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ケーキ作り

前回言っていたケーキ作りです。

 昨日ミノちゃんとピヨちゃんからケーキの材料を貰っていたカケル達は、朝からケーキを作る下準備に入る事にした。

 先ず牛乳を、バターと生クリームに加工する必要がある。

 その為に必要なのが遠心分離機である。

 これはカケルには荷が重い為、ミミが作成する事になっている。


 カケルが作るのは、ボールやヘラ、泡立て器やケーキを焼く為の窯等の比較的簡単な構造の器具である。

 そうこうしている内に、ミミが作成していた遠心分離機が完成したようだ。


「ミミ、これが遠心分離機?」

「はい、その通りです」


 ミミとカケルの目の前には、ミミが作ったと言う遠心分離機か置かれていた。

 材質は何かの金属の様で、鈍色の器具は光に照らされて怪しく光っていた。

 高さはカケルの胸くらいはあるだろうか?

 形状は円柱状で、正面には何やら幾つかの穴やボタンの様な物が付いていた。

 因みに、ここに居ないツィードはいつも通りに子供達の遊び相手になっている。


「予想以上に大きいね……」

「はい、大量生産可能な様にしました」


 大量生産って……。

 別に僕は、ケーキ屋さんになるつもりは無いんだけど……。


「――取り敢えず、テストしてみようか」

「かしこまりました」


 何はともあれテストである。

 ミミの作った物に失敗があるとは思えないが、牛乳の量はそこまで多く無い為簡単に失う訳にはいかないのだ。

 そのテストの方法だが、前世では使えない様な方法を取る。


 カケルとミミはテストの為に、ある物を用意し下処理を行った。


「ミミ、投入口はここで良いの?」

「はい、そこから流し込めば大丈夫です」


 ミミに聞いた投入口の上で、カケルは既に死んでいる嘆きのラットの首を切り落とした。

 頭を失った首の付け根からは(おびただ)しい量の血が溢れ、遠心分離機の投入口へと流れ込む。

 そうして暫くして血が出なくなった頃に、カケルは嘆きのラットを取り去った。


「よし、これくらいで良いよね? それとも、もう一匹要るかな?」

「いえ、一匹分で十分ですよ」

「了解。後は起動なんだけど、これどうやって起動するの?」

「正面の緑色のボタンを押してみて下さい」

「えと、こうかな……」


 カケルが緑色のボタンを押し込むと、先程まで開いていた投入口が閉じられ、唸り声を上げながら遠心分離機の中で処理が始まった。


「おお! 機械みたいだね!!」

「魔道具ですから、似たような物かと」


 カケルは遠心分離機を見た事は無かったが、原理は何となく知っていた。

 その原理からすれば、恐らくこの鈍色の魔道具の中では高速回転を行いながら、先程入れた血が分離を始めているのだろう。


「これって、どれくらい掛かるの?」

「そうですね……。三分の一刻くらいでしょうか?」

「結構長いね。取り敢えず、他の作業に入ろうか?」

「畏まりました」


 日本でケーキを作るのは簡単だ。材料は全て加工済みの状態で売っているのだから。

 だが、ここではそうでは無い。

 生クリームとバターもそうだが、小麦粉も小麦を挽いて粉にする所から始まる。


 と言う事で、小麦粉作成である。

 先ずは、小麦を畑から収穫しに行く。

 途中、ライトフェアリー達の襲撃もあったが、無事に小麦を収穫した二人は再び調理場に戻って来ていた。


 まず、小麦の付いてる砂などを綺麗に魔法で取り除く。

 まず行うのは精選だ。

 これは、小麦の中から傷んだや、砂などの不純物――夾雑物(きょうざつぶつ)――を取り除く工程で、これを疎かにするとフワフワした食感が消えてしまうそうだ。

 パンよりも食感は大切な為、この工程はしっかりと行う。実際には、ミミが精選の魔法を編み出してくれた為、そこまで時間が掛からずに終了する事が出来た。

 お次は調質工程と呼ばれる、小麦の水分の調整を行う工程だ。

 本来は水を加えて寝かせる事によって、小麦に含まれる水分を十五パーセント程度まで引き上げる物だ。しかし、ここは魔法がある世界である。ミミがあっという間に十五パーセントの水分量まで引き上げてしまった。


