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キーリのお使い ~食べ歩きとショッピング~

「さてどう時間を潰すか……」


 寝場所の確保に、七の刻まで掛かるとはな……。

 人間の国では、私の寝る場所さえままならないのか。最悪、野宿でもするか……。


「まあ、取り敢えず大通りでも歩いてみるか」


 街に来る際、ミミがお金について語っていた。

 曰く、お金とは人間にとって自分や近しい人の命の次に大切な物とか……。


「こんな物がねぇ……」


 キーリが取り出した銀貨を指で弾く。

 袋の中に入っていたのは、銅貨百枚と銀貨九十九枚だ。

 合わせると丁度金貨一枚分になる。


「確か、銅貨、銀貨、金貨、白金貨とかがあるんだったか」


 勿論、通貨価値の教育もミミから受けていた。


 そして今回受け取った金額は金貨一枚分なので、日本円に直せば百万円程の価値がある大金と言えるだろう。

 尤も貨幣価値に興味も無いキーリからすれば、何かジャラジャラしてうるさいなくらいの感覚しか無いかも知れないが……。


「ミミも無茶を言う。騙されずに適正価格で砂糖を買って来いとは……」


 適正価格かどうかなんて、その地域に住んでないと分からないものだ。

 例えば日本においての水は基本的に無料だ。その環境で育ってきた人が、いきなり砂漠地域に行って水が売られていたとしても適正価格かどうかなど分かる筈が無いのだ。


 それを普段お金を使わない、キーリに求めるのは無理があると言うものである。


「まあ、砂糖はともかく何か面白い物があれば買って行くか」


 今回キーリは、お金の管理を一任されている。

 砂糖をある程度買うのは決定事項だが、キーリ自身が買い物をするのも許可されている。ミミによって……。

 この事以外にも幾つか、話し合っていた事があるようだ。


 キーリが辿り着いたシャンティナの大通りは、様々な簡易店舗が軒を連ねている。

 野菜、肉、アクセサリーや服、武具なんかもある。

 その様相は、ヨーロッパやアジアなどで見られる露天市に近いかも知れない。


「そこの別嬪さん!! 新鮮な野菜はどうだい?」

「そこの綺麗な姉ちゃん、ムーラの串焼きはどう? 肉汁たっぷりで美味しくよ!!」


 へえ、色々な物が置いてあるんだな。

 昔来た時よりも、賑わってる気がするな。


 キーリは売り子の話を適当に捌きながら、大通りをゆっくりと歩く。


「リャンの骨付き肉はどうだ?」

「お、それ良さそうだな。一本くれ」

「毎度!! 銅貨ニ枚だよ!」


 キーリは銅貨二枚を取り出し、店員に渡した。

 キーリの買ったリャンとは、シャンティナの周囲に生息している鹿の一種である。体が大きい癖に成長速度と繁殖速度が群を抜いており、安く提供可能な肉の一種になっている。

 また、安いだけではなく味も悪くない為、メジャーな肉の地位を築いているのだ。


「ふむ、悪くないな」


 確かに悪くないのだが、やはり肉は嘆きのラットの方が美味いな。


 キーリの感想の通り、所詮は露店で使う肉の品質だ。嘆きの洞窟の肉とは、品質に大きな差があるのは仕方無い。


 ところで今キーリが居るのは、シャンティナの南西地区から南東地区へと横切る大通りだ。

 他にも何本か大通りがあるが、この通りは安価な商品が売られているのが特徴だ。

 庶民的なメインストリートと言えるだろう。

 その証拠に今も、平民の奥様達が野菜や肉を購入していた。

 そんな中、キーリもリャン以外に幾つか食べ物を購入していた。


 うーん、野菜も樹海の部屋の方が美味いようだな。

 いや、カケルの料理が凄いのか?


