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進化とラブコメ

少しラブコメチックなものを入れてみました。

――進化が完了しました。


「う、うーん……」

「気付いたか、カケル坊!!」

「主様、ご気分は如何ですか?」


 えと? 僕は何してたんだっけ?

 後、頭の後がモフモフしてる?


 いや、そうじゃなくて――。


「えと、僕はどうなったの?」

「覚えとらんか? カケル坊マナドレインした直後に気絶したんやで?」


 気絶……。

 そうだ! 僕はシナモンを倒して、マナドレインをし終わったら突然痛みが襲って来たんだ!

 なんで、気絶したんだろう?

 それに、何か覚えがある痛みだった気が……。


「そうか……、思い出した! あの痛み、前に進化した時の熱さと何故か似てるんだ!」

「正解です」


 ミミの声が、頭の下からする?


「ミミ?」

「ミミちゃん、カケル坊が起きるまで枕代わりになってくれてたんやで?」

「そうなの?」

「はい、本当は膝枕が良いんでしょうが、体格的に無理だったので背中枕をしています」

「膝……枕……?」


 さて、膝枕とは何だろうか?

 言葉の通り、膝を枕代わりする事だ。

 では、ウサギの膝とは枕にする事が出来る構造なのだろうか?

 まあ、それが出来たとして誰が望んだのだと言うのだろう?


「男性は女性の膝枕が好きなのでしょう?」

「それは、最低でも人間同士の話だよね!?」


 人間がウサギに膝枕を強要したら、動物虐待になりそうである。

 とは言え、一応はカケルの事を考えてくれたらしい。


「まあ、気持ちは貰っておくよ。ありがとうね」

「いえ、どういたしまして」


 実際問題、頭の裏のモフモフは気持ちが良いのだ。

 枕と言うよりは、毛布を丸めた様な感じだが……。


 あれ? そう言えば――。


「ミミ、そう言えば僕が気を失う前に何か言ってなかった?」


 それに、怪し気な笑みを浮かべていた気がするんだけど……。


「いえ、気のせいじゃないですか?」

「うーん、そうかなぁ……?」


 確かにあの時意識が朦朧としてたし、本当にそんな光景見たかと言われると自信無いんだけど……。


「それより身体の方は大丈夫ですか?」

「うーん、多分大丈夫みたい。痛みは無くなってるよ」

「そら一安心やわ……」

「それは良かったです。進化した事ですし能力のチェックをしたらどうですか?」

「確かにそうだね」


 気絶前の光景については放っておこうかな。どうせ考えても分からないし。


「えと、”鑑定”!」


名前:カケル・ソラノ

種族:ワイト

状態:正常

カルマ:+600

スキル:自動音声言語翻訳、鑑定、マナドレインLv4、生者への渇望、怨念の武具

魔法:火属性Lv5、風属性Lv5、土属性Lv5、水属性Lv5、闇属性Lv6、光属性Lv4

称号:花火師の血を受け継ぎし者、神の寵愛を受けし者、ラットハンター、駆け出し料理人、駆け出し農民

説明:スケルトン系の変化種。強いな肉体と、魔法への適性を持つ。

 墓地や洞窟などの暗く空気が澱んでいる場所を好む。自然発生したスケルトンがワイトに至るためには、少なくとも五年の歳月を必要とすると言われている。

 スケルトンからワイトへと至る事が出来るのは全体の一パーセントにも満たないが、かなりの知恵を付けている可能性もあり、けして油断出来る相手ではない。


 スキルや属性レベルは上がってるけど、新しいスキルは無いみたいだ。

 後は称号なんだけど……。


駆け出し料理人:料理人になる第一歩を踏み出した者。辛く険しい道のりではあるが頑張れ! 料理を作る際に、味にほんの少しだけプラス補正が掛かる。


駆け出し農民:農民になる第一歩を踏み出した者。なるは易し辞めるは難しの、農民へ足を突っ込んだ貴方の明日はどっちだ!? 農作業をする上で土壌にほんの少しだけプラス補正が掛かる。


 何だろう非常に馬鹿にされてる気がする……。

 先ず駆け出し料理人だけど、僕は踏み出したつもりも、険しい道のりも歩むつもりは無いからね!? 頑張れとか応援されても無駄だから!!

