旅立ち
多分、ここからノンストップでメインストーリーばかりが進んで行くと思います。
その関係上、少し文字数が減る状態が続くかも知れません。
「殿下、ついに動くそうです……」
「そうか……。結局私の声を聞いては下さらなかったな……」
豪奢だが小ぢんまりと部屋で、部屋の主が溜息を付く。
「殿下のお考えは間違っておりません! 陛下のお考えがおかしいのです!!」
下手したら国家転覆罪になりそうな言葉を、部屋の主である殿下に報告をした女が口にする。
「サリア、滅多な事を言うもんじゃないよ?」
「――失礼しました」
殿下に注意された女――サリア――は、謝罪をするが不満がありありと顔に出ていた。
その姿に苦笑しながら、殿下は言葉を続ける。
「まあ、サリアの言い分も分からないでは無いけどね? 私も今回の決定には、不満を持っているし……」
殿下と呼ばれている男の年齢は十八くらいだろうか? この世界であれば、成人を迎えて数年したくらいの年齢だ。
髪は見事な金色であり、この国の王を彷彿とさせる。
そんな色の髪は王程に長い訳ではなく、男にしてはやや長めだろうかと言った程度だ。
「でしたらっ……!!」
「でも、駄目だよ? 私達には力が無い。無策に飛び込めば父上に粛清されるだけだ」
「くっ……」
サリアと呼ばれている女性は、殿下よりも少し年上に見える。
やや青っぽい金色の髪を肩下まで伸ばし、銀色に輝く鎧に身を包んでいた。
彼女が身動きする度に、鎧がガチャガチャと音を鳴らす。
その音は彼女の不満を代弁している様だった。
「まあ、待てサリア。私もただ手を拱いているだけのつもりは無い」
「何か策が?」
「ああ、北と組む予定だ」
「それは……」
サリア再びが苦い顔をする。
殿下が言った北とは、この国の北部を指す。
同じ国ではあるのだが、考え方が違い過ぎて内部分裂を起こしていたらしい。また、南が北へと行った粛清に対して大反発を起こし、北からは激しく憎まれていると殿下やサリアは習っていた。
だから外側からは同じ国として見られているのだが、内部では北ヴィルトヘルトと南ヴィルトヘルトと呼ばれていたのだ。
「難しい事は分かっている。だが、此度の戦争は嫌な予感がするのだ」
「嫌な予感ですか……?」
彼は数年周期で行われる小競り合いとは違い、今回の戦争に対して抑えようの無い違和感を感じていた。
それが何かを言葉にする事は難しい。だが、その違和感について考えていると、言いようのない焦燥感に襲われるのである。
「ああ、それが何なのかは分からん。だが、今回だけは駄目な気がするのだ」
「殿下はその嫌な予感を回避する為に、北と組むと仰るのですか?」
「ああ、そうだ。それとサリア、クヤナ公と話がしたい。連絡を取ってくれないか?」
殿下の言葉にサリアが黙り込む。
そして、暫く無言を貫いたかと思うと、顔を上げて殿下に言った。
「分かりました。殿下がそう言うのであれば私は従います。クヤナ公爵様とは直接会ってお話しされますか?」
「ああ、頼む」
「畏まりました」
それから数日後、殿下はサリアと共にクヤナ公爵と会っていた。
クヤナ公爵は初老に差し掛かった男性で、白髪混じりの髪の毛をポニーテールの様に縛っていた。
そして彼の一番の特徴は、ガラス玉の様な見た目をした左目だ。
それは義眼であり、光を感じる事は出来ないが魔力を感じる事に秀でているらしい。
「どうぞ、お座り下さい」
「ああ」
クヤナが殿下に椅子を勧め、向かい合わせにクヤナが座った。
なお、サリアは定位置の殿下の後ろで立っていた。
「それでラヴァン殿下、貴方様が自らいらっしゃるとは何事ですかな?」
「クヤナ公、単刀直入に言う。私と組んで、此度の戦争を回避して貰えないか?」
殿下――ラヴァン――がクヤナに対して単刀直入に要件を言うと、クヤナは驚いたような顔をし、その後目を細めた。
「ほぅ……。それは、この国の第一王子としての言葉ですかな? それとも……?」
「私個人の言葉であり、この国を愛する第一王子としての言葉でもある」
その返答にクヤナは、ニヤニヤと笑いながら続けて問う。
「ほぅほぅ……。では、その理由をお聞かせ願えますかな?」
その言葉にラヴァンはクヤナに、今回の戦争への違和感の説明をする。
それを聞いたクヤナは荒唐無稽と一笑に付すどころか、ニヤニヤと笑みを深めながら更にラヴァンへ問い掛ける。
「それはそれは興味深いですなぁ。それで、殿下はその違和感に従って戦争を止めよと仰るのですね?」
「そうだ」
「それはこの国にとって戦争が、経済を回す為に必要な物だと理解しての発言ですかな?」
戦争は経済を活性化する効果がある。
武器製造や食料を蓄える為に買占め。はたまた、兵士が酒屋や娼館で豪遊する事によるお金のばら撒き。
ある程度の規模の戦争に措いては、人材の損失も少なく非常に有益な経済活性化の手法であるのだ。
それがこの国においては、必須であると思われている程に顕著なのである。
「勿論だ! 私はそれでも戦争を回避するべきだと思っている。だからクヤナ公、私に力を貸してくれ!」
ラヴァンは椅子から立ち上がると、クヤナに対して頭を下げた。
「「殿下!?」」
これに驚いたのはクヤナだけでは無い。
サリアも目を見開いて驚いていた。
この国の第一王子の肩書は、それほどまでに重いのだ。
それを知っている筈なのに、ラヴァンは頭を下げた。それは即ち――。
「殿下、頭を上げてください。殿下の本気は分かりました。そこまで覚悟を決めているのであれば、私も覚悟を決めましょう」
クヤナが先程のニヤニヤした表情から、真剣な武人の顔になる。
その真剣な顔のまま、更に言葉を続ける。
「殿下、私が声掛けした所で此方に付いてくれるのは二割が良い所です。この数字では下手すれば反乱として討ち取られて終わりですよ?」
「勿論、分かっている。だから、北と手を組む」
「なっ!? 本気ですか!?」
「ああ、勿論だ」
そのあまりにもな提案に、クヤナは考え込みながら一時の間沈黙する。
そして、考えが纏まったのか顔を上げた。
「分かりました。詳しいお話をお聞きしましょう」
ラヴァンはクヤナに、今回の作戦を聞かせた。
その話し合いの次の日の早朝、街の外れにはサリアと一緒に馬に跨がるラヴァンの姿があった。
「殿下、お気を付けて」
「ああ、クヤナ公も無理はするなよ? これは私の我儘だからな」
その言葉にクヤナは苦笑しつつ、ラヴァン達を見送った。
ラヴァン達が見えなくなると、クヤナはふと空を見上げた。
その日の空は雲一つ無く、爽やかな秋風が吹いていた――。
キャラの名前が出すぎて、私自身が管理しきれなくなる未来が見えて来そうです……。
今回の新キャラの纏めです。
ラヴァン
この国の王である、スターク・ゼン・ヴィルトヘルトの息子である第一王子。
十八くらいの金髪王子様。
サリア
ラヴァン殿下の側近である、女性騎士。
ラヴァンよりも少し年上の見た目の青っぽい金色の髪と、銀色に輝く鎧を身に着けている。
クヤナ
公爵であり、武人である。白髪交じりの髪の毛をポニーテールにしていて、左目はガラス玉の様な義眼を嵌めている。




