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天空の住人

今日から二章に入ります。

 大地に生える木々や(そび)え立つ山脈よりも、遥か高みに位置する場所に彼女は居た。

 輝くような若草色のロングヘアーに、エメラルドグリーンの瞳。

 服装は白いノースリーブのワンピースの様な物を着ており、そのやや悲しげに微笑んだ姿は少しあどけない少女の様にも、老練(ろうれん)した女性の様にも見える。

 一方でそのスタイルは非常にメリハリがあり、近くに男性が居ればさぞ惹きつけられる事だろう。


 彼女が居るそこは、(さなが)ら天空庭園と言ったところだろうか。

 彼女の周りには、色とりどりの花が咲き乱れる見事な庭園が拡がっていた。

 そして彼女は、そんな庭園の中央にある椅子に座っている。その椅子は抜けるような白さで、周りの庭園と上品にマッチしていた。

 庭園の中をよく見ると、雲が花々の上に掛かっているのが見て取れる。更に花園の端からは、眼下に雲の姿と遥か彼方に荒れた台地を見る事が出来た。


「笑っちゃうわね。自分から離れたくせに……」


 彼女は自分の情けなさに自笑する。


「ねぇ、キーリちゃん……。私はどうしたら良かったのかな?」


 何かを後悔する様な様子の彼女だったが、少し時間が経った時彼女の鋭い聴覚が微かな音を捉えた。


「ん? 何かしら?」


 彼女は音が出たと思われる地上の場所を、上から見下ろしてみるが特に目立つ物は無かった。


「気の所為だったのかしら?」


 気の所為だと思った彼女は、庭園の椅子へと戻って行く。

 それから暫くの時間を空けた後、再び彼女の耳が微かな音を捉えた。


「また? 何の音なのかしら」


 疑問に感じた彼女は、捉えた音の方向である庭園の端へと再び移動する。

 今度は一度では無く、少し間を置きながら音が鳴り響いて来る。

 そんな音は庭園の端に移動する毎に、音量が増して来るのだった。

 そして、そこで彼女が目にしたのは――。


「何かしら? 何かが光っているようね」


 彼女は遠くを見れるスキルを発動すると、光っている何かをその目に収めた。


「――綺麗……。まるで空中にお花が咲いてるみたい……」


 彼女の遥か下には、光で出来た花が咲いていた。

 赤、青、黄色。色とりどりで輝く花は、瞬間的に空中を彩ると瞬く間に消えて行った。

 彼女は先程の音を、花が咲く時に生じる音だと気付く。


「何かしら? 初めて見たけど、彼等の仲間が起こしてるのかしら?」


 そう言って彼女は、光の花が咲いている周りを忙しなく飛ぶ魔物の姿を捉える。

 その姿は鷲等の猛禽類に近いだろうか?

 鋭い嘴と鋭い眼孔。足の鉤爪は大きく、獲物を捉えたら離しそうにない。

 一方で生えている翼は、丸っこい毛玉を複数付けた様な変な形をしており、その真っ白な姿も相俟(あいま)ってそこまで強そうには見えなかった。


 うーん、どうも違うみたいね。

 もし彼等の仕業なら、あんなに騒ぐ必要は無い訳だし……。

 なら、誰の仕業なのかしら?


