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偵察依頼

 混沌都市シャンティナにある酒場で二人の男が、朝からエールを飲んでいた。


「おい、聞いたか?」

「何をだ?」

「領主様からの依頼だよ!」

「何だ、それは?」

「知らねぇのか。なら教えてやる――」


 混沌都市シャンティナの総合ギルドには、この頃領主から貼り出された依頼書があった。

 そこには、食用になる魔物を一定の値段で買い取ると言った内容が書かれていた。

 その内容を目にした冒険者達は冬前にたんまり稼げそうだと、(こぞ)って魔物狩りに出掛けているらしい。


 この依頼の良いところは、質ではなく量を重視すると言う所だ。

 つまり実力が高くない冒険者でも、弱い魔物狩りを多くこなせば十分稼げる訳だ。

 逆に、実力者にとっては旨味がない。と言うのも、例えドラゴンを狩ろうとも量が同じであれば、低位の魔物と同じ値段で取引されるからだ。

 従って、しっかりお金を持っている実力者にとっては、面倒なだけの依頼となる訳だ。


 そんな話を彼は、同僚の冒険者から聞かされる。


「成る程ねぇ……。だから賑わっていたのか」

「ああ。俺も狩れるだけ狩って、冬の間は遊ぶつもりだぜ!」


 彼の同僚は荒稼ぎして遊ぶつもりらしいが、彼はそこまで切羽詰まってなければ、同僚の様に娼館で遊び回る趣味も無い。


「お前はどうするんだ?」

「そうだなぁ……。まあ俺は焦らずやるさ」

「流石、夕闇ランク様は余裕があるな!」

「ふん、言ってろ!」


 一通り軽口の応酬をした後、彼は同僚と別れて例の依頼書を見に行く。


 彼の名前はガルク・ソルレイク。言わずと知れた夕闇ランクの冒険者だ。


 キーリと対峙していた時よりも鍛えられた筋肉が、軽鎧の隙間から服越しでも分る程に隆起している。

 更に前とは違い柔和な表情をしていた彼は、やや長めの金色の髪とグレイの瞳も合わさって周りの人間を魅了していた。


 総合ギルドに着いたガルクは、例の依頼書を見るため掲示板に向かう。


「これが、依頼書か……」


 見てみると領主からの依頼であるのは間違いないらしく、領主のサインと貴族印が()されていた。


 内容を一読したガルクは、ギルド備え付けの食堂に赴き紅茶を注文した。

 食堂は冒険者が(たむろ)するため、紅茶の様な上品な飲み物の注文は滅多に入らないのだが、実はかなりの品質の茶葉が揃っており、紅茶好きの貴族がギルドから買い付けを行う程であった。


 ガルクは運ばれて来た紅茶を楽しみながら、先程の依頼書についての考えを巡らす。


 あの依頼書はおかしい……。領主の娘が料理の練習をする為に、食べれる肉が大量に必要と言う説明は理屈が通らない。


 そう確かに料理の練習の為に、腐りにくい魔物の肉を使うのは間違いでは無いだろう。

 だが量が逸脱し過ぎているし、領主なのだから普通に商人への買付を行えば良いだけの筈なのだ。


 となれば、何かしらの理由がある筈だ。

 魔物の肉を質を無視して、大量に集める理由か……。

 魔物の肉の利点は腐りにくい事と、腹持ちが良い事だ。ならば、何処かで飢饉でも起こったか? それとも、戦争でも起こるってか?