 水分量を調整したら次はメインの粉挽きなのだが、この工程をカケルは石臼で行うと考えていた。だが、これはミミから待ったが掛かる。

 単なる石臼の場合、小麦粉として使用する胚乳(はいにゅう)以外の異物である表皮が一緒に挽かれてしまう問題がるのだ。これをそのままにすると、次の工程の(ふるい)に掛けたとしても細かい粒が混ざってしまい、味に雑味が出てきてしまう。

 そこで現代の日本では、石臼では無くロール機を使用している。これを利用する事で表皮が砕かれる事を最小限に抑えれる事が出来、篩に掛けた時にゴミとして取り除きやすくなるのである。

 と、長々と説明しながらミミは馬鹿デカイ魔道具を完成させていた。つまりはロール機である。

 正確には、ロール機と篩とその後の純化工程と呼ばれるピュリファイアー機能を備えた、この世界ではオーバーテクノロジーの塊である精製魔道具であった。

 投入口から精選された小麦粉を入れて稼動させると、幾つかの工程を経て上質な小麦粉が出口から出てくると言う生産率が劇的に向上する物である。

 但し、一つだけ弱点があった。それは――。


「主様、申し訳ありません。手持ちの魔石で、この魔道具に耐える事が出来そうな物がありませんでした」


 そう。魔道具のエネルギー源である魔石の中に合う物が無かったのだ。

 言うなれば、二十アンペアの家庭の電源を使って、一万ワットの機械を動かそうとする様な物だ。一瞬なら動くかも知れないが、あっと言う間にブレーカーが飛ぶだろう。

 そんな出力に耐える事が可能な魔石が無く、なんとカケルが手回しで動かす事になったのだ。

 まあ、アンデッドの疲労しない肉体なら、長時間のハンドル回しもお手の物であろう。


 ギリギリと音を発しながら、未完成の精製魔道具が稼動する。

 魔精製道具を通って精製された小麦粉は、魔道具出口に置いてある大きなお皿が受け止めてくれる。

 カケルはサラサラと落ちる小麦粉の音を聞きながら、無心になってハンドルを回していた。


 ワンホールのケーキに必要な小麦粉の量は、三十センチ台で二百グラム程である。

 では、その小麦粉一グラムを確保するのに必要な小麦の量を知っているだろうか?

 答えは、凡そ十グラムである。

 つまり、二百グラムの小麦粉が欲しいならば、二キロ程の小麦を収穫して精製魔道具で処理する必要がある。

 この比率の為、小麦だけは別畑に相当な量が植えられていたりする。

 そしてカケルが無心に回す理由でもあるのだが、今回作ろうとしているケーキの量は十ホールである。

 先の三十センチ台で作ろうとしている為、必要な小麦粉の量は二キロにも上る。

 だが、手回しの精製魔道具は非常に大きい為、手回しハンドルを回す速度よりも稼動速度は非常に遅い。

 どれくらい遅いかと言うと、百グラムの小麦粉を挽くのに平均十分も掛かるのだ。

 つまり、二キロの小麦粉を全部精製するのになんと五時間は掛かる事になるのだ。


 カケルとしては、何故手回しなんだと言いたいのだが、対応している魔石が無いと言われれば引き下がるを得ない。

 カケルでは小麦粉を挽く機械は疎か、石臼の様な単純な挽き道具の構造すら正確に把握して無い為、自分で作る事すら出来ないのだから……。


 時折思うんだけど、僕ってミミに嫌われているのかなぁ……?

 主様って言う割には扱い雑だし、結構酷い事言われてる気がするんだよねぇ……。

 まあ、確かに今回は魔石が無いからって事だから仕方ないとは思うんだけど、ミミならもっと他の方法も思い付いたと思うんだよねぇ?

