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キーリのお使い ~最高位冒険者の実力と指南戦~

 兵士達と別れを告げたキーリは、昨日の総合ギルドへと向う。

 そして、ギルド内部に入るとキーリに気が付いたエルティナが声を掛けて来た。


「あっ! キーリさん!!」

「エルティナ、少し遅れたみたいだが問題ないか?」

「はい大丈夫ですよ! 今支部長お呼びしますね!」


 エルティナが呼び出しに行ってから、それほど待つ事なくローグが現れた。


「おお、キーリ。待っておったぞ」

「ローグ、遅れて済まんな」

「なに気にするな。冒険者の奴等も時間にはルーズだからな。これ位なら大した事はないじゃろう。それより早速修練場に行くぞ?」

「ああ、分かった」


 修練場で待っていたのは、キーリの予想よりも大分多い冒険者達だった。


「多くないか?」

「そうじゃな」

「集まりましたねぇ」


 人数で言えば、二百人は居るだろうか?

 昨日の今日で、良く集まったと思える様な人数であった。


「おお、来た来た! アンタがホーリードラゴンか?」

「ああ、そうだが……」


 多くの冒険者の中から、一人の美丈夫が代表して話し掛けてくる。

 身長は九千ルアナレイ程――百七十七センチくらい――だろうか?

 金色の髪の毛に灰色の瞳、服の上からでも分かる筋肉質な身体に高貴な雰囲気。

 しかし、それをぶち壊すかのような鋭い眼光と、荒い言葉遣いの男がそこに居た。


「覚えてないか?」

「いや、覚えているぞ。私に武器屋を教えてくれた奴だろ?」


 そう、昨日キーリが武器屋への道を訪ねたのがこの男だった。


「なら、改めて自己紹介だ。俺の名前はガルク・ソルレイク、夕闇ランクの冒険者だ」

「では私も自己紹介をしておこう。キーリ・サーヴァイン、知っての通りホーリードラゴンだ」


 キーリとガルクは、互いに自己紹介をする。


「ああ、宜しくな!」

「それで、挨拶前から殺気をぶつけて来るとはどう言う了見だ?」


 キーリの言う通り、彼は修練場にキーリが入ってすぐに殺気をぶつけて来ていたのだ。

 生半可な強さでは、心が折れる様な強力な殺気を……。


「いやなに、俺はホーリードラゴンに会った事が無かったからな。取り敢えずアンタがどう反応するのか試してみたのさ」

「ほう……?」


 アレだけの殺気を魔物が食らった場合、その後の取る行動パターンは限られる。

 殺気に怯えて逃げ出すか、敵対行動と見なして攻撃を始めるかだ。

 だが、キーリはそのどちらも取らなかった。

 彼女が圧倒的強者である事と、その温厚な性格が行動しなかった理由だ。


「それで結果はどうだった?」

「魔物なんてどれも同じだと思っていたが、中々どうしてクソッタレな魔物とは思えないな! 人種にキーリの様な種が居ると言われたら、それを信じてしまうだろうさ!」

「おいガルク!!」

「ローグ構わないさ」

「だが、幾ら何でも失礼じゃろ?」


 正直ガルクの行動は褒められた物ではない。

 その物言いは、お前は本能のままに行動する魔物と同じたろ? と言う高位の魔物にとっては侮辱に等しい行為だからだ。


「そうだな。その代わり、模擬戦では真っ先にお前を潰すとしよう」

「へぇ……。怒らない代わりに、模擬戦で決着をつけるのか……」


 一方のガルクは感心していた。


 ホーリードラゴンを聖獣と言えば聞こえは良いが、強者な魔物の一角である事は間違い無く、その本質を知らないガルクはキーリを信頼してはいなかった。

 いつ彼女が牙を向くのか? 彼女は本当に街に入れて大丈夫な存在なのか?

