帰還報告
久々に長めです。
ガルクが安堵したのも束の間、周りの魔物共が此方を完全に包囲している事に気付く。
三十、五十……、いや百は居るのか!?
流石にさっきみたいな最上級が居るとは思わないが、百となると対処しきれるかどうか……。
「主様、囲まれてるみたいですが、どうしましょうか?」
「えっ? そうなの!?」
「はい、全部で二百体くらいでしょうか」
「「二百!?」」
おい、マジかよ……。魔の森の魔物が二百とか、魔術を使えない人間には無理すぎるだろ……。
「はい、とりあえず五十体くらい任せても良いですか? 私が百五十体くらいは処理するので」
「はぁ……、駄目って言っても、任せるんでしょ?」
「当たり前じゃないですか! さあ、主様行きますよ!! この森はお肉の質が良いんですから、全部確保しますよ!!」
絶望している俺の耳に、信じられない様な言葉が聞こえてきた。
二百もの敵を前にして、それを肉として見てるのか!?
「はぁ、分かったよ……」
そのカケルの言葉を聞いたミミは、魔物の方へと向かって行った。
それを見ていたカケルが、仕方無いと言った感じで俺の方を向く。
「こっちも準備しないとね。”ホーリーアーマー”!」
カケルが聞いたことが無い呪文を唱えると、俺の体に沿って防具の様に光がまとわり付いた。
これは光の防御魔術か……?
「えーと、ガルク。その光の防具がある間は多分大丈夫だけど、絶対じゃないから無茶はしないでね?」
「あ、ああ……」
「それから――」
カケルが更に言葉を言おうとすると、森の奥から巨大な何かが近付いてくる気配がした。
だが、何だこれは?
「ガルク、僕の後ろに隠れて!」
「は?」
俺の返事を聞く間も無く、カケルは俺を庇う様に飛び出した。
この俺が守られるだと!?
その後、ゆっくりと出て来たソイツは異形だった。
それなのに――。
「もう、ミミか。驚かせないでよ……」
「え? ミミ!?」
ミミだと? あの黒ウサギ、実はあんな異形だったのか!? と思ったが、しっかりと見えて来るにつれて、それは間違いだと分かった。
確かにソイツはミミだった。
ミミが背中から先ほどの黒い腕を無数に出して、数十、下手したら百匹以上の魔物を吊し上げて居るのだ。
吊し上げられた魔物は、まるで一つの球体のように見え、何か別の魔物の様にも見えるのである。
「もう取り終えたの?」
「はい。残りは虫系だけですので、主様お願いします」
「それって、食料になる魔物だけ取り尽くした後の残りって事でしょ?」
「そうとも言いますね」
おいおい! さっき魔物発見してから、殆ど経ってないぞ!?
あの短期間に食材になりそうな魔物を、根こそぎ獲ったのかよ!?
「血抜きはどうするの? そのままの状態で、捕らえて置くつもりじゃないんでしょ?」
「はい、今からするつもりですよ」
「数も多いし、僕も手伝った方が良いかな?」
「いえ大丈夫です。主様は邪魔な魔物を潰して下さい」
「おいおい、ミミさんよ? 幾らアンタでもその数は捌けんだろ?」
「あん!? 誰に言ってるんですか人間!? 殺しますよ!?」
「おい! さっきから、俺に対する当たりが強くねえか!?」
「そうだよ。もう少し優しく接してあげても……」
俺達初対面だよな!? いやいや待て待て。そもそも、魔物と人間なんだからこれが普通だろ?
じゃあ、カケルが異端か? まあ、アンデッドでアレは異端だが……。だからと言って、ミミが普通と言われると……。
カケルとミミが言い合ってる中、俺がウンウンと悩んでいると、ミミが此方に返答してきた。
「はぁ……、別に貴方がどうこうと言う訳では無く、人間と言う種族が嫌いなだけですので気にしないで下さい」
言っちゃったよ! コイツぶっちゃけちゃったよ!!
とは言え、人間に魔物嫌いが居るのだから、魔物に人間嫌いが居るのも当たり前か……。
そうなると一応、気を使って貰ったらのか……?
「ああ……、なんつうか、ありがとな?」
「何ですか? いきなり礼なんか言ってきて……。気持ち悪いですよ?」
「ミミ!?」
「何て言うか、お前も大概だな!? ただ人間嫌いの癖に、俺をカケルと一緒に助けに来てくれた事に対する感謝だよ。命を救われたんだ。カケルにもミミにも感謝するのは当然だろ?」
「――全く、変な人間ですね」
少しは、黒ウサギの敵愾心が緩和されただろうか?
