死闘
流血、スプラッタ表現などがありますのでご注意ください。
明くる日の朝。朝食を食べたガルクは、魔の森に入るために森の入り口に来ていた。
(今日は気合い入れねぇとな……。――さて、行くか……)
ガルクは剣を構えながら、気配を殺して魔の森へと入っていく。
(これは、確定だろうな……)
魔の森に入ると昨日の違和感が、確信へと変わっていく。
森に入ってから結構経つのにも関わらず、未だに小動物も虫も見つからないのだ。
原因は昨日の魔物と同じであろう。恐らく、何かから逃げてきたのでは無いだろうか?
(さて、何が出てくるか……)
ガルクは出来る限り魔物を倒さずに、回避しながら森を突き進む。
そして一刻半程程進んだ所で、ガルクは囲まれている事に気付いた。
(囲まれている!? くそっ、勘が鈍ったか?)
ガルクは警戒レベルを最大にして、何時でも戦闘に入れるようにする。
それと同時に背中を大樹に預け、後ろからの不意打ちを防ぐ。
ジリジリとした時間が過ぎる中、ガルクを囲った魔物達が姿を現した。
「おいおい、マジかよ……!」
思わず声を荒げてしまうガルク。
そこには、オーガ、ツインコブラ、ジャイアントグリズリー、デススパイダーと言う、この森の頂点に位置する四種の魔物が居たのだ。
(クソが!! 何でコイツらが同時に襲って来やがる!?)
ガルクの周りを囲っている魔物は、本来仲が悪く互いに互いを喰らおうとする関係だ。
それが徒党を組んで襲い掛かろうとしているのだから、ガルクには意味が分からない。
(どちらにしろ、只じゃ済まないかもな……)
幾らガルクが強くとも、最上位種四種を同時に相手にするのはかなり部が悪い。
「だからと言って諦めるつもりも無いがな! 来いよ化け物共! 人間様の意地ってのを見せてやる!! ”先読み”! ”身体強化”!!」
ガルクは、すぐさま先読みと身体強化を発動する。
この魔物達相手では、必須のスキルだからだ。
身体強化を使わなければ、そもそも攻防のスピードに追いつかないだろう。
そして、先読みを使わなければ四体の同時攻撃を防ぐのは厳しいと思われるからだ。
ガルクの言葉が合図になったのか、四種の魔物が一斉に襲ってくる。
ガルクは一番近くのジャイアントグリズリーの一撃を、その懐に潜りながら逸れる事で回避する。
そして、逆に背後に回って背中から斬りつけた。
グリズリーの悲鳴も確認する暇も無く、横から飛び掛かるようにツインコブラが噛み付いて来る。
ガルクはそれを体を捻りながら回避し、振り向き様にナイフを目に向かって投げ付ける。
タイミング的には、まず間違いなく決まる筈だったのだが――。
カキンッ!
そのナイフは、オーガによって弾かれた。
「何だと!?」
驚いて声を上げてしまったガルクに向かって、ニヤリとした笑みを浮かべるオーガ。
「このヤロ!!」
棍棒を降り下ろしきったオーガに対して、ガルクは反撃を仕掛けようとする。
だが、オーガに気を取られ過ぎていたのは失敗だった――。
ガルクの左脚の脹脛に、鋭い痛みが走る。
「痛っつー。何なんだ?」
振り返ったガルクが見たのは、脹脛に噛みついているデススパイダーだった。
「クソが!!」
ガルクはすぐさま、デススパイダーに対して剣を降り下ろす。
降り下ろした剣はデススパイダーの命こそ奪えなかったが、八本ある脚の内の二本を斬り飛ばす事に成功した。
デススパイダーは金切り声を上げて痛みを訴えるが、ガルクとて無事とは言えない。
先読みスキルを発動していたとしても、これは飽くまでも視覚情報から次の行動を予想しやすくなるスキルである。
その為、背後からの攻撃や不意打ちには対処が出来なかった……。
「はぁ、はぁ、はぁ……。くそっ! デススパイダーの攻撃を喰らうとは」
ガルクは愚痴りながらも素早く、腰に付いていたポーチから瓶を一つ取り出し一気に飲み干す。
