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露天風呂と認識

今回はわりと軽めだと思います。

 一方の女子三人組は、風呂の部屋へと来ていた。部屋の入り口にはなぜか、暖簾(のれん)が掛かっており和の雰囲気を醸し出している。

 ここは以前雪山の部屋で見つけた源泉を、ミミが空間を捻じ曲げてこの部屋へと繋いだ物だ。

 セレナとカケルは非常に気に入っており、毎日のように入浴しているのである。

 キーリとツィードやミミは水浴び派らしく、このお風呂に入る回数はかなり少ない。


 源泉を繋げて作ったお風呂は、源泉掛け流しの露天風呂になっており、岩を組み合わせて作った浴槽が中央に居座っている。

 部屋全体がお風呂用に整備されており、奥の壁を見るとシャワー壁からシャワーノズルが飛び出ていた。

 それだけじゃなく、椅子と桶にシャンプー、リンス、ボディーソープまでもが完備されており、此処だけ世界が違って見えた。

 更に、何処をどう弄ったのかは分からないが、天井には満天の星空と左右の壁からは大パノラマが見渡せるようになっていた。


 このお風呂を制作するに当たり、カケルだけでなくセレナもお風呂を所望した為、そこまで高くつかなかったものの、これもカケルへの貸しである。

 ミミの力を借り過ぎているカケルの家計は、既に火の車かも知れない……。


「どう、レナちゃん! 凄いでしょ!?」


 自分が作った訳でもないのに、自慢気にレナへと話すセレナ。

 キーリはその隣で、やれやれと苦笑していた。

 そして話し掛けられたレナはと言うと、口を大開にして驚いていた。


「ク、クレイスト様! これは何ですか!?」

「お風呂よ! 露天風呂って言うらしいわ!!」

「露天風呂……」


 レナがボサッとしていると、セレナがさっさと入るわよと言いながら彼女の手を引いて行く。

 風呂の部屋はお風呂以外にも着替える為の脱衣所、塩をふんだんに使用したサウナ、熱った体を冷やす為のチェアー等が備え付けてある。

 セレナは脱衣所に向かうと、さっさと服を脱ぎ捨て、レナの服を剥ぎ取った。

 なお、キーリは着替える必要は無い為先に風呂場に向かっていた。


「あ、あの、クレイスト様!?」

「良いから、良いから!!」


 一応此処はカケルが監修した為、フェイスタオルやバスタオルが備え付けてある。

 だが、セレナはそのどちらも着けずに、そのままレナを引き()って行く。


「さあ、先ずは身体を洗うわよ!」

「え、あ、あの……?」


 セレナはキーリが丁度身体を洗っているシャワーの隣に陣取ると、自分は椅子に座りレナを膝の上に座らせた。

 そして、レナの頭から赤い色のシャンプーハットを被せた。


 これはカケルが作成した物で、嘆きのラットの血を加工した物である。

 何と、嘆きのラットの血は糊だけでなくナイロンの様な性質も持っていたのだ。

 材料にさえ目を瞑れば、そのハットは十分な品質を誇っていた。


「はーい、染みるから目を閉じていてね」

「え? え?」


 レナが混乱している間に頭にお湯を掛け、シャンプーで汚れを落としていく。

 クリーンの魔法で大半は綺麗になってるとは言え、頭皮の汚れの隅々まで落ちている訳ではない。

 セレナはそれを、丁寧に削ぎ落としていく。


「セレナ、レナ。私は先に入っているぞ?」

「はーい。私達も後から行くわね」


 キーリと別れた後、シャンプーが終わってリンスに入る。

 その後はボディーソープで、頭だけでなく身体の汚れも落としていく。


 身体を洗い終わった二人は、キーリの待つ湯船へと入る。


「遅かったな」

「ええ、レナちゃんが逃げようとするから時間が掛かっちゃったのよ」

「それはクレイスト様が!」

「クレイストじゃなくて、セレナよ!」

「で、ですが神様を名前で呼ぶのは畏れ多く……」

「レナちゃんは、お姉ちゃんの事嫌いなの……?」


 レナが遠慮していると、セレナが彼女を見ながら目に涙を浮かべる。


「い、いえ! けしてそのような事は!!