 もしかして、僕への嫌がらせだったり? でもなぁ……。怒らせた覚えは無いし、結構仲良く出来てると思うんだけど……。


 そう思ってカケルは、精選をしているミミの方をチラッと見る。


「どうしましたか?」

「いや、何でもないよ」


 カケルは誤魔化しながらも、再び苦行へと戻る。


 時間の感覚があやふやになって来た頃、やっと精製が終了し次の作業へと進む。


「遠心分離機の方はそろそろ良いかな?」

「そうですね。一度見てみましょうか」


 遠心分離機から血液を取り出すと見事に分離を果たしており、血漿(けっしょう)と赤血球などに層が分かれているのが見て取れた。


「成功なのかな?」

「はい、問題無いと思います」

「じゃあ、次は牛乳を使った本番だね」

「はい。先ずは――」


 ミミはクリーンの魔法を使って、遠心分離機の中身を綺麗にした。

 これが、日本では難しいテスト方法の理由である。血で汚れた遠心分離機の中身を、完全に新品の状態まで戻せるのだ。

 勿論、気持ち的に嫌だと言う事もあるかも知れないが、ミミは元よりカケルも血くらいでガタガタ言う気は無かった。


 新品の状態に戻った遠心分離機の投入口から、ミノちゃんから受け取った牛乳を全部入れる。

 そして緑色のボタンを押すと、遠心分離機が稼働し始めた。


「よし、牛乳は放っておいて次の作業に移ろう」

「はい」


 カケル達は次の作業へと移行する。

 カケルは挽きたての小麦粉を篩に掛け、しっかりと細かい小麦粉を使うように心がける。

 その間にミミはフルーツのカットである。ケーキに挟めるようなサイズまで細かくカットして行く。


 その後は遠、心分離機の作業が完了するまで一旦休みである。

 牛乳が分離を起こしたら、生クリーム部分を掬っておく。

 残った脱脂乳部分は、保管しておいて今後使う事にする。

 生クリームは、半分を更に相分離させてバターミルクとバターに分離させる。

 この事からも分かるように、バターとは生クリームからバターミルクの水分部分を取り除いた脂肪分多めの固体の事なのだ。


「ふう……。下拵え可能な部分はこれで全部かな?」

「ですね。後はキーリ様が帰って来てからです」

「うん、じゃあミミ材料の保存お願い」


 ミミは下拵え済みの材料を、全て魔法で収納した。

 これで賞味期限切れとは、無縁になった訳だ。


「ありがとう。僕らもキーリが帰って来るまで、あの子達と遊ぼうか?」

「はい」


 カケルとミミはツィードと遊んでいる、ライトフェアリー達の元へと向かった。


 そうして暫く遊んでいると、キーリが帰って来たようだ。


「皆戻ったぞ」

「キーリお帰り!」

「キーリちゃん、お帰りやな」

「キーリ様、お帰りなさいませ」

「おお、キーリ姉ちゃんお帰り~!」「キーリお姉ちゃんお帰り!」「キーリ帰って来た!!」

「ああ、ただいま!」


 一通り挨拶を終えたキーリは、早速戦利品を取り出す。

 砂糖一ガロンと金貨二百枚である。


「これが砂糖ですか……」

「うーん、色合い的に少し不純物を含んでいそうだね」

「けったいな色やなー」

「お砂糖?」「甘いの?」「ケーキ!!」


 砂糖に不純物が多いのは仕方無い。あの真っ白な砂糖と言うのは、精製にかなりの技術が必要になるのだから。


「これでケーキが作れるのか?」

「うーん、多分……? いつも使ってたのはグラニュー糖だから、上手く行く家は分からないかな」


 恐らく、不純物の量だけ雑味が感じられる事だろう。

 だが、それに関しては作ってみないと何とも言えないのだ。


「カケル坊、今から作るんか?」

「まあ、作らない訳にはいかないよねぇ」


 カケルは苦笑しながらツィードの質問に答えた。

 何故なら、ライトフェアリー達がケーキってどんな味なんだろうとか、どれくらい甘いんだろうとか、目をキラキラさせながら話してるのだから。


「せやったなぁ。なら――」


 ツィードが光に包まれる。


「――ワイも手伝うで!」


 関西弁が全く似合わない美丈夫がそう言った。


「うん、助かる。キーリは帰って来て早々だけど、ライトフェアリー達と遊んでいてね」

「――分かった」


 キーリは戦力外通告である。

 致命的なミスが起こるよりは、ライトフェアリー達と遊んでもらっていた方が何倍も良い。

 今回は特にケーキの為、割りと繊細な作業である。その為、不確定要素は排除する運びになった。


 さあ、久々にケーキを作りますか!