 ちっ! これ以上の推測は妄想と変わらねえな。


「勘定置いておくぜ!」


 残っていた紅茶を勢い良く飲み干すと、ガルクは紅茶の代金を机に置いて席を立つ。


 その足でガルクが向かったのは、ギルド内の冒険者部門の受付だ。


「よう、邪魔するぜ。今からギルマスに会えるか?」

「ガルク様!? は、はい、今呼び出しますので暫くお待ちください」


 受付嬢はガルクの問いに答えると、机に置いてあった魔導具を鳴らした。

 少しの間受付嬢と情報交換をしていると、ギルマスであるローグがやって来た。


「おやガルク。この頃見んかったのう?」

「ああ、キーリにボロ負けしてから鍛錬してたからな。それより話したいんだが、時間はあるか?」

「話し? 内密かの?」

「まあ、そんな所だ」

「ふむ。エルティナ、八番は今空いてるかの?」

「はい。八番室は今誰も使っていませんよ」

「ではガルク、八番で話すぞい!」

「ああ、分かった」


 受付を離れたガルクとローグは、八番と呼ばれていた部屋に向かう。

 総合ギルドには一番から十番までの個室部屋が備え付けてあり、商談やパーティー会議などに気軽に使えるようになっている。

 その中でも八番以降は各部門の貸し切りで、重要な案件を話し合う為に他の席が満席で無い限り使わないと言う規則が存在したのだ。


「それで、どうしたのかの?」


 ローグが席に座りながら尋ねた。


「ああ……。単刀直入に聞くが、領主の依頼は何が原因だ?」

「――何とは?」

「あれは、普通の依頼じゃないな? 飢饉か? 戦争か? それとも……。原因を教えろ!」


 少しの間、沈黙が流れる。


「はぁ……。お主には敵わないのぅ……」

「なら話して貰おうか」

「仕方ないのぅ……。じゃが、他言無用じゃぞ?」


 ローグが注意を言った後に、依頼について話し始める。

 麦がスライムによって全滅した事。王国全土で、同じような事が起こっている事。食料の貯蓄が心許ない事等など……。


「マジかよ……?」

「ああ、大マジじゃ」


 スライムの討伐は記憶に新しいが、麦が全滅? 確かに被害が出たとは、聞いていたが……。

 しかも似たような出来事が、王国内で起こっているだと?


「ヤバいじゃねえか!?」

「ヤバいんじゃよ! だから領主があんな依頼を出したんじゃよ! キーリのお陰で少しは食料を確保出来たんじゃが、まだまだ足りんからのぅ……。冬も近いしお金に糸目を付けずに、集め出したと言う訳じゃ」


 確かに納得せざるを得ない。今のまま放っておけば、冬の食料が尽きて大飢饉が発生する確率は高い。ならばと、大金を打ってでも食料確保に動いたわけか……。


「話しは分かった。俺が手伝った方が良い事はあるか?」

「ふーむ……」


 ローグは、ガルクの前で考えに没頭する。

 少し時間が経つ頃、ローグが顔を上げた。どうやら何かを思い付いたらしい。


「飢饉についてはこちらで対応するんじゃが、少し気になる事があってのぅ……。そいつの調査をして欲しいんじゃ」

「気になる事?」

「ああ。魔の森の中で、スケルトンに会ったと言う者が居るのじゃ。確認が取れてないまま放置もマズいのじゃが、例の依頼で冒険者達が出払っておる上に、如何せん魔の森となるとのう……」


 スケルトンに会ったと言う冒険者も、手前の荒野で魔物に追い掛けられて、魔の森が見える位置まで移動してしまっただけだと言う。

 そんな冒険者に再び魔の森に行けとは言えず、焦げ付いていた案件だったとの事。


 しかもだ。そのスケルトンは光魔術の使い手らしく、その冒険者を助けたと言うのだから驚きだ。

 更に、目撃情報がその一人では無く、何人も居るらしいのだ。

 その為、現在死んでなお人々を癒す聖者が居るのではと噂になっているとかいないとか……。


「成る程な。確かに気になる案件だな」

「じゃろ?」

「ああ、スケルトンが何処かから迷い込んだイレギュラーであれば良いが、近くでアンデッドが発生する条件が整っていたりするのであれば問題だ。流石に光魔術の事は信じられないが、アンデッドってだけで十分問題だからな」


