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閑話―現世での葬儀

現世の閑話を挟みます。

「この度は御愁傷様でした」

「ありがとうございます……」

「まさか私よりも先に、翔君が逝くなんてねぇ……。こんな老い()ればかりが、生き長らえても仕方ないのにねぇ……」


 葬儀当日の日曜日、翔のクラスメイトや祖父母、花火師の知り合いなど多くの人達が翔の葬儀に訪れていた。

 泣き崩れている人、呆然と佇む人など多くの反応が見てとれる。

 特に翔のクラスメイト達の反応は顕著だ。年齢がまだ低い為に、誰かの死を経験した事が無い人も居る。経験していたとしても、亡くなった人は祖父母等の高齢者が殆んどだ。

 そんな中、クラスメイトの友人が亡くなったのだ。翔ともう会えないと言うのは、彼等にとっては衝撃的な事であった。

 その中でも衝撃を受けていたのは、翔の親友達の三人だったかも知れない。


「ねぇ、航君、燈ちゃん……。私、翔君が死んじゃったって言うのに、未だに泣けないんだ……。酷い友達だよね……」

「安心しろ紗耶香。俺も未だに泣けないからさ……」

「私も……。翔っちが死んだなんて、未だに信じられないよ……」


 だが受け入れ難くとも、翔が死んだ事を事実だと突きつけるかのように、それは彼等の目にも入ってきた。

 そう、翔は棺桶の中で、顔だけを出すように寝かされていたのだ。

 翔は右半身の損傷が酷く、本来神道ではご遺体に死装束(しにしょうぞく)と言われる衣装を着せたりするのだが、今回は全て無しにされ翔の顔を拝むだけであった。

 そして、翔と特に親しかった人達の番が回ってくる。


「翔坊……。この老い耄れ先に死によって……。先に黄泉の国で待っておれ。この老い耄れもじき向かうからの……」


 繁蔵は、翔が死んだ事を悼んでいた。

 自分の様な老い耄れより先に、孫のように接していた翔が死んだのが悔しいなのだ。

 そして、自分もじきに黄泉の国へと向かうと話し掛けた。


「翔君……。どうして僕らよりも先に死んじゃったんだい? 親より先に死ぬなんて、翔君は親不孝者だね……」


 幸大は、ただ静かに翔へと問い掛けていた。

 問い掛け自体は静かだった、拳は強く握られており、苛立ちを抑えているように見えた。


「馬鹿野郎が……。俺より先に死にやがって……。――あの世から見ておけ。お前が憧れた親父の花火をよ!」


 輝明は翔へとそう言い放つ。

 それは、翔を黄泉の国へと送り出す言葉だった。


「翔ちゃん……。もう……、会えないのね……。もっと翔ちゃんと一緒に居たかった……」


 影子はただ悲しげに、涙を浮かべながら叶わない希望を口にする……。

 それは、彼女の本音の言葉だ。ただ、ただ、翔と一緒に居て楽しかった。翔の人生をもっと見て居たかった。翔が結婚して孫が出来て、その孫も花火師を目指したりして……。

 そんな、幸せな人生が待っていた筈だったのに……。なのに、それは突如崩れてしまった……。

 だからこそ、影子は取り戻せない未来を思って涙が溢れるのだ――。


 大人達の番が終わると、航の献花の番が回って来た。


「――そっか翔。お前本当に死んじまったんだな……」


 棺桶の窓から覗くのは、いつも見慣れた翔の顔だった。

 いつも見慣れた顔が、いつもと違い航に話し掛けてくれる事はない……。


「うぅっ……。翔、何死んでんだよ!! お前世界一の花火師になるって言ってたじゃねえかよ!!」


 航が話しかけても、遺体は何も語らない……。


「一人先に逝きやがって……。数十年後に会いに行くから、それまで待ってろよ……」


 航が終わり、入れ替わりに紗耶香が前に来る。


「翔君……。何でよ……。何で、貴方が死ななきゃならないのよ!? まだ私達と同じ十四歳よ? うぅ……、それなのに何で……。うぅ……」


 彼女の質問に答えるべき人物は眠ったまま……。


「何でなんて言われても困っちゃうか……。ぐす……。暫しのお別れだね……。またね……」


 最後は燈だった……。


「翔っち? 嘘だよね? 起きてよ! 起きて、嘘だって言ってよ!!」


 その言葉に、翔は反応してはくれない……。


「頭では分かってるんだよ……。でも、もっと遊びたかった……。もっと話したかった……。私は、私は……、うわーーん……!!」


 言葉は上手く紡げなかった……。

 そして、感情が振り切ってしまった彼女は、翔の棺桶に抱き付いて泣き叫ぶ。

 それを迷惑だと止めるような者は、此処には居なかった。

 彼女に感化されたのか、クラスメイトや大人達からも啜り泣く声が聞こえてくる。


「ぐす……。翔っち、いきなり抱き付いて泣いちゃってゴメンね……。――もし、もしも来世があるなら、翔っちが立派な花火師になることを願っているよ……。――じゃあね、翔っち……」


