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絶望と死神

前の話に続いて、スプラッタ注意です。

人は殆ど出てこないので、胸糞の方は多分無いとは思いますが……。

 彼女は食べれる様な物を持って居なかった。水も同様である。

 そんなγ3は朝日が昇ると、空腹と喉の渇きによって起こされた。


(お腹減ったな……。お水も飲みたい……)


 γ3は雑草の汁を全身に擦り付けた後、雑草の汁を口にした。


(苦い……!)


 とは言え、近くに川もない為暫くはこの雑草の汁で喉を潤す必要がある。

 数百本の雑草から汁を吸うと、何とか渇きが収まって来た。

 汁を吸いきった雑草は、食事としてお腹に溜める。


(でも、これで何とか動けそうかな?)


 今日辺りに森に入らないとマズイだろう。

 そう考えたγ3は、匍匐のスピードを僅かに引き上げた。


 この草原は大きな魔物が居らず、極小さな魔物が暮らしている。

 だからこそ、γ3は未だに生きているとも言える。

 このエリアの魔物は草食系が多く、更に草に隠れて居れば、上から覗き込まれる事も無いのだから。


 さてγ3の移動だが、昨日とさほど変わる物でもない。少し、移動速度が上がっただけだ。

 そんなγ3は、現在危機に瀕していた。


(何でこんな魔物が居るの……?)


 草原のエリアがそろそろ終わり、森が見えてきたと言う所に居たのは、食用にされる事も多い猪の姿をしたレッドボアだった。

 食用にされる事が多いと言っても、それはレッドボアが弱いと言う事に繋がる訳では無い。

 レッドボアは熟練の冒険者や狩人からすれば只の獲物ではあるのだが、一般人からすれば十分に脅威的であるのだ。

 そして本来は、森の奥に潜むような魔物の筈なのだが……。


(迂回するしか無いかな……)


 そんな魔物に挑むのは論外であり、γ3はレッドボアが陣取ってる位置を大きく迂回する事にした。


 ――迂回してから、一刻程経過しただろうか?

 γ3はやっとの事で、魔の森の中に入る事が出来たのだった。


(村の周りにあった森と、随分雰囲気が違うよね)


 γ3は過去の記憶を引っ張り出して、目の前の森と比べる。


(っと、匂いを新しく付けなくちゃ!)


 彼女は森の土を拾い上げると、全身に擦り付けた。

 特に発汗が多い箇所は、念入りに土を擦り付ける。


(これくらいかな?)


 γ3は移動を開始する。

 先程の匍匐ではなく、中腰に屈みながら木の影から木の影へと移動して行く。


(魔物が居ない?)


 幾ら何でも先程までの魔物の多さから考えて、この森の中に居ないとは考えづらいんだけど……。

 そんな疑問を懐きつつも、彼女は慎重に歩を進める。


 森に入って少し経った頃、γ3は初めての魔物と遭遇する事となる。


(何……、あれ……?)


 其処に居たのは、ムカデの見た目を持つ魔物だった。

 但し、大きさが全く違う。

 まず、横幅が二ナレイ程――四メートル程――はあるだろう。


 だが、それよりも目立つのはその長さだ。

 木々に隠れて全身は見えないが十ナレイは悠に超えており、下手したら二十ナレイに届くのではと思わせる長さがある。


 そんな魔物はギチギチと不快音を出しながら、森の奥へと移動していく。

 だがいきなり移動経路を変え、γ3の方へと反転しようとしていたのが見てとれた。


(マズい! 隠れなきゃ!)


 γ3は咄嗟に近くにあった、枯れ木の幹の中に身を潜めた。


 ギチギチ……。ズザッ、ズザッ……。


 γ3のすぐ隣から、土を擦るような音が聞こえてくる。


(お願い! 通り過ぎて……!)


 彼女の願いが叶ったのかどうなのか、大ムカデの魔物はそのまま通り過ぎて行った。

 大ムカデが通り過ぎてから暫く経った後、幹からγ3がキョロキョロしながら出て来た。


(大丈夫みたいね……。はあ、助かった……)


 γ3は木に(もた)れながら、大きく溜め息を()いた。


(あまりゆっくりも出来ないかな。先に進もう!)


 γ3は再び中腰の状態で、森の中を歩み始めた。

 大ムカデの魔物と出会った事で、彼女は警戒レベルは先程よりも上げていた。


 そんな彼女の耳に、先程の大ムカデと似たような音が飛び込んできた。

 場所はまだ離れていそうだが、油断は出来ない。


(なるべく早く、此処から離れないと!)