「そろそろ食べ物以外も何か買うかな?」


 あの洞窟には割と必要な物が揃ってるのだ。

 そうすると残りは娯楽や鑑賞用の品だが、キーリはそもそも娯楽に対する下地が無い。

 カケルによって、少しは詳しくなっては来ているのが……。


「そうだなぁ、剣でも見てみるか」


 そんなキーリが、昔から興味がある剣を見てみようとするのも当然なのかも知れない。


「そこのお前、少し良いか?」

「ん? 俺か?」


 キーリは武器屋の場所を聞く為に、近くの男性を捕まえた。 


「ああ、そうだ。済まんが武器屋の場所を教えてくれないか?」

「ああ、武器屋か。武器屋なら――」


 男性はキーリに、お薦めの武器屋の場所を丁寧に教えてくれた。


「ありがとう。助かった」

「気にすんな! 贔屓にしてやると喜ぶと思うぜ?」


 男性にお礼を言って、教えてもらった場所へと向かう。

 武器屋は南東の外れに建っていた。

 大通りからは大きく外れており、周りの人通りは殆ど無い。

 中々年期が入った石造りの建物で、バスターソードを担いだ男性の絵が看板には描かれている。


 キーリは迷わず、建物の中に入った。

 建物の中はややヒンヤリとしており、ロングソードやスモールシールド等が所狭しと並んでいた。

 キーリはそれを軽く見回しながら、つい本音を漏らしてしまう。


「ふーむ、良い店だと聞いたのに(なまくら)しか無さそうだな……」

「おい、姉ちゃん! 堂々と俺の武器を批判するとは良い度胸だな!?」

「ん? 店主か?」


 店の奥から出て来たのは、身長半ナレイに届くかどうかの非常に小さい髭モジャオヤジだった。


「文句があるなら出て行ってくれ! 此処には、アンタみたいな騎士様に売るような代物は無いんでな!!」


 どうやら彼は、キーリの事を騎士と勘違いしたらしい。

 彼はそう言いながら、やや侮蔑な視線をキーリに向かっていた。


「ああ済まん。だが、私は騎士ではないぞ? 後、此処に置いてあるのは鉄製だろ?」


 展示されてる剣を見回しながら、店主に疑問を投げかける。


「何が言いたい?」

「単純に鉄製の剣では、私の腕力に耐えられないと言うだけだ」


 幾らキーリの剣術が良くても、剣に加わる力をゼロには出来ない。

 それは硬い物を斬ったり、強力なスキルを使えば更に顕著となる。


「ほう? ここにある武器では物足りないと?」

「ああ、脆過ぎる」

「なら、アンタは何の素材なら納得するんだ?」

「最低でもオリハルコン。出来ればアダマンタイトか、それ以上の硬さの素材が望ましいな」


 この世界には通常の金属以外に、魔化(まか)金属と呼ばれる金属が存在する。

 現在発見されている魔化金属は、柔らかい順に、ミスリル、オリハルコン、ヒヒイロカネ、アダマンタイトとなる。

 その硬さは鋼よりも硬く粘り気もある為、武器に最適な素材として重宝されている。