人間嫌いが直ぐに治るとは思っていない。
ただ、人間の括り以外の見方があると知って貰えば良いさ。
「二人とも! そろそろ魔物が来ちゃうよ!?」
「ああ、それは主様一人でお願いします」
「何で!?」
「別にそれくらい出来ますよね? それに、私は今から血抜きで忙しいですからね」
「それは、周りの魔物を一掃した後にすれば良いじゃん!? 僕も手伝うからさ!」
「嫌です! 鮮度が落ちるじゃないですか!!」
「いやいや、対して変わらないよね!?」
もうすぐ此処に迫っているんじゃ無かったのか?
って不味いな……。この二人が戦わないなら、俺が片付けないと。
そんな事を思いながら、剣を構えるとカケルのボヤキが聞こえてきた。
「ああ! もうっ! 分かったよ。僕が片付ければ良いんでしょ!?」
「はい、此方もサクッと血抜きしますので」
ミミは丸い塊を、自分の前方上空に移動すると何かを行った。
何を行ったから全然分からなかったのだが、持っていた獣型の魔物の首が全て落ちてきた。
それも大量の血飛沫と共にだ。
「ミミ、豪快だね……」
「お褒めに預かり、ありがとう御座います」
「うん、褒めてないからね?」
おい! こんな場所でそんな血の匂いをさせたら!?
「主様、周りの魔物が増えましたね。血の匂いに寄ってきたみたいです」
「ミミのせいだろ!?」
「周りの魔物なんかよりも、血抜きの方が大切ですので」
「ああ、もう!! ガルク! 僕の討ち漏らしを頼んだ!」
「あ、ああ……」
そこは、ミミも共闘するところじゃ無いのかよ!?
「森だから、火は不味いか……。よし、あれにしよう!」
カケルは敵が見えた時に、ブラインドミストと唱えた。
確か霧を出して、敵の視覚を奪う魔術だった筈だ。
出てきた霧は俺達を避け、周囲を取り囲んだ。
「うーん、多分覆えたかな?」
覆えた? 霧で敵をって事か?
「よしじゃあ、”スパーク”!」
カケルが呪文を唱えると、光の様な物が周囲を走った気がした。
そして、それとほぼ同時轟音がして周囲の木々が倒れ始めた。
周囲の気配も無くなった為、恐らく魔物は一掃されたのであろう。
「あれ? 強すぎたかな?」
「あれ、じゃねえよ!! 何だ今の魔術は!?」
「えっ? 雷系の魔法だよ? 周囲を取り囲むように電流が走る魔法で、感電しやすい様に霧で敵を濡らしてから発動してみたんだ」
あの光は雷の光かよ!?
雷系の魔術を使えるアンデッドなんて聞いたことが無いぞ!?
しかも、魔術じゃなくて魔法だと!?
正直、魔法と魔術の違いはあまり知らない。だが、魔法は魔術の何倍も強力だと聞いたことがある。
王国で現在魔法を使えるのは、たった一人だった筈だ。
そんな魔法をカケルがか……。
「――ガルク? ガルク?」
おっと、思わず考え込んじまった。
「ああ、どうした?」
「話の途中で黙り込んじゃったからどうしたのかなと」
「ああ……、すまん。お前の規格外の能力に驚いていただけだ」
「え? 規格外? でも、さっきの魔法は第五レベルくらいしか無いよ?」
「いやいや! 俺等人間にとって第五レベルは、最上級の存在だからな!?」
「そう言えばそうだっけ……。第八レベルくらいの魔法なら、何回も見てるから実感が無かったよ」
第八レベル……。存在したのか……。
そもそも第五レベルで最上級、第六レベルともなれば伝説上にしか存在しないと思われていた筈なんだが……。
「主様、少し良いですか?」
「あれミミ? さっきの、魔物達は?」
「とっくに仕舞いましたよ。それよりも、魔法と魔術についてです」
「魔法と魔術?」
「はい。前に人間は第五レベルの属性レベルを持たなければ、魔法を使うことが出来ないと言った事があるかと思います」
「うん、あったね」
「それでですが、――」
ミミがカケルに説明したのは、俺にとっては常識的な事だった。
曰く第五レベルに届く人間達は一握りであり、この大陸で見ても数人程度では無いかと。
魔法を使うことが出来るのはこの数人のみの為、カケルが使った魔法はミミやカケルにとっては当たり前でも、俺達人間にとっては規格外だと言った話だった。
あれ? そう言えば、ミミが持っていた魔物は何処に行ったんだ?
