参加してくれるんだ! 負ける事は(おろ)か、死ぬ事も許さないからな!」

「「「はっ!!」」」

 

 そして誇り高き兵士達と魔術師は、民を守る為に厳しい戦いへと掛けて行った……。


 ◇ ◇ ◇


「クソ! 面倒な奴等じゃわい!!」

「ギルマス! アンタは良いけど、俺には荷が重いっての!!」

「先輩助けて下さいっす! もう、無理っす!」


 南門にはギルドマスターであるローグと、門番であるワグナーやハンク、その同僚達が奮闘していた。

 幸いにもこの門へと向かって来ている魔物は、そこまで強い奴等が居なかった。


 だが、その分非常に敵の量が多い。

 敵はオークとゴブリンの混成で、恐らく合計で数千は居るだろう。

 オークは少し難しいが、ゴブリンならばハンクですら数匹同時に相手取れるレベルだ。

 実際、既に門の周囲には百匹弱のゴブリンと十数匹のオークの死体が転がっており、彼等自身に大きな怪我を負った者は居なかった。


「うるせえハンク! 俺だって結構ギリギリなんだよ!! もっと気張れよ!!」

「そんなぁ、酷いっす! 先輩の鬼! 悪魔!!」

「お前達、まだまだ余裕がありそうだのう? なら、儂は少し前へ出るぞい!」

「「ギルマス!?」」


 ローグはワグナーやハンクを置いて、前へと出ると主にオークを殺して回った。

 少し強いオークがワグナー達の元へは来ない為、ワグナーやハンク達は切り傷を負いながらも少しずつゴブリンを殺して行く。

 とは言え、ローグが抜けた穴は大きく、段々とゴブリン達が門へと近付いて来る。

 殺しても殺しても、ゴブリンの数が一向に減らないのだ。

 時折魔術の範囲攻撃で一層される場所はあるのだが、攻撃が終わると直ぐに開いた穴が修復されるようにゴブリンで埋め尽くされる。

 それはまるで、打ち寄せる波の様だった。


「クソッ!! もう、持たねえ!!」

「はぁ……、はぁ……。せ、先輩……。も、もう本当に無理っす……。手が動かなくなって来ました……」

「ったく、情けないのう……。とは言え、これはちとマズいかも知れん……」


 ワグナー達がマズいと感じたローグが戻った事で、何とか戦線を保つ事には成功した。

 だが完全にジリ貧で、後一刻も戦い続けていれば戦線は瓦解してしまうだろう。

 そして、それを防ぐ手段がローグ達には残されて居なかった……。


 ◇ ◇ ◇


「ママ……。こわいよう……」

「大丈夫、大丈夫よ……」

「クソ! どうなってるんだ!!」

「全部の門で戦いが始まったらしいぞ!?」


 四方の門から離れた中央広場には、戦う力が無い住民達が身を寄せ合っていた。

 建物の中には老人や女性、子供などの比較的自分の事を守れない者達が身を寄せ合い、その建物を囲う様にバリケードが築かれてその後ろには思い思いの武器を持った住民が建物を守っていた。