「ミミはホイップクリーム作り、ツィードは僕と一緒に生地作りをするよ!」

「了解や!」

「主様、分量は如何致しますか?」

「そうだね――。生クリーム二百ミリリットルに対して、砂糖は二十五グラムでお願い。作るのは生クリーム二リットル分で!」

「かしこまりました」


 グラニュー糖なら二百ミリリットルに対して二十グラムなのだが、砂糖の不純物の量だけ甘さが控え目と考え量を増やす事にした。


「じゃあ、僕らも作ろうか!」

「せやな!」


 生地は小麦粉に溶き卵と砂糖を加えて、オーブンで加熱した物である。

 なので先ずは、溶き卵作りである。


 カケルは卵の一つを持ちながら、ツィードに話し掛けた。


「何度見ても大きいよね……」

「せやなぁ。ピヨちゃんもやけど、コカトリス種全体が大きな種族やからなぁ……」


 初めてダチョウの卵を見た時の驚きは凄かった。

 こんな大きな卵があったのかと思ったんだ。

 でも、コカトリスの卵はそんなダチョウの卵と比較しても巨大過ぎた。特にピヨちゃんの卵が……。


 カケルが持っている卵が、どれくらい大きいかと言うと、一般的に売られているスイカの大きさを超えていた。

 それは持つと言うよりも、抱きかかえると言った大きさで、重量も十キロは軽く超えているだろう。


「うーん、これもしかすると卵一つで十分かも知れない」

「そうなんか?」

「多分……」


 正直、大き過ぎて量が分からなかったので、試しに鑑定をしてみる事にした。


「”鑑定”!」


名前:コカトリスの無精卵

品質:最高品質

説明:コカトリスの卵。

 有精卵は直ぐに孵化し、無精卵はコカトリス自身が食べてしまう為、他の種族が卵を得るのは非常に難しい。

 味わいは非常に濃厚で、鶏卵と比較すると数十個を濃縮した様な味がする。

 コカトリスが孵化するまでに掛かる時間はたったの一週間であり、無精卵の場合は数日で食べてしまう。

 なお、卵の量は鶏卵二千個程に相当する。


 に、二千個!?

 予想以上に多いぞこれ!?

 どうしよう……。


 ケーキの生地に使うのは、精々ワンホールで鶏卵六個程度だ。

 十ホール作るとしても六十個分、千九百四十個分は要らない計算になる。

 流石に消費仕切れないだろうと思ったカケルは、大きさが少しでも小さそうな卵を探しながら鑑定をしまくった。


 そして見つかったのが、他と比べると明らかに小さな卵だ。

 小さいと言っても、鑑定の結果鶏卵千個分はあるらしいが……。

 何れにせよこの卵を使うしかない為、巨大なボウルに卵を割り入れた。


「ツィード、卵を掻き混ぜるよ! はい、コレ!」


 そう言ってカケルは、即席の手動タイプの泡立て器をツィードに渡す。

 ボウルの大きさも去ることながら、泡立て器の大きさも特大級である。

 卵一個分とは言え、鶏卵に直したら千個分である。


「マジか……。カケル坊、これで混ぜるんか……?」

「うん。別に他の方法があるならそれでも良いけど、僕はそんな方法持ってないからねぇ」

「はぁ……。さよか……」


 ツィードは人化をすると、泡立て器を受け取り巨大なボウルへと突き立てた。


 カケル達の腰くらいの高さが有りそうなボウルと、ツィードと一緒に格闘する事六分の一刻程だろうか?

