キーリのお使い ~兵の修練場~
そう言えば、いつの間にか二回目の評価点が入ってるのは見つけました。
今回の評価もそうですが、前回も過分な評価を頂いていたので、勝手に身内が評価した物だと思っていました。
その後に、実は違う事が分かったのですが、その時には既にタイミングを逃しており、評価について触れる事も出来ませんでした。
今回二回目の評価を頂けたので、改めてお礼申し上げます。
私の作品を評価して下さり、本当にありがとう御座います。
また過分な評価を頂いて少し驚いているのですが、そんな評価に見合う作品に出来ればと思います。
「ふう……」
「キーリ、今日はもう満足したか?」
ローグが上の受付横で作業をしていると、キーリが地下修練場から上がって来た。
ローグの問い掛けに対して、満足そうな顔をしながらキーリが答える。
「ああ、大満足だ!!」
「そうか、ならお前さんが寝る場所に案内しよう」
兵の修練場は街の北西に位置する。
これは、北東と西にある森から溢れ出てくる魔物を警戒している為だ。
兵の修練場には宿舎も併設されている為、いざという時はここから兵を出すのだ。
因みに北東よりも西に近いのは、西の森をより警戒しているのが理由である。
「ここだ」
「ほう」
修練場は兵舎も付いている事もあり、かなりの大きさを誇っている。
石と木材を組み合わせて作られており、二階建ての兵舎が修練場とを取り囲む様に立っていた。
かなり広い修練場の三面を、兵舎が囲う様に建っている形だ。
その修練場は地面が剥き出しの状態で、屋根こそ付いてはいるが風除けの塀も完全に囲っている訳では無いので、少なくとも人間が眠れるような配慮は全く無かった。
「こんな場所じゃが、本当に良いのかの?」
「ああ大丈夫だ。野宿に比べたら大分マシだろうしな」
「分かった。ならば、また明日じゃな」
「ああ、またな」
ローグはキーリを置いて、ギルドへと戻って来た。
ギルドも兵の修練場と同じ理由で近くにある為、修練場からの移動はかなり楽である。
ローグはギルド職員に軽く挨拶をすると、先程までキーリが暴れていたであろう地下修練場へと向かう。
「こりゃあ……」
「あ、お祖父ちゃん!」
エルティナが間違って祖父と呼ぶが、ローグは訂正する程に頭が回らない。
ローグの目の前には、何処の野戦病院だと言いたくなる様な光景が広がっていた。
何人もの冒険者達が蹲り、手当を受けた様な跡が見える。
傷自体は大した事が無いだろう。だが問題なのは、彼等の目に浮かぶ感情である。
儂も、野戦病院を何回も見た事が訳では無い。
しかし、あの光景だけは、あの無気力感に苛まれた様な目だけは忘れる事が出来ない。
その光景が、今目の前に広がっている……。
「エルティナよ。一応確認じゃが、コヤツ等はどうしてこうなったのじゃ?」
「えと……。多分お祖父ちゃんの予想通りだと思うよ? キーリさんが皆の心を折ったのよ……」
「そうか……」
ザランが修練場を出た後、キーリは連戦で片っ端から模擬戦を仕掛けていた。
ザランとの模擬戦で高揚してしまったキーリは、手加減の度合いを忘れた様に圧倒的な実力差で相手を伸していったのだ。
しかも、漏れ出る威圧を振り撒いて……。
「明日、キーリに指導を頼んだのは間違いだったかのぅ……」
「うーん、でもあのレベルの人と命を掛けないで戦えるのは良いと思うけど?」
確かに心は折られているが、命は奪われていない。それどころか大した怪我もせずに、あのレベルの存在と対峙出来たのは、戦う者にとってかなり有用であろう。
尤も、トラウマになったら意味が無いかも知れないが……。
「それもそうじゃな。お前達いつまで呆けておるんじゃ!! キーリが折角戦ってくれたんじゃ。それを次に活かさなくてどうする!!」
ローグは活を入れるが、無気力に此方を見る者が殆どだ。
その中の一人が口を開く。
「ギルマス、そうは言うがな、俺達は彼女にコテンパンにやれたんだぞ? ザラン以外の誰一人として、有効打どころか一撃も入れられなかったんだ……」
「そりゃそうじゃろ。なんじゃ、もしかしてまだ誰も彼女の正体を知っとらんのか?」
ローグが辺りを見渡すと、何の事だと言う顔をしている者ともしかしてと言う顔をしてる者の姿が見えた。
「どう言う意味だ?」
「そのままの意味じゃの。エルティナ、まだ伝えてなかったのかの?」
確かに修練場に篭っていた人達へは、伝わっていなかったかも知れない。
だが、ここには彼等の看病の為にキーリの事を知っていた職員も多く詰め掛けていた。
それだけ居て、誰も言わなかったのだろうか?