「ふぅ……、流石デススパイダーだな……。最上級の解毒ポーションでも完治しやがらねぇ」
デススパイダーの身体能力は、四種の中でも最弱に位置する。だが、隠密能力とその毒の威力は計り知れないのだ。
その為魔の森においては、音も無く近づく暗殺者として恐れられている。
「ちっ! コイツは死んだかな……」
ガルクは、体をややふらつかせながらもそう呟いた。
先のポーションに加え、更にポーチ内にある瓶を飲み干すガルク。
「ぷっはー! だが、お前らも道連れにさせて貰うぞ!! ”剣撃強化”!」
その言葉と同時に、ガルクの周囲が彼の殺気で満ちる。
先程とは明らかに違う雰囲気のガルクに、戦っている魔物達も嘲る雰囲気が霧散した。
「行くぞ!!」
先程とは段違いの速度でデススパイダーに迫ったガルクは、残りの脚を一瞬で全て斬り落とし反す刃で胴体に突き刺した。
何が起こったかも解らずに、絶命したデススパイダー。
その姿を見ていた残りの魔物は、警戒を顕にする。
彼が飲んだのは、スピードポーションと呼ばれる物だ。彼が飲んだ最上級のポーションの場合、一時的に速度が著しく向上する。
とは言えその速度を物に出来なければ、宝の持ち腐れになるのだが……。
また、剣撃強化のスキルよって、一撃毎が非常に高威力になっている為、そのスピードと合わせて大ダメージを与えていた。
絶命したデススパイダーから剣を引き抜いたガルクは、デススパイダーの近くに居たジャイアントグリズリーに向かう。
ジャイアントグリズリーも迎撃する構えだ。
「死に晒せ!!」
ガルクが狙うのは、ジャイアントグリズリーの脚だ。
だが幾らガルクが強くなったと言っても、ジャイアントグリズリーの強靭な肉体を突破して、脚を斬り落とす事は出来ない。
彼はだから何だと言いたげに、ガルクは走り抜き際にジャイアントグリズリーの脚を浅く斬りつける。
ジャイアントグリズリーは反撃を掛けるが、ガルクの速さに付いて行けず攻撃が空振る。
それを何回も繰り返し、ジャイアントグリズリーの両脚に切り傷が溜まっていく。
オーガとツインコブラも迎撃に手を貸しているのだが、彼等はデススパイダーと違い小回りが効かない。
かと言って、ジャイアントグリズリーを巻き込む訳にも行かないと考えているのか、その攻撃は散発的になっていた。
そうして、何十回かの脚への斬り付けが成功した後、ジャイアントグリズリーの動きが一気に鈍った。
それを見たガルクは、三匹の魔物から距離を取る。
「はぁはぁ……。漸く効いて来やがったか」
ジャイアントグリズリーはおろか、オーガとツインコブラも困惑しながら、ガルクに対して鋭い視線を送る。
「はっ! 何しやがったって顔だな。そんなに知りたきゃ教えてやるよ!」
ガルクは絶命したデススパイダーを、指で指しながら挑発をするように発言する。
「この剣はなデススパイダーを殺した時に、わざと毒袋を貫いたんだ! ようはお仲間さんの毒が、タップリと乗っているって訳だ!」
デススパイダーを指した後、持っている剣を指し示すガルク。
ガルクの言葉を理解したのか、ジェスチャーを理解したのかは分からないが、オーガとツインコブラから出る殺気が強くなった。
「はっはっは!! 許さないってか? テメエらこそ、生きて帰れるとは思うなよ!!」
ガルクは軽く挑発した後、オーガに向かって走った。
オーガの攻撃範囲に入った瞬間、オーガの棍棒が降り下ろされる。
オーガの棍棒をサイドステップで避けるガルクだったが、ツインコブラが避けた先に噛み付きを仕掛けてくる。
「ちっ! テメエは後回しなんだよ。大人しく待っておけ!!」
迫り来るコブラの牙をバックステップで何とか避けるのだが、ツインコブラは頭が二つある為二撃目がある。
「くっ!!」
何とか致命傷はかわすものの、左腕に牙が掠り肉が抉れる。
それと同時に、焼ける様な痛みが左腕を襲う。