「じゃあ、呼んでみて!」

「えと、あの……。――セ、セレナ様……」

「うーん、セレナ様かぁ……。セレナお姉ちゃんって呼んでくれると嬉しいんだけど……」

「そ、そんな畏れ多い事出来ません!」


 セレナの言葉にレナは、青い顔をしながら顔を振っていた。


「セレナ、しつこいと嫌われるぞ?」

「そうね。今日はこのくらいにしておくわ。でも、最後にはセレナお姉ちゃんと呼ばせてみせるわ!!」


 寸劇も終わり、お風呂を堪能する三人。

 暫くしてレナの緊張が解けてきた頃を見計らって、セレナが口を開いた。


「ねぇ、レナちゃん」

「はい、何でしょうか?」

「もし良ければ、詳しい事情を聞かせてくれないかな?」

「事情……」

「嫌だったら良いのよ。もう、聞かないわ」


 セレナの言葉に、レナは少し青い顔をしながら彼女に答えた。


「も、申し訳ありません……。もう少しだけ……、もう少しだけ、心の整理の時間を頂けませんか?」

「そう、分かったわ」

「申し訳ありません……」

「謝る必要は無いわ。お姉ちゃんも、少し性急過ぎたわね」

「い、いえ……」


 その言葉を最後に、レナは下を向いて沈黙してしまった。


「なぁ、レナ」

「は、はい! 何でしようかサーヴァイン様!」

「私もキーリで構わないぞ?」

「え、えと、ではキーリ様……」

「ああ、それで良い。お前は私達に悪く感じているようだが、お前は別に私達に悪く思う必要は無いぞ?」

「で、ですが、ここまでして頂いてるのに、私は我儘を言って……」

「別に我儘くらい言っても構わないんじゃないか? 勿論、余りにも酷い我儘は駄目だが、心の整理の時間くらいなら幾らでも待ってやるさ。私達からすれば、人間の寿命自体が非常に短いのだからな」


 そう、キーリの言っている事は正しい。

 ライトフェアリーとカケルを除けば、一番若いのはセレナだ。

 だが、彼女さえも一万五千年以上生きており、人間の寿命の百年そこらなんてのはあっという間にに過ぎ去る年月なのだ。

 それが、心の整理の時間として数年単位で待ったとしても、彼女等にとっては誤差でしか無いのである。


「分かりました……。いつとは言えませんが、近い内に必ずお話致します」

「あぁ、私達の事は気にせずとも良い。お前は、お前自身の心にけりを付けてみろ」


 ここから先は、レナ自身の問題だ。

 レナが自分の心に整理を付けて、過去の出来事として話せる様にならなければならない。


「キーリちゃん、やっぱ格好良いわぁ」

「何を言っているのだお前は?」

「えぇ、だってぇ……。お前自身の心にけりを付けてみろって言葉、凄く男前じゃない?」

「私は、お、ん、な、だ!!」


 そんな二人のやり取りに、レナが少しだけ笑った。


「やっと、笑ってくれたわね」

「え?」

「別に気にしてないのだから、レナちゃんは堂々としていれば良いのよ。それに笑っていた方が可愛いわよ?」

「か、可愛……」

「ほらセレナ、レナが困ってるじゃないか」

「あら、困らせちゃったかしら?」

「い、いえ……」


 そう答えるレナは、気恥ずかしさから顔を真っ赤にしていた。


「もう! 可愛いなぁ!!」

「セ、セレナ様!?」


 そんなレナを、セレナが思わず抱き締めた。

 それを見ていたキーリが、突然ポツリと言葉を掛ける。


「ふむ。レナ、私の膝の上に来ないか?」

「え? あ、あの……」

「あら、キーリちゃん。レナちゃんの事が気になって来たの?」

「そうかも知れないな」

「そっか。じゃあレナちゃん、キーリちゃんのお膝の上に行こうか?」


 セレナは腕の中のレナを、そのままキーリの膝の上へと運んだ。


「ふむ。割と良い物だな」

「あの、あの……」

「レナは私の膝の上は嫌か?」

「い、いえ、そう言うコトでは無くですね。キーリ様の膝の上は畏れ多いと言いますか……」

「畏れ多い? 良く分からんが、別に気にする必要は無いぞ?」

「で、ですが……!」

「はい、そこまで!」

「セレナ様?」

「別に気にする必要は無いのよ? 私達がレナちゃんと、仲良くイチャイチャしたいだけなんだから」

「イ、イチャイチャ……」


 一歩引いているレナに対して、セレナが適当な説明を行った。

 それに対して、レナは顔を赤らめていた。


「そうよね? キーリちゃん!」

「良く分からんが、レナと仲良くなりたいのは事実だな」


 キーリも適当に返事をした為、レナの顔は更に赤くなってしまった。

 重い雰囲気の無くなったお風呂で、二人はレナとの親睦を深めて行くのだった。


 ◇ ◇ ◇


 さて、女子三人組みが仲良くお風呂でじゃれ合っている一方、カケル達は聖域神殿内の会議室に集まっていた。


 一番の議題はレナの目に埋め込まれた、監視用の呪いの魔法である。

 この呪いの魔法はどうも、レナの目を通して映った物体や魔力反応を他の場所へと転送する物らしく、彼女は斥候若しくはカナリアの様な役割で放たれた可能性があった。

 この魔法が呪いと呼ばれる所以は、失明ですら一時的に治し監視魔法として作用するのと引き換えに、一週間程で効果が切れると完全な失明と共に死ぬまで終わる事の無い痛みが襲って来ると言う強烈な副作用からだ。