「なんて言うか、どう伝えたら良いか分からなくって……」
修練場上から来た人が直接伝えては居なかったが、先のザランとキーリの会話で周りの何人には伝わっていた。
だが、嘘だと思ってまともに取り合わなかった者と、そもそも修練中の音によって聞こえなかった者も多かったのである。
「仕方無いのう。お前達――」
ローグはキーリがホーリードラゴンだと言う事と、少しの間滞在する可能性がある事を告げた。
「本当にホーリードラゴンだったのか?」
「出任せじゃなかったのか!?」
「伝説の聖獣じゃねえか!?」
「なんで、そんな奴がこの街に……?」
修練場は大混乱に陥るが、無気力に染まった目は大方元に戻った様である。
相手が見た目通りの華奢な女性ではなく、ホーリードラゴンと言う聖獣であれば負けるのも仕方ないと言う自己肯定によりバランスを取ったのだろう。
「静まれい!!」
ローグの一喝に、ざわめいていた冒険者達が静かになる。
「それでなのじゃが、彼女には明日の朝三の刻から指導を頼んでおる。指導をお願いしたい奴等は、明日の朝此処に集まると良い」
その言葉を皮切りに再び騒がしくなるが、ローグはそれには注意せずに階段を登って戻って行った。
修練場に居る者達は、心密かに決意する。
必ずアイツから技を盗んでやると……。
◇ ◇ ◇
「さーて、今日も元気に……朝練を……」
朝起きた兵士の一人が、朝の修練をしようと修練場へと向かうと、そこには巨大な何かが居た。
「なんじゃこりゃー!!!」
驚いた兵士は大きな声を上げてしまう。
その声に反応して、何人もの兵士が修練場に集まって来た。
「おい、朝からうるせぇぞ!! って何だこれ!?」
「何だあれ? ドラゴンか?」
「いや、ワイバーンしゃねぇ?」
「いや、問題はそこじゃねぇだろ!!」
彼等の反応は驚く者、的外れな事を言う者、冷静に現状を把握しようとする者と様々だった。
周りでガヤガヤと煩くしていると、音が原因かそれとも単に睡眠時間が丁度良くなったのか、目の前の巨大な何かが目を開いて首を起こした。
「何だお前達? 人の顔をジロジロ見るとか失礼だろ!?」
「「「喋った!?」」」
目の前の生物が喋った?
この生物は、ドラゴンでは無いのか?
いや、話せるのであればまずはコミュニケーションを取るべきか。
「えと、貴方は誰ですか? なんで修練場に居るんですか?」
得体の知れない生物ではあるが、言葉が通じるなら何とかなるだろう。
そう思いながら兵士が聞くと、予想外の回答が返って来た。
「私か? 私はキーリ・サーヴァイン、ホーリードラゴンだ。此処に居るのは、宿屋代わりに使わせて貰ったからだな。勿論、許可は貰ってあるぞ?」
「「「ホーリードラゴン……!?」」」
ホーリードラゴンってアレか?
昔に人間を助けた事があるとか言う、あの伝説のドラゴンか?
「全く……。すっかり目が覚めてしまったな」
キーリはそう呟きながら、彼等の目の前で人化を行う。
「人間に化けた!?」
「いや、化けたんじゃなくて人化だろ!」
「美しい……」
「おい! 見惚れてるんじゃねえよ!!」
キーリの人化を見た兵士達が、好き勝手に騒ぎ出す。
「騒がしいな。お前達こそ誰なんだ? 私に何か用か?」
「俺達はこの街の兵士です。サーヴァインさんに用があるのでは無く、この修練場で朝練をしているのです。それが、今日はサーヴァインさんが居たので……」
「む? それは済まなかったな」
「いえ、まだ修練の時間はありますし大丈夫です」
現在時刻は、二の刻を少し回ったくらいだ。
まだ、朝の鐘は鳴っていない。
「なあ、まだ少し時間がある事だし、お詫びに私が修練に付き合おうか?」
「修練に付き合う、ですか?」
それはどう言う意味だろうか?
