絶望の中の希望
一章で出て来た少女が再登場します。
胸糞及び、スプラッタ表現があるので注意して下さい。
あの地下牢に閉じ込められてから、どれだけの時間が経過したのだろう?
γ3の感染症と言う予測は、少なくとも一部は当たっていた。
と言うのも、彼女の目は日に日に濁り、視力がどんどん落ちていったからだ。
今では、部屋の大きささえ把握出来ない程になっている。
視力が落ち始めて暫くすると、一人の女性がγ3の地下牢に入れられた。
彼女は確か、γ16と呼ばれていた女性だったはず。
「貴女は試金石です。運が良ければ死なないでしょう」
そう言って去っていく執事と、γ16の顔を見て理解した。
彼女は、私が感染症に掛かったかどうかを知る為の生け贄だと……。
γ16の顔は生気が無く、既に生きる事を諦めた表情だった。
彼女が来てからは人は往来は無く、あると言えば食事と水が部屋の中の装置を通して降りて来るのみだった。
ギイイ……。
そんな中、久し振りに地下牢の扉が開いたようだ。
「γ3出なさい。貴女の処遇が決まりました」
「はい……」
執事の言葉に従って外に出るγ3。
それを見届けると執事は、γ16に対して声を掛けた。
「γ16、貴女の役目はこれで終わりです。前に運が良ければ死なないでしょうと言いましたが撤回致します。貴女は不要になったので、此処で死んでください」
γ16の目は怒りも悲しみも写さない。ただただ、全てを諦めているだけだった。
ザシュッ……。
そんな彼女に降り下ろされた大振りのナイフは、彼女の首を綺麗に斬り落とし噴水の様な血飛沫を上げた……。
ゴロゴロと転がる生首を見ながら、γ3は心の中で彼女に詫びる。
私のせいで死んでしまって、ごめんなさいと……。
「では、γ3行きましょう」
「はい……」
地下牢から連れ出されたγ3は、執事と共に階段を上り豚の部屋へと向かう。
コンコン。
「入れ」
「失礼します」
執事の後に付いて、γ3は久し振りに豚の部屋に入る。
「γ3を連れてきました」
「ああ。γ3、久し振りだな」
「はい、お久しぶりで御座います……」
そう言いながら豚は、γ3にイヤらしい視線を向ける。
尤も、γ3は既に豚の視線どころか顔すらも殆ど見えないのだが……。
「さて、お前の処置が決まった」
いよいよか……。γ16が感染しなかったのを見ると、私の病気は感染する物では無いようだけど……。
そんな事を考えていたγ3に、豚が予想外の事を告げる。
「γ3、お前は良いオモチャだった……。だが、感染しないとは言え、病気に掛かっているお前を使う気はしない。だが、ただ捨てるには勿体無いからな。お前には偵察をして貰おうか」
「――偵察ですか……?」
「ああ。どうも南西の森の奥に癒しの魔術を使える、スケルトンが居ると言う噂があってな。お前には、そのスケルトンの存在を確かめて来てもらう。一目見る事が出来れば、お前は自由だ」
「自由……!?」
γ3の濁った瞳に、僅かな希望の光が宿る。
豚と執事が嘲るような視線を、彼女に向けていたとも知らずに……。
「出発は明日の朝だ。今日はしっかり寝て、英気を養え」
「はい!!」
豚の部屋を後にしたγ3は、執事に付いて地下牢でも前の詰め込み部屋でも無い個室に来ていた。
γ3は初めてベットがある部屋を使って良いと言われ、戸惑いながらもベットの上で熟睡する事が出来た……。
明くる朝、γ3は再び豚の部屋に呼び出された。
豚の部屋には豚と執事の他に、ローブを羽織りフードで顔が殆ど見えない人物が居た。
「来たか」
「貴女が私の魔術の対象者ね?」
怪しい見た目に反して、若い女性の声がγ3へと向けられる。
「対象者?」
「ああ、今からお前の目に細工をする。そうすれば、お前がスケルトンを一目見れば、私に情報が伝わるようになる。ここへ戻って報告する必要は無くなる」
「あ、あのっ! その場合、この首輪はどうなるのでしょうか?」
γ3が自分の首に付いている首輪を持ちながら、豚に対してそう尋ねる。
「ん? ああ、それならスケルトンを見る事が出来れば、自動的に外れるように彼女がしてくれるさ」