「分かりましたか?」
「ああ……、うん。確かにそれなら驚かれても仕方ないかな」
「なあ、話は終わったか? 取り乱した俺も悪かったんだが、そろそろ魔物の死骸を処分しないとマズくないか?」
顔を傾けて分からないといった感じのカケルに対して、ミミが追加で説明を加えた。
魔素が濃い場所で、魔物の死骸を放置するとアンデッド化すると言う、子供でも知っている様な事を。
「へぇー、そうだったんだ」
「おいカケル!? 何でお前が知らねぇんだ!? お前アンデッドだろ?」
「そう言われても……。僕以外のアンデッド見た事無いし、人型以外のアンデッドが居る事も知らなかったよ」
「マジか……」
そう言えば、ヴァルトロ様にこの世界に連れて来られたとか言ってたな……。
って事は前の世界の人間から、いきなり骨の姿になって蘇ったのか?
また考え込んでいた俺をミミが罵倒し、カケルも罵倒されながら魔物の処理に向かう。
処理する必要があるのは、原形を留めている魔物だ。
アンデッドとして復活する際には、最低限頭と胴体が付いている必要があり、手脚がもがれた者はアンデッドとして復活しても歩けない状態になる。
今回に関してはカケルの倒し方が良かったのか、殆ど傷が見当たらなかった。
「じゃあ、纏めて燃やそうか」
「ちょい待てや!!」
「どうしたのガルク?」
「カケル纏めて燃やすって、この周りのヤツ全部か?」
「うん、そのつもりだけど?」
マジか……。この素材の山を捨てるとか……。
「カケル。例えば、このデスマンティスは鎌が良い値段で売れるんだぞ?」
「へえ……。このカマキリが……」
「此方のレインボーキャタピラーも高い薬の材料が取れる魔物だ」
「うーん、でも此処に居るヤツ全部食べられない魔物だよね?」
「うん? まあ、食材には向かない魔物ばかりではあるな」
「じゃあ、要らないかな。欲しいなら、ガルクに上げるよ」
説明しても要らないのか……。
まぁ、正直貰えるのは有り難い。
確かにこれだけ確保出来たら、かなりの金額にはなるからな。
だが……。
「それは有り難いんだが、もうポーチの容量が一杯なんだ」
「ポーチ?」
「ん? ああ、知らないか……。収納ポーチと言って、見た目以上の容量を詰めれるポーチだ。例えば俺の持っているポーチなら、オーク二十匹は収納出来る容量があるぞ?」
腰に付いているポーチを軽く叩きながら、カケルに説明した。
「ああ! ストレージの魔道具版か!」
「ん? ストレージの事は知ってるのか?」
「うん、僕もミミも良く使うしね」
「はぁっ!?」
「えっ? そんなに驚く事? ミミだってさっき使ってたよね?」
「はい、さっき魔物の収納に使いましたよ?」
何言ってるんだと言いたげな目で、此方を見てくる黒ウサギ。
いやいやさっき使ったって、百匹近い魔物を全部収納したのか!?
「だよね? だからそこまでの事だとは、思って無かったんだけど?」
「収納ポーチを持っているのと、ストレージを使えるのでは訳が違うぞ!? しかも、さっきの魔物を収納可能な容量だぞ? 驚かない方がおかしいだろ!!」
「そう言われても……」
「はあ……、仕方ありませんね」
ミミは仕方ないと言って、虚空から何かの皮と魔石を取り出すと高速で何かを作り始めた。
作り始めてから、一刻の一割程度だろうか?
ミミが顔を上げた。
「人間。これをやるから、収納するならさっさとしなさい!!」
「これは?」
ミミが渡してきたのは、先程俺が掴んでいた収納ポーチの形に近かった。
「お前が持っている様な収納ポーチを模して作った、オリジナルの収納ポーチですよ」
「は? 収納ポーチを作った!?」
「はい、――」
この収納ポーチは時間停止が付いており、収納量がオーク千匹程だと言われた。
時間停止!? オーク千匹!?
有り得ないだろ? それが本当なら国宝レベルだぞ!?