更に追撃とばかりに、オーガが棍棒で凪ぎ払いを行う。
ガルクはバック宙を行う事で、凪ぎ払いを遣り過ごす。
「遣ってくれたな、クソ共が!!」
距離を取ったガルクは、憤りを顕にしながら魔物達を睨み付ける。ガルクから漏れ出る殺気も一段と濃厚になる。
「もう許さねぇ!! ぶっ殺してやる!!」
ガルクは持っていた中級解毒ポーションと、中級回復ポーションを飲み干すと持っていた剣を両手持ちに切り替えた。
そして、腰を屈めたかと思うと驚異のスピードでオーガに迫った。
オーガは驚いた表情をしながらも、ガルクに棍棒を振りかぶる。
ツインコブラは左横から、ガルクに対して噛み付きを実行しようとする。
「遅えんだよ! ”感覚強化”! ”限界突破”!!」
ガルクの掛け声に合わせて、ガルクの速度が更に異常加速する。
感覚強化は、五感を含めて更に第六感まで強化するスキルだ。不意打ち回避などに非常に役に立つ。
もう片方の限界突破はガルクの切り札の一つで、身体強化よりも更に短時間だが全身の能力が飛躍的に向上するスキルだ。
加速したガルクはツインコブラの攻撃をアッサリと抜き去り、棍棒を振り上げた隙だらけのオーガの懐に入った。
オーガが急いで棍棒を降り下ろそうとする――。
だが、ガルクの攻撃の方が一歩も二歩も速かった。
ガルクはそのスピードを緩めること無く、オーがの喉元に剣を突き刺した。
圧倒的なスピードのまま突き刺した剣は、オーガの首を突き破り骨を砕いて貫通する。
ガアアア!!!
凄まじい叫び声を上げながら倒れたオーガだが、直ぐに弛緩し絶命した。
「はっ! 見たかこの野郎!! ――さあ、次はキサマだ」
ツインコブラは自分達が襲った相手が、獲物では無く狩る側だと初めて気付いたらしく、背中を見せて逃げ出した。
だが、それは気付くのが遅すぎたのだ……。
「逃がすかよ!!」
ガルクは、ツインコブラに向かって疾走する。
そして後ろに並んだ時点で腰に差していたもう一本の得物を左手に持ち、ツインコブラの尻尾を左右の剣で両断した。
ギヤャーー!!
ツインコブラは大きな声を上げながら、バランスを崩したのか転倒する。
そんな隙を見逃すガルクでは無く――。
「隙だらけだぜ?」
片方の頭の脳天に、二本の剣を突き立てた。
グギャーーー!!
再び大声を上げるツインコブラ。
ツインコブラは何とか起き上がるが、片方の顔は項垂れたままである。
もう片方の顔は、憎悪にまみれたような表情をしながらガルクを睨んでいた。
「へっ!! 良い面になったじゃねえか! なあ?」
ガルクの言葉を挑発と受け取ったのか、ツインコブラは残った顔でガルクに噛み付こうとする。
「遅えな!!」
回転しながらも右に避けたガルクは、振り向き様にツインコブラの目を切り裂こうとする。
だが、ツインコブラはそれを反らし、目の下を軽く切り裂かれるに留まった。
「やるじゃねえか!! しかし、毒耐性があるとは踏んでいたが、デススパイダーの毒を完全に無効化するとはな」
尻尾を斬り飛ばし、片方の頭を潰してなお動いているのだから、毒は無効化されたのであろう。
シャアーー!!
「おっと、危ねぇ!」
馬鹿の一つ覚えの様に、ツインコブラはガルクに噛み付きを放つ。
やや反応が遅れたものの、今度は左に避けながらツインコブラの目を、二本の剣で十字斬りにしようとする。
ツインコブラは片方の剣は何とか避けたものの、もう片方の剣は目に受けてしまった。
グギャーー!?
「さて、終いだな」
軽く呟いたガルクは、少し離れたツインコブラに向かって走り出す。
ツインコブラは左目側と言う事と痛みによって、ガルクへの反応が遅れてしまう。
それは致命的なミスだった――。
「じゃあな……」
一瞬で頭の上空まで飛んだガルクはその勢いのままに、ツインコブラの残った頭の上に二つの剣を突き刺した。
グギャーーー!!?