 そんな疑問が頭を(よぎ)るのだ。


 確かに、前の会話で嫌な感じはしなかったし悪い魔物では無いと思うのだが、あくまでもガルクの判断は人種に対しての判断である為、絶対的に信頼はしていなかった。


 だが彼女を試した結果、予想以上に理性的な事が分かった。

 殺気をぶつけても襲い掛からず、侮辱しても怒らず、だが何もしない訳では無く、正々堂々と模擬戦にて潰すと言ったのだ。

 これはガルクにとってとても好ましかった。

 そして、それ故に――。


「試すような事をして済まなかった」


 ガルクは頭を下げた。

 それに伴い、ピリピリした空気が少し和らいだ。


「ガルクが頭を下げたぞ!?」

「明日は槍でも降るんじゃねえか!?」

「全く、ハラハラしたぜ……」


 周りの彼等も、あの一色触発の空気には耐えれなかったらしい。


「謝罪は受け取ろう。だが、最初に潰すのは変わらないぞ?」

「ああ、それは問題無い。俺も戦いたくてウズウズしてるからな!」

「そうか。なら、早速潰してやろうじゃないか!」


 そう言ったキーリに対して、エルティナが武器を渡した。

 どうやら、持って来てくれたらしい。

 ガルクの方にも、周りの人が手渡しているのが見て取れる。


「キーリさん、殺したり再起不能にはしないで下さいね?」

「大丈夫だ。精々心が折れる位に留めておくさ」


 そして両者は向かい合う。


「始めて下さい!!」


 頼まれていたエルティナの合図により、両者一斉に飛び出す。


「「はぁっ!」」


 先ずは小手調べの、正面への打ち込みだ。


 両者の剣が交差し鈍い音を立てる。


「やっぱ、力の勝負じゃ不利か……」

「当たり前だ。手加減してるとは言え、人間とドラゴンじゃ腕力は比べ物にならないぞ?」


 ガルクは一旦キーリから離れた。

 そして――。


「”身体強化”!」

「ほう……? お前も身体強化が使えるのか」

「お前も……?」

「ならば私も”身体強化――”!」

「ちっ! そう言う事か、よっ!」


 ガルクの剣が、驚異の速度でキーリに迫る。

 その剣を、これまた凄い反応速度でキーリが躱す。


「凄え!!」

「お前達、しっかり見ておくんじゃ! こんなレベルの戦いなんて滅多に見れんぞ!?」

「目が追い付かねぇ……」


 そこからは、まるで剣舞の様な光景が続く。


 ガルクが攻撃し、キーリが攻撃を避け、キーリが反撃し、ガルクが反撃を避ける。


 攻守が入れ替わりながらもクルクルと……。


 だが、その攻防が一瞬止まった――。


「ちっ! ”身体強化”!」


 ガルクの身体強化の効果が切れたからだ。

 ガルクの身体強化と、キーリの身体強化には大きな違いが存在する。

 それは――。


「なるほど、お前のはアクティブスキルか」

「そう言うアンタのはパッシブスキルかよ……」


 そう、アクティブスキルとパッシブスキルとの違いである。


 キーリの身体強化は本来常に展開されているスキルであり、手加減の為にこの街では基本的にオフにしているのだ。

 一方のガルクの身体強化は一定時間のみ身体能力が強化されるスキルで、それに使用する魔力も中々に大きいのが特徴である。


 実際はキーリのスキルの方がコストは高いのだが、無駄を省いている事と彼女の魔力量が多過ぎる為に、割合的には圧倒的に低コストとなっている。


「はあっ!」

「ちっ……! クソがっ……」


 それはガルクにとって、時間を掛ければ掛けるだけ不利になると言う事に他ならない。

 しかも、ガルクの方が元の身体能力が低いため、同じ身体強化をしていても攻撃が少しずつ当たり初め追い詰められて行くのだ。


 ではどうするか?