 やっと溶き卵になった事に、カケルもツィードもゲンナリとしていた。


「やっと、終わった……」

「せやけど、まだあるんやろ……?」

「うん……」


 仕方無いとボヤきながらも、次の作業を行う。

 溶き卵が出来たら、凡そ九十五パーセントを回収し残り五パーセントを生地の材料とする。

 九十五パーセントの溶き卵は別容器に移しておき、後でミミに回収して貰う予定だ。

 残りの五パーセントに入れるのは小麦粉である。

 小麦粉はワンホール当たり二百グラム、従って今回は二キロ物小麦粉を投入する事となる。


 そんな大量の小麦粉を、少しずつ加えながらダマにならない様に丁寧に混ぜる。

 なお小麦粉を入れるのはツィード、カケルが混ぜる役であった。


 ゆっくりとしっかり生地を混ぜる事、六分の一刻程。やっと粉っぽさが無くなって来た為、カケルは生地の状態を確認する。

 生地に問題の無い事が分かると、先程作ったバターを熱して生地へと混ぜ込む。

 バターとの分割が無くなったら、生地の完成である。


「終わったーー!!」

「あぁ、ワイ等は遣り遂げたんや!!」

「まぁ、まだ生地焼きと生クリームを塗ったりする作業は残っているけどね……」


 そんな会話をしていると、二人にミミが近付いてきた。


「やっと終わったんですか? 待ち草臥(くたび)れましたよ」

「え? もうホイップクリーム出来たの?」

「何言ってるんですか? もう結構な時間経ってますよ?」


 本来は生クリームの方が作るのは重労働の筈なのだが、今回は生地の作成に時間を掛け過ぎたようだ。

 それはそうと、ミミが作った生クリームを確認する。


「えーと――」


 ミミが作ったホイップクリームは見事に角が立っており、尚且つ柔らかさを残していると言うかなり良い状態だった。


「うん、問題無いね。コレはこっちで冷やしておいてっと……。じゃあ生地の焼きに入ろうか!」

「よっしゃ、焼くで~!!」

「かしこまりました」


 生地を焼く作業は本来オーブンで行うのだが、この場所にそんな便利な物は無い為ピザを作るような形の窯で焼く事になる。


 先ずはバターを容器に塗ってと……。


 カケル達全員でホール容器にバターを塗る作業を行う。十ホールなので、そこまで時間は掛からない。

 因みにミミはいつも通りに真っ黒な手を、肩から生やしていた。


 それが終わると、今度は窯入れになる。

 窯に火をくべると、音を発しながら炎の勢いが増して来る。

 そして十分に窯が熱せられたのを見計らって、先程の生地を窯の中へと入れる。

 作ったばかりの窯の為本来は試し焼きが必要だが、今回は鑑定を利用した簡単な方法で行う。


「”鑑定”!」


名前:ケーキの生地

品質:普通

説明:ケーキを作る際の下生地。何物にもなり得る可能性を秘めた、汎用性が高い生地である。現在は生焼け状態。


 この説明文を使って、火が通ったか確認するのである。

 暫く生地の状態を見ながら鑑定を行っていると、鑑定結果に変化が表れた。


説明:――。現在は半焼け状態。


「後少しかな?」


 更に焼いた後に、カケルは生地へ鑑定を掛ける。


説明:――。現在は丁度良い焼き加減。


「よし! 周囲にあるソレとソレ。後、そっちも焼けたから取り出して!」

「分かった、コレやな!」

「あちらですね?」

「そう! 取り出した生地は容器の周りを外して、中央辺りから水平に二つに切っておいて! 後は――」


 カケルはそう言うと、幾つかの道具を二人に渡した。

 指示を受けたミミとツィードは、窯の中の火が通りやすかった位置にあった、しっかりと火が通った三個の生地を取り出す。


 更に生地の周囲を囲う容器を、ゆっくりと取り外す。生地とくっついて取れない場合は、渡された道具のパン切り包丁を使って切り離した。

 続いて露出した生地の中央にそって、先程の包丁で切り分けていく。

 加工した生地は、一旦熱を冷ます為にそのままテーブルに放置である。


 そんな作業をしている間にも、カケルから焼き上がった生地が回されて来る。

 そんな全ての生地の加工が終わると、既に冷めていた生地から下部容器の取り外しと、クリームを塗ってフルーツを挟む作業へと移行する。


「手本を見せるから、クリームを塗るのと用意していたフルーツを挟んでね」


 そう言ったカケルは上の生地をお皿の上に退かすと、容器から生地を切り離してから生地の表面にクリーム用のナイフの様な物でクリームを塗り始めた。

 その後、生地の上に満遍なくフルーツを並べて行く。

 因みに今回用意したフルーツは、キウイ、パイナップル、イチゴ、桃の四種類である。

 毎度の事ながら色合いがおかしかったりするが、基本的な味に変わりは無かった。


 フルーツが並べ終わると、その上かクリームを塗りたくってフルーツ自体を覆い隠す。

 そしてその上から、先程の上生地を元の形に戻る様に置いた。

 置かれた生地の表面にクリームを塗り、割れ目もクリームをパテの様に使って覆い隠す。


「こんな感じかな。取り敢えずここまでやってみようか?」

「了解や!」

「畏まりました」


 それから、三人で生地の加工を進める。

