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北の最高権力者

少し短めです。

「おい、何処に行く!?」


 広場を後にした三人だったが、途中でサリアが我慢出来ずに行き先をセゥアルに尋ねた。

 だが、その言葉を無視するようにセゥアルが話し始める。


「王子様、アンタがどう言う人物かは大体掴めた。俺はアンタになら力を貸しても良いと思った」

「そりゃどうも。だが、先程の打ち合いで何が分かると言うんだ?」

「そりゃ色々さ。色々――」


 そう言うと、再び黙り込むセゥアル。

 後ろでサリアが煩く尋ねているが、セゥアルは完全に無視である。


 そのまま暫く歩くと、三人の前に大きな建物が現れた。

 その建物は非常に豪華なのだが、所々剣で打ち据えた様な跡や血痕が残っており、破壊された様に穴が開いてる箇所もあった。

 その姿は、此処で何があったのかを如実(にょじつ)に語っていた。


「これは一体……」

「お望み通り、俺達の最高権力者に会わせてやるよ」

「此処に誰が居ると言うのだ?」


 サリアの言葉を再び無視して、セゥアルは館の中へと足を踏み入れた。

 館の中はシーンとしており、人の気配が殆ど感じられなかった。

 たまにメイドらしき人物とすれ違うのだが、いずれも幼い少女で作法などが全く出来ていない。


 ラヴァン達はそんな光景を見て館の当主に疑問を持つが、セゥアルは何も言わずに歩き続けた。

 本来メイドとは館の品格を示す物で、通常は見習いメイドは客の目の付かない場所に配置し、客の目に入る場所に配置するのは実力がある老メイドである筈だ。

 だが、此処に配置されているメイド達はいずれも年端の行かない少女達。どう考えても実力が足りておらず、客の目に触れさせる存在では無い筈なのだ。


「この館の主はどうなっているんだ! まさか、ただの変態ではあるまいな!?」


 ラヴァンの感じていながら口に出さなかった疑問を、サリアは堂々と口にしていた。

 本来なら怒っても良いような物言いにも、セゥアルは何も返さずに淡々と歩き続ける。


 そんなセゥアルを見ながら、ラヴァンは館に関しての考えを巡らせる。

 確かにサリアの言う通り、この館はおかしい。

 会うメイドに高い年齢層が居ないのは、そもそも高い年齢のメイドが居ないと言う可能性が濃厚だ。

 もし、幼い少女のみしかメイド居ないのであれば、サリアの言う変態だと言う指摘も有り得る。

 事実、南の貴族の一部にはそう言う輩が居るのだから……。


 だが不思議なのは、今の所メイド達からは悲観している感じは見受けられず、なんと言うか胸を張って職務に従事している様に見えるのだ。

 南の貴族の場合又聞きではあるが、そこで働く少女達の目はまるで死んでいるかの様に見えたと聞いた。

 だが、此処のメイドは違う。ならば考えられるのは――。


「よう。お客人を連れて来たぜ?」


 ラヴァンの考えを遮る様に、セゥアルが目の前の扉を乱暴に開いた。


「おい、おっちゃん! アタシは女の子だぞ!? ノックくらいしろよ! 着替えでもしてたらどうするんだ!!」

「はんっ! いっちょ前に色気付いて来やがったか? 小娘の着替えなんて、見ても楽しくも何ともねえっつうの!」

「あんだと!?」


 開かれた部屋の主が、セゥアルに食って掛かる。

 その主はツインテールに纏めた、世にも珍しい透き通る様な赤色の髪をしていた。

 年の頃は恐らくラヴァンよりは年下で、十五か十六歳程に見える。

 身長はあまり高くは無い七千六百ルアナレイ――百五十センチくらい――くらいで、瞳は濁った様なオッドアイになっており左が青で右が黄色だった。


 そんな彼女の強い意志を示す瞳がラヴァンを捉えた。


「お前がおっちゃんの言っていた客人か? 取り敢えず入ってくれ!」


 彼女は椅子に座ったままラ、ヴァン達をぞんざいに手招きする。ラヴァン達はそれに従って部屋へと入り扉を閉めた。

 全員が入った事を見届けると、部屋の主が机に肘を突いた状態でラヴァン達に向かって声を掛ける。


「それで、アタシに何の用だ?」

「えーと?」


 そもそも此処に連れて来られた意味も分からなかったラヴァンが、困惑しながらセゥアルを見る。

 それに対してセゥアルが説明をしようとした。


「リエル、コイツは南の王子――」


 ヒュン!