 速攻で片を付ける以外に無い。


「”先読み”! ”ウィンドウシールド”!」


 ガルクは相手の行動を見通す先読みスキルと、攻撃の衝撃を和らげる風属性の魔術を発動した。


 先読みは相手の動きや力の入れ具合から、次の行動を先読みするスキルである。

 ウィンドウシールドは風の盾を構える物で、軽い攻撃くらいなら逸らす事が出来る。


 つまり――。


「ふっ!!」

「甘い!!」


 ガルクがキーリの攻撃を、避けやすくやると言う事だ。


「ガルクの動きが変わった?」

「さっきまで紙一重だったのに、今は余裕がある?」


 ガルクはキーリへの攻撃を加速し始めた。


「”トリプルスラッシュ”!」

「くっ……」


 確かにキーリの方が圧倒的に速いのだが、先読みをされて殆どの攻撃が避けらる。

 更に攻撃を当てても直撃でなければウィンドウシールドによって弱められる為、ガルクの回避行動は最小限に抑えられていた。


「ガルク、貴様やるな!」

「伊達に夕闇ランクでは無いんだよ!」


 今度は先程とは逆の展開である。

 ガルクは紙一重で攻撃を避けながら、通常攻撃やトリプルスラッシュを使いキーリをしっかりと追い込んで行く。


 ガルクの強味は攻守のバランスである。

 ザランが攻撃特化でゲヤルトが防御特化であるのならば、彼はその中間と言えるだろう。

 だが器用貧乏では無く、そのどちらの能力も高い水準を確保している故に彼は強い。


「凄ぇな……。アレが天元のガルクの本気か……」

「ああ……、ザランがアッサリ負けた相手に互角以上に戦ってるぜ……」

「お前ら良く見えるな? 俺は何が起こってるか全然分からねえよ」


 疾風のザランは確かに強い。

 キーリから、身体強化を使わせるまでに追い込んだのだから。

 だが、ガルクはそれ以上である。


 そもそもガルクの使う、身体強化とは何なのか?

 このスキルはザランの使う瞬動と比べると、移動速度の強化は全く敵わない。

 だが、身体強化は身体の強化をするスキル。つまり、足だけで無く身体全体を強化するのが特徴なのである。

 例えば動体視力も強化される為、ザランの様に相手を見失う事が無い。

 例えば腕力が強化される為、相手の攻撃によって腕が痺れて動かなくなる事も無い。

 例えば――。


「はっ!」

「甘い!」


 ガルクの背後からキーリの斬撃が来るが、その攻撃はガルクによって軽々と躱される。

 これは、気配察知や音の感知能力が強化している為である。


 この様に身体強化は使う事が出来れば、総合的に戦闘能力が底上げされる為、かなりの戦力アップになるスキルなのである。


「お祖父ちゃん、ガルクさんって凄いですね! キーリさんをあそこまで追い込んでますよ?」

「ああ。まだ手加減が残ってるとは言え、大したもんじゃのう……」

「あの、支部長すいません。手加減ってどう言う……?」


 エルティナと支部長が話している最中に、見学していた冒険者が割り込んで来た。


「そのままの意味じゃよ。お主はホーリードラゴンの実力が、あの程度だと思っとるのか?」

「それって、ガルクが弄ばれてるって事か!?」


 冒険者が驚きの表情を浮かべる。

 それに対して、ローグはまあ見ておれとキーリとガルクの模擬戦を指し示した。



 くははは! 俺より強ぇとは思っていたが、ここまでとはな!!

 今は優勢だが、直ぐに覆される事だろう。


 彼女は異常だ。恐らく今も、この戦いを愉しむ為に手加減をしていると思われる。

 何処で仕掛けて来るかは分からんが、その時が俺が負ける時だろう。


 しかし、ただ負けるつもりは無いがな!

 俺は夕闇ランクの冒険者だ。そのランクを背負う矜持がある。


 だがらこそ、俺から仕掛ける!!


「更に行くぞ? ”剣撃強化”! ”死絶(しぜつ)の十五連撃”!」


 ガルクは自分の持ち札を切る。

 剣撃の重さを強くしてからの、最高レベルの連撃である。


 キーリの身体に、人間であればどれも一撃で骨が折られる攻撃が加えられる。


 一撃目、右足への攻撃を剣で逸らす。


 二撃目、攻撃を反転させる様に薙ぎ払ってきた右腕への攻撃を剣で受け止める。


 三撃目、左回転しながらの左腕への攻撃をバックステップで何とか躱す。


 更に四撃目、五撃目と交わして行くが、段々とキーリの体勢が崩れてくる。

 そしてついには、キーリに攻撃がヒットし始めた。


 ――八撃目回避、九撃目ヒット、十撃目ヒット、十一撃目ヒット……、十五撃目完全にヒット。


「ぐ……」

「どうだ? 人間も中々やるだろ?」


 結局キーリは十五連撃中、五回の攻撃を食らってしまった。


「ふんっ! 今のレベルで倒せれば良かったんだが、貴様は失礼な癖にそこそこ強いらしいな」

「どう言う意味だ? レベル……?」


 ホーリードラゴンであるキーリが使う身体強化と、人間であるガルクが使う身体強化がアクティブとパッシブの違いはあれど、殆ど同じ度合いの強化だと言う事に疑問が出ては来ないだろうか?