 彼女は空中に咲く花の行方を、目を凝らして追ってみた。

 そして捉えた発生源は――。


「まさか、キーリちゃん!?」


 発生源を追っている時に見付けたのは、彼女の知り合いのキーリだった。

 探している間に空中の花は終わってしまい、実際にキーリが行った事かは分からない。

 だが、キーリを見付けた彼女の行動は早かった。


「キーリちゃんーー!!!」


 キーリを見付けた彼女は庭園から身を投げ、頭からキーリに向かって真っ逆さまに落ちて行く。

 だが、別に自殺願望と言う訳で無く、彼女の背中には黒っぽい蝙蝠の様な羽根が生えていたのだ。

 彼女はその羽根を器用に動かしながら、キーリ目掛けてスピードを上げて行った――。


 ◇ ◇ ◇


 ――……リ……ん。


 カケルの打ち上げテスト無事に終わり、そろそろ帰ろうかとしていたところでキーリが何かに気付いた。


「ん? 何か声が聞こえないか?」

「声ですか? ……空耳じゃないですか?」

「そうだろうか? どこかで聞いた事がある声の様な気がしたのだが……」


 キーリが首を傾げながら、声の主を思い出そうとする。


 ――……ちゃん。


「ほら、また!」

「今回は私も聞こえました」

「あのぅ、僕は全然聞こえないんだけど……」

「ワイもやな」


 声を捉えた両名は辺りを見回す。

 そして、次の声が聞こえたタイミングで一斉に上を向いた。


「上か!?」


 少し向くのが遅かったが……。


「キーリちゃん!!」

「ぐぼぁっ!」


 空から降ってきた何かは、キーリの胸に飛込んだ。

 その衝撃でキーリは、何かと一緒に錐揉しながら吹っ飛んで行く。


「キーリ!?」

「キーリ様!」

「キーリちゃん!」


 カケル達は、キーリの吹き飛んだ方へと向かった。

 キーリの元へと辿り着き、凄まじい衝撃で舞い上がった砂埃が収まると、そこにはキーリに抱き着いた状態の女性が居た。


「あいたたた……」

「キーリ、大丈夫!?」

「あ、あぁ……。一体何だったんだ?」


 キーリは先程の疑問を呈しながら、自分の状態を確認し、その途中で自分に抱き着いている存在に気が付いた。


「お前……、もしかしてセレナか……?」

「そうよ! 久しぶりね、キーリちゃん!」


 唖然とした様子のキーリだったが、大事はない事と、先程の衝撃を与えた者がキーリの知り合いだった為、カケル達は警戒を解除した。


「キーリ、彼女は知り合い?」

「あぁ、皆にも紹介しよう。後、セレナはさっさと降りろ!」

「もう、久しぶりの再会なのにつれないわね!」


 セレナと呼ばれた女性は、少し頬を膨らませながらキーリの上から降りた。

 キーリの横に立ち並ぶと非常に小さく見えるが、身長自体はそこまで低く無く百六十五センチ程になるだろう。

 恐らく今のカケルと同じくらいの身長だ。


「じゃあ、改めて紹介しよう。コイツはセレナ・クレイスト。私の昔馴染だ」

「キーリちゃんったら酷いわ! 親友の事捕まえて唯の昔馴染なんて!」


 キーリの言葉に反論したセレナな、顔を手で覆ってしまった。

 そして、(すす)り泣く様な声が小さく聞こえてくる。


「はぁ……、訂正しよう。私の親友であり、昔馴染であるセレナだ」

「紹介に与った、キーリちゃんの()親友のセレナ・クレイストよ! 皆、仲良くしてね!」


 セレナはさっきまで泣いていたかと思えば、キーリが紹介の言葉を訂正すると同時に、顔を上げて明るく挨拶して来た。

 最後には、ウインクまで飛ばして……。


 カケルは一連の反応を見て、また濃い人物が知り合いに増えたなと思っていた。


 その後、カケル達もセレナに一通り紹介を終えると、今度はセレナの事についての質問に入った。


 その質問の過程で判明したのは、彼女が元々キーリと一緒に行動していた事、彼女の年齢が一万六千七百十三歳と言う事、彼女がプラントヴァンパイアと言う珍しい種族であると言う事だ。


 彼女は昔キーリと一緒に行動しており、年齢も近かった為に非常に仲が良かったのだとか。キーリが微妙な顔をしていたので、どちらかと言うとキーリが一方的に振り回されていただけかも知れないが……。

 年齢が近いと言っても二千歳程の差があるのだが、彼女達の年齢においては誤差なのだろうか?


 彼女の種族であるプラントヴァンパイアは植物系の吸血鬼で、彼女もキーリも同じ種族を見た事が無い程に珍しいらしい。

 良く分からない種族だが、樹液でも吸い取るのだろうか? それとも、身体が植物で養分は血液?


 後はヴァンパイアと言う種族が示す通り、キーリやツィードと違い完全な人型の魔物だと言う事だった。

 因みに人型の魔物の事は、魔人と呼ぶらしいとはミミの言だ。


「――と言う事で、カケルちゃんは私の事をセレナお姉ちゃんと呼ぶように!」

「何が、と言う事でなの!? 脈絡が無さ過ぎるよ!」

「えぇー、だって初めて出来た年下のお友達だよ? お姉ちゃんって呼ばれたいじゃない!」

「意味が分からないよ!!」


 セレナの年齢はカケルにとっては相当年上なのだが、彼女はキーリ達と一緒に行動していた時は最年少だったらしいのだ。

 その為、常に年下扱いで年上扱いに飢えていたとかいないとか……。

 カケルと並んでも身長に差異が無く威厳皆無な為、お姉ちゃんと言う感じでも無いのだが。

 まぁそれは兎も角、カケルが最年少であるのは間違い無かった為、セレナの要望は形半分で叶えられる事になった。


「それじゃあセレ姉、これから宜しくね」

「少し不満が残るけど、その呼び方で我慢するわ。宜しくね、カケルちゃん!」


 セレナ――セレ姉――は、あの天空塔を登りきった所で暮らしているらしい。

 あの塔を登りきるとかどんな拷問だろう?