「問題はあの人間が、何故探知魔法の呪いを埋め込まれて、この森に放逐されたかですね」

「魔力の探知なんだから、魔物を警戒してじゃないの?」

「では、何の魔物を警戒してだと思いますか?」

「何の魔物?」

「はい、警戒するならするなりの、理由があるとは思いませんか?」

「ミミちゃんはこう言いたいんか? 警戒対象の魔物はうちらやと」

「はい、可能性は高いかと思いませんか? ここら辺一帯で一番危険な魔物は、私達以外にあり得ません。そして、私達の情報が漏れ出た可能性が先日ありましたよね?」


 ミミが言っている可能性とは、何人か治療を施した冒険者の事だろう。

 彼等自身が悪く言わなくても、此方は魔物だ。十分に警戒に値するのだろう。何せ人語を操り、ライトヒールを使用するリッチだ。寧ろ警戒しない方がおかしいかも知れない。


 だから警戒対象を観測するために、使い捨ての斥候を放ったと……。


「確かに、前の冒険者が話した可能性は高いな」

「だとしても、何で奴隷の彼女を送り込んだんだ? 彼女は死ぬ寸前だった。斥候として放っても、情報を得る前に死んだら意味が無くないか?」


 そうなのだ。幾ら使い捨てだからと言っても、確認前に死んでしまえば単なる損失にしかならない。

 であれば、成功報酬型として冒険者に依頼すれば効率が良い筈なのだ。


「そこなんですよね。冒険者では無く、使い捨て奴隷を使う理由が分からないんですよね」


 冒険者では無く、使い捨て奴隷を使う理由……。――待てよ、使い捨て奴隷じゃないといけない理由じゃなくて、冒険者が使えない理由ならどうだろう?


 前に聞いた総合ギルドは国に属さない独自組織で、国に取り込まれない理由は総合ギルドの上層部の異様な強さだった筈。

 冒険者が調査に来れば必ず、冒険者ギルドに情報が上がる。レナを使った犯人は冒険者ギルドに情報を上げたくなかった?

 だとしたら、ギルドに情報が行った場合ギルドが取る行動は何だ?


 既にライトヒールを使う、リッチの存在は知れ渡っていると考えられる。その場合、ギルドとしては交渉の余地がある、強力な魔物相手との敵対は避けるように行動すると思う。

 それを防ぎたかった? いや、それなら僕を殺すような者を送った方が確実だ。

 もしギルドが再度僕を確認すると、ギルドはどう動く? 現状だと僕の存在は、眉唾と思われている可能性もある。だけど、信頼の置ける情報として確認されればギルドとしては事実の情報として扱うはず。

 ならば情報を眉唾のままにしたかった? 何のために? ――僕の存在を自分で利用したかったとかか?