 いやいや、ガルクよりも全然キーリの方が上じゃないか、と言う意見もあるかも知れない。

 だが、果たしてその程度の差しか生まれないのだろうか?


 ――答えは否である。


「”身体強化レベルニ”!」

「は?」


 そう、彼女は身体強化をレベル制限して使っていたのである。


 スキルのレベルは、一から十まであると言われている。

 単にスキルを使うと最大レベルとして使われるのだが、レベル指定をすると使用レベルを下げて使えると言う物がある。

 これを使って彼女は、今まで身体強化――(レベル一)と言っていたのだ。

 因みに、スキルレベルは一とニの間よりも、九と十の間の差の方が大きい。


「ガルク、覚悟しろよ?」

「マジかよ……」

「はぁっ!!」


 キーリは更に速くなった速度でガルクに迫ると、腹部目掛けて剣を振り抜いた。


「がは……」


 その攻撃を受けて、ガルクは思わず膝を付く。


「何でだ……。何で、先読みが反応しない?」

「何だ? 貴様、そのスキルの欠点を知らなかったのか?」


 キーリはガルクに対して、疑問を呈した。


 その言葉を聞いていたエルティナは、ローグに対して疑問を問いかけた。


「お祖父ちゃん、キーリさんの言葉はどう言う意味ですか?」

「先読みが、背後からの攻撃に無意味なのは知っているか?」

「はい。敵の姿を視界に入れる必要があるんですよね?」

「そうじゃ、では相手が速過ぎて目で追い掛けられなかったらどうなると思うかの?」

「そんなの視界に捉えられない……んじゃ……? って、もしかして!?」

「エルティナが思い付いた通りじゃ、敵が速過ぎた場合先読みは全くの無力と化すのじゃよ」


 ローグが述べた他にも、相手の姿が目に映らない擬態系の魔物や、そもそも姿が透明で見えない幽霊系の魔物にも意味が無かったりする。


「そうだったのか……」

「まあ、こういう機会が無いと分からない物さ。さて、”ライトヒール”!」


 キーリは攻撃を食らった、ガルクの腹部に対して回復魔法を使った。


「何のつもりだ?」

「なに、これで最後の打ち合いくらい出来るだろう?」

「ハ……ハハハ……。良いだろうさ。次の一撃に俺の全力をぶつけてやる!!」


 それを聞いたキーリは、満足そうに頷いてからガルクとの距離を取る。


「”身体強化”……、”剣撃強化”……、”感覚強化”……、”限界突破”……。――待たせたな? さあ、行くぞ?」

「ああ、来い!」


 一瞬の静寂が場に満ちる。

 そして、両者は一斉に飛び掛かる。


「”死絶の一閃”!!」

「”破斬一閃”!!」


 その攻防は一瞬だった。


 ガルクとキーリは互いに交差し、位置を入れ替えた状態で背中を向け合った。


 先に倒れたのはガルクだった……。


「ガルクさん!」


 エルティナが駆け寄ると、ガルクは弱々しい声を上げながらキーリに言葉を掛ける。


「は……はは……、負け……た……よ……。完敗だ……。流石は、ホーリー……ドラゴンだな……」

「私の枷を二つも取り払った癖によく言うな」


 ガルクはボロボロだった。足の一本は模擬剣での戦いの筈なのに、綺麗な切れ口で切り取られておりそこからは夥しい量の血が溢れ出ていた。

 そんなガルクに対して、キーリはピンピンしていた。


「ガルク!?」

「おい、最後の攻撃見えたか?」

「いや、全く見えなかった……」

「気付いたら、立ち位置が交換されてたぜ……」

「いやいや! お前ら気づいてないのか!? 早くガルクを治療しねぇと!!」

「これを情けないと言うのは酷じゃろうな。儂も全部を目で追えた訳でもないしのぅ……。後、お主治療はキーリに任せておけば良いじゃろうて」


 冒険者の言葉も無理は無いだろう。

 あのローグでさえ、全てを目で追いきる事は出来なかったのだから。


「取り敢えず治療するぞ? 彼の者が失った物を取り戻せ。”リカバー”!」


 ザランの時と同じ様に、致命的な箇所だけを治療するキーリ。