「話が進まないので、さっさと収納して貰えますか?」
「あ、ああ、すまん……」
呆けた頭で虫系の魔物を、貰ったポーチに詰めた行った。
「本当に入りきった……」
「当たり前です! さあ、これで全部片付きましたよね? 魔物の素材もポーチも付けたんですから、主様の事しっかりと伝えて下さいね?」
「わ、分かった……」
その後ガルクはカケルに持っていた剣にエンチャントを掛けて貰い、別れを言った後に彼等の元を後にするのだった――。
◇ ◇ ◇
「不思議な奴等だったな……」
ミミはどうも人間嫌いみたいだが、カケルの方はアンデッドとは思えない位の良いヤツだったな。
そして何より、このエンチャントと収納ポーチだ。
収納ポーチはさっきの虫系の魔物の収納で試して十分な性能を実感したのだが、エンチャントの方もかなりヤバい。
さっきまで酷使した影響なのか剣の切れ味が悪くなっていたんだが、エンチャントを掛けて貰ってからは、まるで水でも斬っているんじゃないかと言うくらい手応えが無い。
外したかと思って確認すると、余りにも綺麗な切り口を晒しながら絶命していた魔物が居た。
こんな得物を使っていたら、剣の腕が落ちてしまいそうである。
しかもこのエンチャント、効果が五日も続くらしい。
「命を救われた上に、こんな貰い物しては力にならない訳には行かないよな」
あの状態から命を救われただけでも千金に値するのだが、あのポーチは下手したら万金にも値するだろう。
それから特に大きな問題も無く、数日掛けて街に帰って来た俺は、その足でギルドへと向かった。
「いらっしゃ……」
「久しぶりだなエルティナ。ギルマスは居るか?」
「はっ? はい、すぐに呼んできます!」
全く、呼び出しの魔道具を使う事も忘れているとは相当慌ててたようだな。
そう少し苦笑したが、今の俺の姿を見たらそうなるのも無理は無いだろうな。
俺の全身は、自分の血と魔物の血で真っ赤に染まり上がっており、剣だけが白く光輝いているのだ。
これを見て驚かない者の方がおかしい。
「久しいの、ガルク。それにしても、酷い姿じゃのう……?」
「おう、ギルマス。久しぶりだな? 話したい事が有るんだが、汚れても良い部屋はあるか?」
「ないわ! と言いたい所じゃが、重要な案件のようじゃからな。後で掃除させるわい」
「すまんな」
ギルマスのローグと一緒に部屋に向かう。
彼は一緒に部屋に入ると内側から鍵を掛けた後、椅子にどかりと座り込んだ。
「ガルクも座らんかい!」
「ああ」
流石に汚れが気になる為、俺は木の椅子に浅く腰掛けた。
「さてと……。例の依頼の報告も気になるんじゃが、先ずはその血と剣について説明をしてくれるかの?」
「ああ――」
俺は全身の血は俺自身と魔物の血だと言う事と、剣はエンチャントを掛けて貰った結果だと述べた。
「お主の血だとは言うが、お主自身は怪我をしてないようじゃが?」
「それはだな――」
魔の森で最上級の四種の魔物と、死闘を繰り広げた際に腕を吹き飛ばされた事。
その怪我と死毒も合わせて、治療された事を説明した。
「信じられないような内容だろ?」
「最上級の四種が揃って襲いに来るなどお前じゃなかったら、一笑に付していたじゃろうな。それで、治療は誰がしてくれたんじゃ? 千切られた腕を治し、死毒を治癒させる事が出来る者なのじゃ。相当に高名な治癒術士なのじゃろう?」
「いや、それなんだがな――」
先程のエンチャントと同じ者に掛けて貰ったと言い、エンチャントが掛かった剣を机の上に置いた。
「これが、エンチャントの掛かった剣か……。儂には相当高位のエンチャントに見えるんじゃが?」
「だろうな――」
これを使った場合、まるで水を切り裂くような手応えしか感じなかった事と、エンチャントを掛けて貰ったのが四日前と言う事。
そして、エンチャントを掛けた者の話では計五日は持続すると言っていた事を伝えた。
「あり得んわい……」
「だよなぁ……。俺も今でも信じられねぇし……」
剣へのエンチャント自体は、そこまで珍しい物では無い。
だが、性能の高さと継続時間が異常に長いのだ。
俺が知っているエンチャントによる効果は、少し切れ味が上がったり刃毀れがしにくくなる程度で、継続時間に関しては長くても二刻程度が限界だ。
