キーリのお使い ~聖獣の送別会~
想定以上に長くなりすぎて、この話で終わりませんでした……。
「集まったな? 野郎共!」
「「「おう!!」」
「今日はキーリの送別会だ! ボコボコにされた奴も、けちょんけちょんにされた奴も存分に騒げや!! つう訳で乾杯!!」
「「「乾杯!!!」」」
その大声に酒場の壁が僅かに揺れた
ここは月と太陽の宿と言う、マリクスとミランダが経営する宿屋兼飲み屋である。
ティザークやシェーラを招くに当たって、下手な飲み屋にする訳にもいかなかったのでティザークの昔馴染みが居る場所が選ばれたのだ。
「酷い挨拶だな……」
「まあ、仕方無いじゃろう。キーリとの思い出なんて、ボコボコにされた記憶くらいしか無い奴等ばかりだからのう」
あまりの開始の挨拶に、キーリとローグは苦笑を浮かべた。
「キーリさん! どうして、もう帰っちゃうんですか!? まだ、スキンケアの方法教えて貰って無いのに!!」
「エルティナ、もう酔っているのか?」
「酔ってないです~」
エルティナがキーリに垂れ掛かりながら、思いの丈をぶちまける。
だが酔ってないと言いながら、エルティナは既に顔が赤くなっていた。
「スキンケア? 何の話だ?」
「惚けないで下さい! キーリさんのお肌の秘密ですよ!! そんな綺麗なお肌をしていてズルいです!! 私も綺麗なお肌になりたいの!! でもこの頃――」
そこから先はただの愚痴に変わっていき、キーリは困惑しながらも聞き手に専念していた。
そんな彼女達を尻目に、ローグ、ヴォルデルク、ボルマは関知せずとばかりに話していた。
「ヴォルデルクよ、砂糖の方は大丈夫なのかの?」
「はい、もう手配は済ませてあるので、後は待つだけですよ。それに最悪は両親が動いてくれますから」
「へぇ、手際が良いんだな?」
「えぇ、ボルマさん。ボルマさんの商売と違って薄利多売なので、手際良くやらないと赤字になってしまいますから」
ボルマの商売は一括千金と言う程に、一つ一つの売り上げが非常に大きい。だが一日に何個も売れる物ではないし、売上高も月によってかなりの差が出てくる。
一方のヴォルデルクの商売は生活に密着している為、数は売れるが一つ一つの売り上げは微々たる物なのだ。だが売れる数は安定しており、月毎の売上高の差もボルマほどは無い。
「ふーん、そう言う物か……」
「そう言えばあの娘っ子の姿が見えんが、連れて来ては居ないのかのぅ?」
「ニアは宿の子供達と遊んでますよ。後で皆さんにも挨拶させますね」
砂糖の手配が終わったヴォルデルクとヴェッツェーニアも、この飲み会に参加していた。
ヴェッツェーニアを始めとする子供達は、別の場所でお酒無しで食事しながら遊んでいる事であろう。
「――ですからね! 私は……」
「エルティナ、良い加減にするんじゃ! ヴォルデルクもキーリと話すのを待ってるんじゃよ?」
「何よ、お祖父ちゃん! 私だって、私だってね……」
キーリに絡んでいたエルティナは、ローグの一言で泣き始めながらローグに絡み始めた。
絡み上戸から泣き上戸と、忙しない酔っぱらいである。
何はともあれ解放されたキーリに、ヴォルデルクとボルマが苦笑しながら話し掛けた。
「キーリさん、大変でしたね」
「エルティナは、酔うと手が付けられんからなぁ……」
「あぁ、ヴォルデルクとボルマか……。正直参っていたところだ。スキンケアとか言われても全然分からないからな」
キーリは、スキンケアなどしていなかった。
顔を洗ったりはするものの、そもそものスキンケアの概念自体が無いのだから当たり前である。
顔を洗うと言うのも、正確に言うと水浴びをしてるだけで、スキンケアと言う概念が入りそうなものではない。
唯一有り得るとすれば、食事に美肌効果が含まれる可能性があるくらいだろうか?
