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北の村

ストーリー部分とは言え、今回はほのぼの回です。

「殿下、クヤナ公爵様は大丈夫でしょうか?」

「心配か?」

「はい……。我が国は陛下の支配力が強いです。クヤナ公爵様と言えども、余りに勝手をしていると捕らえられるのでは?」

「そこはクヤナ公の腕を信頼しておこう。どちらにしろ、私達に出来るのはなるべく早く北の協力を得る事だけだからな」


 馬に乗った彼等は、朝日も出てない街道を全速力で飛ばす。

 向かうのは、北の纏め役が居ると言われている北の中心街だ。


 この国の南は王族が支配しており、全ては階級制になっている。

 一方の北は王族や貴族は全くおらず、評議会と呼ばれる存在が全てを決定しているらしい。

 ただ、その決定も最終判断は国民が行うらしく、民主政治と言う物を掲げているのだと聞く。

 そもそも北と南が別れたのには、恨みもあるだろうが政治に関わる青い血の有無も関係しているのではないだろうか?

 南において政治に関わる事が出来るのは、青い血の持ち主だけである。だが、北にはそもそも青い血が無い。

 もしもこの二つが再び一緒になった場合、北側には全く決定権が無くなる可能性すらあったのだ。恐らく、この事も気にして統合しなかったのではとラヴァンは思っていた。


 そんな事を考えながら移動していると、サリアが声を掛けてきた。


「殿下、少し休憩致しましょう」

「分かった」


 ラヴァンとサリアは馬の速度を緩めると、背の高い木の幹に手綱を括り付けた。

 馬に対して餌と水をやると、サリアは自分達の朝ご飯の準備を始める。

 とは言え、移動中にそこまで良い物を食べれる訳もなく、ご飯として出されたのは石の様な硬さを誇る黒パンと塩っ辛い干し肉だけだ。


「殿下、貧相なお食事で申し訳ありません」

「構わん。今がそんな事を言っている時で無い事くらい理解している」


 そう言ってラヴァンは石の様な硬さの黒パンを食い千切ると、干し肉と一緒に水で流し込み始めた。


「うむ、不味いな」

「申し訳ありません……」

「別にサリアを責めている訳では無い。久々に食したにも関わらず、相変わらずの不味さに驚いていただけだ」


 移動中の食事としてはスタンダードだが、この食事は旅をしている者達のほぼ全員から嫌われている食べ物である。

 まあ硬いだけの風味が飛んだパンと、塩っ辛いだけの干し肉を好きと言える猛者は中々居ないだろうが……。


 ラヴァンとサリアは黒パンと干し肉を全て流し込みと、少しだけ休憩した後に再び馬で北へと走り出した。


「殿下、そろそろ村が見えて来る頃です。今夜はその村に泊まらせて頂きましょう」

「分かった」


 サリアが言った通り前方に村が見えて来た為、二人は馬を降りて村へと寄る事にした。


「すいません!」

「はいはい。何でしょうか?」


 サリアは畑仕事をしていた、中年の女性に対して話し掛ける。


 その村はお世辞にも大きな村とは言えなかった。

 中年の女性が世話をしている畑は小さく、周りにある畑も同じように小さかった。

 それらを申し訳程度に細い木で編んだ柵が取り囲んでおり、中心には数軒の家が連なっていた。


「今夜、此方に泊めさせて頂く事は可能ですか?」

「あんた達旅人かい?」

「はい。出来れば、食料と水の補給もさせて頂ければ嬉しいのですが」

「あたしじゃ判断出来ないねぇ。ちょっと待ってなさいな。村長に聞いてくるから」


 中年の女性はそう言うと、村の中央に位置するやや大きめな家へと入って行った。


「殿――」

「ラヴァンだ」

「失礼しました。ラヴァン様」


 サリアがラヴァンの事を殿下と呼ぼうとすると、すかさずラヴァンが訂正した。

 これは村に入る前に決めていた事で、貴族に見られるなら兎も角、王族とバレると厄介だろうとの判断から呼び方を変えたのだった。


「それで、どうした?」

「申し訳ありませんがラヴァン様に相応しい寝所を、用意する事は難しそうだなと思いまして。ご容赦の程をお願い致します」

「構わん。これくらい当然だ」


 二人が村の中をゆっくりと進んでいると、彼等を見付けた村人達が寄って来た。

 その中の子供達が、二人に対して質問し始める。


「お兄ちゃん達だぁれ?」

「お姉ちゃん、それ本物の剣か!? かっけぇー!! 俺にも触らせてくれよ!!」


 二人がどう答えようか悩んでいると、ラヴァンの右手の袖口が濡れた様な感覚に見舞われた。

 ラヴァンが疑問に思って、袖口の方へと視線を向けると――。


「んむあー」


 変な声を上げながら、彼の袖口を口に含んだ幼子が居た。


「なっ!? 無礼者! この御方をどなたと心得る!!」

「むまぁ?」


 その声に反応したのか、幼子は口を開いて袖口を吐き出した。そして袖口と幼子の間にはヨダレの橋が一瞬架かり、直ぐに切れて落下した。


「き、貴様!! ラヴァン様のお召し物を……!?」

「良い、サリア。相手は子供だぞ?」

「はっ……」


 今にも飛び掛からんばかりのサリアを抑えて、ラヴァンは幼子の目線に合わせる様に腰を屈めた。


「良いかい? これは私の服であって、君の食べ物では無いんだよ?」