 そのバリケードに面した位置に、彼等は居た。


「ニアちゃん、準備は良い?」

「大丈夫! うーちゃんも準備万端だよ!!」

「キュイ!」

「ね、ねえ……。本当に僕達で戦うの……?」

「当たり前よ!! あたし達は戦う力があるのよ!?」


 そこに居たのはヴェッツェーニアとうーちゃんの姉妹と、ニーナとナックの兄妹である。

 ミリエラは流石に領主の館から出しては貰えず、ヴォルデルク全く戦いの才能が無いので早々に建物内へと押し込まれていた。


 それに比べて、ヴェッツェーニアはかなりの実力者であり、うーちゃんは練習の成果か魔術の力が飛躍的に上がっていた。

 更にニーナとナックはマリクスの血を引いており、かなりの魔術の使い手なのである。

 ニーナの場合は、魔術師と言うのは少し違うかも知れないが……。


 因みにその父親であるマリクスは、遊撃隊として門の守護へと向かっている為ここに来る予定は無い。


「で、でも、僕達まだ子供だし……。それに……」


 ナックはちらりと、ヴェッツェーニアに視線を送る。


「なーに?」


 ナックの視線に、ヴェッツェーニアが首を傾げる。


「い、いや……。ニアちゃんは危ないんじゃ無いかなーと……」

「大丈夫だよ! ボクだって強くなってるから!! いつまでもニーナちゃんやナック君に頼ってる訳には行かないからね!!」


 実はヴェッツェーニアは、ニーナとナックよりも実力が少し下なのである。

 と言うのも、ニーナとナックはかなり幼い頃からマリクスが異常な戦闘訓練を課していた為、マリクスから受け継いだ優秀な才能も合わさって異常な強さに上り詰めていたのだ。

 ヴェッツェーニアは才能自体は彼等に勝るとも劣らないのだが、如何せん訓練していた期間が彼等よりも短い為に、どうしても少し彼等よりも劣ってしまうのである。


「で、でも……」

「兄さん煩い! そんなに心配ならニアちゃんの事は、兄さんが守れば良いじゃない!!」

「ぼ、僕は別に、ニアちゃんだけを心配しているつもりじゃ……」

「はい、はい。兄さんがやらなくても、アタシはやるよ? ヴォル兄様は私が守るんだから!!」


 煮え切らないナックに苛つきながら、ニーナがヴォルデルクを守ると宣言する。

 年齢的にも性別的にも役割が逆ではあるが、ニーナとヴォルデルクはこれで良いのだろう。まあだからと言って、彼女の想いがヴォルデルクに届くかどうかは別問題なのだが……。