 全ての人が献花を終えた後、棺桶は火葬場に運ばれる。

 火葬が終わり出てきた翔の人骨は、右半身が完全に欠けていた。


「翔……。こんな酷い怪我負ってたのか……」

「翔君……。痛かったよね……」

「翔っち……」


 知らなかった翔の友人達は、その骨を見て再び涙ぐむ。

 その隣では既に知っていた花火師達が、声こそ発しないが唇を噛みながら何かに耐えているようだった。


 その後は皆で、箸を使って骨壺に移す。

 葬儀の出席者達は再びバスに乗り、翔の骨壺と一緒に翔の家に戻ってくる。

 一部を除いた人達はここで解散した。解散する際にもまだ啜り泣いている子達が居りして、翔が親しまれていた事を示す光景であった。


 葬儀の後片付けも終わり、空野家のリビングには翔の骨壺、輝明、影子、繁蔵、幸大、航、紗耶香、燈が暗い雰囲気を出しながら座っていた。


「――えと、こんな事聞いて良いか分かりませんが、翔はどうして死んじゃったんですか?」

「航君?」

「航っち! その質問は……!」


 暗い沈黙を破るかの様に、航は影子に対して翔が死に至った原因を聞く。


「良いのよ燈ちゃん。航君、翔ちゃんが死んだのは、翔ちゃんが作った花火が黒玉になって、翔ちゃんの足下で暴発したからよ」

「恐縮なんですが、翔君のお母さん黒玉って何ですか?」

「黒玉って言うのはね――」


 黒玉――それは本来上空で炸裂するはずが、親導の長さを間違えたり、火薬が反応しなかったりなどの理由で、炸裂せずに地上に落ちてきた花火玉の事を指す。

 この黒玉は()わば不発弾なので非常に危険であり、水を掛けたりしてからすぐに安全な場所で廃棄する必要がある物である。

 そして、地上で炸裂する可能性も十分にあるため、花火師は落下予想地点に近寄ってはならないとされている。


「そっか……。アイツ、自分の花火が黒玉になって焦ったのか……」

「翔君らしいね……」

「――でも翔っち、焦らないで逃げてほしかったなぁ……」


 再び暗い雰囲気に包まれる。

 その後、誰かが何かを口にしようとした瞬間の事だ。


「……えっ? 何!?」

「眩しい!!」

「何だ!?」


 リビングに強い光りが満ち、その光は人形に集束して行く。

 そして……。


「儂、見参!!」


 とてつもない色を纏った怪しいグラサン爺が、そんな事を言いながら現れたのだった。


「――――誰?」


 いち早く正気を取り戻した燈が、怪しさ満載のグラサン爺に話し掛ける。


「おお、お前が燈か!!」

「燈ちゃん、知り合い?」

「こんなド派手なお爺さんの知り合いは居ないよ?」

「だよねぇ……。僕も燈ちゃんの知り合いは大体把握してると思うんだけど、こんな目立つ人は知らないなぁ」


 こんな派手な爺と燈が知り合いだったら、幸大が知らない訳が無いであろう。

 幸大の親馬鹿を舐めてはいけない。相手が娘じゃなかったら、確実にストーカーレベルの情報収集をしているのである。


「別に神谷燈だけじゃないんじゃぞ? 空野輝明、空野影子、海藤繁蔵、神谷幸大、藤堂航、そして中原紗耶香。全員の名前は把握しとるぞ?」