 ケーキの作成などした事無いだろうに、ミミもツィードもかなり綺麗にクリームを塗っている。

 そして特に突っ掛かる事も無く、十ホール分のクリーム塗りが完了した。


「よし、じゃあ後は仕上げだね! 形が綺麗なフルーツと、こうやって――クリームでデコレーションしたら完成だよ!」

「おぉ! 結構綺麗になるもんやな!!」

「中々綺麗に出来てますね」


 カケルはデモストレーションをして見せると、ミミとツィードに絞り袋を渡しながらやってみてと言った。

 デコレーション様に使う絞り袋の先端はカケルが精製し、袋のビニール部分は嘆きのラットの胃袋で代用して作ってある。

 獣臭いデコレーションになりそうだが、綺麗に洗って使用してる為そこまで酷くはならないだろう。


「出来ました」

「どれどれ?」


 ミミがデコレーションしたケーキは、めちゃくちゃ綺麗に出来ていた。

 カケルが手本で見せたデコレーションのやり方を守りつつ、中々ファンシーな感じにデコレーションがされていた。

 ハートや花を示す様な模様が描かれており、なんと言うか非常に女の子らしいデコレーションだった。


「え? これミミが!?」

「何か文句がありますか?」

「いえ、有りませんとも!」


 カケルはミミのデコレーションを見た時に、余りのイメージの違いからミミの顔を二度見して尚且つ疑問の声を上げてしまった。

 直ぐに睨まれて、否定の言葉を口にはしたが……。


「分かってますよ。私に似合わない事くらい……」

「あ、いや、その……」


 カケルの対応にミミが俯いてしまい、辺りに微妙な空気が流れた。

 そんな空気を打ち破ったのは、ツィードだった。


「おぉ! ミミちゃんのデコレーション可愛ええなぁ! ワイのはこんなんやで? ミミちゃんと実力差があり過ぎて泣けてくるわぁ……」


 そう言ったツィードのケーキは、デコレーションと言って良いのか疑問な形だった。

 カケルが目に入れて、最初に思った感想はモンブランである。

 細い糸状のクリームがケーキの上をのたうち回っており、理解不能な模様を描いている。

 渡した絞り袋を使ってどうやったんだと聞きたくなる様な細い糸は、ケーキの上部だけで無く側面も覆い隠しており、なんとも言えない言い難い雰囲気を出していた。


「ツィード、凄いね……」

「これは何の絵ですか?」

「これは、ライトフェアリー達が遊んでる姿や!」

「ライトフェアリー……」

「これが……?」 


 ピカソでも、もう少し分かり易い絵を描くのではなかろうか?


「せや! ミミちゃんには及ばんへんし、ちょっと失敗したんやけど、そこそこ()い線行ってるやろ?」

「そこそこ……?」

「好い線ですか?」


 初めて判明した、ツィードの絵心の無さに二人は唖然とした。

 ソレは子供の落書きなんかよりも余程酷く、少なくとも二人には答えを効いて(なお)、その絵の輪郭すら捉えられなかった。


 まぁ、変なデコレーションだとしても、味にそこまでの変化は無いんだけどね。

 とは言え料理の見た目も重要だし、ツィードはデコレーションから外れて貰おうかなぁ……。


 目を瞑って食べたら、どんな綺麗なデコレーションも、どれだけ嫌悪感を抱きそうなデコレーションでも味は同じになる。

 だが逆に言えば目を開けて食べれば、それ相応の味への影響が出るのである。

 それを身を持って知っているカケルとしては、出来れば最低限のデコレーションで飾ってあげたかった。


「――って事で、残りのデコレーションはミミに一任したいんだけど……」

「何でや!? ワイも頑張ったやないか!!」

「ツィードは黙ってて! ミミ良いかな?」

「はぁ……、分かりました……」

「よし!」

「カケル坊何でや!? 何でや!?」

「あぁツィード、邪魔になるからあっちで話そうか……」


 あれだけ変な絵を書いて尚食い下がって来るツィードを、適当にあしらいつつミミの邪魔にならない位置まで移動する。


 はぁ……。ツィードはあんなにイケメンなのに、色々と残念過ぎる……。


 カケルに問い詰めて来るツィードは人化している為非常に容姿が整っており、カケルが前世の姿でここに紗耶香が居れば喜びそうな光景だった。

 実際には片方は骸骨で、片方は似非関西弁を使う美丈夫と言うシュールな光景なのだが……。


「ええっと、ツィード。僕達はミミがデコレーションしている間に他の物を作るよ? だからデコレーションは、ミミに任せておこうよ!」

「お? まだやる事があるんかいな? それなら、しゃあないなぁ……」

「うん。前に僕が取ってきた葉っぱの事覚えてる?」

「ああ覚えとるで! 確かあれやろ? 紅茶の材料になるんやっけ?」

「うん、ケーキと言えば紅茶だからね。僕等は魔法で紅茶の葉を加工するよ!」

「了解や! ワイの魔法捌きをカケル坊に見せたるわ!」


 紅茶。遥か昔からヨーロッパの人々に楽しまれてきた、やや赤みを帯びた茶色いの綺麗な飲料である。

 茶葉はダージリンやウバ等の有名どころから、ヌワラエリアやディコヤ等の余り知られていない物まで様々な種類があり、それらのブレンドを加えると数え切れない程の種類になる。