「ああ。お前達の得物はロングソードだろ?」
「あ、はい。そうですけど……」
「私も剣の扱いには自信がある。少し手合わせしてみないか?」
「剣を扱えるのですか!?」
「ああ、この腰の剣が私の得物だ」
その言葉を皮切りに、再びざわめきが戻って来る。
「おい、今の言葉本当だと思うか?」
「いやぁ……。だってドラゴンだろ?」
「お前試しに打ち合ってみろよ」
「いやいや、お前がやれよ!」
キーリの言葉を疑う者も居たが、大抵は先ず手合わせを見てから考えようと思っていた。
だが、その手合わせの相手を押し付け合っていた。
そこで、今日一番から来ていて彼女の会話の中心になっている兵士が前に出た。
「サーヴァインさん。でしたら、俺とやって貰えますか?」
「ああ、良いぞ。私と手合わせを願おう」
「はい、宜しくお願いします!」
互いに距離を取った二人は、修練場に置いてあった模擬剣を構える。
ルールは、ザランと戦った時と変わらない。
「おい、開始の合図を頼めるか?」
「では私が。二人とも準備は良いですね? では、始め!!」
先ず初めに仕掛けたのは兵士だ。
「はっ!」
やや、手加減が残る速度でキーリの右側から打ち込みを行う。
キーリはその打ち込みを、剣を下に向けた状態で受け止めた。
「温いぞ! 私を殺すつもりで来い!!」
「いえ、ですが……」
目の前の女性が、ドラゴンだとは分かっているのだろう。
だがこの兵士は、目の前の華奢な女性に向かって本気では剣を振り下ろせなかったのだ。
「安心しろ! 私はお前程度に倒される程弱くは無いぞ?」
「っ!! そこまで言うなら、覚悟して下さい!!」
やや苛ついた様子の兵士が、キーリの左側へ先程の速度とは段違いの打ち込みを行う。
ガキン!
「なっ!?」
「おい! あの攻撃が受け止められたぞ?」
「もしかして、本当に強いのか?」
受け止めたキーリは、少し笑いながら受け止めた剣を弾き飛ばした。
「先程よりも速いじゃないか。もっと速く、もっと重い攻撃は出来るか?」
「舐めないで下さい!!」
それから暫く打ち合った後そこには、地面に転がる兵士と息一つ乱れていないキーリが立っていた。
「はぁ、はぁ……」
「眠気覚ましとしては悪くなかったぞ。だが、私が女だからと遠慮しすぎではないか? 私がホーリードラゴンである事を知っていてそれか?」
「くっ! 言い返せません……」
兵士は悔しさを滲ませながら答えたが、本当に手を抜いていたのは初め一撃だけだ。
その後は、全力で戦っての惨敗である。
「おい、お前彼女に勝てると思うか?」
「いや、無理だろ! アイツあれでもかなりの実力者だぜ? それがボロ負けとか実力差あり過ぎだろ!!」
「だよなぁ……。どこから攻撃しても、防がれる光景しか思い浮かばねぇ……」
「彼女ウチの部隊に欲しいな」
「「「隊長!?」」」
どうやら騒ぎに乗じて、彼等の隊長が見に来ていたらしい。
隊長と呼ばれた男性は三十代の前半くらいで、刈り上げられた焦げ茶色の髪の毛と灰色掛かった青色の目をしていた。
その目は鋭くキーリを見つめており、感情を映さない無機質な怖さがあった。
彼の身長は一ナレイ程で筋肉隆々の身体をしており、頭から頬に掛けての大きな傷跡目立つ人物だった。
「キーリ・サーヴァインだったな?」
「確かにそうだが、お前は?」
「俺はこの部隊を預かるゲヤルトだ。どうだ? 俺達の部隊に入らないか?」
常識で考えれば、魔物を部隊に勧誘するなど有り得ない。
だが、隊長――ゲヤルト――はその常識に囚われない異端だった。
「済まないが、お前達の部隊に所属する気は無いな」
「そうか、残念だ……。なら、代わりに一本手合わせ願えるか?」
「ああ、そっちは問題無い」
その答えを聞いたゲヤルトが隊員に開始の合図を頼んで、キーリと一定の距離を離した。
「始めてください!!」
「「はぁ!!」」
開始と同時に、両者距離を詰め剣を数度打ち合う。
「ふむ……。先程まで見ていたが、打ち合ってみると実力の高さが良く分かるな」
ゲヤルトはそう呟くと、キーリと距離を取って剣を構えたまま動作を止めた
「隊長が守りに入った!?」
「おいおい! キーリ・サーヴァインってそこまで強いのかよ!?」
「キーリさん素敵だなぁ……」
約数名違う事を考えているようだが、他の隊員は隊長の行動に驚いている様だった。
「ふむ、守りに入ったか……。仕方無い、此方から仕掛けるか……」
キーリは距離を詰め、ゲヤルトの左側に一撃を加えようとする。