「……お爺さんは誰? 燈ちゃんだけじゃなくて皆の名前を知っているのに、皆は知らないなんて、絶対変よ!!」

「そうよ紗耶香ちゃんの言う通りだわ!! しかも、今この家は鍵を掛けてあるのよ? 何処から入ってきたのよ!?」

「お爺さん、不審者?」


 女性陣が口々に問いただす中、男性陣はグラサン爺を不審者だとして、女性陣を庇うように前に出ている。

 若干一名、前に出て手にギラリと鈍く光る小刀のような物を持っている爺さんが居たが、幸か不幸か皆は目の前のグラサン爺以外は見てなかったらしい。


「儂は怪しいもんじゃないぞ? お前達も警戒を解いてくれんかの? 特にそこの繁蔵や、殺気がヒリヒリ痛いくらいなのじゃがのう」

「警戒を解いて欲しくば、儂らにお前さんの正体を言え!」

「せっかちじゃのぅ。まあ良いわ。儂の名前はヴァルトロ・ディロス、異世界の神に当たる存在じゃよ」

「神様……?」

「胡散臭い……」

「詐欺師?」

「新興宗教の勧誘?」

「それで自称神様の詐欺師が、儂らに何のようじゃ?」


 ヴァルトロは神と名乗ったが、そう簡単に信じてもらえるわけもなく、皆から詐欺師や宗教の勧誘呼ばわりされてしまった。


「酷いのぅ。折角、翔のその後の状況を報告しに来たと言うに……」

「翔っちのその後!?」

「デタラメ言わないで!! 翔君は死んだのよ?」

「ああ、流石にその言動は不愉快だ。爺さん、言って良い事と悪い事がある」

「僕も流石に酷い発言だと思うよ? 余り変な事を言うと殺すよ?」

「翔のその後だと? 俺の息子が死んだのを知っての発言なら、爺さんアンタ潰すぞ?」

「アナタ、抑えて! ――でも、その発言は見逃せないわ!」

「儂の前でそんな戯言を吐くとは、お前さん死にたいようだな?」


 当たり前だが、非難轟々だった。

 特に花火師の面々は、今にも殴り掛かりそうである。


「はぁ、儂は神と名乗ったぞ? 翔が死んだことは知っておるし、翔の転生先を決めたのは儂じゃ! じゃから、報告するのは転生後の出来事じゃな」


 別に翔が死んだ事を、笑ったりしに来た訳ではない事は、ヴァルトロの態度が語っていた。

 だが――。


「信用できないよ!!」


 燈の言った言葉が全てだった。


「そうね。翔ちゃんが本当に転生したのであれば聞きたいわ。でも、まだ貴方を信じるに値する物が無いのも事実よ。貴方が神様だと言うなら、証拠を出して貰えるかしら?」


 燈に続いて、影子が冷静にヴァルトロに対して質問する。

 普通だったら切って捨てる様な話なのだが、いきなり現れたヴァルトロの存在に全てが嘘だと言えないような何かを皆感じていた。

 だからこそ、影子は敢えて証拠を出せと言ったのである。


「まあ、仕方ないじゃろうな。と言っても既に神の力の一旦は、使っておるのじゃがな」

「おい! 今のお前さんの言葉は、どういう意味じゃ?」

「邪魔が入ったりすると問題じゃからな。リビングを空間毎切り取って、時間停止をしておるのじゃ。そうじゃの、庭の窓を開けて、庭に向かって石でも投げてやれば、解りやすい結果が出るぞ?」