 茶葉の加工の工程は萎凋(いちょう)揉捻(じゅうねん)、発酵、乾燥、等級区分分け、配合に分かれている。

 最初の萎凋とは茶葉の余分な水分を蒸発させる事で、茶葉の水分の四割ほどを飛ばす工程である。

 次の揉捻とは茶葉を揉む事によって、茶葉の細胞組織を砕いて葉の形を整える工程だ

 その後に発酵を行い、鮮やかな赤褐色となり芳醇な香りが発せられるようになる。

 これを乾燥させれば、荒茶の出来上がりだ。

 その次の等級区分分けとは荒茶を篩に掛けて形やサイズを揃える事で、この工程では茎や挟雑物を取り除く作業も行う。

 最後の配合は同じ場所の茶葉でも収穫時期などによって色や香りが異なるのを、安定した品質や価格にするために行われるブレンドの事である。


 これが本来のやり方なのだが、今回は工程が面倒な為まとめて行う事にした。


「じゃあ、茶葉を細かくしながら熱を加えて乾燥させようか」

「了解やで!」


 使う魔法は火と風の属性魔法である。

 二つの属性を使って熱風を作り出し、風の魔法使って細かく切り刻んで行く。

 本来は発酵が必要なのだが、今回は時間が無い為無視である。


「ツィード流石だね! 魔法の扱いも一流だよ!」

「伊達に長生きはしてへんからなぁ。ミミちゃんには敵わへんけど、ワイもこれくらいは出来るんやで!」


 そう言ってツィードは、更にもう一つ魔法を使った。

 ツィードの目の前に現れたのは、モヤの様な煙とも暗闇とも取れる変な物である。

 それは茶葉に近付いたかと思うと、浮かんでいる茶葉を包み込んだ。


「ツィード!?」

「まぁ、見とるんや」


 その闇は暫く茶葉を包み込んだと思うと、フッと掻き消え茶葉だけが残った。


「あれ? さっきよりも色が濃くなってる?」

「発酵言うてたやろ? せやから、茶葉の時間を進めてみたんや!」

「は!?」


 茶葉の時間を進めた? それって時間を操ったって事!?


「まあ、制限は多い魔法やけど、茶葉相手なら十分使えると思うで?」

「いやいや! 時間を操るとか凄すぎでしょ!!」

「せやかて、ミミちゃんも操ってるやん?」

「ミミも……?」

「せやで。牛乳や卵をミミちゃんが魔法で入れてたやん」

「もしかしてストレージの事?」

「それや! あの魔法は時間停止してるやんけ!」


 ああそうか。ストレージって当たり前のイメージがあったけど、時間停止と考えると凄い魔法なんだよな……。


「成る程ね。じゃあ、時間促進の魔法も結構メジャーだったりするの?」

「うーん、どうやろか? 利用場所が限られそうやからなぁ。人間達は良く使うんやろか?」

「あぁ、確かに……」


 因みにツィードに聞いてみたところ、ある程度のサイズの生物に掛けるのはかなりの実力が無いと厳しいらしい。

 つまり基本的には無機物、若しくは細菌レベルの小さな生物限定で行う事となる。

 そうなると、利用出来るのは発酵と培養目的くらいだろう。

 まあ応用は兎も角、茶葉の加工に便利なのは間違い無い。

 と言う事で、どんどん使って貰おう!


 葉を切り刻むのはカケルも出来た為、発酵の部分をツィードに任せて分担作業だ。

 暫く続けると、必要な茶葉の加工が終了する。


「主様、デコレート終了しました」


 丁度ミミも作業が終わったようだ。

 ケーキを一ホールと茶葉を五人分程だけ残して、残りはミミに仕舞ってもらう。


 ケーキは即席で作って氷室に入れておき、カケルは昼ご飯の作成に入った。

 ケーキは食後のおやつの予定だ。


 昼ご飯は、嘆きのラットとソードローカストを、ブドウの果汁で軽く煮詰めて、塩と胡椒で味を整えた物である。

 カケルはツィードと一緒に手早く料理を作ると、食堂のテーブルへと料理を並べた。


「さあ、召し上がれ! 今日はこの後にデザートもあるよ!」

「デザート?」「デザートって何?」「何か聞いた事がある様な?」


 詳しい話を聞きたがるライトフェアリー達を諌めて、カケルは食事に集中させた。

 料理自体は、いつも通りに満足してくれた様だ。


 さあ、ここからが本番だ!

