謁見
レナが新しく聖域に住み着いてから、かれこれ数日が経過していた。
彼女は幼いながらも非常に働き者で、色んな事のサポートに入っておりカケル達の作業量の軽減になっていたのだ。
カケルの料理や、セレナの裁縫なんかもその一つだ。
そんなある日の午後、カケルはふと気付いた事をミミに尋ねてみた。
「ミミ、そう言えばこのダンジョンのテイマーって居るのかな?」
「はい、居ますよ」
「あ、やっぱり居るんだ……」
ダンジョンテイマーが居ると言う事は、僕等は居候させてもらってると言う事だよね。
今更かも知れないけど、挨拶に行った方が良いんじゃ無いかな?
「ねぇ、ミミ……?」
「なんですか?」
「居候させてもらってるんだし、挨拶くらいしておこうか」
「……本気ですか?」
「え? まあ、本気ではあるけど……」
「畏まりました。案内します――」
あれ? 何だろう? ミミの言葉に含みがあったような……。
まぁ、行ってから考えようか!
ミミとカケルは、久し振りに二人で通路を歩く。
通路はカケル達の足音を反射し、やけに大きく辺りに鳴り響いていた。
「ええっとミミ? 此処のテイマーさんって、どんな人なのかな? やっぱり、キーリみたいな強大な魔物とか?」
「いえ、そんな生易しい存在ではありません」
「え?」
ちょっと待って! キーリが生易しい?
って事は、此処のテイマーって一体……。
あれ? そんな存在に挨拶って、もしかしてヤバかった?
「主様、着きましたよ」
カケルがミミの言葉に混乱していると、件のテイマーが居る場所に着いたらしい。
「えと、ミミ? やっぱり止めにしない?」
「それは出来ません。既に先触れを出した後です」
「マジですか……」
どうやら僕が混乱してる間に、テイマーさんに先触れと言う名のアポを取ったらしい……。
ヤバい……。アポ入れといて、ドタキャンとか絶対駄目な奴じゃん!
父さんも一度ある雑誌の記者にやられて以降、そこの会社からの取材を全て断ってたもんなぁ……。
もし同じ事したら、こっちの世界だと殺されるかも……。
カケルはアポ入れた物は仕方無いと覚悟を決め、頬を軽く叩いて気合いを入れた。
「よし! 行こう!!」
「分かりました」
ミミはカケルの覚悟が決まったのを見ると、視線を目の前の扉へと移す。
そう扉である。今までの部屋は、部屋とは言うものの扉が付いてる事は無かった。
しかし、この部屋は全くの別物だったのだ。
人工的に作られた、カケルの三倍の高さはあろうかと言う、非常に重々しい扉が聳え立っていたのだ。
デザインも重厚で絢爛豪華。白を基調に様々な宝石が所々に埋め込まれ、派手な筈なのに嫌らしさが感じられないデザインだった。
それまるで、玉座へと向かう為の扉の様である。
そんな扉に、ミミは軽くノックを行う。
「先触れを出した者です。ご挨拶に伺いました」
「入れ……」
ミミの言葉に、扉の中から返事が返って来た。
その声は男性のもので、若さを感じるがトゲのある声だった。
そしてその声のすぐ後に、扉が観音開きで内側へと開いて行く。
扉が開いた先にあったのは、正しく玉座だった。
中央の階段を登った位置の玉座には柔らかい雰囲気の女性が座り、その隣には何故か燕尾服を着た刺々しい雰囲気の男性が立ったまま此方を睥睨していた。
中央の女性は透き通る様な蒼に輝くフワフワとした髪を肩まで降ろし、薄い碧色と白の天女の羽衣に似た服装をしていた。
また、手には金色に輝く錫杖が握られており、此方を優しげな表情で観察している。
座っている為、完全には分から無いが、非常に均衡の取れたスタイルで、絶世と言うのも生易しい美女であった。
もう一人の男性は、今にも飛び掛からんばかりの険しい表情をしており、サラサラな白銀の髪を短髪に揃えてある。
目は金色で、非常に恐怖感を覚える目をしていた。
そんな彼の体型はスラッとしており、恐らく身長もかなり高いだろう。
彼自身は何かを持っている様子も無く、ただ直立不動になっていた。
「主様、行きますよ?」
「え、あ、うん……」
ミミが呆気に取られていたカケルを促して、扉の中へと入って行く。
カケルも慌てて中へと入ると、後の扉が音を立てて閉まった。
カケルが慌てて後ろを振り返り、ミミへと視線を移すがミミは行きますよ言うばかりだった。
そして、二人は進み出す。
玉座の部屋は仰々しい扉や部屋のデザインの割には、圧倒的に奥行きがある訳では無かった。
とは言え、階段までの通路が凡そ五十ナレイ――百メートルほど――。階段の高さは十ナレイ――二十メートルほど――、その奥行きは二十ナレイ――四十メートルほど――はありそうだった。
通路の床は大理石調の何かで覆われており、歩く度に足音が玉座に鳴り響いていた。
ミミとカケルはそんな通路を歩ききり、階段へと差し掛かる。
そんな中、カケルは絶賛パニック中だった。
え? 本当に謁見するの!? これ、完全に玉座だよね!?