 駆け出し農民に至っては、説明文から農民に対しての憐れみを感じる……。まあ、この世界だとそう言う認識なんだろうけどさぁ……。

 だとしても、貴方の明日はどっちだって言葉はどうかと思うよ!?


 駆け出し料理人の称号が前に出なかったのは、駆け出し農民よりも習得条件が厳しいからかな? 辛く険しい道のりって載ってるくらいだし……。

 まあ、幸いにしても両方ともプラス補正が付くみたいだし、今は気にしないでおこうかな。


「二人共お待たせ。確認し終わったよ」

「お疲れ様でした」

「どうやった?」

「うーん、大体は予想通りかなぁ。気になる箇所は――」


 カケルは再度鑑定を行いながら、ステータスを眺めていた。


「強いて言えば、またカルマ値が上がってる事かなぁ?」

「カケル坊、アンデッドなのにカルマ値上がるんか!?」

「うん、前の進化の時も上がってたよ?」

「主様は、相変わらず意味が分かりませんね」


 まあ、善良なアンデッドとか僕にも想像が付かないけど……。


 兎にも角にも進化は無事終了して、ステータスの確認も終えたカケルは次の話題へと移った。


「そう言えば、僕ってどれくらい気を失ってたの?」

「半日くらいやな」

「そんなに!?」


 カケル達が聖域を出て来たのは昼頃である。

 その頃は出ていた太陽はすっかり沈み、今は夜空に四つの月と星々が浮かんでいた。


「確かに、満天の星空だね……」


 カケルとしては前から、屋内の筈なのに太陽が浮かんでいたり、月があるこの空が不思議でならなかったが、今はそこに疑問を呈している時では無い。


「せやろ? ちゅう訳で今日はもう寝るで」

「そうですね」

「あぁ、ごめん。僕のせいで睡眠時間削られちゃったよね?」

「別にかまへんで。ワイ等はそんなに睡眠時間重要や無いしな」

「そうは言っても眠くはなるでしょ?」

「多少は眠くなりますが、気になる程では有りませんよ?」

「せやなぁ。ミミちゃんの言う通りやわ。多分カケル坊が思っている程酷くは無いで?」


 そんな会話をしてから、本日は野宿と相成った。


 ツィードは木の上に登り、ミミは木の(うろ)の中を寝所とした。

 カケルはいつも通り眠れない為に、他の作業をする事にする。


 カケルは普段、皆が寝静まった後魔術の練習をしている。

 と言っても大きな音は出せない為、基本的には音が出ない魔術のみではある。

 また、この頃は魔術では無く魔法の練習も始めている。

 魔法は魔術と違い暴発の危険性もある為、基本的には自信がある低級魔法しか使わない。


 そんなカケルが今練習しているのは、魔法のライトヒールとダークヒールである。

 ライトヒールはキーリから、ダークヒールはミミから教わった魔法で、両方とも回復魔法なのだが回復条件が違う。

 ライトヒールがカルマ値がプラス方向に大きい程回復し、ダークヒールはその逆のカルマ値がマイナス方向に大きい程に回復するのだ。

 これをカルマ値マイナス時にライトヒール、カルマ値プラス時にダークヒールを使ってしまうと、逆にダメージを与えてしまうのである。

 因みにカルマ値が丁度ゼロの場合、どちらも回復しないと言う問題かあり、人間世界で赤子の内は回復魔術が効かないと思われている理由でもある。