 しかも、魔化金属の種類によっては圧倒的に魔力の通りが良い為、属性を帯びた剣――フレイムソードなど――を作る事も可能なのである。


 但し、その分加工もかなり難しいのだか……。


「最低でもオリハルコンとは強く出たな? ――そうだな、アンタが相応の実力を見せてくれれば作ってやっても良いぜ?」


 まるで客を舐めた様な言い方だが、こう言う客を試す店は割と多い。

 と言うのは、相応の実力が無いと殺されて武器が奪われるだけだからだ。


 魔化金属の武器とは、殺してでも奪うだけの価値がある武器なのである。勿論、実際の売買価格もかなり高い。


「実力か……。何を見せればお前は納得する?」

「そうだな。少し付いて来てくれ」


 キーリが店主に付いて店の裏手に回ると、其処には木の柵に囲われた修練場の様な広場があった。

 修練場には木や岩、弓の的等の、試し斬りや試し撃ちの対象と思わしき物が幾つか並んでいた。


「取り敢えず、アンタの腰に差してある剣でどれかを斬るところを見せてくれ」

「分かった」


 キーリが斬る対象として選んだのは、何かを捏ね繰り回して作ったかのような赤茶色の巨大なオブジェだ。


「おい、アンタ! ソイツは錆びてはいるが全体が鉄製だぞ?」

「ああ、問題ない」

「問題ないって……」


 キーリは一旦目を閉じて、腰の剣の柄に手を掛ける。


「はぁっ!!」


 キーリは目を見開くと、掛け声と共に剣を抜く。

 そして目にも止まらぬ速さで、剣を振り抜くと鞘に再び戻した。


「何だ……? 今のは……」


 余りにも早過ぎて、彼には見えなかったらしい。


「だが、斬れてないじゃないか。失敗したのか?」

「いや、成功だ」


 そう言いながらキーリが鉄塊を拳でノックすると、ガラガラと音を立てながら鉄塊の姿が変わる。

 そこから現れたのは――。


「おいおい、インゴットじゃねえか!!」


 台形型のインゴットが、大量に積まれた姿だった。

 赤茶色の錆は綺麗に落とされ、鈍色に輝く鉄のインゴットが並ぶ光景は見事であった。


「どうだ? 要らない部分を削ぎ落として、インゴットにしてみたのだが?」

「どうだじゃねえよ! アンタ何者だ!?」

「キーリ・サーヴァイン。ただのホーリードラゴンだ」


 その回答に、店主は目を丸くした。

 だが、キーリの回答をどう噛み砕いたかは分からないが、次の瞬間には納得したような表情を浮かべて頷いていた。


「なるほどな……。さて――」


 合格だ。そう言われたキーリは、続いて問題点を提示される。

 その問題とは、単純に魔化金属で作られた商品が無いらしい。

 と言うのも、魔化金属を使った武器は基本的にはオーダーメイドらしいのだ。

 その理由としては魔化金属の加工の難しさと、出回る量が著しく少ない事が挙げられる。


 魔化金属を加工するのにかなりの集中力と時間が掛かるため、加工する事自体が稀でありまた加工出来る程の量も中々確保出来ない為に、そもそも量産品を作っても意味が無いのだ。