 当たり前だが皆疑心だらけのまま、航がリビングに置いてあった野球ボールを、窓から庭に向かって軽く投げ込んだ。

 すると、本来であれば放物線を描き庭に落ちる筈のボールは、窓枠を越えた辺りで宙に浮かんだまま停止した。


「「「えっ……」」」

「ボールが止まってる?」

「どうなってるの?」

「止まってるね。しかも揺れもしないで」

「儂にも止まって見えるの。こいつはどんなトリックじゃ?」

「疑り深いの。トリックも何も、さっき言った通りじゃ。リビングは外と時間が隔離されておる。リビングでどんなに時間が経とうと、本来の世界では一秒も過ぎておらん。じゃから、ボールも外に出た途端に停止したのじゃ」


 信じられない説明だが、ボールを揺れもしない程に瞬時に空中で固定する方法が無いのも確かだ。

 その説明を聞き、疑惑だけだったのが半信半疑あたりまでになった頃、またリビングに光が満ちた。

 先程のヴァルトロの強烈な光とは違い、優しく包み込むような穏やかな光だ。

 光りが収まると、絶世と言う言葉すら霞むような若い女性が現れた。

 女性は地面に着きそうな程に伸びた長く艶やかな黒髪を流し、十二単に近い形の着物を着こなしていた。

 見た目の年齢は二十代前後だろうか? 余りに現実と掛け離れた美を除けば、黒目黒髪で身長もそこまで高く無い為、日本人のようにも見る事が出来た。


「何だ何だ!?」

「今度は何なのよ!?」


 突然現れた女性は騒いでいる航達に体を向けると、静かなそれでいてよく通る声で話し始めた。


「皆様ごめんなさいね。うちの夫が迷惑を掛けたようで……」

「「「夫!?」」」


 皆の視線が、ヴァルトロに向かう。そんなヴァルトロは肩を震わしていた。

 そして……。


「あーちゃん!!」

「「「あーちゃん……?」」」

「あらあら、ヴァルトロ様お久し振りですね。でも今は、その呼び名は止めていただけると嬉しいのですけれど?」


 あーちゃんとは目の前の女性を指すらしい。この女性の(おごそ)かで、それでいて優しい雰囲気とは全く噛み合わない呼び名だ。


「あ、ああ、すまんの。つい嬉しくて呼んでしまったわ……。久しいの、天照(あまてる)!!」

「ええ、ヴァルトロ様!!」


 そう言って両者嬉しそうに笑いあった。

 彼等はそれで良いのだろうが、納得出来ないのは沙耶香達だ。

 そんな中、沙耶香は皆の代わりに一つの質問をする。


「――あのぅ、天照(あまてる)ってもしかして天照大御神(あまてらすおおみかみ)の事ですか?」

「ええそうよ紗耶香さん。私の名前は天照大御神、親しい人は天照って呼ぶわ。一応日本の神をやっているのよ?」


 皆が唖然とした中、天照は気にする事無く説明を開始した。

 地球は国や土地レベルで管理神が何柱かおり、その中でも日本は相当数の神が管理している稀有な国だと言う。

 その中で天照は最高位神に属し、神を管理する側の一柱らしい。


 一方のド派手な格好をしたヴァルトロは、神の位としては天照を大幅に上回る神であり、今回翔を天照に了承無く転生させた首謀者でもある。

 天照が此処に来たのは、ヴァルトロの無断転生の件を咎めて、家族に謝罪するためだと言った。

 また、ヴァルトロが持ってきた情報とは、翔が記憶を維持したまま転生してからの記録を動画で見せると言った物だった。

 そして航達はまだ完全ではないが、天照の尋常では無い雰囲気が幸をそうしたのか、とりあえず二人の言い分を信じる事にしたようだ。

 ただ紗耶香には疑問が残る。


「あの、天照大御神様って建速須佐之男命たけはやすさのおのみこと様と結婚していませんでしたか?」

「あら、良く知ってるわね?」


 建速須佐之男命は天照大御神の疑念を解く為に、誓約うけいを行いそこで三柱の女神と五柱の男神が産まれたとされている。

 誓約うけいとは宇気比(うけい)とも書き、ある物事についてこうであるならばあそうなる。ああであるならばこうなると決めておき物事の成否や吉凶を判断する事である。

 誓約うけいの本質は占いである。

 例えば邇邇芸命(ににぎのみこと)木花咲耶姫(このはなさくやひめ)身篭った時、結婚して一夜で身篭った事に別の男の子ではと怪しんだ事があった。

 その時木花咲耶姫は子を産む際に産屋に火を放ち、邇邇芸命の子であれば無事に産まれる、そうでないのならば無事に産まれないと宣言し、その後無事に子を産む事で疑惑を晴らした。