「”ライトヒール”……!」


 カケルは傷が付いた大樹に向かって魔法を行使した。

 回復魔法は無機物には効果が無い。しかし、植物には効果がある為、回復させられなくても成否の確認くらいは出来るのである。


 そしてカケルの魔法が大樹に掛かり、一瞬大樹を白く光らせたかと思うと直ぐに霧散した。


「よし成功だ!」


 因みに失敗すると何の変化も起こらなかったり、暴発してカケルが吹き飛ばされたりする。


「次は”ダークヒール”!」


 その魔法に反応して大樹が一瞬黒い闇に包まれたかと思うと、直ぐに周囲を囲んだ闇は霧散した。


「よし! こっちも成功だ!!」


 カケルはガッツポーズをしながら成功を喜ぶ。

 カケルの最初の頃の、魔法の成功率はけして良くなかった。

 何回暴発し、たまに肋骨が折れたりもした。

 その失敗の度に、ミミがじっと此方を見てくるので、カケルは責められてる気がしてならなかった。


 因みに今カケルが居るのは、ミミとツィードが寝ている木の隣にあった大樹である。

 今はツィードが居るので魔物は近寄って来ないが、余り離れ過ぎると直ぐに魔物に襲われる危険性がある。

 その為、カケルは眠りに留意しつつも安全なこの場所で練習をしていた。


「うーん、やっとマトモに発動する様になって来たけど、やっぱり実際に効果を見ながらやってみたいなぁ……」


 とは言え、回復魔法の効果を見ると言う事は、魔法を掛ける対象が怪我をしている必要がある。

 一応、嘆きのラット等の魔物を捕まえて怪我と回復を繰り返す方法もある事にはあるが、正直カケルにとっては気が進まない方法である。

 要はモルモット扱いと同じであり、下手したらただの拷問である。幾ら同じ命を奪う事だとしても、流石にそこまで酷い事は出来ないとカケルは思っていた。


「まあ、それは今度かな。取り敢えず、練習を再開しよっと!」


 カケルはその後も、ミミ達が起床するまで練習を続けるのだった。



「主様、おはよう御座います」

「おはよう、ミミ」


 どうやら、起床時刻になったようだ。


「カケル坊、ミミちゃんおはようさん」

「おはよう、ツィード」

「おはよう御座います。ツィード様」


 全員起きたと言う事で、早速朝の移動を開始する。


「主様、バニラは如何致しますか?」

「うーん。シナモンがあんなのだったし、今回バニラを追うのは止めておくよ」


 カケルとしては、あんな化物とまた戦うのは遠慮したい所である。

 シナモンはツィードの威光も効かず、臭過ぎて二人の援助も得られずの最悪の敵だった。

 バニラまでもがあんな化物だとは思わないが、世の中には万が一と言う事もある。

 そんなリスクは、全力で回避したいとカケルは考えていた。


「かしこまりました。ではツィード様、主様共々案内よろしくお願い致します」

「おっしゃ! 任しとき!」


 と言う事で、一行はバニラを諦めて本来の目的地の内ミノタウロスの村に向かう事にした。


 その後ツィードに揺られる事凡そ一刻。

 カケルの遠目に、村が見え始めた。


 村に少し近付くと見えて来たのは、幾つかの大きな家だった。

 数は十程度だろうか?