 右方向から音が聞こえてきた為、γ3は左前方に歩を進める事にした。

 その目論見は成功し、先程の音は遥か彼方に遠ざかって行った。


(良かった……)


 だが、彼女はその音に気を取られ過ぎていたらしい――。


 グシャ……。


「えっ?」


 何かが潰される様な音が、すぐ隣から鳴り響き、γ3は思わず声を上げてしまう。


 γ3がその音源を探すと、自分の左肩辺りである事に気付く……。


「あっ……、あ、あ、あぎいゃぁぁぁぁぁ!!!!!」


 この世の者とは思えない様な絶叫が、辺り一面に鳴り響く……。


「痛い! 痛い!! 痛い!!!」


 γ3が痛みを訴える中、彼女の左隣には先程と同じ様な大ムカデが居り、口をムシャムシャと動かして居た。

 そう、彼女の左腕は肩から喰い千切られており、彼女の腕を食べた大ムカデは絶賛咀嚼中である。


「さっき……の……大……ムカデ……」


 幸い今は咀嚼中だからか、γ3に攻撃を仕掛けてくる気配は無い。

 だか、このままでは殺されて喰われる事は明白であった。


「に……逃……げな……きゃ……」


 γ3は痛みを堪えて左肩を押さえながら、更に森の奥へと走り出す。

 だか、彼女は出血してしまった。

 魔物だらけの森の中で、血の匂いを撒き散らせばどうなるか……。


 ギチギチ。

 ギチギチ。ズザッ……、ズザッ……。


(に、二匹目……)


 彼女の腕を咀嚼している個体はまだ動き出して居ないが、何処からか同じ種類の魔物が彼女を追い掛け始めたのだ。


「っはぁ……、はぁ……、はぁ……」


 大ムカデの魔物は、けして速いとは言えない速度だ。

 木々に足を取られて居る事も、関係してるかも知れない。


「はぁ……、はぁ……。あっ……」


 だが次はγ3が、木の根に足を取られて転んでしまう。

 そして――。


 グシャ……。


 後ろから音が聞こえてきた。

 γ3が恐る恐る後ろを振り向くと、太ももから先が無い自分の右足が目に入った。


「嫌ぁぁぁぁ!!!!!」


 彼女を襲い来る圧倒的な痛みと、死への恐怖……。

 彼女は死神を信仰し、心の底から死にたいと思っていた。


 だが、圧倒的痛みと突き付けられた本物の死の匂いが、彼女の生存本能に働き掛けた。


「嫌だ!! 死にたくない!!!」


 γ3は残った右手と左足を使って、()いずりながらも大ムカデから離れようとする。

 だが、先程腕を咀嚼していた個体が戻って来てしまう。


「嫌! 嫌!! 嫌!!!」


 近付いてきた大ムカデが、γ3の少し後方で停止する。

 彼女が後方を振り返ると、大ムカデが今まさに彼女へと飛び掛かる所だった。


(ああ……、もう駄目……。私は此処で食べられて死ぬのね……)


 γ3が諦める様な考えをしていると、大ムカデの横に何時も少女の姿が浮かび上がった。


「っ! まだ、死にたくない!!」


 γ3は体を(ひね)って、攻撃を回避しようと試みた。

 その行動は運良く成功し、死ぬ事だけは免れる事が出来た。

 だが――。


「あぐっっ!!!」


 大ムカデの攻撃が、腹と顔を(かす)ってしまったのだ。

 その攻撃により彼女の腹から腸がはみ出て、左眼球は喰われそこから頭頂部に掛けて肉が(まく)れ上がってしまった。

 頭部への攻撃は肉だけではなく骨にまで達しているようで、所々から脳漿(のうしょう)すら出てきていた。


 この状態で、生きている事自体が奇跡ですらある。


「い、嫌だ、死にたくない! だ、誰か、誰か助けてっ!!!!」


 大ムカデはγ3の言い分など知らないとばかりに、彼女の顔面目掛けて襲い掛かって来た。

 その恐怖に堪えきれず、彼女は目を(つむ)ってしまう。


(ごめんね……。結局貴女が誰なのか分からなかったよ……)


 γ3が今度こそ終わりだと、諦念(ていねん)に包まれていると――。


 ズシャッ……。


 何かが落ちる音がした。しかも、来る筈の痛みが来ない。

 その代わりに、肩を掴まれた感触がした。


「良かった……。間に合った……」


 更には、誰かが話し掛けてきた。

 一体誰が? γ3は恐る恐る目を開けた。

 その目に飛び込んできたのは、真っ白な骸骨だった。


「死……神様……?」

「もう、大丈夫。後は僕に任せて」


 痛みと恐怖、そして何よりも目の前の死神の優しげな声に張っていた緊張が溶け、γ3はそのまま気を失ってしまった――。


γ3視点からの話はこれで終わりです。

次は視点が移ります。

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