 そして現在は、その材料である魔化金属も切れてるらしい。


「ならば、これでどうだ?」


 キーリが取出したのは、先程のギルドでの買い取りには出さなかったアダマンタイト、オリハルコン、ミスリルのインゴットである。

 ミミが予め持たせておいた物で、先程のポーチのメッセージにも、自由に使って良いと吹き込まれていたのである。


「ア、アンタ……。こいつは魔化金属じゃないか!!」

「コレだけあれば足りるだろう?」

「ああ!! 十分だ!! 十分すぎる!!!」

「ついでにコレも渡しておこう」


 キーリは店主に、三角状の物体を十枚程渡す。

 それは白銀に輝いており、大きさは一枚が店主の顔程もあった。


「コイツは何だ?」


 受け取った店主は、光にその物体を(かざ)しながらキーリに尋ねた。


「私の、ホーリードラゴンの鱗だ。加工は難しいかも知れないが、アダマンタイトよりも余程頑丈だぞ?」

「はあ!?」


 驚いた店主の視線が、渡された鱗に固定される。


 魔化金属は確かに武器の材料としては優秀なのだが、そこにはメリットだけでは無くデメリットも存在する。

 そのデメリットの一つが重さである。

 ミスリルとオリハルコンはそこまででも無いのだが、ヒヒイロカネとアダマンタイトは何と金よりも比重が大きいのだ。


 そのアダマンタイトよりも硬いのに、殆ど重さを感じない軽さに驚いた訳だ。

 尤も、疑いの目も入っているかも知れないが……。


「どうした? もしかして、加工出来ないのか? 通行人にこの都市一の職人だと聞いてやって来たのだが……」

「ハッハッハ! この俺に挑発とは面白い! そこまで言われちゃ黙っていられねえ!! やってやろうじゃねえか! 最高の武器を作ってやるよ!!」


 キーリの挑発に、店主は黙っていられなかったらしい。

 どうやら、挑発を受けてやる気になったようである。


「あ、そうそう。今の私の剣はこれだが、この出来を超えてくれると嬉しい」


 キーリは腰に掛けてあった剣を、鞘ごと店主に手渡した。


「良いのか?」

「ああ」


 店主が見せる気遣いは、剣は自分の命であると言う武人も居るためだろう。


「なら遠慮なく――。おおっ……」


 鞘から抜いたキーリの剣を見て、店主か感嘆の声を上げる。


 そもそもキーリの剣は、人化によって変化した彼女の身体の一部である。

 その場合着ている服もそうだが、人化する種族の特性が現れる事が多い。

 キーリの剣もその例に漏れず、やや強めの光属性を帯びている。

 但しそれ以外はただ頑丈で、鋭い切れ味があるだけの剣ではあるが。


「何だコレは……? こんな剣見た事無いぞ!?」

「私の人化によって作られた剣だな。さっき渡した鱗だけを使って、作っていると思えば良いだろう」


 キーリの言を聞いた店主は、何かブツブツ言いながら彼女の剣をじっくりと様々な角度から見ていた。

 そして、一通りの角度から剣を見た後にキーリに再び目を向けた。


「確か、キーリとか言ったか? 欲しい武器はこの剣と同じ形状か?」

「ああ、同じ形状で頼む」

「分かった。だが、この素材は使った事が無い。出来上がりには、時間が掛かると思うが構わないか?」

「ああ、構わない。それで料金の支払いはどうなる?」


 店主から剣を返して貰いながら、キーリは値段に関しての質問をする。

 それに対しての返答は、店主の要望で残った素材の一部で支払う事になった。

 キーリが持ってきたインゴットは、剣を一本分よりもかなり多かった為単に素材として確保しておきたかった様である。


「店主、良い剣を頼むぞ?」

「ああ、任せろ!! ああ、遅くなったが俺はドワーフのボルマだ! 宜しくな!!」

「ボルマだな? ああ、宜しく頼む」


 店主改めボルマと握手をした後、キーリはボルマの店を後にした。


 ◇ ◇ ◇


 全く変な客だったぜ。

 店に来ていきなり俺の武器にケチ付けるから、何処のボンボンかと思えばホーリードラゴンと来たもんだ!

 まあ、実際のところ本当かどうかは分からんがな。とは言え、頭の角と羽根が付いてる時点で普通の人間じゃないだろうが。


 それは兎も角、アイツの実力は超一流だ。

 あの置き場に困ってた鉄塊を、剣一本でインゴットにしちまった……。

 更にミスリル、オリハルコン、アダマンタイトのインゴットまで持っていて、彼女の鱗だと言う謎の素材を残して置いてきやがった。


 今その彼女の鱗だと言う謎の素材を、試しにハンマーで叩いているのだが――。


「何だよ! この素材はよ!!」


 俺のハンマーで、アダマンタイトとオリハルコンの合金のハンマーで叩いているってのに傷一つ付きやしねえ!!


 もしかすると、さっきのアダマンタイトよりも硬いって話しは本当かも知れねぇな……。


 その後も謎素材の加工を試していると、店の方から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


「おっちゃん居るか?」

「あん? 誰かと思えばガルクじゃねえか?」

「いやぁ、面白い客を紹介したから気になってな!」


 面白い客とは、十中八九さっきの女の客の事だろう。

 更に詳しく聞くと、道端で武器屋の場所聞かれて俺の店を紹介したらしい。

 それは嬉しいんだが、その後の言葉が気になった。


「人じゃない?」

「ああ、でも嫌な感じはしなかったな。それと、少なくともあの女俺より強いぜ?」

「夕闇級のお前よりもか!?」

「だな。なんの種かは知らんが、世界は広いってこったなぁ」


 人じゃない? しかも夕闇級以上……?