 中央の一際大きな家を中心にして、それを囲むように幾つかの家が立っている。

 更にその家々を大きく囲う様に、申し訳程度に柵が建っていた。

 柵の内部では畑も存在するらしく、その村落がある程度文明的である事を示していた。


 また、家は藁葺き家屋などでは無く木造建築で、造りは少々荒いのだが飾り付け等も伺え、此方も文明的である事を示していた。

 また中央の家は他の家とは違い、屋根が白と薄紫の豪華な作りになっているようだ。


「ツィード、あれがミノタウロスの村落?」

「せやで。わりかし文明的やろ?」

「うん、確かに……」


 ミノタウロスと言う魔物の村だから、原始人レベルか獣らしく巣を作っている程度だと思ったのは事実だ。

 これだけ文明的となると、牛乳を物々交換で手に入れる事も可能かも知れない。


「ツィード様、もしかしてここは……」

「流石やな。ミミちゃんは気付いたか」

「ん? どう言う事?」

「まあ、説明する程の事やあらへん。それにあそこに行けばすぐに分かると思うで」


 良く分からないが、ツィードはどうもこの村をただ知っているだけではないようだ。


 そうして更に歩を進めると、村の全容が見えて来ると同時にミノタウロスの姿が見えて来た。


「よう! 遊びに来たで!」


 村の前まで来たカケルは、ツィードの言葉によって起こされた現象に困惑の表情を浮かべた。


「うん、確かに大きかったね……」


 背丈と胸が……。


 目の前に居るミノタウロスは、余りにも巨大な姿だった。

 恐らく、身長は十ナレイ程はあるだろうか? 前に対峙したバッタよりも余程小さいのだが、何故か威圧感がそれよりも大きい。

 何よりも目につくのは、巨大と言うのも生温い大きさの四つの乳房だった。

 また、腕や足はムキムキの筋肉質で、立っている時は巨大な斧を構えていた。


 そんなミノタウロス達がツィードの言葉に反応して、一斉に平伏しているこの状況は圧巻であった。


「ツィード様! この様な場所に御越しくださるとは! 我等一同、感涙の極みに御座います!!」

「「「御座います!」」」


 うん、喋ったね……。

 それにこの反応は、ツィードの部下か何かなのかな?


「ああ、気にせんで良いで? ワイは今回、単なる付き添いや」

「付き添いですか?」

「えと、ツィードは今回僕の付き添いだよ?」

「貴様!! ツィード様を呼び捨てにするとは、生かしておけん!!」


 え……? あれ?

 これヤバくない?


 一番前に居た一際大きいミノタウロスが、立ち上がって斧を振り上げる。


「やめるんや!! カケル坊はワイが連れて来たんやで? 文句があるなら、カケル坊やなくてワイに言え!!」

「文句など滅相も御座いません! 先走った行動をしてしまい、申し訳ありませんでした!!」


 ツィードの言葉に、再び平伏する巨大牛……。

 助かった……。ってかこの反応って、部下と言うよりも臣下?


「済まんなカケル坊。ミノちゃんも根は良い子なんやけど、ワイの事になると大袈裟になるんや。勘弁してな?」

「いや、それは良いんだけど……」


 ミノちゃんですか……。

 恐らくはミノちゃんと思われる、目の前のミノタウロスを見ると、僅かに頬を赤く染めていた。

 え? 照れてるの?


「そうか。それは助かるわ」


 一旦、ミノタウロス達に向き直ったツィードは例の要望を告げる。


「それでやけど、ミノちゃんのミルクが欲しいんや」

「……え?」


 何だろう。単に牛乳が欲しいだけなんだけど、ツィードとミノタウロスのやり取りが少しアレな気がする。


『ついにツィード様が姫様を口説きだした!?』

『良かったですね姫様……。う、うぅ……』


 周りのミノタウロス達が小声で話しているみたいだけど、僕の位置だと丸聴こえなんだよね……。

 しかし、姫様だったのか。あのでっかいミノタウロスは……。

 それに先程の反応と、今の話を合わせるとやっぱり――。


「あ、あの、その……。それはどう言う……」

「カケル坊が御菓子を作るんや。その材料として牛乳が欲しいんやけど、ミノちゃんから貰おうと思うたんや!」

「あ、ああ、そういう……」


 明らかに凹んだ様子で、呟くミノちゃん……。


『姫様、なんとお痛わしや……』

『ツィード様も、あんな思わせ振りな態度取らなくても……』

『そして、元凶はアイツか……!』


 ひぃぃ……!!

 怖いよぅ……。凄い睨んでるよ……。

 ごめんなさい、牛乳欲しかったのは確かだったけど、貴方達の様な喋るミノタウロスから採るとは思って無かったんですよ……。


「ミノちゃん、駄目やろか?」

「い、いえ、我等一同ツィード様に忠誠を誓った身。ツィードが欲しいと仰るなら身も心も全て捧げます!!」

『姫様……』

『姫様の身心、しかと見届けましたぞ!』


 やっぱり止めた方が、良いんじゃないだろうか?

 種族が違うから分からないけど、ただケーキ作る為に貰うのは駄目な物なのではなかろうか?


