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キーリのお使い ~領主の苦悩とシェーラの英才教育~

今回は閑話の様な物なので短めです。

 コンコン! ガチャッ!


「おい! まだ、許可を出してないぞ!?」

「そんな事はどうでも良いんです!!」

「そんな事って……」


 シャンティナの領主館執務室の扉が、慌ただしく開かれたと思えばそんな返事が返って来た。


「それよりも、ティザーク様大変です!!」

「何ですか! 騒々しい!」

「こ、この街に……」

「この街に?」

「この街にドラゴンが入り込みました!!」

「はあ!?」


 いつも通りと言えばそれまでだが、ティザークはミリエラを膝に乗せたまま会話をしている。


「ドラゴンさんって、あのドラゴンさん?」

「はっ! ミリエラ様、あの空飛ぶドラゴンで御座います!」


 ミリエラの質問に対して、報告に来ていたティザークの部下が答えた。


「そうなんだ! すごーい!!」

「はい! 凄い事です!!」


 ミリエラはその答えに対して、感嘆の声を上げた。


「おい、貴様!! 誰の許しを得てミリーちゃんと、楽しげに話している?」

「え? あ、申し訳ありません!!」

「まさかとは思うが、貴様――」

「め、滅相も御座いません!!」

「なら……」


 更に問い詰めようとするティザークの言葉を遮る様に、ゴンッと言う良い音がティザークの後頭部から鳴り響いた。


「痛っ! シェーラ!?」

「ティザーク様? 急ぎの報告があったはずですよ? 早く聞き出して頂けますか?」

「そ、そうだな……」


 シェーラは後ろに般若が見えるような表情をしていた為、ティザークはややビビりながら本題に戻る。


「ん、んん!! それで? そのドラゴンは何故入った? 門番は何をしていた?」


 魔物の外敵は本来、門番や壁の上の見張りが発見して街に通知する役割を持っている。

 それがいきなり中に入られたと言うのだから、問い質されても仕方無いだろう。


「それが……」

「どうした? 何かあったのか?」

「正規の手段で西門から入ったそうです……」

「正規の手段で入った? どういう意味だ?」

「そのままです。西門から本物のギルドカードを提示して、街に入ったとの事です……」

「ドラゴンさん、この街にいるの!?」


 ギルドカードを使って入った?

 しかもカードが本物?

 なら、何処でドラゴンにカードを発行したんだ?

 いや、それよりも――。


「そもそも西門は、ドラゴンが潜れるサイズでは無い筈なんだが……」


 あの門は余り使われない為、門のサイズがかなり小さかった筈……。

 いや、子供のドラゴンだったら有り得るのか?


「いえ、ドラゴンなのは確からしいのですが、姿も喋り方も人間の女性と殆ど変わらなかったとか……」

「まさか、人化!?」

「パパ、ひとかってなに?」

「ああ……。人化ってのは、上位の魔物などが人種の姿に変形するスキルだ……」


 しかも人語を解する魔物など、かなり上位に属する魔物以外あり得ない!

 そんな魔物が入り込んだと!?


「それで、そのドラゴンは今何をしている? 被害状況は?」

「それが、観光をしているようです……」

「はあ!?」


 今度こそ意味が分からない。

 ドラゴンが観光?

 ドラゴンと言えば、度々人里に降りてきては損害を与える好戦的な魔物だぞ!?


「では被害状況は?」

「被害ゼロです。それどころか、街に来る際この街の住人を一人助けたらしいのです……」


 はぁ……、人を助けた?

 ドラゴンがか?