 今回の誓約うけいは建速須佐之男命の持っていた十拳剣(とつかのつるぎ)と、天照大御神の持っていた八尺の勾玉の五百箇のみすまるの珠を交換して、互いに噛み砕いて生まれる神の性別で占う事となった。

 そして建速須佐之男命は、自分の剣から心優しき女神が生まれたのだから、これで疑惑は晴れたと宣言したのだった。

 だが、実際には誓約うけいの際の取り決めをする前に始めた為に、結果が出ても判定は出来なかった筈なのだが、建速須佐之男命の言い分に天照大御神が丸め込まれたのである。

 また、その時生まれた子を持ってして、天照大御神と建速須佐之男命は夫婦であると言う考えが広まっているのである。


 因みに紗耶香がこの事を知っていたのは、彼女が本の虫であるからだ。確かに、彼女の愛読書は腐った本が多いのは事実なのだが、それ以外の本も幅広く読んでいるのである。


「確かに私は須佐之男(すさのお)を愛していたわ。でも――」


 須佐之男は天照を丸め込んだ後、天照の治める高天原(たかまがはら)に居座り好き勝手に振舞っていた。

 だが、天照は須佐之男を盲目的に信じてしまい、ついには天の服織女(はたおりめ)である稚日女尊(わかひるめのみこと)が死ぬと言う事態に発展する。

 それを重く見た天照は責任を感じて、()の有名な天岩戸(あまのいわと)に引き篭もる岩戸隠れの事件を引き起こす。


 太陽神である天照が隠れた事で世界が暗闇になるがその後、天鈿女命(あめのうずめ)が今で言うストリップショーを行って笑いを取り、天照を天岩戸より連れ出す事に成功する。

 この事件をもって須佐之男は所持する品々を全て取り上げられ、髭と手足の爪を全て剥がされた後に高天原から追放される事となる。


 天照は天岩戸に引き篭もっている間に、須佐之男への愛情が冷めたのだと言った。


「そうなのですか?」

「そうよ! だってよくよく考えれば須佐之男って、マザコンでシスコンでヒモの自己中男よ? 冷静になれば、なんであんなのを愛していたか分からないわ!!」


 余りにも酷い言い草だが、概ね合っているので否定する事が難しい。


 須佐之男は父である伊耶那岐命(いざなぎのみこと)に治めるよう言われていた海原を全く治めず、母である伊耶那美命(いざなみのみこと)の居る根の国に行きたいと喚いていた。

 伊耶那岐はそれを断固として拒否し、それでも諦めない須佐之男に怒り好きにしろと須佐之男を追放してしまう。

 須佐之男は根の国にへと行く前に、姉に別れの挨拶しようと高天原に移動する。この際に須佐之男の感情に反応した海や山が、あまりにも強烈に鳴り響いていた為、天照は高天原を奪いに来たと勘違いしてしまったのである。