「あ、あの……」

「では、少々お待ちください!」


 僕が話し掛けようとすると、それを遮る様にミノちゃんは、数人のミノタウロスを引き連れて家の中に入っていった。


「ん? カケル坊、どうしたんや?」

「い、いや、何でもない……」


 はぁ……、悪いことしたかなぁ? でも、牛乳は絶対欲しいしなぁ……。


 そんな事を考えているうちに、ミノちゃんか帰ってきた。

 手には、巨大な皮袋を持っている。


「ツィ、ツィード様、これくらいで宜しかったでしょうか?」


 ミノちゃんが、顔を真っ赤に染めながら皮袋を出してくる。

 牛乳がそこに入っているのだろう。いや、ミノ乳と言うべきだろうか?

 どちらにしても、乳牛が喋ると何か色々と問題があるんだね……。


「おお! 大量やな!!」

「ツィード様、言葉にされると恥ずかしいです……」


 ミノちゃんがツィードの言葉に悶えている。

 これが、人間の女の子なら可愛いのだろうが、ミノちゃんの見た目二足歩行の牛である。

 カケルはそんな、誰得な状況を半目で眺めていた。


「こんなに貰うて済まんな。今度お返しに、ワイが料理作って持ってくるで~!」

「ツィ、ツィード様の手料理!?」


 手料理が好かれるのはミノタウロスも同じなのか。それとも、ツィードが何かをしてくれるだけでも嬉しいのか。

 どちらにしても、ここまで来れば流石のカケルにも、ミノちゃんの気持ちが理解出来た。


「ワイの料理やと駄目やったかな? ワイより上手い、カケル坊の料理の方がええか?」

「いえ、ツィード様の料理が食べたいです!!」

「なら良かったわ。今度持ってくるから、楽しみにしといてや!!」


 ミノちゃんはツィードの言葉に、嬉しそうに顔を縦に振っていた。


『姫様、良かったですね……』

『あの小さかった姫様が大きくなられて……。私は、私は……』

『あぁ、姫様があんなに可愛らしい笑顔を……』


 また、何か聞こえて来るんだけど……。

 可愛らしい笑顔と言ってるみたいだけど、正直全然分からない。

 まぁ、ミノちゃんが浮かれているのは見て取れるけど……。


 そんなやり取りを終えた一行は、ミノタウロス達に別れを告げると、次の目的地に歩み始める。


「凄かったですね」

「うん……」

「あの子等は大きくて、インパクトあるさかいなぁ」


 僕は少し気になっていた事を、ツィードに聞いてみる事にした。


「――ねぇ、ツィード。ミノちゃんはお嫁さん候補にはならないのかな?」


 ツィードは確か嫁さん募集中だった筈。

 更に彼女は明らかにツィードを好きな様子だった。それに対してツィードが、どう思っているのか気になったのだ。


「ミノちゃんか……。ミノちゃんは確かにええ娘や!」


 あれ? もしかして、脈アリなのかな?