「ははは、お疲れ様です」
「全くだ。エルティナはまだ若いのだから、肌のツヤを気にする必要は無いだろうに……」
キーリからすれば、此処に居る全員が年下だ。
キーリでも若いのだから、その年齢の半分にも満たない者達は、幼いとでも言うべきだろうなとキーリは考えていた。
その考えには、種族の寿命の違いが完全に抜けていたが……。
そんな事を考えているキーリに、ヴォルデルクが真面目な顔をしながら喋り掛けて来た。
「キーリさん、今日はお招き頂きありがとう御座います。もう帰られてしまうのは残念ですが、次に来た時はもっとしっかりとお礼致しますね」
「だから気にするなと言っているのに……」
「俺の方も次来る時までに、剣を完成させとくぜ? 楽しみにしておけよ!」
そこには気にするなと言いながらも満更でもない様子のキーリと、感謝を伝えて朗らかに笑うヴォルデルクの暖かな空間が存在していた。
ボルマも追従して剣の事を述べていたが、少し雰囲気を壊す発言だったかも知れない。
一方、エルティナが面倒臭い酔っぱらいと化していた時、ガルクとザランとゲヤルトは三人で集まって飲んでいた。
「なあ、ザラン。お前はキーリにどうしたら勝てると思う?」
「あのなぁガルク、お前が勝てないのに俺がどうこう出来る訳がないだろう?」
話題は三人ともある程度善戦しながらも、ボコボコにされたキーリとの模擬戦の事である。
「じゃあ、ゲヤルトはどうだ?」
「――キーリに勝つには、少なくとも彼女の防御を貫く必要がある……」
「ああ、確かになぁ……」
「だがよう、アイツの防御力半端じゃないぞ?」
ザランが戦った時もそうだが、かなりしっかりと入った一撃を特に何とも無いようにしていたのだ。
そんなキーリの防御力が普通の訳が無い。
「そうだな、彼女はホーリードラゴンだ。そもそも防御力を貫く事が出来るかも不明だ」
「だよなぁ……」
「全力の一撃が決まれば或いは……?」
そんな実りが無さそうな会話を、繰り返す彼等。戦いを生業にする者のトップに位置するだけあって、相手が伝説のドラゴンでも勝ちを探しているらしい。
飲みの席くらいもっと楽しい話題を話せば良いのにとも思われそうだが、彼等は戦闘馬鹿の集まりなのであれで良いのだろう。
また一方の他の場所では、意外な組み合わせの一行が居た。
「りょ、領主様!! この様な場所でお会い出来るとは、感涙の極みにございます!!」
「ご、ございます!」
「プライベートで来ているのだから気にするな。それに言葉遣いを気にする必要は無いぞ?」
「貴方は寧ろ気にするべきですね」
「シェーラ、こんな席で言わなくても……」
この場に居たのはワグナーと領主ティザーク、それに領主夫人のシェーラとワグナーの後輩のハンクだ。
完全に上司と部下の構図であり、その上司は伯爵だと言うのだからワグナーとハンクからしたら堪ったものではない。
ティザークの場合なら有り得ないだろうが、不興を買った場合ワグナー達平民は物理的に首を切り落とされる可能性さえ有り得る身分差があるのだ。
因みに彼等の愛娘のミリエラは、ニーナ、ナック、ヴェッツェーニアと一緒に遊んでいるので此処には居ない。
「――なのですから、貴方はもっと領主の自覚をですね……」
「ああ、ストップ、ストップ! ほら、ワグナーとハンクが困ってるじゃないか! その位で勘弁してくれ……」
「あっ! すいません、私とした事が……」
「い、いえ……」
「私達は別に……」
ワグナー達はそう言うが、領主夫妻のお小言を聞いて楽しむ趣味は彼等には無い。
そう言う訳で話はキーリの事へと移り変わる。
「ワグナーとハンクは、キーリと何処で知り合ったんだ?」
「はい。それは、キーリが連れて来たニアを通してですね」
「私は先輩を通じてです」
「ニア……? もしかしてそれは、ヴェッツェーニアちゃんの事かしら?」
「領主夫人様はご存知でしたか」
「当たり前よ。ニアちゃんは娘のお友達ですもの」
「そうなんですか!?」
シェーラがワグナー達に、ミリエラとヴェッツェーニアの関係性を説明する。
ミリエラ、ニーナ、ナック、ヴェッツェーニアの四人はかなり頻繁に遊ぶ親友である。