生易しい存在じゃないって、こう言う事!?
階段の途中で、平伏して頭を下げるんだよね?
あれ? 面を上げろって何回言われたら、頭上げて良いんだっけ?
こう言う事になるなら、作法を教えておいてよミミー!!!
パニック中のカケルの目の前で、ミミがゆっくりと階段を登って行く。
カケルもそれに遅れない様に、着いて行く。
そして、玉座より八段ほど下の場所にて、ミミが立ち止まり平伏した。
それを見たカケルも、慌てて平伏した。
「面を上げなさい」
優しげな声が辺りに響く。
その声に従ってミミが顔を上げたのが見えたので、カケルもゆっくりと顔を上げた。
「貴女がお父様の……?」
「はい、その通りで御座います」
「そう。そして……。貴方が……」
王座の女性は、ミミを見た後にカケルをじっくりと観察する。
カケルとしては居心地が悪いのだが、それは我慢するしか無いだろう。
「貴方が話に聞いていたカケル・ソラノね?」
「は、はい……!」
「それで、今日は何の御用かしら?」
「こ、このダンジョンに住まわせて貰っているので、そ、そのご挨拶をと思いまして……」
「あら、それはご丁寧にどうも」
「えと、それでその、王女様のご尊名を伺っても宜しいでしょうか?」
「おい、クソ野郎! テメエの目の前に居るお方をどなたと思ってやがる!!」
ひぃ! 何で、いきなり怒られてるの!?
え? 何か礼を失する事あったかな?
「ルガルド止めなさい」
「しかし、コイツは……!」
「ルガルド、私は止めなさいと言いましたよ?」
「はっ! 申し訳ありませんでした!」
ルガルドと呼ばれた男性は、玉座の女性に謝りつつもカケルを思いっ切り睨んでいた。
「私の名前でしたね。私の名前はリリアン・ディロスと言います」
「リリアン・ディロス……!? あ、あの、もしかして、ヴァルトロ様の関係者の方ですか!?」
「はい。ヴァロトロは私の父に当たります。宜しくお願いしますね? お父様お気に入りのカケルさん」
そう。彼女こそリリアン・ディロス。
この世界に於いて、絶大な信仰を一途に集める神である。
その信仰の範囲は人種に限らず、魔物の中にも信仰している者も居るのだから、普及の度合いが分かると言う物だ。
そして、神と認識した上で彼女を見れば、その異様な美しさと厳かで居て優しげな雰囲気も腑に落ちると言える。
カケルが色々と考えてフリーズしている最中、玉座に居る女性――リリアン――はミミの方向を見た。
「ミミも大変ね。お父様に色々押し付けられて」
「いえ、もう慣れましたから」
「あら、それは凄いわね」
ミミはリリアンに会うのは初めてだったが、ヴァルトロから彼女の事は良く聞いていた。
責任感が強く、命を何よりも大切にする心優しき慈愛の女神。
大切に思う命は人型の者だけでは無く、魔物も動物も昆虫も、草木さえも大切にする性格だと言う。
そして、そんな優し過ぎた彼女はある事から大変心を痛め、嘆きの洞窟内で養生していると言うのが、ミミがヴァルトロから聞き及んでいたあらましだ。
「あ、あの、すいませんでした!!」
「あら、何がでしょう?」
「神様とは露知らずに、王女様などと言ってしまい……」
再起動したカケルが、リリアンに対して謝り出す。
「それは仕方無いわ。私も名乗っていなかった訳だしね?」
「ですが……」
「でしたら、お詫び代わりに花火を見せて下さらない?」
「花火ですか……?」
「ええ。お父様は、昔から花火が好きだったわ。その影響で私も花火が好きになったの。ですから、私も久し振りに花火を見たいのです」
そう言って、リリアンはカケルに笑い掛ける。
カケルは少し悩んだ末に、リリアンの要求を呑む事にした。
花火玉のストックは大量に作ってあったので、いつが良いかと訪ねたところ三日後と言う事に決定した。
打ち上げはいつもの天空の無限階段の部屋として、リリアンに来てもらう事とした。
リリアンが自ら足を運ぶ事に、ルガルドから不満の声が上がったが、それはリリアン自身が打ち消していた。
そして、リリアンとの謁見を終えたカケル達は、この事を伝える為に聖域へと戻る事になった。
「――と言う訳で、三日後の夜リリアン・ディロス様を招いて花火大会をする事となりました」
「いやいや! 何がどうしてリリアン様に、花火を見せる運びになるんだ!! いや、久々に会うのだから嬉しいのは事実だが……」
「リリアン様と会うのは久し振りだわ~。お姉ちゃんも、御粧ししちゃおうかしら?」