「せやけど、体のサイズが違いすぎるねん!」


 ああ……。ミノちゃん残念……。

 ただまあ、仕方無いレベルのサイズ差だしなぁ。


 現実的には身長に十倍以上の差が出る様な状態で、一緒に生活するのは困難を極めるだろう。

 身長が百七十センチの人のお相手が、十七センチの様なものだ。その差で言うなら、人間と妖精あたりのサイズ差だろうか……。

 どう考えても、有り得るサイズ感では無いだろうね。


「まあ、仕方無いのかな?」

「せや。こればかりは仕方あらへん」


 それはさておき、次のコカトリスが居る場所だが、ミノタウロスの村落からかなり離れているらしい。

 距離にして、凡そ五十リアナレイだそうだ。


「その距離はキツいね……」

「歩くなら数日は覚悟やな」

「確かに……。いつもなら、キーリに乗っていく距離だよね?」

「せやから今回は少し急ぐで?」


 そう言ってツィードは背中を僕の方に向けた。

 急ぐってどれ位急ぐんだろう……。

 ちょっと怖いけど……。


「安全運転でお願いします……」

「よっしゃ、任せとき!!」


 カケルはツィードの背中に乗り込んだ。


「乗ったな? ほいたら出発するで! 今回はしっかり掴まっときや!!」

「え? 掴まるって何処に……」

「行くで!!」


 カケルがツィードに乗るとほぼ同時に、ツィードが疾走を始める。

 速度こそキーリよりも遅いが、地上を駆け抜ける為、障害物の回避や凹凸を避けならがらのジグザグ走行になる。

 つまり――。


「次、右に曲がるで」

「まっ……。ひいぃぃぃ……」


 そう、遠心力との闘いである。


 カケルは中央に縮こまって、ツィードの背中の毛を掴んでいた。

 それ以外に、掴める場所が無いのだから仕方無いだろう。

 脚は全てが高速で動いている為、掴もうとした途端に弾き飛ばされる。尻尾は進行方向と逆だし、首はそもそも何処にあるか分からない。

 従ってカケルは毛を掴むしか無い訳だ。


 なお、ツィードの毛は猫蜘蛛と言うだけあってフサフサである。

 手入れがしっかりされた、長毛種の手触りに似ている。

 カケルも余裕があれば、モフモフしたくなる手触りなのだが、残念ならがこの爆走中にそんな事をすれば即様弾き飛ばされてしまう。


「ツィ、ツィード、もう少し速度緩めて……!」

「そう言うても、大分遅いで? それに、カケル坊なら大丈夫やろ!」

「主様、慣れですよ。慣れ」


 無責任な声を掛けてくるミミも、同じく爆走中の身である。

 現在の速度は刻速十二リアナレイと言った所か。

 ウサギがそんな速度を出しているのだから驚きである。


 車高の低い車に乗った場合、同じ速度でも速度が早く感じる現象がある。

 それと同じ現象にカケルは晒されていた。

 現在のカケルの目線の高さは、半ナレイにも満たないのだから、体感速度は相当な物である。


 カケルがそんな速度に揺られる事凡そ四刻、人間と違い食事や給水が要らない事を利用しての強行軍を駆使して目的地へと到着した。


「さあ、着いたで!」

「あぁ……、生きてる……! 僕はまだ生きてるよ!!」

「既に死んでますけどね……」


 カケルが死にそうになりながらたどり着いたのは、大きな湖畔を中心にして巨大な木が取り囲む広場の様な場所だった。

 そこにはカラフルなひよこが大量におり、ひよこが居る場所の周囲には、巨大な木の洞を使った家らしき物が見える。

 中央の湖畔にはカラフルひよこが集まっており、どうやら水場として利用しているようだ。


「ひよこが一杯居る……」

「どや? 可愛いやろ?」


 確かに可愛い。だが、大きさは可愛くはない。体高が最低でも一ナレイ半はあり、高い個体だと三ナレイはありそうだった。


「コカトリスも、これだけ集まると壮観ですね」


 え? これがコカトリス!? 石化の攻撃をしてくると言われるあの魔物?

 イメージが違いすぎないかな?

 でもこれがコカトリスなら、あの(くちばし)に突付かれると石化するのかなぁ……?


 そんな事をカケルが考えていると、赤く燃える様な色のひよこが此方に近付いてきた。


「これはこれはツィード様! この様な場所に良くお出で下さいました!!」


 そう恭しく、凄く渋い(しゃが)れ声で話し掛けてきたのだ。

 違和感はあるけど、多分コカトリスとしてはかなり年上に当たるのだろう。

 何となく貫禄の様な物を感じる。


「おう来たで! ピヨちゃんは居るかいな?」

「はっ! 今、呼んで参りますので少々お待ちください!」


 そうして呼ばれて来た、恐らくピヨちゃんは、見た目がひよこその物だった。

 下手すれば金色に間違うような、艶やかな黄色のフワフワの羽毛に包まれたピヨちゃんだが、体高は群を抜いており推定でも四ナレイはありそうだった。


「ようピヨちゃん! 久しぶりやな!」

「ツィード様!! わたくしこの頃会えなくて寂しかったんですよ? でも、また会えて嬉しいです!!」


 うーん何だろう。ミノちゃんに続いて、ツィードに対するハートマークが見える気がする……。

 この子もツィードが好きなのかな?


「そりゃ、済まんかったな」

「いえ、ツィード様に会えただけで十分です! もしかして今日は、わたくしに会いに来て下さったのですか!?」

「ピヨちゃんに会いに来たのは確かやけど、今日はピヨちゃんに頼み事があって来たんや!」

「ツィード様がわたくしに頼み事ですか?」


 この流れ、嫌な流れな気がする……。

 ミノちゃんの時と同じ流れじゃない?