最年少のミリエラが五歳で、最年長のヴェッツェーニアが十歳とかなり幅があるが、仲良くやれている友達グループである。
男がナック一人の為、かなり彼の発言権が低くなっているが、それは小さな事であろう。
因みに、うーちゃんも混ざって遊ぶことが多い。
また、ヴェッツェーニアの兄のヴォルデルクは成人している為、彼等のグループに入る事は無い。どちらかと言うと彼は保護者の立場である。
せめて、彼が入ればナックの発言権も回復するのだろうが……。
「そうなんですか……。まさか、ニアがミリエラ様とご友人とは……」
「ニアちゃん凄いっすね!」
「ニアちゃんを、キーリ様が連れて来たと言うのはどう言う事なのかしら?」
「確かに気になるな。キーリとニアちゃんが知り合う機会があったのか?」
「はい。それが――」
ワグナーはその問い掛けに対して、キーリがニアを助けてくれた事を話す。
「まさか、助けられた住民と言うのがニアちゃんだとはな……」
「良かった……。ニアちゃんが助かってくれて……。キーリ様には感謝しないと……」
ティザークの元に上がる情報には、個人情報が含まれる事がまず無い。
仕方無い事ではあるが、娘の友人の事だったのに知らなかったのには少し思う事もあるのだろう。
「全くだ。キーリには個人的な借りが出来てしまったな」
そう苦笑しながら話すティザークは、領主としての顔では無く一人の娘を持つ親の顔をしていた。
そして続けて言葉を発した。
「最初聞いた時は一体どんなヤツが来るかと思っていたが、中々どうして人情味が溢れるヤツらしい」
「そうですよね。ホーリードラゴンなんて聞けば、誰でも驚きますから」
ヴェッツェーニアと言う共通の知り合いと、それを助けたキーリの話を通じて打ち解けて行き、彼等の席は伯爵と平民と言う身分差があるにも関わらず和気藹々とした雰囲気を出す程になっていった。
もう一つ、特筆すべきグループがある。
冒険者の中でも、特に異彩を放っているグループである。
彼等はキーリの方を向きながら、熱心に祈りを捧げていた。
「おぉ、神よ! 私共の前に、御遣い様を遣わせて頂き感謝申し上げます!!」
「「我ら一同、御使い様に信仰を捧げます!!」」
他にも怪しい言葉が飛び交っているが、彼等はホーリードラゴンを神の御遣いと信じている者達で、この都市の中では珍しく信仰心が非常に厚い。
恐らくキーリには聴こえているのだろうが、彼女の場合この声を無い物として扱っていた。
まぁ、自分が信仰の対象になった場合に、喜べる様な人物では無いのだから仕方無い。
面と向かって言われても、対処の仕方が分からなくなるのだろう。
今まで街中で彼等に拝まれなかったのは、キーリに迷惑を掛けないようにと言う心理が働いたからである。
だが、キーリが街から出て行ってしまうと言う事で、我慢出来なくなってしまったらしい。
彼等にとっては逃せないイベントなのだろうが、御遣い扱いされるキーリは良い迷惑である。
「のう、キーリよ。後からお主を拝む声が聴こえるのじゃが……」
「ローグ、気にしない方が良いぞ? 人間の中には毎回一定量、ああいう信仰を持つ連中が居るのさ。全く、私が神の遣いだった試しは無いのだがなぁ……」
「キーリさん! キーリさんはやっぱり偉い人なんですか!?」
「エルティナさん、少し飲み過ぎですよ?」
「キーリの身分なんて、どうでも良いじゃねぇか!」
エルティナの酔っぱらい具合は、更に酷くなっていた。
ヴォルデルクが諌めようとするが、当のエルティナはどこ吹く風である。
ボルマは諌めるまでも無く、美味しそうに酒を呷っていた。
「エルティナ、私に身分など無いぞ? ただそうだな。昔も人間を助けた時に、感謝だけじゃなくて信仰を捧げた輩が居たから、こう言う物は実力差が有れば生まれる物だと理解しているぞ?」
キーリの言は一部で正しくもあるだろう。
地球に於いても神聖視される動物は、強力な力を保持する肉食獣の事が良くある。
人間には無い、強力な力に魅せられるのだろうか?
世界が変わっても、同じ様に強力な生物を神聖視する事はあるのでは無かろうか?
