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水玉部屋と空飛ぶ魚

 それはセレナの一言から始まった。


「私だけ食べ物が貧相なの!!」

「そんな事言われても……。セレ姉お肉食べないじゃん?」


 セレナの食生活は他の仲間達と決定的な事が違った。

 彼女は菜食主義者だったのだ。

 いや、正確には菜食主義と言うよりも肉が駄目と言う感じだろうか?


 そもそも天空塔の上で何を食べていたのだとカケルが聞くと、どうやら何も食べていなかったらしいのだ。

 彼女は光合成を出来るらしく、普通に過ごす分には何も食べる必要が無いとの事。

 食べるにしても出来れば野菜や果物が良いらしく、特に血の滴る様なステーキを毛嫌いしていた。

 だが一方でキーリ達の食事は肉をメインに使う事が多い為、自動的にセレナの食事は他の人と別に作る事となる。

 その理由から料理のグレードに差が出ていたのだが、セレナがそれは不公平だと言ったのだ。


 彼女が肉を食べればそれで良い筈なのだが、セレナの肉嫌いは度を超えており、肉を食べるくらいなら何も食べないわとカケルに言い返してきたのだ。

 流石にそこまで嫌う物を食べさせる訳にもいかず、かと言って彼女の言い分を無視していると非常に煩い為、肉に代わりの料理を探しに来たのだ。

 幸いにしても彼女は、肉は駄目だが魚は良いらしく、今回は魚介類と海藻類を集める為にカケルとミミとキーリの三人で採取に来ていた。


 その張本人であるセレナともう一人のツィードが来てないのは、ライトフェアリー達の面倒を見ているからだ。

 魚介類を取りに行くと言う事は、水場に行くと言う事だ。

 それに対してツィードは……。


「水場? ワイはあまり濡れるのは好きじゃないんや。今回は大人しくしとるで」

「確かに、不得意そうだね」


 そうツィードが断ったので、カケルはツィードのフワフワの毛に目を向けてから、納得した様に頷いた。

 一方のセレナは……。


「水場? もうっ! カケルちゃんのエッチ!! お姉ちゃんの服を濡らして何するつもりなの?」

「いえ、何もしません」


 と(のたま)っていた。ツィードはまあ良いだろう。

 アメンボじゃないんだから、水が好きじゃないと言ってもおかしくない。


 問題はセレナだ。そもそも白いワンピースモドキを着てるから、透ける透けないの話が出てくるのだ。

 他の服を作れば、それこそ前に作ってくれた服であれば、そんな事を気にする必要は無いのにとカケルは思う。

 雪山での服作りの後、寒そうだったセレナを見ていたカケルは、その事をセレナに言ってみた事があるのだ。

 すると……。


「お姉ちゃんに耳と尻尾を付けたいの? もう、カケルちゃんのおませさん!」


 と言われて、イラッとした事があるのだ。

 それ以降カケルは、セレナの言は言葉半分で受け止めるようにしている。

 最初こそ彼女の容姿と言動にドギマギしていたのだが、この頃スルースキルが上がって来ており、大抵の事は受け流せるようになっていた。

 そんな事をカケルが思い出していると、どうやら目的地に着いたらしい。


「カケル着いたぞ」

「――ここが水玉部屋?」

「ああ、そうだ」


 キーリの案内の元辿り着いた部屋の中は、とても不思議な空間だった。

 部屋自体には特に変わった所はなく、食事部屋等の洞窟の雰囲気が残ったままの見た目だった。

 空中に浮かぶ存在が無ければだが……。

 直径が数十メートルはありそうな水玉が、何個も空中に浮いているのだ。

 しかも、水玉の中には魚と思わしき生物が自由に泳いでおり、水玉から水玉へと移動する様子も見てとれた。

 時折水玉への移動に失敗して、地上に落ちる者も居るのだが、ピチピチ跳ねながら地上に接している水玉に戻って行った。

 また、魚だけでなく珊瑚のような物も漂っており、岩を含んだ水玉なんかもあったりした。

 この部屋の広さは幅と奥行きが三百ナレイ程――六百メートル程――だが、高さが他の部屋よりも圧倒的に高く、ミミの計測では三千ナレイ――六千メートル程――はあると言う。


