姉と妹、その後は親友
ちょっと薄めの過去話です
セレナの我儘により、水玉部屋から帰って来て暫く経った頃。カケルはせっせと、次の花火の制作をしていた。
花火の打ち上げの後にカケルは、ある魔法を習得していた。まだ精度が悪く最高とは言い難いが、カケルにとって非常に有用な魔法だ。
その名はクリエイトメタル。名前の通りに金属を作るだけで無く、鉱物関連の無機物なら殆どを作る事が出来る魔法だ。
あの脈打ってる壁の部屋に取りに行く事なく材料を作り出す事が出来、あの部屋で取れなかった鉱物の生成にも成功したのだ。
カケルはその鉱物を使い、全ての焔色剤を作り出す事に成功し、火薬の燃焼速度を早める事にも成功していた。
そして今作っているのは、新しい火薬と焔色剤を使った新作である。
勿論前の打ち上げデータを考慮しながら、微調整も行っている。
「よし、出来た!」
「あら、カケルちゃん完成したの?」
「セレナ様、いい加減離して下さい」
今日カケルの隣に居るのは、ミミだけではなくセレナもである。
セレナが花火の制作を見たいと言ったから着いて来たのだが、途中から詰まらなくなったのかミミをぬいぐるみ代わりにモフモフと撫でていたようだ。
「うん、一つだけね」
「じゃあ、まだ掛かるの? お姉ちゃん飽きちゃったわ」
「セレ姉は帰っても大丈夫だよ?」
「酷いわ! カケルちゃんは、お姉ちゃんの事嫌いなの!?」
「いや、そうじゃないけど……」
カケルは心の中で、うわぁ面倒くさいなぁと思っていた。
毎回の事になりつつあるのだが、未だにカケルは彼女の事を上手く捌けてはいなかった。見た目は若いとは言え、彼女との年齢差は一万を越える。その事に考えが至ったカケルは、亀の甲より年の功ってとこかなと思った。
「カケルちゃん、今変な事考えていなかった……?」
「い、いや……?」
「そう……?」
『主様、動揺が丸分かりです……』
少し声を上擦らせながら、セレナに何とか返事をする。
どうやら、カケルの考えていた事がバレたらしい。ミミは呆れて何を呟いたが、幸い二人には聞こえなかったようだ。
「そ、そう言えばセレ姉! セレ姉はどうして、あの塔の上に居たの?」
カケルは話をずらしつつ、気になっていた事を聞いた。
しかし、暫く経っても回答は帰って来ず、不審に思ったカケルはセレナの方へと振り返った。
「…………」
カケルの目に映ったのは、苦しそうな表情をしながらミミを強く抱き締めていたセレナだった。
「セレ姉?」
「あぁ、ゴメンね? お姉ちゃんったら、少しぼうっとしちゃったわ!」
カケルに声を掛けられたセレナは、一瞬で表情を元に戻してカケルに笑い掛けるが、流石のカケルもアレを見て何でもない事だとは思わなかった。
「ゴメンねセレ姉……。話したくなかったら、別に言わなくても良いよ……?」
「カケルちゃん大袈裟よ! お姉ちゃんか塔の上に居たのは、夜空を毎日見たかったからよ? 別に話したくない理由なんか無いわよ」
「そっか……」
カケルの気遣いにセレナはそう答えるが、その言葉をそのまま受け取る事は無理がある。
それほどまでに明らかに誤魔化しが入っていたが、カケルにはそれを追求する事は出来なかった。
カケルは微妙な空気を払拭する様に、セレナに対して先の質問の代わりにキーリの事を訪ねてみる。
セレナは先の表情とは打って変わり、非常に楽しそうな表情をしながらキーリの事について語ってくれた。
(良かった……。セレ姉が元気になってくれて……。今後あの質問は厳禁かな……)
カケルはホッとしながらも、キーリの事を興味深く聞き始めた――。
◇ ◇ ◇
「セレナ、どうした?」
「キーリちゃん……」
キーリちゃんは仲間の中でも一番私を気に掛けてくれていて、私が寂しかったりするといつの間にか横に居てくれたの。
私はそんな風に声を掛けたキーリちゃんに対して、黙って抱き付いたわ。
「どうした? また怖くなったのか?」
「うん……」
あの頃の私達は、親友と言うよりも姉妹だったわ。
キーリちゃんがお姉ちゃんで私が妹。
しっかり者の姉と、泣き虫で寂しがりやの妹。そんな関係だったと思うわ。
え? 想像付かないって? カケルちゃん、お姉ちゃんだって幼い頃があったのよ?
あの時はまだ皆に馴染んでいない時で、お姉ちゃんの年齢だって千歳ちょっとだったんだから!
千歳なら十分大人?
人間ならそうかも知れないわね。でも、私達長寿の魔物は大体一万歳で大人なの。
そうね、人間に換算するなら千歳で一歳くらいかしら?