それが友好的な生物であれば尚更であろう。
「昔も人間を助けた事があるんですか?」
「あぁ、昔な……」
キーリは言葉をやや濁しながら、そう答えた。
そんな言葉内を読み取ったのか、それ以上エルティナ達がその事について聞く事は無かった。
さて、一方の信者達だが祈りだけでなく何か呪文の様な物も唱え始め、非常に怪しい雰囲気を醸し出していた。
皆が思い思いに飲んでいる中、完全に異色の空間が出来ている。
その行動について注意する人が居ないのは、関わり合いになりたく無いからであろう。
彼等は信仰心が殆どない者からすれば、非常に面倒臭い連中なのである。
例えばお金第一主義の守銭奴からすれば、キーリは信仰対象等ではなく、お金が生物の形を成している様なものてある。
だとすれば、キーリに言うべきは祈りの言葉では無く、交渉の言葉や脅しの言葉である。
これは大袈裟にしても、大多数にとってホーリードラゴンとは伝説上のドラゴンであり、会えたら超ラッキーな生物くらいの認識しか無いであろう。
「我らが供物を御下に捧げ、我らが生に安寧を!」
「「「安寧を!」」」
「我らが魂は御身と共に! 我らが全ては神の御下へ!」
彼等も段々と熱が入って来ている。
只の信仰と言うには怪しすぎるのだが、別に彼等は邪教徒と言う訳でもなく一応善良な信徒である。
供物と言う事場が物騒な様に聞こえるが、これはただのお供え物の事である。
「キーリや、お前さん魂とか喰らうのかの?」
「喰らう訳が無いだろ!?」
「じゃが、あ奴らの言い分じゃと――」
最後に彼等とは、別の階に居るグループが存在する。
ヴェッツェーニアを始めとする、子供達のグループである。
「ああっ! ニアちゃん酷い! それアタシが狙ってた肉だよ!?」
「チッチッチ! こう言うのは早い者勝ちだよニーナ!」
ニーナの言い掛かりに口に肉を含ませながら、ヴェッツェーニアが反論する。
「うーちゃん、ナック君。このお肉おいしいね」
「きゅい!」
「ミリーちゃん!? そんな事よりニーナ達を止めないと!!」
ニーナとヴェッツェーニアが争っている隣では、ミリエラが頭にうーちゃんを乗せつつ、上品にお肉を頬張って味の感想を言っていた。
その隣のナックはニーナ達の争いにオロオロしながら、彼女達に静止の言葉を掛けようとしていた。
ニーナとナックは、この宿屋兼飲み屋の子供達である。
兄であるナックは最近八歳になったところで、エルフの血の影響か歳にしてはスラッとした体躯をしている。
明るめのグリーンの髪を少し長めにしており、少し気弱そうな青い瞳をしていた。筋肉は全く付いて居らず、雰囲気的には読書している姿が似合いそうである。
そんなナックの妹のニーナは、一つ下の七歳だ。
ナックとは打って変わり、強烈な意志の強さを感じさせる吊り目と、その燃える様な赤の瞳は印象に残りやすい。
髪はナックと同じくグリーンだが、やや茶色い掛かった髪色でポニーテールになっていた。
身長は年齢通りと言えるが、所々見える腕や足には年齢以上の筋肉が付いており、相当の運動をこなして来た事が伺える。
だが、歳上のヴェッツェーニアと比べると、どうしても小さな印象を受けてしまう。
彼等の年齢はヴェッツェーニア、ナック、ニーナ、ミリエラの順になっており、上から十歳、八歳、七歳、五歳である。
ヴェッツェーニアとナック、ニーナの兄妹は、親の商売上の付き合いから知り合った口で、ミリエラはマルクスとティザークが友人だった事から仲良くなっている。
お肉の取り合いも一段落すると、話題はホーリードラゴンであるキーリに向かう。
「そう言えば今日集まったのって、ホーリードラゴンをお見送りするなんだよね?」
ナックが疑問を投げ掛けた。
「そうね。兄さんの言う通り、今日は此処でホーリードラゴンの送別会らしいわよ?」
「そのホーリードラゴンって、どんな見た目なんだろうね?」
「ボクは会った事があるよ?」
「ミリーも!!」
「きゅーい!」