だが、その攻撃はゲヤルトの剣に阻まれる。
「それなら!」
更にキーリが攻撃を加える。右から、上から、下から、後ろから……。
何度も、何度も……。
だが、それらは全てゲヤルトの剣に弾かれた。
「ゲヤルトやるじゃないか!!」
「キーリに褒められても嬉しくないな。私がギリギリなのを分かっているだろ?」
「そう言うな。もう少し上げるぞ?」
そう。キーリは攻撃の度に速度を上げていった為、ゲヤルトにも余裕が無くなっていたのだ。
だからと言ってキーリが攻撃を緩める訳もなく、更に速度を上げたキーリがゲヤルトへと向う。
左、後ろ、右、前、前、後ろ、上……。
攻撃パターンなど無く攻撃の工夫も無く、ただ速度が増しながらの攻撃回数だけが増えていく。
「くっ……」
「どうした? 守りも限界か?」
「まだだ……! ”反応加速”!」
「そう来なくては、なっ!!」
最初の攻撃の速度とは、比較にならない速度で攻撃が迫る。
だが、反応加速のスキルを使ったゲヤルトはその全てを弾き切る。
「おい! 隊長がスキルまで使うの見るのいつ以来だ?」
「流石ホーリードラゴンと言ったところだろうな。俺なんか攻撃の回数が分からなくなってきたぞ?」
「何言ってやがる! 俺なんか既に、何やってるか分かんねえよ!!」
攻撃の激しさは、鳴り響く音が示してくれる。
ガン……、ガン……、ガン……、と散発的だった音が、ガン、ガン、ガン、と連続的になり、そして今は――。
ドガガガガガ…………。
絶え間なく続く音が、攻撃の速度と激しさを物語っていた。
「キーリお前、本当に人間か?」
「何を言っている? 私はホーリードラゴンだぞ?」
「そうか……、そうだったな……」
どうやら戦っている最中に、その事が頭から飛んでいたらしい。
「ならっ!」
ゲヤルトの行動パターンが変わる。
先程までは防御一辺倒だったのが、反撃を加え始めたのだ。
キーリの攻撃が右から迫る。
彼はその攻撃を右手で持った武器で止めると、空いた左手でキーリに殴り掛かった。
「隊長!?」
思いもよらぬ攻撃に、キーリは思わず食らってしまう。
傍から見れば華奢な女性に対して、長身の鋭い目の男が殴り掛かっている衛兵案件の光景である。
「別に剣だけとは制限してないだろう? それにお前がホーリードラゴンなら、これくらいは問題無いだろう?」
「ハッハッハ! その通りだゲヤルト! 私に対抗する為に手段を増やすのは当然だ。スキルも魔法も体術き暗器何でも使うと良い!」
キーリはゲヤルトの行動を許可した。
更にその上で自分は魔法を使わず、スキルも使うとしても剣関連しか使わないと宣言した。
ゲヤルトはその言葉に、顔を歪ませながらも攻撃を再開する。
ゲヤルトが保持するスキルは多く無い。
彼のスキルは防御寄りのスキルばかりで、キーリに通じる様な攻撃スキルは皆無である。
だが、彼はまだ諦めてはいなかった。
「はっ!」
キーリの攻撃が上から振り下ろされる。
ゲヤルトはその一撃を右に回避しつつ、左拳で殴り掛かりキーリは回避する。
更にキーリの動きに合わせて、脚蹴りや右手の剣で斬り掛かる。
それを繰り返し、段々と態勢が崩れた所に、ゲヤルトは剣を繰り出す。
「はぁっ!!」
今までの最高速度で迫り来る剣撃は、キーリの腹部に見事にヒットした。
たが、それでもなお意味が無い。
「駄目か……」
彼の剣撃にはキーリに、何の痛痒を与える事も出来なかったのだ。
「ああ、そうだな。だが、中々良かったと思うぞ?」
「そうか……」
結局その後は有効打を当てることも出来ず、ゲヤルトはキーリに敗北してしまう。
更に何人かの兵士がキーリに挑むものの、攻撃を当てる事が出来た者は皆無であった。
「はぁ……、はぁ……。つ、強過ぎる……」
「くそっ! 俺なんか一撃で伸されたんだぞ!?」
「次はもっと上手くやる……」
死屍累々と言った所か。
修練場の外周にはキーリに敗れた兵士が、仰向けに倒れていたり気絶したりしている。
「キーリ、今日は俺達と模擬戦をしてくれて感謝する。部隊に入ってくれないのは残念だが、また機会があれば戦ってくれないか?」
「ああ、機会があれば構わないぞ?」
「そうか」
その時、三の刻を告げる鐘の音が鳴り響く。
「む? もうこんな時間か。私はそろそろ行くとする」
「そうか、ではまたな」
「ああ、またな」
兵士達に別れを告げ、キーリは修練場を後にした。
予想以上にキーリのお使い編が長くなってきました。
もう、数話で完結するとは思うのですが……。