「ねぇミミ、少し聞きたいんだけどライトヒールが使える僕って、人間からしたら利用価値は高いかな?」

「いきなり、どうしたんですか?」

「最初は使い捨て奴隷じゃないといけない理由を考えていたんだけど、実際は冒険者を使えない理由があったんじゃないかなと」

「冒険者を使えない理由やと?」

「うん、僕の利用価値が高いのであれば、独自に情報を手に入れて僕を捕まえる為に動いたのかなと」

「主様の利用価値との事ですが――」


 そもそも人間は、魔術を使える人間がかなり少ない。大体百人に一人の割合で最低レベルの魔術が使え、使い物になる魔術が使える割合は更に百人に一人である。

 中でも回復魔術はかなり珍しい部類に入り、回復魔術が使える殆んどの人間は神聖国と呼ばれる国が囲って居る。

 冒険者や貴族付きとしてもごくまれに居るらしいが、基本的に神聖国が派遣している教会に行かなければ回復魔術の恩恵は受けれない。

 そんな中、食事も給与も要らず道具として使えそうなカケルの存在は、貴族だけでなく商人などの間でも垂涎(すいぜん)の的であるとの事だった。


「――但し、主様を完全に支配下に置けた場合ですが」

「えと、つまりさっきの仮説は良い線行ってたって事?」

「はい、主様をスケルトン等の下位種族だと思っているのであれば十分な可能性があるかと思います」

「カケルがスケルトンだとして、完全に支配下に置く方法はどうするんだ?」

「テイマーを使うか、従属の首輪でも使う気なのだと思います」


 テイマーとは魔物を従属させ、自分の代わりに動かす職業の者である。

 アンデッドは特殊な魔物の為、テイム出来る人間は限られるだろうが居ない事は無い。

 一方の従属の首輪は、奴隷紋を埋め込んだ首輪よりも強力な物で、相手の人格などを全て封じ込め完全な傀儡にする魔道具である。


「いずれにしても、今回の件が失敗した以上すぐには動かないかと思われます」

「――もしかすると、次の手が打たれる前に、自分から街に行った方が良いかも知れないね」

「そう言えば、カケル坊は人間の街に行きたかった言うてたなぁ」

「まあ、元々の目的だしね。人間の街に行って、花火を広めるのが僕の目的だよ」

「主様、それですがもう少しお待ち頂けますか?」

「えと、それはどうして?」


 ミミ曰く、冒険者ギルドも確認の人員をそろそろ送る頃だから、そこで改めて友好関係を築いた後に街に行った方が良いとの事。

 その理由としてカケルがアンデットであることが大きい。世間一般の認識ではアンデットは生者を妬み、生者を見れば人間であれ動物であれ魔物であっても襲い掛かる危険な存在で、真っ先に排除すべき対象とされている。

 そんな存在が理知的に会話をし生者を助けたのだから、現在ギルドは混乱しつつも事実を確かめる為に人員を送り込む筈だと。


 それに自分の存在も、マイナス要因だとミミは言う。

 常闇ウサギは見る人が見れば分かる程に有名であるため、かなり警戒されるだろうと言った。だが、最初から交流があればマシとの事。

 僕の事は分るんだけど、常闇ウサギって警戒される存在なんだ?

 ツィードやキーリ達もうんうんと頷いているし、恐らく当たり前の事なんだろうか……。


「確かにこっちは魔物しか居ないしなぁ……。了解、ミミに従うよ。ただ、その間にレナちゃんみたいな子が出てきたら保護したいんだ。それも貸しにして良いから、ミミが気付ける範囲で手を貸してくれないかな?」

「――分かりました」


 とりあえずの話し合いが終わって少しすると、レナとセレナがお風呂から上がってきた。

 レナはボロボロだった服では無く、ツィードとセレナが前に作った自動サイズ調節の白のワンピースを着ていた。


「どう!? レナちゃん、スッゴク綺麗になったと思わない?」


 最初に見た姿が酷すぎて、対比で綺麗に見えているのも大きいだろうが、それでもかなりの豹変ぶりである。

 手足を失い、臓物を垂れ流し、目が虚ろな血塗れのゾンビのようだったレナだが、傷は全て癒え、肌荒れや髪の傷みまでもが消え、綺麗なワンピースを着ているとまるで何処かの貴族の娘にさえ見えた。


 改めて彼女の姿を見る。

 年齢は八歳前後だろうか? その年齢にして可愛いらしいよりも、綺麗が先に来るほどの美貌をしている。

 色素が薄い白金色の髪を肩辺りまで流しており、身長は六千六百ルアナレイ――百三十センチほど――と僕よりも大分低い。

 瞳の色は紫色で透明色が高く、その不思議な色合いの瞳は見ているだけで心がざわめく。


「凄いな、見付けた時とは別人だ!」

「せやな、大した激変ぶりやで!」

「うん、綺麗に治って良かったよ」

「あ、ありがとうございます」


 レナが戻ってきたとの事で、カケルは彼女に事情を聞いてみる事にした。


「ねぇレナちゃん、君の事を教えてくれるかな?」

「あ、カケルちゃん、ちょっと待って!」

「どうしたのセレ姉?」

「レナちゃんは、自分の事を言うには時間が欲しいって」

「そうなの?」

「――はい、すいません……。まだ、心の整理が付かなくって……」

「そう言う事なら分かったよ。無理はしなくても良いからね?」

「はい、すいません……。それと、改めてありがとう御座いました」

「レナちゃん?」


 レナはカケルの目を見ながら、自分の言葉を吐露する。


「あの森で死にそうになっていたのを、助けてくれたのが死神様なんです……。ですから、私を死神様の奴隷として側に置かせては頂けませんか? 私の命は死神様の物です。どう扱っても構わないので……」