ナック達の会話に、ヴェッツェーニアとミリエラが参加する。
恐らくうーちゃんも、会った事があるとでも言っているのだろう。
「そうなの!? ニ、ニアちゃん、どんな見た目だった!?」
ヴェッツェーニアの言葉に、少し声を上擦らせながらナックが聞き返した。
ミリエラも知っていると言うのに、聞いたのはヴェッツェーニアにのみである。
「どんなと言われてもなぁ……。なんて言うか綺麗なお姉さんだったよ?」
「キュイ、キュイ!?」
「きれいなお姉さん?」
何故かうーちゃんが首を振っていたが、ナックの目には入らなかった。
「そそ! 角と羽根はあるんだけど、基本的にはボク達と変わらない感じかな?」
「むぅ……。ミリーも見た事あるのに……」
「何か気になるね! 今下に居るんだよね? 皆で見に行かない?」
ワクワクした様子でニーナが提案した。
「だ、駄目だよ! 母さんに此処に居るように言われたじゃないか!」
「キュウ、キュイ!!」
「平気よ! お母さんも忙しくて、アタシ達まで手が回らないわ。今の内に抜け出せば気付かれないわよ!」
ニーナの言葉をナックが静止するが、ニーナはその言葉を軽くあしらってしまった。
「ミリーも行くの!」
「そう言う事ならボクも行くよ」
「きゅー……」
更にミリエラとヴェッツェーニアも賛成してしまい、多勢に無勢となったナックには為す術は無かった。
さて、そんなこんなで階段を降りてきた一行は、近くにあったテーブルに身を潜めながらホーリードラゴンであるキーリを探し始めた。
「さーて、綺麗なドラゴンのお姉さんはどこかな?」
「うーんと……。あっ! 居た!」
ヴェッツェーニアが指し示した先には、エルティナを椅子に寝かしながら膝枕しているキーリの姿があった。
「どこどこ!?」
「ほら、あの奥から二番目のテーブルの角と羽根が生えた人だよ!」
「あの人がホーリードラゴン……?」
「キーリお姉ちゃん、今日も綺麗だなぁ……」
「きゅう、キュイ……」
そんなに騒いでいて、他の人に見つからない訳が無い。
近くの大人は騒ぎの元凶が子供達であると認めると、やや頬を緩めた後に気付かないフリをしていてくれた。
「ねぇ、もう少し近付いてみようよ!」
「ええ!? ニーナ、これ以上近付いたらバレちゃうよ!」
「少しくらいなら平気よ!」
「ニーナちゃん、キーリお姉ちゃんのとこ行くの?」
「キュッ!?」
ニーナに対して、ミリエラが頸を傾けながら問い掛けた。
「そうよ! ミリーちゃんも行くわよね?」
「うん!」
ナックの説得も虚しく、彼等はキーリのテーブルへと近付いて行く。
彼等の気分はスニーキングミッションだが、全くスニーキング出来ていないし周りにはバレバレだった。
そして遂に、テーブルを一つ隔てた向こう側にキーリの姿を捉えた。
『後ろ姿しか見えないじゃん!』
『うーん、ボクも見えないなぁ……』
『もう止めようよ!』
『キーリお姉ちゃん、こっち見てくれないかなぁ?』
『キュイ』
小声で話していたヴェッツェーニア達だが、キーリからは丸聞こえだった。
「おいニア、ミリエラ! コソコソしてないでこっちに来たらどうだ?」
キーリはヴェッツェーニア達の方向に、振り返りながらそう進言した。
「ひゃうっ!」
「キーリお姉さん、気付いてたの?」
「ほら、言わんこっちゃない……」
「キューイ」
突然振り返ったキーリに驚くニーナと、冷静に返すヴェッツェーニア。
ナックは諦め気味に呟きを零し、ミリエラはキラキラとした目をキーリに向けていた。
そして、うーちゃんはガタガタと小刻みに震えていた。
「当たり前だ! 声は丸聞こえだし、気配は垂れ流しじゃないか!」
「流石、キーリお姉さん!!」
「私が凄いんじゃなくて、お前達が下手過ぎるんだ」
「むぅ……」
ヴェッツェーニアは少し膨れて口籠ったが、自分でもお粗末なスニーキングだと分かっている為か反論は無かった。
「お主等、そんな場所で言い合いして無いでこっちに来るのじゃ」
ローグが子供達を同じテーブルに呼び寄せた。