「わ、分かったよ……。ニアちゃん、危なくなったら絶対に逃げてね?」

「大丈夫、大丈夫! 引き際は心得ているから!」


 ヴェッツェーニアがナックの心配に対して、あっけらかんと返答をする。


「心配だなぁ……。うーちゃん、君のお姉さんをしっかり守ってね?」

「キュイ!」


 心配になったナックがうーちゃんにヴェッツェーニアの事を託すと、うーちゃんは力強く頷いた。


「むー……。ボクはそんなに信用無いの?」

「そんな事言っても、ニアちゃん前に死に掛けたでしょ! 僕達がどれだけ心配したか……」


 ヴェッツェーニアが大怪我をしたと両親に聞いたナックは、その後の言葉も聞かずにヴェッツェーニアの家に突撃したのだ。

 その時のナックは鬼気迫っており、ヴェッツェーニアの両親も止める事など出来なかったと言う。


 因みにその後、ヴェッツェーニアの部屋へとそのまま入ろうとした所を、ヴォルデルクに殴られて止まったと言う経緯がある。


「僕達じゃ無くて、僕の間違いじゃないの兄さん?」


 心底心配したんだと言うナックに対して、ニーナが揶揄(からか)い混じりで尋ねた。


「え、い、いや……。だって、ニーナも心配したでしょ?」

「うーん、確かに心配したけど直ぐに安心したよ?」


 ナックが飛び出した後、既に完治していると言う説明を受けたニーナは、ナック程には心配していなかった。

 と言うか、アレは単にナックが言葉を最後まで聞かずに暴走しただけの事である。

 その事を、ニーナがナックに指摘すると――。


「あ、あれは仕方無いじゃん! だって、ニアちゃんが大怪我したって言うんだよ!? 落ち着いて聞いてられる訳ないよ!!」

「まあ、兄さんはニアちゃんにお熱だもんねぇ? 気になるのも仕方無いよねぇ?」

「な、な、な……」


 ニーナの言葉に、ナックが顔を真っ赤にさせる。


「ナック君?」

「ち、ちがっ! いや、違わないけど……。そうじゃなくてっ……!」


 ヴェッツェーニアがナックに話し掛けると、面白いくらいにしどろもどろになりながら先程の事を否定しようとする。

 それを後ろから、ニーナがニヤニヤしながら眺めていた。


「ナック君、もしかして風邪引いてるの? 顔真っ赤だけど、お熱あるの?」

「へ?」

「ぷっ! あはははっ! 流石ニアちゃん! あはははっ! ひい、ひい、お腹痛い……」


 だが、ヴェッツェーニアは朴念仁と言う言葉も生温い程に鈍感だった。

 先程のニーナの言葉のお熱を、風邪を引いた時の熱だと思い込む程に……。

 こうなる事を予見していた筈のニーナは、お腹を抱えて笑い転げていた。


「ニ、ニーナ……!! 僕を揶揄ったの!?」

「ゴメン、ゴメンって……。ぷっ……」


 ナックが怒ってニーナに問い詰めるが、彼女は軽く謝りつつもまだ笑っていた。


「えーと? ナック君は風邪じゃないの?」

「そうよ。兄さんは健康。お熱ってのは別の意味よ」

「ニーナ!!」

「はーい。これ以上は兄さんに怒られるから、言えるのはここまでね」

「うーん? 良く分からないけど、ナック君が元気なら良いや!」


 考える事を放棄しながらも、ヴェッツェーニアは明るく笑った。


「うわー、まぶしいなぁー。まるで、天使のようだなぁー。兄さんも、そう思わない?」


 ニーナは、棒読みでヴェッツェーニアの事を褒めながらナックに尋ねる。


「ニ、イ、ナ……?」

「あぁ、ゴメン、ゴメン。そんなに怒らないでよ」


 そんな軽口は先程までの緊張状態と違って、何時も通りの彼等に戻っている事を示していた。

 これを狙ってやったとしたなら、ニーナは中々の策士だろう。


「でも、楽しかったし、またやって良い?」

「良い訳あるか!!」


 その後は始終そのままの緩い状態で、彼等はいざと言う時の為に備える事となったのである……。


 ◇ ◇ ◇


「ニア、大丈夫かな……?」

「そうね……」

「あぁ……。幾ら私達よりも強いと言っても不安だよな……」


 中央広場付近の建物の一角。

 避難者が集う場所に、中年の男女三人と若い男が一人居た。


「あんた達、心配しても仕方無いじゃないのさ! 確かに、アタシに力があればとも思うけど、それは無い物ねだりってものさ。アタシ等はあの子らが無事帰って来るよう願うだけさね」

「でも、ミランダさん! ニアはまだ小さいんですよ! それにミランダさんのお子さん達の事も心配じゃないんですか!?」


 そこに居たのはヴェッツェーニアの両親と兄であるヴォルデルク、そしてニーナたちの母親であるミランダだった。


「そりゃ勿論心配に決まってるさ。でもね、あの子達の事は信じてるし、いざとなればあの人が助けてくれると信じてるからね!」


 ミランダが信じてるあの人とは、勿論マリクスの事である。

 彼の実力を知っているヴェッツェーニアの両親はうんうんと頷いているが、ヴォルデルクだけは頭に疑問符を浮かべていた。


「マリクスさんが強いってのは聞いた事ありますけど、無条件に信じられる程に強いんですか?」

「そうか、ヴォル坊は旦那の実力を知らなかったんだね? じゃあ少し話すとするかね――」


 マリクスが、凶眼の魔術師と呼ばれるのには訳がある。

 彼はミランダと一緒になるまで、荒れに荒れていたのだ。

 世界その物を憎む様な眼差しと、魔物を殺す際に周囲も巻き込む様な凶行。

 それを、何十年も続けていた為に付いたのがその二つ名だ。


 運良く殺人に至る事こそ無かったが、敵を惨殺するついでに味方を半殺しにする事は日常茶飯事だった。

 勿論そんな事をすれば、半殺しにした味方のパーティーから報復があってもおかしくなったのだが、彼はその(ことごと)くを返り討ちにしていた。

 そうして冒険者の間ではアンタッチャブルな存在として、広く知られる様になっていったのだ。


 さて、そんな凶行をしていたマリクスだが、実力の程も非常に高かった。

 魔術師としては珍しく、六属性の全ての魔術を使う事が出来、その全ての属性が三レベルから四レベルと非常に高レベルであったのだ。

 大陸最強とまでは言わなくても、十本の指には入るのではと言われていたのだ。


「凄い……。マリクスさん、そんなに強かったんですね……。それに凶眼って、今のマリクスさんからは考えられないです……」

「まあ、昔の話だよ。旦那も黒歴史だと思ってるんじゃ無いかねぇ? ヴォル坊、あの人は勿論だけと、あの人に育てられたあの子達は強いよ。アタシが保証する。だから、腰を据えて待とうじゃないか!」

「ミランダさん……。分かりました。私もあの子の兄です。妹を信じるのも兄の役割ですよね!」


 吹っ切れた様子のヴォルデルクに、他の三人が笑顔で答える。

 誰もが子供達を心配していながらも、自分達よりも強い子供達の枷になってはいけないと知っていた。

 だから彼等は、ただ祈る。皆無事に、この危機を乗り越えれる事を――。

シャンティナで魔物の襲撃発生です。

割と書く事が多いので、結構話数を割く事になりそうです。


今回目立ったのは、マリクスとナック達でしょうか?

マリクスの過去については、書くかどうかは分りませんが設定はしっかり存在しています。


後はナックとヴェッツェーニアのやり取りはどうだったでしょうか?

この子達あからさまなのですが、一応書いておくと


ニーナ → ヴォルデルク

ナック → ヴェッツェーニア


って感じの片思い中です。

どちらも茨の道を選んだ感じですね。


ニーナよりもナックの方が勝算が高そうですが、ヴェッツェーニアの脳筋思考が枷になりそうです。

妹のニーナはヴォルデルクの前だと、猫被ってますけど何時バレるのでしょうかねぇ……?

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