 もしかして――。


「ホーリードラゴン……」

「なんだって?」

「ホーリードラゴンだ。あの女が、キーリが自分自身を指してそう言っていた」


 そう、キーリは確かにそう言っていた。

 あれが冗談や酔狂じゃなくて事実だったら?


 あの魔化金属のインゴットや、例の謎の素材を持っていた事にも説明が付くかも知れない。

 だがホーリードラゴンってのは、人に変化出来る存在なのか? 俺は聞いた事が無いのだか……。


「――なるほどな。例の噂はあの人が原因だったか……」

「噂?」


 キーリはどうも正門から堂々と中に入ったらしい。しかも自分が、ホーリードラゴンだと宣言してからだ。

 幾らホーリードラゴンと言う聖獣だとは言え、そう易々と門を通して貰えるとは思えないのだが……。


 俺がそう疑問を呈すると、ガルクが答えてくれた。

 何と古いギルドカードを持っていたんだそうだ。それも二千三百年前にシャンティナで作ったギルドカードだと言う。

 二千三百年前……。人種では到達出来ない年月だな。

 まあ、魔人種なら有り得るかも知れないが……。


「そう言えば、ガルクは何でこんなに詳しいんだ?」

「ギルドで注意を呼び掛けてるのさ。あの人と敵対したら、総ギルマスが直々に粛清するとさ」


 おお怖い怖いと言いながら、ガルクが飄々と答えた。


 ふむ。だとすると、ホーリードラゴンってのは事実って事か……。

 キーリが実は無関係で、他にホーリードラゴンが居る可能性もあるが、流石にガルク以上のヤツがポンポン居てたまるかってもんだ!!


「なるほどな。奇しくも俺はホーリードラゴンから、剣の作成依頼を受けたって訳だ!」


 良いね! 燃えるぜ!!

 久々に骨がありそうな、客と依頼ってな訳だ!!


「話しを聞く限り温厚らしいから、間違っても怒らせるなよ? 総ギルマスも言っていたが、ありゃ俺達人種が勝てる相手じゃねぇからな」

「ああ、大丈夫だ! それより――」


 俺はガルクに、ホーリードラゴンの情報を尋ねた。


「情報? 別に構わねえが――」


 何故と言う顔をされたので、俺は奥から加工しようとしていた鱗を持って来る。


「コイツが理由だ。コイツの加工をしたいんだが、俺のハンマーじゃ歯が立たなくてな」

「おいおい! まさかホーリードラゴンの鱗かよ!!」

「ああ、キーリはそう言っていたな。コレと魔化金属を使って、最高の一振りを作れってのがアイツの依頼だ」

「なるほどなぁ……。よし、分かった! その代わりと言っちゃなんだが、俺の剣を新しくその素材を使って作ってくれないか?」


 不思議な依頼をされたんで、ガルクに理由を尋ねてみた。


 俺は知らなかったのだが、どうもホーリードラゴンの鱗とは最高の素材の一つで、ある国ではその鱗で作った剣を聖剣と呼び国宝指定されてるとか……。

 おいおい! この鱗、国宝級の素材かよ!?