それと比べれば、アイツの掛けたエンチャントの規格外さが分かると言う物だ。
「――それで、お主の治療をして剣にエンチャントを掛けたのは一体誰なんじゃ?」
「――ギルマス。俺への依頼はスケルトンらしき者の確認だったよな?」
「ん? ああ、そうじゃったのう……」
質問には答えずに依頼の確認をするガルクに対して、ローグは眦を上げながらも律儀に答えた。
「そのスケルトンだがな……」
「ああ」
「リッチだった……」
「はあっ!!?」
ローグがガルクの返答に対して、椅子から立ち上がりながら大声を張り上げた。
「おまっ!? リッチじゃと!? 幾ら何でも有り得んじゃろ!?」
「まあ、そう言う反応になるよな……」
「当たり前じゃわい!! リッチと言えば、過去に一国の全ての者を死者にした、災厄級の魔物として伝えられて居るんだじゃぞ!?」
そう、リッチは過去にあったとされる災厄の内の一つを引き起こした厄災級の魔物だ。
文献も殆ど残っては居ないらしいが、一つの国がアンデッドで溢れたのは確からしい……。
「そのリッチなんだがな……?」
「まだあるのかのう……?」
「ああ。さっきのエンチャントと治療をしてくれたのは、そのリッチだ」
「………………」
ローグは口を開いたまま絶句していた。
カケルは、厄災の伝説の真逆を行っている様な存在だからな。絶句しても仕方ないだろ。
「――ガルク。嘘じゃないんじゃな?」
「ああ。俺が嘘を嫌う事は知ってるだろ?」
「ああ、それは分かってはいるんじゃが……」
「混乱している所すまんが、まだ報告は続くぞ?」
「まだあるのか……。どうせじゃ。知ってる事全部吐き出せ!」
「分かった――」
俺はカケルとミミの事を、余すこと無く全て伝えた。
「ネームドのリッチに、ネームドの常闇ウサギ……」
俺も別れる最後に、軽い気持ちで聞いて後悔したさ。
まさか、ミミの種族があの月夜の悪魔とはね……。
「リッチだけでもヤバいと言うのに、月夜の悪魔も一緒とはのう……」
「ああ。しかも、どちらもネームドだ」
「更に、神の使徒と異世界からの転生者と来たもんじゃわい……」
ローグはそう言って、力無く半笑いを浮かべて、放心した様に再び椅子に深く腰掛けた。
「あ、そうそう……」
「まだ何かあるのかのう……?」
ローグが、疲れたような視線をガルクに向ける。
それに対してガルクは、腰に着いていた例のポーチを取ってローグに渡した。
「――これは何じゃ?」
「見たまんまの収納ポーチだ。ミミが目の前で作ってくれた貰い物で、俺が持っていたポーチの五十倍程入るらしい」
「収納ポーチを作った!? 容量も五十倍じゃと!?」
「しかも、内部は時間停止だそうだ」
「時間停止!!?」
一々ローグが驚くのも仕方ないだろうな……。
それだけの物なのだから……。
「ギルマス……。俺はどうすべきだと思う?」
「――それはどう言う意味じゃ?」
「俺は命を助けられた事とこのポーチ、後はその中身と引き換えに、アイツ等が街に来るのをサポートすると言ったんだ」
「なっ? それは!?」
「ああ、勘違いするなよ? もしアイツ等がこの街を蹂躙するなら、俺は敵に回ると宣言してある」
「そうか……」
明らかにホッとした様子を見せるローグ。
まあ、敵対するかもと思えば仕方ないだろうな……。
「それじゃあ、街に来て何をする気なんじゃ?」
「街に来たいのはカケルの意向だ。さっき話した内容に、カケルが元人間だと言うのがあっただろう?」
「ああ、あったのう」
「カケルは人間の自我を、未だに保っているらしいんだ」
「まさか……!?」
「そのまさかだ。――カケルはハナビシと言う、見世物の見習いだったらしくてな。この街でハナビを打ち上げたいらしいんだ」
「見世物……? ハナビシ……? ハナビを打ち上げるとはどう言う意味じゃ?」
ローグの尤も疑問に、俺はあの時見たハナビの光景を脳裏に浮かべながら、あの綺麗な見世物を説明する。
「ほう……。そんなに綺麗な物だったのかの?」
「ああ。幻覚魔法を使っての物だから、盛っている可能性は十分にあるがな」
「ふむ……。先程言った魔物達の性格と、その規格外の実力に相違は無いんじゃな?」
「ん? ああ、俺の目から見た限り間違い無いな」
ローグは何を言いたいんだ?