「え?」


 だがセゥアルが言い切る前に、リエルと呼ばれた部屋の主が動く。

 その速度は尋常では無く、気付いた時にはラヴァンの首にリエルの槍が突き付けられていた。


「てめえが南の王子か!! 良くもアタシの前に顔を出せた物だな!?」

「殿下を、はな――」

「動くな!!」


 槍を首に突き付けられたラヴァンを案じてサリアが動こうとするが、リエルに一睨みされただけで腰が抜けてその場に座り込んでしまった。

 それは彼女から溢れ出る、濃厚な殺気が原因だ。

 先程の広場の殺気を量とするならば、今回の殺気は質だと言える程に濃厚な殺気が辺りに撒き散らされていた。


「おい、おっちゃん! 何でこんな奴を連れて来た!? 返答次第じゃ、おっちゃんと言えども容赦しねえぞ?」

「まあ、待てリエル」

「あ、あの、この子は一体……」

「あぁん!? アタシを知らねえってか!?」

「し、知らない……。私はリエルと言う名前に、心当たりは無いんだ……」


 ラヴァンが身体を硬直させながら、恐る恐る彼女の質問に答えた。

 それに割って入る様に、セゥアルがリエルに指摘をする。


「はぁ……。リエル、お前まだ姓を名乗って無いだろ?」

「ちっ! アタシの名前はリエル・グランスだ」

「グランスだと!? それは大罪人のヒエン・グランスの事か!?」


 リエルの姓を聞いたラヴァンは、驚いて思わず言葉を漏らしてしまう。

 だが、零した言葉は最悪だった。


「てめぇ……、今何と言った……? 親父が大罪人だと……!?」

「あ、まず……」


 リエルが怒りに染まり切る前に、セゥアルが腰の剣でリエルの槍を弾いた。

 武器を弾かれたリエルは、鬼の形相でセゥアルを睨んだ。


「おっちゃん、何しやがる!!」

「まぁ待て待て……。お前、そのままだとアイツ殺してただろ?」

「当たり前だ!! よりによって親父を大罪人呼ばわりしたんだぞ!?」


 今のリエルから漏れ出る殺気は、先程の比では無い。

 余りにも強過ぎて、直接向けられている訳でも無いのに、ラヴァンは膝を付いてしまう。


「だから待てと言っている。おい、アンタ! ヒエン・グランスが大罪人だと何故思う?」

「ち、違うのか? 歴史の講師にそう習ったのだが……」

「やっぱりな」

「ちっ! 南の奴等、洗脳してやがるのかよ!!!」


 ラヴァンの答えを聞いたリエルは、やや殺気を弱めた。

 殺気が弱まった事により、やっとまともに空気が吸えたのかラヴァンとサリアが息を荒げていた。

 そんなラヴァンに、セゥアルが続けて質問をする。


「なら、もう一つ質問だ。鬼神と言う単語に聞き覚えはあるか?」

「あ、あぁ勿論だ……。救国の英雄だろ? 過去の戦争にて敵国の重要拠点を奪えたのは、彼のお陰だと言う話だ。彼はその戦争で殉職したと聞いている」

「くく……、くはははは!! ヒエン・グランスが大罪人で、鬼神が救国の英雄か!? 馬鹿が!! てめえの言っている両人は同一人物だ!!」

「え……?」

「おっちゃん、この馬鹿に説明してくれ!」

「はぁ……、あいよ……」


 セゥアルはリエルの言葉を受けて、淡々と説明し始める。

 それは、この国が分裂する前の事。北と共に歩んできた、一人の偉大な男の物語だ――。


さて、また新しい人物が登場しましたね。

リエル・グランス。北の最高権力者とセゥアルが言った人物です。


次の話では、この娘とヒエン・グランスと言う人物の過去編に入る予定です。

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