「ああ、助かった……。ったく、模擬剣であんな怪我を負うとはな……」


 ガルクは先程まで、内臓破裂と足の切断と言う重症だった。

 本来刃が無い模擬剣であそこまでの傷を負う事は無いだろう。

 あれは、ガルクとキーリの戦いだからこそ発生した傷である。


 なおキーリが使ったのは、ヴェッツェーニア掛けた魔法の下位に属する魔法だ。

 致命傷である内臓破裂や斬られた足、失った血液は元に戻してくれるが、体力や痛み全身の小さな怪我までは修復しない。


「まあ最低限の手加減はしたが、そこそこの威力は出さずにはいられなかったからな。さて――」


 そう言ってキーリが話し始めたのは、先程の模擬戦での反省点とその対策である。

 とは言え、ガルクの場合そこまで大きな反省点は無い。

 彼の場合、殆どの能力が高水準で纏まっており、直す箇所があると言うよりも全体的に能力を向上させる必要があるくらいである。

 それでも敢えて挙げるのであれば、彼は最初から攻めに出るべきだったかも知れない。

 もし始めから全てのスキルを使えば、キーリにダメージを与えられたかも知れない。

 尤も、それをこなしたとしても勝利には程遠いのだが……。


 キーリとのやり取りが終わると、ガルクに対してローグが話し掛けてきた。


「ガルク、どうだったかの? キーリとの模擬戦は?」

「完敗だな! 俺、これでも結構自信があったんだけどなぁ……」


 ガルクは最高位冒険者なのだから、自信があるのも当然だろう。

 だが、その最高位冒険者も伝説の龍には敵わなかったと言う事だ。


「それはしょうがないじゃろ。彼女は伝説のホーリードラゴンじゃ。具体的な実力は今もって分からんが、儂等人間では敵わないなじゃろうて……」

「そうか……」


 キーリに勝てる人間となると、キーリの剣の師と見られる人物くらいだろう。

 少なくとも今の時代に()いては、彼女が出会った中にそれ程の強者は存在しない。


「なあガルク。お前はこの街に来てから会った人間の中で、間違いなく最上位の強者に属するぞ? オーガも倒せないような腑抜けばかりになっていたと思ったが、少なくともお前の様な奴が居て安心したからな」

「慰めは要らねえよ。俺は全力を出したがお前に負けた。それだけだ……」


 そんなキーリの言葉を、ガルクは慰めは要らぬと切って捨てた。


「そうか。なら、強くなれば良い。まだお前は強くなれるだろう?」

「けっ! 簡単に言ってくれる……。俺が、どれだけ苦労してこの強さに辿り着いたと思ってやがる!!」

「それは私には分からん。だが、目指すべき強さがあるのに、その強さを目指さないのなら剣士と名乗るべきじゃないな」

「言ってくれるじゃねえか!」


 純粋な剣士とは、遥か高みを目指す馬鹿の集まりだ。

 現状の強さに満足したりして、高みを目指さなくなったらそれは剣士とは言えないのであろう。


 キーリはガルクの、そんな強さを渇望する気持ちを焚き付けたのである。


「全く、お前さんの言葉は重いのぅ」

「お祖父ちゃん……?」


 キーリの言葉の重さは年月の重さである。

 彼女も気の遠くなる年月を掛けて強くなって来たのだから、それは同じ剣士には重く圧し掛かるのであろう。


 その後、ガルクはローグ達と共に対戦を見る側に回り、キーリと冒険者の戦いを通してその強さを少しでも学ぼうとする。

 スキルや単純な身体能力をキーリから学ぶのは難しいが、彼女の動きはガルクが学ぶに値するだけの価値がある。

 彼女の動きはガルクよりも、遥かに洗練されているのだから。


 そんな感じでキーリの指導は特に大きな問題もなく、大好評のうちに終了した。

 ローグがハッスルし過ぎて腰を痛めたりもしたが、それは些細な事であるだろう。


後二話くらいで、お使い編が片付く筈です。

今更ですが、これだけ長いと二章に分けた方が良かった気がしてきますね……。

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