「ピヨちゃんの卵が欲しいんや!!」

「「……え?」」

「だから、ピヨちゃんの卵が欲しいんや!!」

「あ、あの、それってツィード様がわたくしに、あの……」


 ピヨちゃんはテンパってしまって、言葉を上手く返せないみたいだ。

 卵が欲しいって、多分ミノちゃんの時と同じ様にプロポーズに近い言葉に値するんじゃないかな?


 その証拠かどうかは分からないけど、ピヨちゃんのフワフワの毛が色々な色に目まぐるしく変化してる。

 いやいや! 君は黄色の毛じゃ無かったの!?


「ピヨちゃん様、私が引き継ぎましょう」

「爺や……。うん、お願い……」


 あの渋い声のひよこは、ピヨちゃんの爺やだったのか……。


「ツィード様、ピヨちゃん様の卵が欲しいのは何故ですか?」


 その質問にピヨちゃんは、改めて顔を赤く染めていた。

 いや、顔と言うか体毛?

 まあ、兎に角顔の頬に当たりそうな箇所が少し赤くなっていた。


「ああ、それはやな――」


 ツィードはミノちゃんの時と同じ様に、料理に使用する事を説明した。

 その説明を聞いて、ピヨちゃんが明らかにがっかりと凹んでしまった。


「成る程、料理としての材料にですか……」

「せやな。勿論、貰えるなら確りとお礼はするで?」


 ツィードの手料理を食べられる事に、ピヨちゃんは先程の暗い表情を翻して、キラキラとした瞳をツィードに向けていた。


「……ピヨちゃん様には問うまでも無いようですね。卵はピヨちゃん様の物でなければ駄目ですか?」

「いや、ソコに拘りは無いで?」


 その返答を聞いて、またピヨちゃんが沈んでいた。

 何か喜怒哀楽が激しくて、可愛らしい人だなぁ……。


「でしたら、幾つかありますぞ?」


 今日の早朝に産卵していた卵が、ピヨちゃんの物を含めて複数あった様で、今日はそれを貰えるらしい。

 勿論、全て雛が産まれる事の無い無精卵である。

 流石に喋る事が出来るひよこから、有精卵を奪う事は出来ない。


 ピヨちゃんと爺やさんが戻って来ると、何かの革袋を咥えていた。

 爺やさんの方は小振りな卵が沢山入っているようで、革袋がモコモコと膨れている。

 一方のピヨちゃんの方は、数は少なそうだが巨大な卵が入っていそうだ。


「ツィード様、卵をお持ちしました」

「ツィ、ツィード様……。卵をお持ち致しました……」

「おぉ! 感謝するで!!」


 爺やさんは兎も角、ピヨちゃんは何で恥しそうにしているんだろう……?


 その答えはピヨちゃん自身が言ってくれた。


「あ、あの!」

「ピヨちゃん、どないした?」

「あの、これわたくしの卵なんです。だから、味わって食べてくれると嬉しいです……」


 ピヨちゃんは、語尾が段々小さくなりながらそうツィードに話した。


 何だろう? 何処かで見たような光景な気が……。

 ――ああ、そうだ! 航君にバレンタインチョコ渡していた、女子の姿にそっくりなんだ。

 航君モテるからなぁ……。

 でも、確か付き合ってる子は居ないみたいなんだよねぇ……。何でだろ?


 カケルはどうやらバレンタインチョコみたいと言う結論に達したみたいだが、渡すのが自分の卵である事と更に双方とも人外の為、他の人がこの光景を見てそれを思い浮かべるのは無理があるかも知れない。 


「おお! ピヨちゃん、ありがとうな! 大切に使わせて貰うで!!」

「は、はい!」


 うーん、ピヨちゃん喜んでるけど、それケーキの材料になるんだよなぁ……。

 ピヨちゃんの卵だけ別に別けて、ツィード専用のケーキでも作ろうかなぁ……?

 若しくは、もっと別の卵の味が分かり易い料理に使うとか?