 天照の疑念を晴らした後に、根の国へとそのまま向かえばまだマシだった。だが彼はそのまま居座り続け、姉である天照や神々を困らせ続けたのである。

 こんな事をしている男が、マザコンでシスコンでヒモの自己中と言われても仕方が無いと言えよう……。


「――なのよ!? あり得なくないですか!?」


 天照から飛び出す愚痴の数々。須佐之男は高天原で相当悪さをしていたらしく、彼女の口が止まらない……。

 先程までの厳かな雰囲気の女性とは、到底思えない程である。


「天照、そのくらいにしてはどうかの? 皆も困惑しておるぞ?」

「あっ……。ごめんなさい。私ったらつい……」


 沙耶香達は辟易していたが、更にその後の説明を受ける。

 須佐之男が高天原を追放された後、暫くしてからヴァルトロに出会った天照は次第に仲を深めていって結婚に至ったらしい。

 ヴァルトロとの詳しい馴れ初めの部分は、彼女に軽く誤魔化されてしまった。

 過去の男である須佐之男はよくても、ヴァルトロとの馴れ初めを言うのは恥ずかしいらしい。全く意味が分からない……。


「――事よ。これくらいの説明でいいかしら?」

「――はい、ありがとうございます……」


 沙耶香は長すぎる話を聞いてスルーすべき事だったかとやや後悔していたが、終わった事は仕方ない。

 この会話を最後に、元の翔の説明へと戻っていく。

 そして、天照は改めて皆を見回しながら話し始める。


「改めてごめんなさいね。夫が無断転生なんかさせて。本来なら翔さんは、日本で立派なウサギさんに転生する筈だったのだけど……」

「ヴァルトロ様、翔っちを転生して下さってありがとうございます!!」


 燈がそう被せるように、ヴァルトロに礼を言う。

 まあ異世界だとしても、ウサギに転生されるよりはマシだろうと思ったから出た言葉であろう。

 皆もそう思っているのか航を除き、安堵したような表情をしていた。


「ほっほっほ、儂が勝手に翔に提案した事じゃから良いんじゃよ。それよりも、そろそろ翔のその後を見てみんかの?」

「あ、はい」


 思わず返事をした燈の言葉を総意として見たのか、リビングに置いてある大型のテレビにヴァルトロの足が向かう。

 そして何処からか、ヴァルトロのローブの色のような、光り輝くディスクを取り出した。取り出したディスクをブルーレイレコーダーに入れ、リモコンで再生ボタンを押す。


 すると、音楽が流ながら”空野翔の華麗なる転生 ~死んでも世界一の花火師になってやる~ 第一話”と、大きなタイトルが画面上に表示された。


「ヴァルトロ様、これは何ですか?」


 天照がリモコンを奪い、一時停止を押しながらヴァルトロに問い掛けた。


「結構綺麗に作れているじゃろ? 部下を使って編集させたのじゃ!!」

「はぁ……。後でお話ししましょうね? ヴァルトロ様……?」


 ヴァルトロはドヤ顔で天照に説明していたが、天照からは後でお話しと言う名の説教がありそうだ。

 気を取り治して再生をすると、花火を見上げている翔と影子が映った。


「翔ちゃん!」

「翔君……」

「翔っちの姿だ……」

「翔坊と一緒に映っておるのは影子さんじゃのう。と言う事は、これは一週間前の花火大会かの?」


 映像を見た繁蔵が、その光景から当たりを付けた。


「そうじゃよ。翔が死んだところからの方が、解りやすいと思っての」

「翔の死ぬところだと……?」

「安心するのじゃ! 翔が死ぬシーンは衝撃が大きいじゃろと思うて、損傷部分はモザイクを入れておるでの」


 ヴァルトロに言いたいことはあっても、それは飲み込んで映像に集中する一行。

 その後映像は、翔の花火打ち上げ失敗シーンになる。

 そして、黒玉によって翔の体が損傷する。


『翔ちゃん!! しっかりして!!』

『翔! 今救急車を呼んだから、持ちこたえろよ!!』


 テレビには影子と輝明が、必死の表情で翔に話し掛けている姿が映っていた。


「翔君っ!!」

「翔、何やってるだよ!?」

「翔ち……、うっ……」

「くっ……」

「翔君、痛かったろうに……」


 そして翔の意識が閉ざされ、映像は天界のヴァルトロハウスに移る。


『――分かりやすく言えばマイハウスじゃ!』


 映像の中ではヴァルトロが、翔に自慢げにプライベート空間の話していた。


「ヴァルトロ様、また家の発光色が増えた気がするのですが?」