「――うわぁ、凄い光景だね。あの水玉ってどうなってるんだろう? 何で落ちてこないのかな?」

「主様、ここはダンジョンです。確かに不思議な光景ですが、ただダンジョンが制御を行っているだけかと」

「そうなんだー。まあ魔法がある世界だし、当たり前の光景なのかな? でも凄いなぁ、是非とも写真に撮っておきたい光景だよ!」

「そこまで喜んで貰えると、私も連れてきた甲斐があったと言うものだ」


 カケル達の眼前では、天井付近から射し込む光に照らされて、水玉がキラキラ光って幻想的な光景が作り出されていた。


「主様見とれてないで、そろそろ魚を取りましょう」

「――うん、そうだね。キーリ、オススメの魚って何かある?」

「そうだな。あの筒みたいな魚は結構旨かったぞ?」


 キーリが指差す先に居たのは、正しく筒のような魚だった。

 長さは三ナレイ程の円柱のような見た目だが、円柱の中央には穴が向こうまで開いており、見た目は完全に土管であった。

 更に、穴の中には目や口らしきものが付いており、それが土管では無く生き物だと言う事を裏付けていた。


「……何か気持ち悪いんだけど?」

「見た目はアレだか味は保証するぞ?」

「分かったよ……。それじゃあ、”鑑定”っと……」


名前:なし

種族:筒魚

状態:正常

カルマ:-938

スキル:

魔法:水属性Lv4

称号:珍味、共生者、裏切り者

説明:筒上をしている魚型の魔物。筒の中に小魚を住まわせ、漏れ出る僅かな魔素を得る代わりに小魚を外敵から守る事で共生をする。

 但し小腹がすくとたまに小魚を食べる事もあり、裏切り者の称号が付きやすい種族でもある。

 表皮は硬質な革で覆われているが、身はコリコリとしており非常に美味なので、人間達からは珍味として親しまれている。


 なるほど、コリコリしていて美味しいのか。

 それは兎も角、称号にもあるけど、共生のフリして非常食に小魚を食べるって結構エグい魚だよね……。

 一応称号も見ておこうかな。


珍味:珍しい味や食感、香りを持ち一定以上食べ物として認識されると、種族全体に付く称号。


共生者:他の種族と助け合いながら共生する者に与えられる称号。共生関係にある者を守る際に自分の能力が僅かに上がる。


裏切り者:共生や協力関係にある者を自分の都合で裏切った者に与えられる称号。相手が信頼しているほど相手に与えるダメージにプラス補整される。


 珍味って称号も凄いけど、共生者なのに裏切り者の称号を持っているのがヤバイよね……。

 この種族全体として裏切り者が付きやすいらしいし、余り好きになれない種族だね。まあ、こちらからすれば単なる食材だし、細かい事ではあるのかもだけど……。

 問題なのは――。


「表皮が硬いのか、どうやって取ろう……」

「カケル、私がやろうか?」

「うーん、でも魔素稼ぎと魔法の練習に良い可能性はあるんだよね」


 カケルがマナドレインをする相手は、基本的に食料になる魔物が多い。

 前に雪山の部屋で、アイスゴーレムなどを相手に完全に使った事もあったが、あれは例外的な物である。


 さて、食料相手に対してマナドレインをする場合、完全に吸収することが出来ない。

 それは、マナドレインの吸収量が一定量を超えると、一気に対象の味が不味くなるからである。

 更に肉自体も縮んでいってしまう為に、カケルはある程度数を狩らないと魔素の量を確保出来ないのである。


「主様、どうしますか?」

「うーん、水の魔法を使ってみようかなと」

「水の魔法ですか」


 相手は水の中に居る。火の魔法は元より、風や土の魔法も効きづらいだろう。

 だが水の魔法なら材料は幾らでも確保可能だし、水刃を作れば只の物理攻撃だから効果がどうこうも無いだろう。


「うん、水魔法を使って、筒魚を斬ってみようかなと」

「斬るですか……。確かに悪くないかもですが、主様に斬れますか?」

「うーんどうだろう? とりあえずやってみるよ」


 カケルはそう言うと、筒魚に向かって魔法を唱える。


「筒魚を切り裂け、”ウォーターカッター”!!」


 筒魚が居る水玉内に魔法が作用し、水で作った刃が襲う。水刃は筒魚のヒレを切り飛ばしたが、筒を切り裂く事は出来なかった。


「うーん、失敗かぁ。属性レベルかイメージが足りないのかなぁ」

「主様、筒魚が来ますよ?」


 カケルの魔法に怒った筒魚は、水玉から水玉に次々に飛び移りながら、カケル達が立っている場所目掛けて突っ込んで来る。


「やばっ!」


 カケルは突っ込んで来た筒魚を避け、少し距離を取る。筒魚は考えなしに突っ込んで来たらしく、地面に落ちると片方のヒレが無いためうまく動けないらしい。

 ならばチャンスとばかりにカケルは魔法を唱える。


「”ウォーターカッター”! ”ウォーターカッター”!! ”ウォーターカッター”!!!」


 放った魔法は筒魚の残った胸ビレを切り取り、尾ビレの切断にも貢献した。


「とりあえず動けないようにはしたけど、これ水魔法だとまだ無理かなぁ」


 そう言いながらカケルは、筒魚を持ち上げて観察する。


「とりあえずもう一度やってみようかな。”ウォーターカッター”! ”ウォーターカッター”! ”ウォーターカッター”!!」


 先程のやり方で駄目ならと、同じ箇所に水刃を何回か叩き込む。

 すると、攻撃した箇所に切れ目が入って来たのを確認した。


「おぉ、カケルいけそうじゃないか!」

「うん、連続でいけば何とか切り落とせそうだよ」


 そう答えながら、カケルはウォーターカッターを連発する。

 追加で二十発くらい撃ち込むと、筒魚の半分まで切れ目が入った。

 そこから更に三十発くらい撃ち込んで、漸く筒魚は真っ二つになった。


「はぁ……、やっと二つに切れたよ。でも、魔力の消耗が激しくて割に合わないかもね」

「主様が狩る必要は無いんですよ?」

「そうだな、私達が代わるぞ?」

「マナドレインしてみて考えるよ。”マナドレイン”!」


 何時ものようにマナドレインで一割くらい吸い上げると、その体感でいつもの獲物と比較する。


「駄目だね。マナドレインでもそんなに吸えないや。次から筒魚はミミかキーリに頼んでも良いかな?」

「キーリ様、お願いしても良いですか」

「ああ任せろ!」


 そう言うや否や、キーリはドラゴン形態になって上空に飛んでいった。

 よし、気を取りなおして、良さそうな……獲物を……。


「キーリに他のオススメの食材聞くの忘れてた……」

「主様、主様! アレとかどうですか?」


 ミミが指した方向には、岩がもの凄い速さで泳いでいた……。

 ――いや、おかしい。岩が泳いでるって、もしかしてアイスゴーレムと同じゴーレム種か!?

 落ち着け、こう言う時こそ鑑定だよね。


「”鑑定”!!」


名前:なし

種族:マグロ

状態:正常

カルマ:+1200

スキル:高速突進

魔法:

称号:美味、魚の王様、暴走魚

説明:色々な料理に使える美味しい魚。岩のような肌と高速で移動する泳ぎは、巻き込んだ者を死傷させる威力を持つ。

 岩のような表皮を剥くと、身は筋肉質で引き締まり極上の食感と味をもたらしてくれるであろう。


高速突進:高速で相手に突っ込む体当たり。使用者によっては、非常に高い威力になる。


美味:極上の味を舌にもたらす存在に与えられる。


魚の王様:魚の中で脅威度が最も高い種族が持つ称号。


暴走魚:水の中を驚異的な速度で動き回り、周りに甚大な被害を与える魚の種族に与えられる称号。


「マジですか……。これマグロなんだ……?」

「主様、アレは地球に居たマグロとは別物と思った方が良いです! 同じ物だと思っていると死にますよ!!」


 うん、忠告ありがとう。でもアレを見て、普段食べていたマグロと同じに見るのは、無理があると思うんだ……。

 カケルの視線の先では、岩のようなマグロが、泳ぎながら本物の岩や珊瑚、筒魚などの魚も含めて破壊しまくっていた。


「ねぇミミ、僕筒魚を倒すのも結構キツかったんだけど、それを破壊しているアレは厳しいと思うんだけど……」

「大丈夫です。私が捕獲しておくので、マグロの口の中に火属性の魔法を撃ち込んでみて下さい」

「まあ、それなら……」

「では行きます。”ダークバインド”!」


 ミミが魔法を唱えると、彼女の影から真っ黒な手のような物――黒手とでも言うべきか――が二本出てきて、マグロに向かって凄い速さで伸びていく。


 マグロは攻撃に気付くと、体を上下左右に揺らしながら華麗に黒手をかわす。


 黒手は避けられた瞬間に方向転換をし、マグロを追い掛けた。

 だが、マグロの速さに追い付けず距離が開いていく。


 マグロが逃げ切るかと思いきや、マグロの正面に新たな黒手が現れた。


 いつの間にか、ミミの影から伸びる黒手は四本になっていた。


 マグロは驚いたような反応をしながら、急転換しながら下に移動する。


 それを狙ったかのように、新たな黒手ニ本が下から追い掛けてきた。


 ならばと黒手を何とかかわし、上を目指すものの新しい黒手がニ本上で待ち構えていた。


 何十回目の攻防だろうか、黒手の数は既に百を越えており、マグロが今まで避け続けた事に感心するカケル。

 だが、流石に限界なのか少し速度が落ちたような気がする。


 この後もマグロは魚の王様に恥じない動きを見せたが、黒手が丁度二百本になった際に捕まってしまった。

 一度捕まると、他の黒手が次々に押し寄せ、マグロを水玉の中から地面へと引きずり下ろす。


 マグロは引きずり下ろされ、何も出来ない状態になってなお、闘志に燃えるような目をミミに向けていた。


「さて主様。マグロの口を開くので、口に目掛けて魔法を撃ち込んでみて下さい」


 だが、ミミは何も気にせず黒手を使い、マグロの口を無理矢理抉じ開ける。


「さぁ主様、どうぞ!」

「いや、どうぞって……」


 カケルの目とマグロの目が合う。マグロの目は未だに闘志に満ちては居るが、少しの諦めと共に怒りが宿っているようにも見える。


(やりにくいよ! ミミと言う強者に負けたのは兎も角、僕が止めを刺すのが許さないみたいな意志がガンガン伝わってくるよ!!)