「良かった……。分かりました。魔術師様、私に魔術を掛けてください!!」
「ええ、私に任せておきなさい!」
フードから見える、魔術師の口許がニヤリと歪む。
その後、γ3に対して早速仕掛けを施す事になった。
「では、いきます」
魔術師の女が呪文を唱え始める。
――深淵の探求者たる我が命じる。
――万里を見通す目を、彼の者に与えよ。
――血は契約、血は呪い。
――血によってそれは成される。
「付与魔術、”ブラッドアイ”!!」
魔術師が唱え終わって直ぐにγ3の目に光が集まり始め、光が終息したそこには血のように赤黒い瞳があった。
「終わりました」
「は、はい……」
γ3は驚いた。何故なら先程までボヤけてしか見えなかった光景が、今はハッキリと見えるからである。
「良いみたいですね。では行きましょうか」
豚と執事はそのまま残り、γ3と魔術師は街の西門外まで移動した。
「では、γ3さん? 頑張って偵察して来てくださいね?」
「はい!!」
γ3は手を振る魔術師に見送られながら、南西側一帯を覆うような森に向かって歩を進めていった。
◇ ◇ ◇
γ3は、この辺りの地理に疎い。
だからこそ、こんな無謀な賭けに乗った訳だが……。
そもそも、西門を抜けた先に広がるのは、広大な荒野と草原だ。
此処は、動物や弱い魔物の棲み家になっている。動物なら蜥蜴やウサギ、魔物であればアースウルフやゴブリン、オーク等が主に生息している。
その先に在るのが、魔の森と呼ばれるγ3の目的の森だ。
此処には動物も勿論生息しているのだが、魔物が異常に強い事で有名なのだ。主な魔物はオーガやジャイアントグリズリー、ツインコブラ等になる。
これ等の魔物は身体が大きく、脅威度的にもかなりの上位に食い込む魔物達だ。
具体的に言えば、兵士三十人から百人程で対処する必要がある魔物なのである。
では、少女一人が装備無しにこの森に入るのはどう言う意味を持つか?
答えは、単なる自殺である。
そもそも、手前の荒野や草原さえ自殺行為であるのに、魔の森に入って無事に済む筈がないのだ。
(マズイかな……? 此処は魔物の棲み家だったみたい……)
γ3が今居るのは荒野だ。大きな岩が所々あるため隠れる場所には困らないが、逆に魔物が隠れている可能性もあり危険である。
(慎重に行かないと! あそこから逃れるにはこれしか無いんだから!!)
そうγ3は自分に言い聞かせる。
その後も彼女は上手く岩に隠れながら魔物を遣り過ごし、運良く数日掛けて荒野を抜ける事が出来た。
(何処に隠れたら良いんだろう……?)
次の草原は、岩などの背が大きい遮蔽物が見当たらない。唯一隠れることが出来そうなのは、γ3の胸辺りまで長く伸びた草花だった。
γ3は仕方無いと思いながら、草花を磨り潰して出た汁を自分の身体に擦り付けた後、ゆっくりと匍匐移動を始めた。
匍匐移動を開始して暫く経った時、遠くの草花が少し揺れた。
(マズイ! 魔物!?)
姿勢を更に低くして、息を潜めるγ3……。
何かの移動音は、段々と彼女の元へと近付いてくる。
(マズイ! マズイ!! お願い、そのまま通り過ぎて!!!)
その願いが通じたのか、草花を揺らす何かはγ3のすぐ側を通って離れて行った。
(助かった……)
γ3は気が抜き掛けたが、気を緩めても良い状況でも無かった為、すぐに気を引き締め直した。
先程と同じ様に匍匐の姿勢を更に低くしながら、出来るだけ何も通ってない箇所を選んで進む。
少しでも音がしたら、即座に止まって遣り過ごす。
そして、音が通り過ぎたら移動の再開だ。
何度同じ事を繰り返しただろうか?
辺りはすっかり暗くなり、γ3の姿も殆ど見えなくなっていた。
今日は此処らへんで夜営かな?
本当は、洞窟でも在ったら嬉しいんだけど無理だよね。
γ3は仕方ないと思いながら、草原の一画に身を埋める。
草の汁を改めて全身に執拗に擦り付け、毒が無い事を知っている雑草を食べてから休む事にした。
γ3の事覚えていたでしょうか?
彼女の話は今回数話続くと思います。