「前よりも派手になって、かなり良くなったじゃろ?」

「ええ、前よりも派手にはなりましたね……」


 ヴァルトロは熱心に、天照は冷めたように話していた。

 そして翔は転生する。


『――私は常闇(とこやみ)ウサギのミミ! 主様を補佐するように神様に頼まれました』


 洞窟に放り出された翔が、ミミと出会っているシーンが映し出されている。


「可愛い!! 紗耶香っち! 航っち! ウサギさんが居るよ!?」

「ウサギが喋ってる……」

「そんな事より、翔君が骨になってるんだけど!?」

「おい、なんで翔が骨になってんだよ!?」

「アナタ、落ち着いて。記憶を維持した事の代償だって説明があったわよ?」

「翔君、スケルトンになっちゃったのか……」

「翔坊……」


 場面は移り変わり、戦闘シーンに突入する。


「翔ちゃん危ない!!」

「翔っち、そこだ!! ぶっ飛ばせー!!」

「きゃあ、翔君が攻撃を受けちゃったよ!?」

「こんな事なら、翔坊にも体術を教えておくべきだったな……」

「翔君、頑張れ……」


 戦闘に慣れてくると翔はノーダメージで倒せるようになり、更に進んだ先にてキーリと出会う。


「凄い、ドラゴンだ……」

「くっ、翔羨ましいぞ!!」

「真っ白なドラゴン、格好いいね~」

「おぅ、ファンタジー……」

「翔坊どうする? まだお前に倒せる相手ではないぞ?」


 キーリに事情を説明し、キーリが人化して翔の仲間になった所で一話は終わっていた。


「凄かったね……」

「ああ、正しくファンタジーだったな。翔め、あんな格好よくて綺麗なドラゴンと仲間になるなんて羨ましすぎるぞ!!」

「――翔っち、表情は分からなかったけど笑ってた気がする……」

「翔ちゃんは、あちらの世界でも花火師を目指すのね」

「翔坊、男が決めたことだ。最後までやり遂げろ!」

「翔君、君の人生はまだ終わってないんだね? 僕らは助けられないけど、人生の延長戦を楽しんで欲しいかな」

「翔、再び花火師を目指すなら、今度は頂点に立ってみろ!!」


 翔に言葉を掛けるように言う者や、翔の転生についての感想を言う者も居る。


「何にせよ、好評で良かったわい。第二話はまだ編集中じゃ。また次の日曜日に、持ってこようかと思うが、どうじゃろう?」

「――お願いします。ヴァルトロ様、先程は疑ってしまい申し訳ありません」


 ヴァルトロの質問に対して話し合いをした後、影子が代表して返事を返した。


「何、良いんじゃよ。儂の訪問も突然だったしの」

「そうね、気にする事無いわ。それじゃあヴァルトロ様、そろそろ御暇(おいとま)しましょうね。お話しもありますからね?」

「あ、ああ……。それじゃあまた来るでの!」


 そう言い残し、ヴァルトロと天照は光に包まれて消えていった。その直後、庭にボールが落ちた音がした。


「――本当に時間が止まっていたんだな」

「――うん、嘘みたい……」

「紗耶香っち、凄いね!!」


 庭に投げたボールが停止していた他、時間が停止していると聞かされた直後に見た時計の針は全く進んでいなかった。


「来週の日曜日か……。何としても予定を空けねばならんの幸大」

「ええ、そうですね。繁爺さん」

「翔ちゃん、良かった……。もう逢えなくても、翔ちゃんは別の世界で生きているのね」

「ああ、見た目は生きているって言葉に違和感があるが、翔がまた花火師を目指してくれるなら嬉しい事だ」


 先程までの暗い雰囲気は影を潜め、この場には翔の新しい生への祝福と喜びが満ちていた――。


ヴァルトロ・ディロスの妻は天照大御神でしたね。

須佐之男の駄目男っぷりを見ていると、ヴァルトロが非常に良い男に見えてくるから不思議です。


この夫婦、凸凹コンビですけど夫婦仲は悪くありません。

マザコンでシスコンでヒモの自己中男を許していた天照であれば、ヴァルトロ程度の自己中はあって無いようなものなのでしょう。


須佐之男の駄目男っぷりが気になる人は、

http://kojiki.co/nihonshinwa/mokuzi.html

を読むと良いと思います。

私も、ここのサイトで調べされてもらいました。

因みに古事記は日本最古のギャグ本の様な物で、下ネタが非常に多い為苦手な方は止めた方が良いかも知れません。


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