 彼女の献身は重かった。

 ただの花火好きのアンデッドには、抱え切れない程に……。

 ただ、そう思っていたのはカケルだけであったようで――。


「――主様、最低ですね」

「カケル、助けたと言っても流石にそれは……」

「カケル坊、ワイ結構坊の事気に入ってたんんやけど……」

「え? え?」

「カケルちゃん、まさかそう言う魂胆で助けたの? お姉ちゃん感心してたのに……」


 四面楚歌とはこの事か……。

 勿論カケルが望んでなった流れでは無かったのだが……。


「死神様、いえ、ご主人様! わたしは学がありませんから、出来る事は少ないかも知れません。ですが、わたしの人生も命も全てをご主人様に捧げます。何なりとご命令ください!」


 レナちゃんの、僕を見る目が怖い……。

 良く分らないけど、彼女の目を見てるとぞわぞわする……。


「レ、レナちゃん? 落ち着いて、僕は君を奴隷にするつもりなんて無いよ?」

「そんなご主人様!? 私を捨てるのですか!?」

「カケル……」

「カケル坊……」

「最低てすね」

「ちょっと待って! 僕おかしい事言ってないよね!?」

「この際、主様の発言は関係無いのですよ」

「まあ、結果が全てやな」

「カケル、お前が最低でも私は見捨てないぞ?」

「レ、レナちゃんからも何か言ってよ!!」

「はい、ご主人様! 皆様、ご主人様の奴隷として末長く宜しくお願い致します!!」

「「「…………」」」

「ちっがーう!! 宜しくしないからね? レナちゃんは奴隷になる必要は無いからね? 皆と同じようにしていれば良いから!」

「ですが、それではご恩を返せなくなります……」


 レナの恩返しをしたい、と言う感情を無視する訳にも行かず。

 さりとて奴隷にするわけにもいかない……。

 そこでカケルは、ある提案をする事にした。


「はぁ……、分かったよ。但し、君の扱いは奴隷じゃなくて僕の弟子だよ」

「弟子……ですか?」


 僕はレナちゃんに向けて、花火の事を説明する。


「花火……。分かりました。私にやらせて下さい!」

「じゃあレナちゃん、僕の事はカケルって呼んでね」

「死神様のご尊名を呼べるとは有難き幸せです! カケル様、私の事は呼び捨てで構いません」

「分かった。レナ、これから宜しくね」

「はい!!」

「うんうん。一件落着だね!」


 先程まで後ろで、ニコニコしていたセレナがそう纏めた。


「ちょい待ち! セレ姉、レナに何を吹き込めばこうなるのさ?」

「嫌ねぇカケルちゃん。吹き込んだなんて人聞きの悪い。お姉ちゃんは、カケルちゃんをそんな子に育てた覚えはないわよ?」

「うん、僕もセレ姉に育てられた覚えは無いよ?」


 そう、レナが奴隷になるなんて言い出したのは、セレ姉達と一緒にお風呂に入ってからだ。

 それを追求したかったのだが、結局セレ姉はのほほんとしているだけで、結局のらりくらりとはぐらかされてしまった。


 何はともあれこうして、僕に初めての弟子が出来た。

 僕の事を死神呼ばわりしてるし、僕に対して何か良く分からない感情向けて来てる気がするんだよね……。

 まぁ、先は長いんだし何とかなるかな……?


 ――なるよね……?


 ◇ ◇ ◇


(夢みたい……)


 あの時、私は死ぬ事を覚悟した。

 でも、死神様――カケル様――に助けられた。

 そして今は、こんなに良い部屋に置かせて貰ってる。


 レナが居る部屋は、セレナと同室だ。

 セレナが一緒に寝たいとごねた結果、ダブルベッドの上にセレナと並んで寝るレナが居た。


 すぅ……、すぅ……。


(セレナ様。綺麗な横顔だなぁ)


 レナがふと隣を見ると、静かな寝息を立てながら眠るセレナの姿があった。


(そう言えばセレナ様って、何の神様なんだろう?)


 レナは結局、カケルを死神と信じたままであった。

 その為周りの者達も同じく神か、若しくはそれに近い存在だと思っていた。

 特にセレナとキーリの美貌を見たレナは、その確信を深めていたのである。


 レナは顔を再び上に向け、敬愛する死神の事を考える。


 カケル様には弟子になれって言われたけど、私にそんな綺麗な物を作れるのかな?

 それに、私なんかを置いて邪魔にならないかな……?

 ううん、そう思われないように頑張らなくちゃ!


『それで、良いんだよね? ミナ……』


 レナがそう小声で呟くと、いつもの小さな少女が嬉しそうに、それでいて寂しそうに微笑んだのだった――。


やっと、終わったー!!

これで、レナの話は一先ず終了です。

予想以上に長くなった気がします……。


次は多分、いったんほのぼの系に戻ります。

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