 皆で作ったケーキに打ち震えるが良い!


 先ずは紅茶のセッティングである。

 いつも通りの歪なカップとソーサーを皆の前に出すと、皆が食べてる間に沸かしておいたお湯で紅茶を注いだ。

 そして、中央には砂糖を器に移して置く。


「これは何?」「茶色い汁?」「何か良い匂いがする!」

「カケル、これは?」

「紅茶だよ! 香りを楽しむ飲み物で、味は殆ど無いからこの砂糖を混ぜると良いよ」


 それを聞いたキーリは、カップに鼻を近付けて香りを確認する。


「確かに良い香りがするな」

「でしょ?」


 そのままキーリは、カップに口を付ける。

 その後に今度は砂糖を入れて、再び紅茶を口に含む。


「悪く無いな……。単なる水を飲むより余程面白い」


 どうやら、キーリは紅茶を気に入ったらしい。


 彼女の言葉を聞いた、周りの人達も紅茶を口にし始める。

 味が無い事に不満なのか、不味そうな顔をしてる者や、砂糖の美味しさに取り憑かれてドバドバ入れてる者まで様々だ。

 その中でも不思議な光景に見えるのは、ツィードとミミの非人型コンビである。

 ミミはいつも通りに黒い腕を出して、紅茶を美味しそうに飲んでいる。

 一方のツィードは、どう言う原理か分からないがカップが宙に浮いており、そのカップを傾けて紅茶を飲んでいるみたいだ。


 さてさて、紅茶ばかりを飲んでもらっては困る。

 紅茶は飽く迄もケーキに合わせた飲み物なのだ。

 カケルは少し速歩きで、ケーキを入れた氷室に向かった。

 そして、蓋をした状態のケーキを手に持って来る。


「カケル、それが例の物か?」

「うん、その通りだよ」

「何々、何の話?」「食べ物?」「もしかしてお菓子!?」

「その通りだよ!」


 ライトフェアリー達の質問を答えながら、ケーキのお皿を机の中央に置いた。

 そして、徐に蓋を取り払った。


「「「おおぉーー!!」」」


 例のお菓子と言う事に、子供達のテンションは急上昇だ。

 カケルは手早くケーキを切り分けると、皆の前の小皿に取り移す。

 そして――。


「さあ、召し上がれ。結構甘いと思うから、紅茶と一緒にどうぞ!」


 カケルがそう言うと、一斉にケーキを口へと運ぶ。

 その瞬間歓声が上がった。


「「「美味しい!!」」」


 良かった。どうやら、お口にあったみたいだ。

 正直食べられないのは残念だけど、こればかりは仕方無い。

 食べたとしても、肋骨あたりが全部出て来てしまうのが関の山だ。


 そんなカケルの気持ちとは違い、ケーキと紅茶の組合せは大成功に終わった。

 最初は味が殆ど無い紅茶に顔を(しか)めていた子達も、ケーキと一緒に味わう事で満足したらしい。

 逆に最初に紅茶に砂糖を入れ過ぎた子達は、途中から(くど)くなって来たらしくグロッキーになっていた。


「今度は砂糖入れないもん!」「美味しかった!」「また食べたい!!」

「私もまた食べてみたいな」

「ワイもや!」

「私も食べたいです」

「うん! まだあるから、ちょくちょくデザートで食べてみようか」

「「「やったーー!!」」」


 最初はカケルが、不用意に零した言葉から始まった。

 それを成す為に、随分と苦労したものだとカケルは思う。

 砂糖をキーリに頼んで買って来て貰い、牛乳と卵を微妙な気持ちになりながら入手し、遠心分離機や氷室、ソーサー等の新しい調理具も作成した。

 実質的に掛かったのは三日程度だったが、気持ち的にはもっと掛かった気がしていた。


 でもまあ、苦労した甲斐はあったかな?

 さあ、次はお待ちかねの硝石を取りに行こうか!!

無駄に長くなってしまった気がしますね。

それは兎も角として、後数話で第一章が終わると思います。

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