「主様、どうしましたか?」

「いやぁ……。何かこのマグロから伝わってくる意志が気になって、僕が倒して良いのかなって……」

「ああ、そんな事ですか。主様は元より卑劣漢なのですから、今さら気にしなくても良いかと思いますよ?」

「元より卑劣漢って何!?」

「何って……。主様が、嫌がる私を無理矢理……! うぅっ……」


 ミミが瞳を潤ませながら、言葉を詰まらせる。

 その言葉を理解出来たかは分からないが、マグロのカケルを見る目に軽蔑の色が増えた気がした。


「ちょっと、人聞きの悪い事言わないでよ!?」


 まあ無理矢理と言う言葉はある意味正しい。


 セレナは今回カケルに新しい食べ物を作らせる話の際、カケルの目の前にミミを差し出していた。

 そして一言好きにしても良いよと、カケルに言ったのである。今回の魚介料理の報酬はミミであったらしい。

 それに対して、セレナ様!? と驚くミミだったが、セレナを傷付けないように抜け出すのは難しいらしくジタバタとしてるだけで一向に抜け出せなかった。


 それを見ていたカケルは、花火の試し打ちの時の事を思い出していた。

 あの時は泣いていたから余裕が無かったけど、ミミの毛皮モフモフだったよなぁと……。

 カケルはフラフラと夢遊病の様にミミに近付くと、嫌がるミミをガッシリと掴んでモフり続けたのである。


 因みにその後のカケル曰く、全く獣臭くなく寧ろ良い香りがして、魅惑のモフモフ感だったらしい……。


「私があんなに止めて下さいって言ったのに、全身隈無(くまな)く撫で回してきて……」


 今回の件に関しては、カケルにも責任があると言わざるを得ない。

 そもそもセレナがカケルに対価を払うのだから、ミミを差し出すのは理不尽だし、その事に反論もせずにモフったカケルはセレナと同罪である。

 更に魅惑のモフモフに惑わされて、気付いたら三半刻もの間モフモフしていたのだから、言い訳が出来る立場でも無いだろう。


「何かさっきよりも酷くなってない!?」


 そしてマグロがカケルを見る目も、氷点下になっていた。


「はぁ……。主様、男は黙ってマグロを殺せば良いのですよ!」


 無茶苦茶だ!! と、言ったところで同じ事の繰返しであろう。

 カケルは覚悟を決めて、マグロの前に立つ。この話題から逃げる為に……。


「――分かったよ、ミミ……。マグロ安らかに眠れよ……」


 マグロが一瞬硬直して暴れだすが、開かされた口は閉じれないし、ましてやミミの拘束から逃れることなど出来やしない。


「”フレア”……」


 マグロの口目掛けて、小さな火の塊が飛んでいく。

 そして……。

 ゴウッと言う音と共に、マグロの頭が弾け飛び火柱が上がった。


「はぁ……、”マナドレイン”っと。――一応倒せたけど気持ちが良いものじゃないね」

「良いんですよ。食料なんですから。主様は考えすぎです!」

「そう言う物かな?」

「そう言う物ですよ」


 何はともあれ、カケル達はマグロをゲットした。後はキーリが数匹筒魚を取れれば十分な量であろう。


「ミミ、マグロは運んでもらえる?」

「はい勿論です」

「キーリはまだ狩ってるのかな?」

「――どうやら、丁度終わったみたいですよ?」


 上空へ顔を向けるとそこには、キーリが両手と尻尾に筒魚を合計五匹持って降りてくるところだった。


「キーリ! どうだった?」

「見ての通り大漁だぞ!」

「キーリ様、お疲れさまでした」

「ああ、そっちも終わったようだな?」

「はい、良い魚が手に入りました」

「それじゃあ帰るとするか?」

「うん、そうしようか」

「ああミミ、コイツらも入れておけるか?」

「はい、分かりました。入れておきますね」


 ミミはそう答えると、キーリから筒魚を受け取って虚空に入れた。

 筒魚を渡したキーリは、人の姿に戻るなりカケルとミミに向かって言い放った。


「それじゃあ、そろそろ帰るか?」

「あっ、ちょっと待って! 昆布と海苔も採っていくよ」


 その後、超が付くほど大きな昆布と、毬藻(まりも)状の海苔を大量に回収してから食事部屋に向かった。

 三人とも手を洗うと料理の開始だ。


「じゃあ料理しようか! 今日はキーリも手伝ってね?」

「ああ、何をすれば良い?」

「キーリは筒魚の皮を剥いてくれる?」

「任せろ!」

「ミミはマグロの岩肌を除去して、三枚におろして貰っても良いかな?」

「畏まりました」


 本日の料理は新鮮な魚が手に入ったので、刺身の盛り合わせといきたいところなのだ。

 だが、如何せん醤油が無いので泣く泣く断念する事になった。


 代わりに昆布が手に入ったので、昆布出汁を使ったじゃぶじゃぶにしようかと思う。じゃぶじゃぶなら、刺身としても試せるしね。


 まずは昆布を軽く洗い、やや歪な鍋に水と一緒に入れる。

 それを火にかけ軽く煮たって来たら、火を止めて少々時間を置く。出汁を取った昆布はやや細切りにしておく。

 さて味はどうだろう? お玉で掬った出汁にいつもの味覚石を入れてみる。

 これはっ? 只の昆布出汁とは思えない程の、濃厚で複雑な味が舌の上に広がる。

 これは刺身にも使えそうかなと思っていると、キーリとミミが魚を持って戻ってきた。


「カケル、終わったぞ!!」

「主様、下ろし終わりました」

「二人とも、ありがとう! ミミは筒魚も捌いて貰って良いかな?」

「はい、畏まりました」

「私は次は何をすれば良い?」