 いやまぁ、セレ姉の場合飛んで行けばかなり早く着くんだろうけど……。


 そう考えながら、カケルはセレナの羽根に視線を移した。


「なあに、カケルちゃん? お姉ちゃんに見惚れちゃった?」

「違うよっ……!? いや、セレ姉が綺麗なのは否定しないけどさ……」

「キーリちゃん、どうしよう!? カケルちゃんに口説かれちゃった!」


 カケルは完全に否定するのは、セレナに失礼かなと思い一言付け加えたのだが、その事をセレナは都合良く解釈していた。

 カケルはそんな遣り取りに少し疲れてきたが、我慢強く質問をしていき他の事も聞き出す事が出来た。


 キーリとはどうも二千年振りくらいに会うらしい。ただ、その間会っていない理由は教えて貰えなかった。

 後、どうもキーリとの会話から推察するに、まだ何人か仲間が居そうな気がする。


 そして、久々に地上に降りて来たのは僕の花火が原因だったようだ。

 塔の上でのんびりしていたら、花火を見付けたらしい。

 それが気になって地上を探していたら、キーリを見付けて突っ込んで来たとの事だ。

 凄いね……。猪突猛進だよ……。いや、ゴーイングマイウェイと言った方が良いかも。


「それで、あの光の花は何なの!?」

「セレ姉、落ち着いて! あれは僕が作った花火って言う、鑑賞を目的とした花を模した炎だよ」

「何それ! 詳しく!!」


 セレ姉が予想以上に食い付いて来たので、花火に関しての説明をした。

 技術面は軽くの説明にして、僕の世界での立ち位置や花火の種類を主に。

 後は具体的にキーリにも見せた魔法を、ミミに頼んで使って貰ってセレ姉に父さんの花火を披露したりした。

 その甲斐あってか彼女は非常に花火に興味を示し、僕等と一緒に生活したいと言い出したのだ。


「セレ姉も来るの?」

「ええ。私だけ仲間外れは寂しいわ。カケルちゃんはそんな酷い事しないわよね?」

「う、うん……」


 演技だとは分かっていても、目に涙を浮かべられると弱い。

 まぁ、断る事でも無い訳だし良いんだけどね。

 少なくとも、悪い人では無さそうだし。

 予想外の事があったけど、これで花火の試し打ちは終わりかな?


 その後カケル達は花火の感想を話しながら、皆で騒がしく聖域へと帰って行った。

 新しい仲間を引き連れて――。


 ◇ ◇ ◇


 聖域に帰った後の皆が寝静まった頃、カケルは神殿の外で一人考え事をしていた。


 予想外のセレ姉の強襲があったけど、これで最初の目標だった花火の作成は出来る様になった。

 ここらで少し、指針を整理してみようかな?


 カケルは周りにある石を使って、地面に目標を書き出し始めた。


 まず、最終目標の確認からかな。

 最終目標は、世界一の花火師になる事。

 この世界一の花火師ってのが難しいんだよね。前世なら、父さんを超えて、花火師の世界大会で優勝すれば良かった訳だけど……。

 この世界だと花火自体が無いんだよねぇ……。それどころか火薬自体が存在しないらしいし……。

 まあ、ミミ達の知らない所で花火が作られてる可能性はゼロじゃないけど、それはかなり低いと思ってる。

 だって、ミミのアカシックレコードで捉えられないって、多分余程の事じゃなければ有り得ないでしょ?


 まぁそれは兎も角、花火師が居ない世界に於いて世界一の花火師って、今日の打ち上げの瞬間にもうなってるとも言えちゃうんだよね……。

 流石にそんな事では納得出来ないから、多分僕が納得出来る成果を出せたかどうかに掛かってくると思う。

 それを踏まえた目標としては、この世界に花火を知らしめる事と、後世に花火の技術を伝える事かな。

 勿論、技術よりも皆の笑顔になる様な花火が優先だけどね。


 えーと、後世については一先ず後回しにするとして、先ずは花火を知らしめる事から挑戦すべきかな?

 その為に必要なのは、花火を打ち上げる会場と観客。

 そして、僕が目指すのは人間の観客を獲得する事。

 つまりは人間の街に行くのが、次の目標になりそう。


 目標は確認出来た。次はその為の努力の方向だ。

 今の僕はアンデッドの魔物だ。何の策も無しに街に行けば、退治されるのが関の山だろう。

 ただ、魔物だとしても退治されない事はキーリが証明済みだ。

 尤もキーリが聖獣だからと言う点が大きく関わってるだろうけど……。 

 これについてはキーリも言っていたけど、僕を受け入れる事が彼等の利になれば行けるんじゃないかとは思ってる。

 まぁ、アンデッドを受け入れる程の利益が、何かは分からないけど……。


 その利益が思い付かない内は、退治されないだけ強くなる事と、花火に関連する魔法を覚える事が最大の目標になるかな?


 とりあえず現状の整理が出来たカケルは、人間の観客の元で花火大会を行うまでの道のりの長さに軽く溜息を吐いた。

 そして魔法の練習の為に、ゆっくりと神殿から離れるのだった。

新しい人物が登場しました。

今後彼女も行動を共にします。

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