「収納ポーチは目の前で作ったと言っていおったの? 作ったのに使った素材と、製作時間は覚えているかのう?」
「ああ確か――」
ミミ作っていた光景を思い出しながら、材料と製作時間を答える。
「フォレストウルフの毛皮に、フォレストラットの魔石。そして製作時間は一刻の一割程度か……」
ローグが頭を抱えてしまった。
確かに素材が安いんだよな。下手したら、漆黒レベルでも集めれるような低位素材ばかりだ。
そして一刻の一割程度の時間で出来上がる、国宝レベルの収納ポーチ……。
ヤバ過ぎる情報だな……。
「――分かったわい。儂等冒険者ギルドは、その者達が攻撃して来ない限り敵対しない事にする」
「――良いのか?」
「ああ。そもそも敵対した所で、蹂躙されるだけじゃからな!」
ローグは苦笑しながら締め括った。
まあ確かにその通りだ。
片方は単体で国を滅ぼせる様な存在で、片方はあの月夜の悪魔だ。
そんな存在が協力体制とは、どんな悪夢だって話だ。
「分かった」
「後は領主への言伝じゃな。それも可能な限りやっておくから、お前はその情報を適当に流すのじゃ!」
「領主への言伝ては有り難いんだが、情報を適当に流すのは何でだ?」
「それはの――」
ローグ曰く、カケルとミミの存在は敵対するには危険過ぎるとの事だった。
夕闇ランクの俺が情報を流す事で、情報に信憑性が生まれ、手を出すバカを減らすつもりなのだとか。
そんなに上手く行く物だろうか?
「もし手を出した場合、お主が引導を渡すくらい言っておけば、手を出すバカはかなり減るじゃろうて」
「俺を抑止に使う訳か……」
「そうじゃ! お前が抑止力になれば、冒険者ギルドからは殆どバカは出ないじゃろうしの」
まあ正論だな。
「分かった。此方は何とかやっておくから、領主への言伝ては頼むぞ?」
「ああ、任せておけ!」
こうして、カケルのお願いに対しての下準備は済んだ。
後は、実際にカケルが来た時まで保留だな。いや、一度また会いに行くべきか?
「はぁ、しかしつい最近キーリが来たと思ったら、お前がリッチや月夜の悪魔の情報を持ち込むとはのぅ……。何かの前触れなのじゃろうか……?」
「あぁ……、確かになぁ……」
今挙げたのは、悉くが伝説級の魔物達だ。
そんな存在がポンポン現れていたら、この街はとっくに滅んでいる事だろう。
「ん? もしかして、カケルとミミはキーリは知り合いだったりするのか?」
「ガルクよ、流石にそれは無いじゃろう。ホーリードラゴンとリッチの組み合わせじゃよ? 相性が悪過ぎじゃろ」
「だけどよ、キーリの奴もポーチ持ってたよな?」
「偶然じゃろうて。それに、キーリの方が性能は上じゃったろう?」
「まぁ、確かにそうだな……。そうだよな別口だよな。ホーリードラゴンのアンデッド嫌いは有名だしな。まぁ、敵対関係の知り合いの可能性はありそうだがな」
ガルクはそう納得したものの、実はその予想が本当に当たっていて、しかも知り合いどころか仲間の可能性なんてのは考慮していなかった――。
◇ ◇ ◇
ガルクはローグに一通りの説明を行った後、総合ギルドの外へと出ていた。
眩い太陽を細目で見上げながら、ガルクは静かに呟く。
「――なぁ、まだ俺は死ぬ訳にはいかねえみたいだ。済まんなお前達、もう少しだけ待っていてくれ……」
そんなガルクの排除言葉は、街の喧騒の中へと溶けていった。
その言葉には、少しの寂寥感が滲み出ていた。
その後、ガルクが持ち込んだ情報によりシャンティナは一層不安定になって行く事となるのだった――。
ミミの事を「月夜の悪魔」なんて気になる呼び名が出てきましたね。
これは、常闇ウサギの別名だと思ってもらって構いません。
詳しい話は、どっかで書く予定です。
さて、これでガルクのお話は終了です。
次からはラストに向かって邁進して行きます!!