「キーリはそうだね……」


 残っている主な作業は、ミミが先程下ろしたマグロを一口大にする事だが、これはキーリには難しい気がする。

 となると……。


「キーリ、大根、生姜、白菜、エリンギを取ってきて貰える? その後は、マグロの骨の部分から肉を取り出してもらいたいんだけど?」

「こんな骨の部分、どうするんだ?」

「筒魚と混ぜて団子状にしようかなと」

「分かった。大根、生姜、白菜、エリンギを持ってきた後、肉を集めておけば良いんだな?」

「うん」

「任せろ!」


 キーリが地味な作業に向かった後、僕はマグロの残りの二枚を見てみる。

 流石ミミだね。どう捌いたのか解らないけど、骨の一本も残ってないや。


 ガタガタするまな板の上に身を乗せて、ローカストソードを使って一口大に切り分けていく。

 うーん、切りにくい……。今度もう少しマシなまな板を作ろう。

 黙々と切っているとキーリが戻ってきて、頼んだ野菜を持ってきてくれた。


 マグロを捌き終わると、先程持ってきて貰った大根を洗って千切りにした後大皿に盛り付ける。

 その上にマグロの切り身を綺麗に並べていると、ミミが筒魚の切り身を持って戻ってきた。

 どうも、三枚に下ろすだけじゃなくて一口大に捌いて大皿に乗せてくれたらしい。

 キーリと同じく、骨まわりから肉を集める事を頼む事にした。


 マグロの切り身が大皿に並んだ所で、キーリとミミの作業が終わったらしい。


「お疲れさまー。まだ僕の作業が終わってないから、キーリとミミは取り皿と箸をテーブルに用意しておいて貰えるかな?」

「畏まりました」

「ああ分かった」


 キーリとミミが食器棚に向かうのを見た後、生姜を洗って歪なたがねを使って擦り下ろす。

 マグロと筒魚の肉と生姜を、歪なボールに入れて塩を軽く振ったらこね合わせる。

 また、白菜とエリンギは洗って程よい大きさに切り揃えた後、魚とは別の大皿に乗せておく。


 先程の昆布出汁を取るのに使った鍋の他にも幾つか薄めた出汁を張り、テーブルの上にコンロと共に置く。


「キーリ、ミミ。そろそろご飯が出来るから、ツィード達を呼んできて貰える?」

「分かった」

「分かりました」


 ミミ達が部屋から出ていくのを尻目に、先程の合挽き肉をボール状に成形しながら鍋の中に入れていく。

 後はコンロに弱火を点けて魚と野菜の大皿もテーブルに置いたら完成だ。


「おおー! 何かええ匂いがするなぁ!」

「カケルちゃん、完成したのね!?」

「美味しそう~」「良い匂い……」「お腹減った~」

「カケル、連れて来たぞ!」

「うん、じゅあ皆座って」


 皆が席に着くのを確認した後、カケルが料理の説明をする。


「野菜は鍋に潜らせて、火が通ったらタレに浸けて食べてね。魚は目の前にあるタレに直接浸けて食べても良いけど、鍋の中で火を通してからでも美味しいと思うよ。と、説明はこれくらいにしてと。さぁ、召し上がれ!」

「「「いただきます!!」」」


 皆は一斉に箸で魚を掴む。最初は生で食べようとする子が多いようだ。

 昆布出汁のみなので、例の昆布が優れていたとしても、あまり美味しいとは言えない筈だが……。

 因みに寄生虫が居ない事は確認済みだ。

 と言うか、その大きさだと基本ダンジョンに吸収される為、此処の魚は非常にクリーンなのである。


「優しい味やけど、美味いなぁ……」

「美味しいですね……」

「お姉ちゃん大満足よ!! とっても、美味しいわ!!」

「美味しいね!!」「美味い……」「カケル兄ちゃんの料理は絶品だよね!!」

「カケル、相変わらず美味いぞ?」


 と、絶賛される。まあ、ネズミにそのままかぶり付くような者にとっては、絶品かも知れないが……。


「そうそう、鍋の中につみれもあるから、火が通ったら食べてみてね」


 刺身のように食べる者、鍋に野菜を入れて刺身をじゃぶじゃぶして食べる者、じっくりと火を通して食べる者と、楽しんで食べ比べているようだ。

 そして、一時間程の時間が経ち……。


「「「ごちそうさまでした!!」」」

「お粗末さまでした」


 魚と野菜の山は綺麗に消えていた。


「初めて昆布出汁を使ったけど、どうだった?」

「昆布出汁って、あの優しい味のタレのことやろ? いやぁ美味かったで? ワイは結構好きな味やな」

「お姉ちゃんうっとりしちゃった。カケルちゃん達はあんなに美味しい物を毎回食べていたのね? ずるいわ!!」

「確かに美味かったな。だが私は、もう少し濃い味の方が好みだな」


「私は好きですよ? 優しい味ではありますが、薄いと言うわけでもありませんし」

「私もこれ好き~」「僕はもっとガッツリしたのが良いかな」「嫌いじゃないけど、もう一押し欲しいかも」

「とりあえず、嫌いな人は居ないみたいだね。味については予想通り別れた方かな」


 昆布出汁は本来単体ではあまり使わない物だ。そして、基本的には濃い味付けに使う物ではない。だから、好き嫌いが出てくるのは当たり前である。嫌いな人が出てこないだけ上々であろう。


「よし決めた! 昆布と海苔を養殖しよう!!」


 カケルの決断により、食事部屋に昆布と海苔を入れておく水槽が仲間入りする事になった。

 これで更なる料理が、作れるようになって行く事であろう――。


一応次回からガンガンストーリーを進めて行く予定です。


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