 あぁ、マヨネーズとかも良いかもなぁ……。


「それじゃあピヨちゃん、また今度料理を楽しみにしといてや!」

「はい、心待ちにしていますね!」

「ほいたら、また今度や!」


 コカトリスの群れから少し離れた後、ツィードの背中に乗って帰る事にする。

 その際速度をかなり落として貰い、先程の二件についてツィードに質問する事にした。


「ツィード、あの二人と言うか二グループとはどう言う関係なの?」

「ん? ミノちゃんとピヨちゃんの事か? せやなぁ、ワイの眷族ってところやな」

「眷族? 種族が違うのに?」

「昔、彼女達を助けた時に名付けをしたんや。それからやな、彼女達とあんな関係になったんは」


 名付け……。確か、ネームドと呼ばれる存在にランクアップする事だっけ?

 それで、力の一部を与える事が出来るとか何とか……。

 うん、十分眷族って言えるよね。


「じゃあ、名付けの時に力を分け与えたんだ?」

「せや。ワイが助けた時の実力やと、到底生き残れんと思うたしなぁ。結構な力を分け与えたと思うで」


 ツィードが言うには能力を分け与えたりはして無いらしいが、魔素量は自分が保持している三分の一は分け与えたらしい。

 三分の一と言うとそこまでに聞こえるが、地獄の猫蜘蛛(ヘルスロナート)と言う上位種族の三分の一の為、実際に与えた量は半端無いであろう。


「やはりですか。ミノちゃん様やピヨちゃん様からツィード様の気配を感じましたし、そうだとは思っていましたが……」

「流石ミミちゃんやな! 気配を感じ取るのもピカイチかいな!」

「――ねえ、ツィードはあの二人の事どう思ってるの?」


 これが一番聞きたかった事だ。

 ミノちゃんとピヨちゃんは、どう見てもツィードの事が好きだと思う。

 他人の恋路に口出しするのもどうかと思うけど、正直気になるのだから仕方無い。


「ミノちゃんとピヨちゃんか? せやなぁ、二人ともええ娘やと思うで?」

「じゃあっ……!」

「せやけど、嫁はんに迎えるには物理的サイズが大きすぎやねん」

「あぁぁ……」


 その回答はミノちゃんの時と同じだった。

 まあ、仕方ないよね……。もし母さんが父さんの十倍も身長高かったら、住む場所すら危ういし色々と苦労が多そうだしねぇ……。


「まあ、仕方無いね……。彼女達の気持ちはどうするの?」

「気持ち? なんの事や?」


 え? 冗談だよね?


「いやいや、彼女達のツィードへの気持ちだよ!」

「ワイへの? カケル坊、何言うてるねん」


 此方が何言うてるねんだよ!!


「ツィード、本気で言ってる? 惚けてる訳じゃなくて?」

「何の話や?」


 マジか……。初対面の僕でも分かるくらいに、分かりやすかったと思うんだけど……。

 あれか。これが噂に聞く、鈍感系主人公と言う奴か……。


「ツィード様は鈍感なのですね」

「ミミちゃんまで、何言うてるねん?」

「何か、ミノちゃんとピヨちゃんが可哀想……」


 あの二人の恋愛は、茨の道どころか修羅の道な気がする……。

 ツィードは諦めて、周りから探した方が良さそうだよ?


 それから、ツィードをからかいながらも質問をはぐらかしつつゆっくりと戻る。


 ついでに、前に取れなかったスパイスも集めながら帰ったのだが、一番重要と言っても良いガラムマサラは取れなかった。


「ガラムマサラが無い……」

「探知を広げましたら、近くの街で引っ掛かりましたね」

「って事は、これもキーリ次第か……」


 カレーは単に食べさせたいだけだけど、ケーキの材料は持ち帰って貰わないとノイローゼになりそう……。


 そうしてカケル達は聖域へと帰り、時刻の関係でケーキの作業を明日へと回すのだった。


と言う訳で、主人公がツィード、ヒロインがミノちゃんとピヨちゃんのラブコメでした。

彼女達は残念ながらツィードのメインヒロインにはなれないでしょうね。物理的なサイズが大きいので……。

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