 ガルクが心配するのはアンデッドの発生地が、魔の森の近くに出来上がり生者を求めて此処に押し寄せて来る事だ。

 幸いにも魔の森とシャンティナは、ある程度の距離が離れている。だが、安心出来る程離れているとも言えないのである。

 アンデッドの生者の関知能力は凄まじく、馬車で一日程度の距離であれば嗅ぎ付けると言う。最低でも馬車で二日以上の距離、出来れば三日以上離れているのが望ましいのだ。


 ではシャンティナから魔の森はと言うと、馬車で一日半から二日と言う微妙な距離に位置している。

 この距離では確実に来るとも言えないが、来ないと安心も出来ない事になる。

 光魔術の件も気にならないと言ったら嘘だが、それよりもアンデッドが沸いて出ている可能性の方が重要だ。


「ガルク、お前ならスケルトンが居た理由を何だと予想するかの?」

「スケルトンか……。そもそも、スケルトン以外の可能性も有りそうだよな?」

「ああ、確かにそれもありそうじゃのぅ……」


 アンデッドの中でスケルトンの系列は、見分けがつきにくい事で有名だ。

 例えば、スケルトンとワイトでは能力上で天と地程の差があるのだが、見た目は骨の色くらいの差しか無いので、薄暗い場所では違いを読み取れなかったりする事もある。

 他にも幾つか種類があるのだが、能力差が激しい割には見た目の違いが装備品や僅かな色の差異くらいの事が多いのだ。

 しかも装飾品に関しては死んだ時の衣装である事もあり、決定的な種族の差では無かったりする。


「もしワイトレベルが、大量発生していたら悪夢だな……」

「止めてくれ!! ガルクが言うと洒落にならぬのじゃぞ!?」

「そりゃ済まねぇな。まあとりあえず、依頼は受けるから安心しろ!」

「ああ、助かる。スケルトンの正体と、もし発生源があれば特定して欲しい!」

「仕方ねぇな。今度酒でも奢れよ!」

「この件が解決したら、儂の秘蔵の酒を奢ってやるわい!」

「おお、そりゃ楽しみだな!」


 こうしてガルクはギルマスからの焦げ付き案件を受け、偵察の準備をする為に総合ギルドを後にした――。


 ◇ ◇ ◇


「ったく! 何なんだこの魔物の量は!?」


 魔の森に移動するために荒野に出たガルクだったが、今現在大量の魔物の対処に追われていた。

 そもそもシャンティナから出たガルクは、魔の森に向かうため真っ直ぐ荒野を横断していた。

 最初の内は出てくる魔物の数におかしな所は無かった。だが、数日掛けて魔の森に近付くにつれ、異常とも言える量の魔物が襲い始めるたのだ。


「いくら魔の森と言ってもこれは異常だぞ?」


 一番可能性が高いのは、新しい勢力が加わった事による勢力図の変化だ。

 今対処している魔物が魔の森から逃げ出しているとすると、非常に厄介な事になる。

 少なくとも、魔の森の勢力図を書き換える事が可能な存在が出現したと言う意味であるのだから。


 魔の森は非常に高位の魔物が揃っている森として有名で、其処に入るのはガルクレベルであってもかなり危険度が高い。

 そんな森の勢力図を書き換えれる存在ともなれば、魔の森の最上位種に匹敵すると考えられる。

 それが街を襲ったらと思うと、確認せずに帰る事は非常に躊躇われる。


「くそっ! 面倒だな!」


 ガルクは愚痴りながらも、向かって来る魔物を殺し続ける。

 余りの魔物の量にガルクの意識は、依頼の対象であるスケルトンから勢力図を書き換えたであろう存在へと向かう。

 更に殺し続ける事一刻程――。段々と勢いが無くなり、最終的にはガルクも一息入れる事が出来た。


「ふぅ……。やっと終ったか」


 ガルクは、水袋の水を飲みながら愚痴った。


(今日森に入るのは厳しいだろうな……。今日は周りから観察して、明日の朝から本格的な調査だろう)


 予定を決めてから少し休んだガルクは、魔の森の周囲に身を潜めながら森の中を観察していた。


(ふーむ、森の外周に居る魔物はあまり変わらないな。だが――)


 確かに魔物の種類は変わっていない。だが、いつもは居る筈の虫や動物の姿が見えないのだ。

 魔の森と言えども、普通の動物や虫は存在するのだが、その姿が森から消えていた。

 勿論、発見出来てない事も有り得るのだが――。


(流石に虫の一匹も見掛けないのは異常だな……)


 一通り見て回ったガルクは適当に食事をした後、明日に備えて早めに寝る事にするのだった――。


果たして魔の森に居るスケルトンとは一体……(棒読み)

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