一際大きな声を上げて、地に臥せるツインコブラ。
「ふぅ……。終わったか……」
そうガルクが気を抜いた瞬間、背後から猛烈に嫌な予感を感じた。
「くっ!!?」
その予感に反応して何とか身体を捻るものの、背後からの何者かの攻撃が彼の左腕を剣毎吹き飛ばしてしまう。
幸いかは分らないが、吹き飛ばされた際に血管毎押し潰されたらしく、腕が吹き飛ばされたにしてはそこまで血が吹き出なかった。
「がはっ……!! 何なんだよ……?」
そう思いながらガルクが後ろを振り向くと、そこにはデススパイダーの毒で戦闘不能になっている筈のジャイアントグリズリーが居た。
ガルクを睨む表情こそ憤怒に染まっているが、身体はふらふらしており今にも倒れそうな状態なのが見て取れる。
「クソが! 死に損ないの癖に!!」
そう吐き捨てながらも、ガルクは残った右手で剣を構える。
構えているガルクもかなりキツイらしく、こちらも身体が時折ふらついていた。
両者互いに、次の攻撃が最後になるだろう事は分っているのだろう。
一定の距離を保ったまま、彼等は暫くの間睨み合っていた。
「次で……、終わりだ……」
ガルクの言葉を合図に、両者互いに動き出す……。
グラァッー!!!
「うおぉぉぉぉ!!!!!」
ジャイアントグリズリーが渾身の一撃を、ガルクへとお見舞いする。
「”破滅の一閃”!!」
ガルクはその攻撃を回避しようとせず、更にジャイアントグリズリーへと加速した。
それを見たジャイアントグリズリーが驚いた様な表情をするが、既に攻撃が止められる段階では無い。
そしてガルクの攻撃はジャイアントグリズリーの強靭な毛皮を突破し、お腹へと深々と突き刺さる。
グギャァッ!!!
それに遅れて来た様に、ジャイアントグリズリーの渾身の打ち下ろしがガルクの右肩へと掠った。
「ぐはっ!!」
それは彼の右肩毎砕き、右手で握った剣を腕毎残したままに後方へと吹っ飛ばされる。
掠っただけだからこそ生きてはいるが、ガルクも流石に虫の息である。
だがガルクの後先考えない捨て身の攻撃は、ジャイアントグリズリーに致命傷を負わせれた様で、相手は大きな音と共にその場に倒れこんでいく。
「はっ! やったぞ!! 俺の勝ちだ!!」
そう喜んだのも束の間、彼の意識が少し朦朧としてくる……。
「くそっ!! やっぱりあの毒はキツイな……」
最上級の解毒ポーションでも、解毒出来なかったような毒だ。
幾ら緩和されてるとは言え、無事な筈が無いのだ。
その上彼はスピードポーションと限界突破まで使っている。
あの二つは圧倒的な能力を得る代償として、効果が切れた際の脱力感や筋繊維の断裂などを引き起こす諸刃の剣だ。
そして、そんな向上した能力のスピードで動くのに対して、血流が普段と同じスピードな訳が無い。
そう、普段よりも早い血流によって彼の体内には、致死毒がかなり回っているのだ。
更に先ほどの不意打ちからの戦闘で、腕を二本とも失っているのだ。
そこから出て行く血の量も中々に多い。
これだけのダメージで、まだ気を失っていないのが驚きですらある。
「はっ! ここまでか……」
ガルクの周りを肉食の魔物が、遠巻きに囲み始めたのが見てとれる。
「今日の食料は俺って事かよ……」
魔物達は、決して近付いては来ない。
最上級の四種と戦って、生き残ったような化け物なのだ。
下手に近付いたら、殺されると警戒しているのだろう。
相手は瀕死なのだ。焦る必要は無い。ゆっくり息絶えるのを、待てば良いだけだと考えているのかも知れない。
「クソが!! この俺が、あんな雑魚の餌になろうとはな」
そうガルクは憤るが、毒もかなり回ってきたのか脚が全く動かない。
「ははっ……。情けねぇ……」
更に毒が回り、ガルクの手の感覚も無くなって行く……。
「そろそろお迎えか……。ごめんな皆、そろそろみたいだ……。あっちでも、皆で馬鹿やれたら良いな……」
誰かに懺悔するように呟くガルク。その目の焦点は既に合っていなかった。
更に、段々と彼の意識と視界に、モヤが掛かり始める。
「ク……ソ……。視界……が……ぼや……けて……」
…………――。