そして席に着いた子供達の後ろから、迫る一つの影があった。
「で、ニアは何で此処に居るんだい?」
「げ!? 兄貴!?」
「げ、とは何だ!? げ、とは!!」
「い、いやぁー。ボクそんな事言ったっけなぁ……?」
「ったく、お前は……」
ヴェッツェーニアの肩に手を置きながら、話し掛けたヴォルデルクは適当な言い草の妹に呆れていた。
「あ、あの! ヴォル兄様! お久しぶりです!!」
そんなヴォルデルクに、誰だお前と言う程に丁寧なニーナの挨拶が掛けられる。
「ああ、ニーナちゃん久しぶり! 相変わらず真面目な娘だね」
「いえ……」
「ナック君久しぶり! ミリエラ様もお久しぶりです!」
「はい、ヴォル兄お久しぶりです」
「ヴォル君、ミリーの事はミリーって呼んでって言ったよ?」
一人だけ丁寧語の様付けで呼ばれたミリエラは、甚く不機嫌な様子で頬を膨らませながらヴォルデルクに抗議した。
「駄目ですよミリエラ様。私は平民、ミリエラ様は伯爵家の娘です。そんな不敬な事は出来ません」
「むぅ! むぅ!! むぅ!!!」
ヴォルデルクの言葉は、更にミリエラの機嫌を損ねたらしい。
頬を更に大きく膨らませたミリエラは、まるでフグのようだった。
その頭の上では、名前を呼ばれてなかったうーちゃんが同じ様に膨れっ面になっていた。
「おっと、うーちゃんゴメンね。うーちゃんも朝方ぶりだね」
「キュイ!」
「ヴォル、お前の知り合いなのか?」
「私と言うよりも、ニアのお友達ですね」
そんなキーリとヴォルデルクの会話を聞いた三人が、キーリに対して挨拶をする。
「初めまして、ホーリードラゴンのお姉様! 私はこの宿屋の娘で、名前をニーナと申しますわ! 以後お見知りおきを」
「は、初めまして! 同じく宿屋の息子でニーナの兄のナックと申します」
「丁寧にありがとう。私はホーリードラゴンのキーリ・サーヴァインだ」
緊張してたり、キラキラと目を輝かせたりしながらの子供達の挨拶に、キーリは慣れた様相で返事をした。
そこからはカオスだった。そもそも目の前にホーリードラゴンなんて伝説上の存在が居るのに、子供達が我慢出来る訳が無い。
キーリは投げ掛けられる数多くの質問に丁寧に答え、角や羽根を容赦無く触り出す子達に軽く注意した。
他にもライトフェアリー達妖精の事や、周りの仲間達の事、昔の武勇伝等を、話せる範囲で話した。
ボルマは丁度闇属性の使い手であるニーナが居たので例の話をしたのだが、彼女はヴォルデルクの方ばかりを見ており、ボルマは後でと言われて迷惑そうにあしらわれていた。
そうして時は過ぎて、子供達は寝る時間になる。
ティザーク達とヴォルデルクはそれに伴い帰宅の時間だ。
「ドラゴンさん、また会おうね~!」
「ああ、またな」
「キーリこの街が気に入ってくれたなら、次は私が生きている内に来てくれ」
「キーリさん、娘がお世話になりました」
「気にするな」
ミリエラはキーリに対して、ブンブンと手を振っていた。
ティザークとシェーラも、何回かキーリと話して打ち解けたようだ。
「キーリお姉さん! 次来た時はボクとまた戦ってね!」
「キューイ!」
「機会あればな」
「キーリさん、今日はありがとう御座いました。明日砂糖を用意してお待ちしておりますね」
「あぁ、また明日な」
ティザーク達とヴォルデルク達が帰って行く。
「じゃあキーリ姉ちゃん、また今度!」
「キーリお姉さん、お話ありがとう御座いました!」
「あぁ、またな」
騒がしい子供達が去ると一瞬の静寂と、もの寂しい雰囲気が漂って来る。
そんな静かな雰囲気をぶち壊す様に、ガルクが声を上げた。
「ようし! ガキ共はオネンネしたぜ? 此処からは大人の時間だ! 朝まで飲むぞーー!!!」
「「「うおーー!!!」」」
ガルクの掛け声に即反応した彼等は、エールを一気に喉へと流し込んだ。
領主も居ず子供達も居ない、騒がしい二次会の開始であった。
そして夜は更けていく……。
今度こそ、次の話で終わる筈です。