「流石死神様です! リリアン様とお知り合いなんて!!」
「ワイは神様と会うのは初めてやで! どんな方なんやろ? 楽しみでしゃぁないわ!!」
どうやら、キーリとセレナは既にリリアンと知り合いらしい。
レナはカケルへを見る目に輝きが増していた。
ツィードだけは普通の反応とも言えるが、神に会うのを楽しみにするのは剛毅である。
さて、花火だけだとリリアンも詰まらないだろうとの事で、日本の花火大会の様な屋台も再現する事になった。
屋台の内容は、焼きそば、フランクフルト、綿菓子、ヨーヨー掬い、射的などなど。
店員はライトフェアリーとレナの、子供達が行う事になった。
「うーん、でも粗相をしてリリアン様に怒られたりしないかなぁ?」
カケルは子供達だけだと、少し不安だと考えていた。
そんなカケルに対して、セレナが答えた。
「大丈夫よ! リリアン様優しいし! 問題はリリアン様よりも、ルガルドちゃんなのよねぇ……」
セレナ曰く、リリアンの隣に居たルガルドと言う男性は、リリアンに対して非常に信仰心が強い為、子供達が泣かされる可能性が高いとの事。
流石に子供達が泣かされるのはなぁと思っていると、セレナが何かを思い付いた様に声を上げた。
「そうだわ!」
「セレ姉、何か思い付いたの?」
「ええ、ちょっと待ってね。キーリちゃん、こっちこっち!!」
セレナは怪し気な笑みを浮かべながらキーリを呼び寄せると、その耳元で何かを話した。
その効果は絶大で、あのキーリが青い顔をしたかと思うとすぐに顔を真っ赤に染めた。
セレ姉、キーリに一体何を吹き込んだんだ?
どうせ、碌でも無い事なのは確かだろうけど……。
「カケル、ルガルドは私が引き受けておくから、子供達の心配はしなくても大丈夫だ」
「いや、そんな顔で言われても……」
「大丈夫よ! ルガルドちゃんはキーリちゃんがしっかり抑えておくから! ねっ! キーリちゃん!」
「あ、あぁ……」
セレナの問い掛けに、キーリはぎこちなく頷いた。
そんな彼女の顔は、まだ先ほどの事を引きずっている様に赤かった。
「怪しい……」
「何がかな?」
「セレ姉、今度は何企んでるのさ!?」
「企んでるなんて酷いわ! お姉ちゃんはただ、子供達と屋台の事を思って……!!」
セレナが目に手をやって、泣いているような仕草をするがカケルは動じなかった。
似たような事を何回もやられれば、流石のカケルも慣れて来ると言う物だ。
「ふーん。で、セレ姉何するつもりなの?」
「何って、お姉ちゃんはただ親友の応援を……」
「わ、わぁ!!! セレナはただ、子供達の事が心配なだけだよな?」
「え? えーと……」
「だ、よ、な?」
「そう、そう! そうなのよ! レナちゃんや、ライトフェアリーちゃん達が心配で仕方無いからなのよねぇー!!」
「本当かなぁ……? 当日に邪魔する事だけは止めてよ?」
「それは大丈夫よ! お姉ちゃんも、リリアン様のおもてなしの際に、悪戯する勇気は無いわ!!」
リリアンが相手じゃなかったら、悪戯するとばかりのコメントをするセレナ。
そんな彼女に呆れながらも、取り敢えずその場はそこで終わった。
祭りに必要な物は多いのだ。
いつまでもセレナにかかずらってはいられない。
さて、リリアンだけをもてなせば良いとなったので、最初の案の通りに子供達に店番をしてもらう事にする。
ライトフェアリー達は小さいので、三人一組でレナは一人での店番だ。
余った二十人中の二人のライトフェアリーは、レナや他の店へのヘルプとして駆け回って貰う事にした。
その後は屋台作りだ。
今回ばかりはもてなす人物が人物なので、ミミも本気で魔法を使用している。
セレナも衣装作りに余念が無い。
何故か全員浴衣姿にさせるつもりらしく、大量の衣装を高速で制作していた。
勿論、大量の料理も作成しており、当日は子供達でも温め直すだけで出せるように準備している。
そんなこんなで、準備期間の三日間はあっと言う間に過ぎて行った――。
まずは、新しい人物のおさらいです。
リリアン・ディロス
ヴァルトロの娘で、この世界で絶大な信仰を集める女神。
ヴァルトロが慈愛の女神と言うだけあって、非常に優しい雰囲気。
ルガルド
リリアンに使える執事。
リリアンへの信仰心が強すぎて、他への配慮が足らなくなったりする。
後、言葉遣いが汚い……。
彼等は今後も少しずつ登場して行きます。
今回は謁見部分の話が予想以上に長くなって、花火大会の方まで書けませんでした。
次は花火大会の話になります。