 そして、指を一本立てて幼子に諭す様に語り掛ける。

 その語り口は優しく、彼の優しさが感じられるようだった。


「あうぅ?」

「だから、もう口に含んじゃ……」

「あむ……」


 更にラヴァンが語り掛けていると、幼子は何を思ったかラヴァンが立てていた指を口の中に含んだ。


「なっ……、なっ……」


 それを見ていたサリアが悲鳴にならない悲鳴を上げる。


「――温いな……」


 一方のラヴァンは何とも言えない表情でそう感想を口にした。

 そんなラヴァンの指をしゃぶっている幼子は、モゴモゴと口を動かしつつご満悦な表情をしていた。


「ぶはははっ!! に、兄ちゃん最高だな!!」


 その光景を見ていた男の子が、堪えきれずに大声を上げて笑い出した。

 それに釣られた様に、周囲の子供達が笑い出す。

 その事と先程の幼子の奇行にサリアが顔を真っ赤にしながら、怒鳴りだそうとした時に先程の中年女性が帰って来た。


「おやまあ、あんたこの子に気に入られたのかい?」

「いや、私は……。それよりも、この子をどうにかして欲しいのだが?」

「おや、済まないねぇ……。こら、お前さんもいつまでもお客様の指をしゃぶっているんじゃないよ!」


 中年女性は幼子を抱きかかえると、ラヴァンの指から口を離させる。

 すると、スポッと言う音と共に指から口が離れ、再びヨダレの橋が架かった。


「んまうっ!!」


 幼子はおしゃぶりを外されて、ご機嫌斜めやようだ。


「ラ、ラヴァン様……。此方をお使い下さい」


 サリアは懐からハンカチを出すと、ラヴァンに渡そうとする。


「いや……。ご婦人、井戸を使わせて貰えないだろうか?」

「ああ、良いよ。こっちだよ」


 ラヴァンはサリアのハンカチを断ると、井戸を使わせて貰えないかと尋ねる。

 中年女性は暴れる幼子を抱きかかえながら、井戸へとラヴァンとサリアを案内した。

 その後をゾロゾロと子供達が付いて来る姿は、カルガモの様だった。


「ここだよ」


 井戸に着くと、サリアが井戸から水を汲み上げる。

 サリアは汲み上げた水を使って、ラヴァンが袖口と指を丁寧に洗う。

 その結果ヨダレは取れたが、袖口はビショビショになってしまった。


「すいません、ラヴァン様……」

「いや構わないさ」


 サリアが謝ると、ラヴァンが苦笑しながら構わないと言う。


「済まないねぇ。その代わりと言っちゃなんだが、食料を売る事の許可は出たよ。二人分くらいなら構わないとさ。後、村長の家なら泊めるのも問題無いとさ」

「それは助かる! ご婦人、感謝する!!」

「――感謝します」


 ラヴァンはとても有り難いと言った感じに感謝をしていたが、サリアの方は仕方無しと言った感じに感謝を述べた。


 その後は特に問題無く、ラヴァン達は村長宅へと泊まる事が出来た。

 先ほどの指をしゃぶった幼子はどうやら村長の息子だったらしく、村長宅に泊まる事になったラヴァンにスキあらばパクつこうとしていた。

 そしてその次の日の朝、ラヴァン達は村を発とうとしていた。

 見送りは村長夫妻とその息子の幼子と、中年の女性に子供達である。

 他の人は既に仕事をしているらしいので、見送りには来ていない。


 そんな中幼子はラヴァンを見ながら、不満の声を上げていた。

 どうやらラヴァンが離れて行くのが、不満のようだ。


「ははは、息子に気に入られたようですな?」

「まうあぁ」


 そんな幼子の彼は父親の腕に抱えられながら、ラヴァンに突撃しようと暴れていた。

 それを見ながらラヴァンは苦笑しながら、別れの挨拶を述べる。


「一晩泊めて頂き感謝する。それに食料と水までも……。サリア、あれを」

「はっ! 村長、これを……」

「これは……!? こんなに頂けません! 宿と食料分は既に貰ってますよ!?」

「無論分かっている。それはチップと言うやつだな。今回は楽しませてもらったから、そのお礼だと思ってもらえれば良い」

「ラヴァン様……。分かりました。ありがたく受け取らせて頂きます……」


 その村長の手の中には、大陸共通硬貨の金貨が握られていた……。

 それを受け取った村長の口調が少し違って聞こえたのは、感謝からだろうか……?


「では、私達はそろそろ行く。君も大人達に迷惑ばかり掛けるんじゃないぞ?」

「うまぅー!」

「良い返事だ」


 幼子に注意をしたラヴァンは馬に騎乗する。

 サリアも同じく騎乗を終えた。


「ではな」

「失礼します」

「ありがとうございました!」「まうぁー!!」「兄ちゃん達バイバイ!」「さようなら~!」


 そしてそんな彼等と挨拶を済ませて別れたラヴァン達は、再び馬を走らせ北上して行く。

 向かう先はまだまだ先だ。今回の事は束の間の心の休息となった事だろう。


 この先に何が待ち受けているかを、彼等は知る事が出来ない。

 だが、それでも北へと向かうだろう。それがラヴァンの意思なのだから……。

幼子はヨチヨチ歩きのチビっ子です。

一歳半までの赤ちゃんを想像して貰えれば良いと思います。


次は、また新キャラ登場の予定です。多分……。

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