 詳しく説明を聞くと、西門から一ナレイ離れた辺りでオーガに襲われていた所を、そのドラゴンが剣を用いて助けたとの事。


 ツッコミどころが多いな……。

 オーガが街の近くで目撃されたのも問題だが、ドラゴンが剣を用いて助けたと言うのが信じられない。

 そもそもドラゴンは魔力や身体能力に優れた種族だ。従って基本的には有り余る力で押し潰す力技で攻撃する。

 それなのに技術が必要な剣技を用いるとは……。

 人化と言い、人語を喋る事と言い、かなりヤバそうな存在だ。


 幸いにして今のところ理性的で、しかも人助けをするくらいだから悪い事にはならないかも知れないが……。


「報告だけ聞けば、そこまで危険な存在では無さそうだな」

「はい。それでティザーク様、如何致しましょうか?」


 難しい質問だ……。

 正直街の保安の観点からすれば、追い出したい様な危険な存在だ。

 だが、危険なのはその存在が持つ力であって、そのドラゴン自身は善良に聞こえる。

 ふーむ、判断材料が足りないな……。


「そのドラゴンは観光をしていると言いましたね。この街に来た目的は分かっていますか?」

「はっ! それがどうも、砂糖を買いに来たようです」

「砂糖ですか……?」


 更に意味が分からない情報が出て来たな……。


「肉食のドラゴンが、何故砂糖を欲するんだ?」

「ドラゴンさんも、あまいものが好きなんだよ!」

「そっかそのドラゴンさんは、女性だもんなぁ!」

「うん!!」


 ミリーがそう答えてくれたので思わず返したが、その答えはどうなのだろうか?

 幾ら性別が女性らしいとは言え、ドラゴンが甘い物を好むのだろうか?


「それと集めた情報によると、どうもこのドラゴンお使いみたいなんです」

「お使いですか?」


 また、意味が分からない事を……。

 それだと少なくとも、そのドラゴンに命令出来る存在が居る事になってしまうではないか。

 そんな化物なんて――。え? 居ないよな?


「はい、仲間の一人が料理上手らしくて、お菓子の材料として彼女が買い出しに来たと……」


 最悪の一歩手前だな……。

 少なくとも、仲間と認めるレベルのヤツが居ると……。


「ドラゴンでもお菓子を食べるのですか。もしかすると、予想以上にドラゴンと言うのは文明的に暮らしているのかもですね」

「それはどうだろう? そのドラゴンが例外なだけかと思うぞ?」


 全部が全部、そんな文明的な種族なら人里に下りて破壊活動なんてしないだろうさ。


「パパ、ドラゴンさんとお友達になれるかな?」

「うん、そうだな。ミリーなら仲良くなれるかも知れないね!」


 ごめんなさい。それは勘弁して下さい。

 パパの胃が耐えられないんです!

 シェーラと目線を合わせて、意思を伝えた。多分シェーラなら私の意思を汲んでくれるだろう。


「纏めると、友好的なドラゴンが砂糖を求めてこの街にやって来たってとこかしら?」

「はい。概ねそれで合っていると思います」

「私は良いと思いますよ。ここは混沌都市なんですから」


 それを言われると弱いな……。

 此処が混沌都市と言われる所以の一つに、種族問わずに受け入れると言うポリシーがあるのだから。

 それを通すなら、こちらに被害を与える存在以外は受け入れるべきだろうなぁ……。


「はぁ……。分かった……。取り敢えずそのドラゴンの件は保留だ。但し、情報は引き続き集めろ」

「はっ! 承知致しました!!」


 部下が退出し、再び三人だけになる。


「あなた、私が言うのもなんですが良かったのですが?」

「仕方なかろう。相手がドラゴンとは言え、問題を起こすどころか領民を救ってさえいるのだからな」


 そう、ただドラゴンと言うだけで排除していては、私が大嫌いな教会と同じではないか!


 混沌都市シャンティナは王国で唯一、教会を受け入れていない。

 と言うのも、受け入れる為には人間種以外を弾き出せと言われたからだ。

 教会の言い分では人間以外は害悪であり、排除する事が神に選ばれた我々の責務だとか何とか……。


 そもそも人種は、基本的に同じリリアン様を信仰してる筈なのに、選ばれた者とかの話しが出て来る事自体がおかしいのだ。

 それを遠回しに伝えたところ、お前は神の言葉を疑うのかと激昂された。

 だから、私の信仰してるリリアン様と貴方方が信仰しているリリアン様は、違う神様のようですねと言って追い返してやったわ!!


 おっと、どうでも良い事を思い出してしまったな。


「まあ、取り敢えずは様子見だろうな」

「分かりました」


 さてさて、そのドラゴンはこの混沌都市に何を齎すのかな?