 まあ、余った部分から代金として貰う約束だから別に良いんだろうが、そうなると俺が打った剣で鱗一枚分になるかどうかも疑問だよな……。


「先ずはコレが完成してからだな。その報酬に使った素材の余りの一部を貰う予定だから、その時の素材の量次第だな」

「それは仕方無いな。だがもし剣を打てるだけの素材が手に入ったら、その時は頼むぜ?」

「ああ、それなら請け負おう」


 それからガルクに、ホーリードラゴンの話を詳しく聞いた。


 それによると、元々謎が多いドラゴンらしいんだが、幾つか判っている事があるらしい。

 まずホーリーの名の通り、光属性のドラゴンであると言う事。

 その特性からか、アンデッド等の瘴気を放つ魔物を毛嫌いしていると言う事。

 そして聖域と呼ばれる(よこしま)な存在を許さない土地を作り上げ、その中で暮らすらしいと言う事。

 以上の三つしか分かって無いらしい。


「うーん、そうなるとホーリードラゴンの弱点は闇属性か?」

「完全な弱点になるかは分からんが、そう考えるのが妥当だろうな」


 魔物の中には、魔物自身が特定の属性を持つ者が居る。

 その場合反属性の魔術や魔法の効きが良い事が多いのだ。

 例えば水属性の魚系の魔物に、火属性の魔術や魔法が著しい効果を発揮したりするのだ。


「だとすると、加工のヒントに闇属性も関わるかもな。後はシンプルに日で炙るとかか……。なあ、闇魔術が使えそうなヤツに心当たりはねえか?」


 流石に魔術は、努力じゃどうにもならねえからなぁ……。


「そうだなぁ――」


 ガルクの提案した人物の名前はニーナだった。


「ニーナ? 誰だそれは?」

「エルフと人間の夫婦が、経営している宿屋は分かるか?」


 エルフと人間?

 ああ、太陽と月の宿か……。

 それで、その宿屋がどうしたか聞くと、その宿屋の娘が件のニーナなのだそうだ。


 エルフと人間との間に産まれたハーフエルフのニーナは、闇魔術が得意で闇魔術の中でも高度な重さを変える魔術を操り、自分の身長以上の長さの大剣を振り回しているらしい。

 何だその危ない女は……。


 だがそれは今関係ない。それよりも、問題なのはソイツの年齢だ。


「七歳ってお前、まだガキじゃねえか……」

「ああ、ガキだな。それもとびっきりに生意気なガキだ」

「俺にお守りも同時にやれと? 冗談じゃない!」


 闇魔術は必要だったが、流石にガキのお守りはしたくねえな。


 そう思ったんだが、ガルクがそれを否定した。

 普通のガキよりは賢く要領が良いため、大人として扱っても大丈夫だそうだ。

 報酬に関しても安く済むだろうとの事だった。もし気になるなら、ニーナに剣を打つ時にサービスしてやれば良いと言われた。


「それに闇属性をある程度扱える奴が、他に見つかるかは分からねえぞ?」

「分かった、分かった。一度会ってみて考えるさ」


 そうなのだ。闇属性は扱える者がかなり少ない。

 単純に適性が出難いと言うのもあるが、少し昔に教会が闇属性の使い手を一斉に狩り回った事があるのが大きい。

 邪悪な術を使う人類の敵だとか抜かしてたが、実際には教会の権威の保持の為だと俺は思っている。


 この闇魔術だが、実はとても有用なのだ。

 例えば、先程のニーナの様に重さを操ったり、収納ポーチを作る際にも必要となる魔術である。

 更には、あらゆる場所に転移する事が可能な魔術もあったと聞く。まあ、これは伝説でしか聞いた事が無いがな……。


 だが、一番重要なのは闇魔術の中にあるダークヒールの存在だろう。

 教会の教義では清く正しく生きてないと、回復魔術が効き難いとされている。

 確かに、光属性のライトヒールはそうらしいのだが、ダークヒールはそれが逆らしいのだ。

 つまり非道な行いをしている程に、回復効果が効き易くなる訳だ。


 この魔術が蔓延すると、教会の権威が失墜する為、その前に芽を摘んだのではと俺は考えている。


 まあ、それは今は良い。

 問題は、闇属性の使い手の少なさだ。

 先の様な理由から使い手が激減している為、今回の闇魔術を使える人材が近くにニーナしか居ない可能性すらあるのだ。


 だからまあ仕方ない……。ガキだと言う事には目を瞑ろうではないか。

 そうガルクに伝えると――。


「うし! んじゃ、近いうちにニーナと連絡取ってみるわ。剣出来るの楽しみにしてるぜ!」


 そんな事をほざきながら、ガルクは店を出て行った。


 やれやれ。一体どうなる事やら……。


 まあ、俺は俺で他の手法を試して見る事にするかねぇ……。


今回はドワーフが出てきました。

良くある髭だらけの小さいオッサンですね。


シャンティナ一の鍛冶師で、武器作成依頼が結構来るその道の有名人です。

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