体は直ぐに成長するのだけれど、心の成長がゆっくりなのよ。
「全く、セレナは甘えん坊だな?」
「お姉ちゃん……」
キーリちゃんは苦笑しながら、私を優しく抱き締めてくれたわ。
そんなキーリちゃんの事を、私はたまにお姉ちゃんって呼んでいたのよ。
そう言う風に呼びながら、キーリちゃんの腕の中に居ると凄く心が落ち着くの。
他の仲間じゃ駄目だったのかって? 他の人はちょっとね……。
私達は私も入れて四人で行動していたんだけど、残り二人の内の片方は身分が高過ぎて恐縮しちゃうし、最後の一人は少し怖い男の人だったからね。
それに引き換えキーリちゃんは、なんだかんだ面倒見が良いし、とても優しかったから、私はいっつもキーリちゃんと一緒に居たわ。
他にもキーリちゃんのエピソードは一杯あるわよ。
キーリちゃんはとても優しくからね。
困った人が居ると、その都度助けて回っていたわ。
お蔭で移動に凄く時間が掛かっていたけど、私達は長寿種だからね。そこまで気にして無かったわね。
例えばどんな事をしたかって?
そうね……。例えばこんな事があったわ。
「キーリちゃん、あそこ!」
私が見つけたのは、魔物に襲われている人間の村だった。
「ふむ、あれフォレストクローラの群れか?」
「どうするの?」
「勿論助けるさ」
キーリちゃんはそう言うと、ドラゴン形態で村まで行くと芋虫達を薙ぎ払ったわ。
「お前達、怪我は無いか?」
「ば、化物……」
「止めてくれ! 殺さないでくれ!」
人間達には、先程よりも強力な魔物が村を蹂躪しに来たと映ったのでしょうね。
キーリちゃんにお礼を言うどころか、恐怖に駆られて攻撃し始めたのよ……。
それなのにキーリちゃんは反撃もせずに、私達の元に悲しそうに帰って来るのよ。
私は怒って、あの人間達に反撃しようって言ったわ!
でもキーリちゃんは、悲しそうに笑いながら駄目だって言うだけだった。
あの頃からかな? キーリちゃんが人間形態のままに、戦闘出来る様に訓練し始めたのは……。
多分、相手を怖がらせたく無かったんでしょうね。
でもキーリちゃんは不器用だからね。何回も人化が解けて、その度に人間から怖がられていたっけ……。
それでも頑なに人間形態での戦闘に拘り続けて、キーリちゃんは今の実力までに上り詰めたのよ。
何でそこまでして、人間を助けるのかって?
それは私も聞いた事があるわ。そしたら、キーリちゃんはただ約束したからと言って苦笑していたわ。
約束の内容? それは教えて貰えなかったわ。
キーリちゃんは、人間にだけに優しい訳でも無かったの。
会話が可能な種族なら、何でも助けたわ。
勿論、いきなり殺しに掛かって来るような種族は別よ? そんな種族まで助ける様な愚か者じゃないもの。
そんな風に旅をしてる内に、キーリちゃんと私の関係も変わっていったわ。
姉妹から親友に変わったのが、今のキーリちゃんとの関係なのよ。
◇ ◇ ◇
セレナが軽く息をつく。
「キーリって、昔からそんなに優しかったんだ……」
「その対応は、私からすれば甘過ぎるくらいですね」
「そうね。優しいと言うよりも、甘いと言えるでしょうね。でも、私はそんなキーリちゃんが大好きよ」
セレナはそう言い切った。
その言葉にはキーリへの深い愛情が存在していた。
「そっか……。ねぇ、セレ姉?」
「なーに?」
「今度はセレ姉の事教えてよ」
「あら、カケルちゃんはお姉ちゃんに興味津々かしら?」
何時も通りにセレナがカケルをからかってくる。
だが、先程までの話を聞いていたカケルは怯まなかった。
「うん。セレ姉に興味津々だよ? だから、セレ姉の事教えてくれないかな?」
「あら、情熱的ね? いいわ。少しだけお姉ちゃんの事を教えてあげる」
セレナはカケルの言葉に少し目を見開いて驚いた後、直ぐに何時も通りの態度で說明を始めた。
セレナは元々、吸血鬼の街で産まれたらしい。
彼女の両親はどちらも真祖で、彼女は突然変異によって産まれたユニーク種なのだとか。
ただ彼女はその特性故に、家族と別れる事になったらしい。その特性とは彼女の寿命の長さだと言う。
吸血鬼も人間からしたら長寿ではあるのだが、彼女の寿命はその十倍を優に超えるらしい。
具体的にどう言う風に別れたのかは聞けなかったが、彼女は家族と別れてから森を彷徨っていたらしい。
そんな彼女を拾ってくれたのが、キーリ達一行だったとセレナは言った。
そして、キーリ達の仲間になってからはずっと子供扱いされていたのだと言う。
仲間内から可愛がって貰ってはいたものの、彼女は子供扱いが不満だったとか。
その扱いは、それから一万年もの間続いた為、辟易してしまったとか何とか……。
だから、僕に対してお姉ちゃんぶっているのかとカケルは納得していた。
カケルからしたら少しウザいのだが、セレナからしたら念願の年上扱いな訳だ。
そんな話を聞いていたのだが、結局一番聞きたかった部分は何回か聞こうとしても躱されてしまった。
「カケルちゃん、お姉ちゃんはそんなに安い女じゃないわよ? お姉ちゃんの事をもっと知りたかったら、その気にさせてみなさい?」
「……」
セレナはそう言ってうふふと笑いながらカケルに対して流し目をするが、カケルからすればまたかよと言う感じだった。
煙に巻くとでも言うのだろうか? セレナはどうもそう言う言動が多い気がするのだ。
他の人達が完全にオープンと言う訳でも無いのだが、彼女の場合どうでも良さそうな部分でもはぐらかす事が多いとカケルには感じられていた。
その後は益体も無い会話をしながら、カケルは花火球の生成に力を注いでいった。