 ドラゴンの正体がホーリードラゴンで、神の御使いとも呼ばれる聖獣だと分かったのはそのすぐ後だった。

 いやぁ、受け入れておいて良かったわ……。神の御使いを放り出していたら領民に何と言われるか……。


 ◇ ◇ ◇


 領主館一階の一部屋に妙齢の女性と、小さな少女が向かい合っていた。


「良いですか、ミリー? 貴女はこの家の長女です。先の事は分かりませんが、貴女が家を継ぐとすれば、他の家から婿を迎える事になります」


 言うまでも無く、シェランド家の奥方であるシェーラ・シェランドと、シェランド家の一人娘のミリエラ・シェランドだ。


「むこ……?」

「そうです」


 王侯貴族において家を継ぐ為のは、基本的に男性で無ければならない。

 しかし、シェランド伯爵家には現在ミリエラ一人しか子供が居らず、しかも彼女は女性である。

 従ってもし今後も男児が産まれない場合、彼女が婿を迎え入れ実質的には婿が家督を継ぐ事となる。


 一応ミリエラが嫁に出て行き、養子として長男を迎える事も出来なくは無いが、ティザークの性格上それは有り得ないとシェーラは考えていた。


 さて、婿を迎え入れるに当たって問題となるのは家の乗っ取りである。

 勿論、実質的な執務は婿側が行うとは言え、家の乗っ取りなど王国が許している訳が無い。

 だが、実際に執務を行うのは婿側である以上、緩やかに乗っ取られる可能性は十分にあるのだ。


「ですので、ミリーには男性を手の平で転がせるようになって貰います」

「手の平? ころがす? ママ、意味が良く分からないよ?」


 そこでシェーラが思い付いたのは、ミリエラが婿を尻に敷けば良いと言う物だった。

 単純ではあるものの、成功すれば効果の程は計り知れないだろう。


「今は分からなくとも構いません」

「んぅ?」


 シェーラの話が分からなかったのだろう。

 ミリエラは首をコテンと傾けた。


「可愛い……。コホン……。ミリー、前に教えたお父様へのおねだりは覚えていますね?」

「うん」

「では、やってみてください」

「うん、分かった」


 ミリエラが顔をシェーラに向けて、目を潤ませ出す。

 そして――。


「パパ~、ミリーお菓子が食べたいなぁ~」


 お菓子をおねだりした。

 そこに、シェーラからの指摘が入る。


「もっと相手の目を見て、訴え掛けるように! 首の角度はもう少し傾けて!」

「こう?」

「そうです! では、断られた時は?」

「えと、こうかな」


 ミリエラは顔を少し俯かせて、目から溢れ出た涙で頬を濡らす。


「パパ……、ミリーの事がキライなの……?」

「ぐふ……」


 ティザークとのシミュレーションなのに、何故かシェーラにダメージが入っていた。


「ミ、ミリー? なんて言うか前よりも上手くなったわね……」


 シェーラが前に教えた方法では、俯いて悲しそうにするまでで、涙を流す事は教えていなかったのだ。


「うん。前に悲しそうにするって教えてもらったから、涙も流した方が悲しそうに見えるかなって」


 涙を流す方が効果的だと分かっていても、実際に流せるかは別問題だ。


 どうやらミリエラはシェーラの特訓の成果もあって、段々と演技派になっていっている様だ。


「そ、そう。良かったですよ? では――」


 やや罪悪感を感じながら、シェーラの指導は続く。

 全てはシェランド家の為、ミリエラの為と割り切って……。


 今のところ犠牲者はティザークだけであるが、ミリエラがこの技術を本当に必要とする時は来るのだろうか?

 出来れば何処かに嫁に行って、使う必要が無くなって欲しいと願うシェーラなのであった……。


この国は男尊女卑真っ盛りの時代です。

平民はそこまででも無いですが、王侯貴族の場合どんなに能力がある女性でも上に立つ事は出来ません。


ですが、家督を持っている男性を裏から操れば女性側が上に立っていると同等になりえます。

シェーラの教育は相手を意のままに操る為のものですね。

ミリエラに弟が出来れば無用になる技術ですが、それまではティザークでその実験を繰り返すでしょう……。

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