花火師の息子
いつも他の方の作品を見させて頂いたのですが、遂に自分でも執筆してしまいました。
書き方が拙くて分かりにくいかも知れませんが、お読み頂けたら幸いです。
一応ほのぼの系の異世界転移物ですが、序章は異世界の事は出てきません。
ゆっくり不定期に上げて行く予定です。
また専門用語や、花火の評価方法が羅列してますが、興味のない方は軽く流しながら読んでもらうと良いかもです。
区切りが短すぎる為、二話と纏めました。
ヒューー、ドーン、キラキラ――。
「どう翔ちゃん? あれがパパの作った花火よ。綺麗でしょ?」
「うん、まま。ぱぱの、はなびきれい……」
日本人なら誰でも見たことがあるであろう夏の風物詩。夜空と海を照らす幻想的な光と音。
その日から彼の心の中には、冠菊の花が静かに咲き誇っていた――。
翔の父親は、花火師として日本一とも言われている空野輝明。母親は影子、元は輝明の花火師としての弟子だったらしい。
父母の名前は合わせると光と影、翔の名前も空を翔るとなっていて花火のイメージにぴったりである。
そんな家系に育った翔が、花火師になろうと思ったのは必然だったのかも知れない。
三歳の頃に見たあの光景が忘れられなかった翔は、すぐに父にあんな花火を作りたいと申し出た。
「ぱぱ! ぼく、ぱぱみたいに、きれいなはなびをつくりたい!!」
「翔、花火師はとても厳しい世界だぞ? 最低でも十年は修行しなければならないし、一人前になっても体力不足や、仕事が辛くて辞めていく人も多いんだ。それでも、翔は花火師になりたいか?」
「じかんが、かかってもいい! ぱぱのようになれるなら、はなびしになる!!」
「翔、良く言った!!」
そこから輝明の動きは早かった。火薬を使った花火玉を作るのは危ないとの事で、用意したのがこの花火玉作成体験セットだ。
・一号玉~五号玉サイズのプラスチック製の玉殻。
・割薬の代わりの黒いパチンコ玉サイズのプラスチック球。
・星に使うマウスのトラックボール大のプラスチック製の色つき球。
・星と割薬の仕切りの間断紙である白和紙。
・導に使う茶色の和紙。
花火玉を作るためには、玉殻、星、割薬、間断紙、導のパーツが必要になる。
玉殻は玉皮とも呼ばれる、花火玉の表皮の事で、伝統的な材質は新聞紙や和紙、現在はボール紙が一般的である。
星は打ち上げ際に色付きで輝く点を表現するパーツで、色を出す焔色剤、酸素を供給する酸化剤、燃焼を促進する可燃材で構成されている。
焔色剤には金属を使用しており、この金属が燃焼する際の色が打ち上げ後の色になる。
一般的に星の外見は黒や青などで燃えた際の色と見た目は違うが、今回の体験セットでは打ち上げの色と星の色を統一してある。実際には体験セットなので打ち上げられないが……。
割薬とは花火玉を空中で割り、星を外に飛ばす役割を持つ火薬の事だ。実際には籾殻やコルクなどに火薬を塗して乾燥させたものを使用する。
間断紙は星と割薬が混ざらない様にする仕切り紙だ。火薬同士が混ざると発火する可能性もあるので、安全面では最も重要なパーツでもある。
間断紙には古来より和紙が最良とされており、和紙・雁皮紙を超える紙は無いとまで言われている。
導は親導とも呼び、導火線の事だ。打ち上がった瞬間に着火し、一定時間燃焼後に中央の割薬に対して引火させる役割を持つ。
打ち上がった玉が丁度良い位置で開くのは、この導のおかげで引火タイマーとも言えるかも知れない。
他にも完成までには、上貼紙で玉貼りをして強度を高めたり、竜頭を付けて筒に装填する際の持ち手にする必要があるが、今回の体験セットには含まれていない。
玉殻の外側から星、間断紙、割薬、間断紙、星と詰めていき中央は割薬で終える。この並び順が割物と呼ばれる一般的な詰め方をした花火で、他にも型物や小割物、ポカ物などいくつも種類がある。
翔は貰った体験セットを使って、何回も花火玉の作成練習をした。最初のうちは割薬や星の敷き詰め方や間断紙の配置が下手だったが、練習してる内に段々綺麗になっていった。
それを一年間続け、出来上がったものを見ながら輝明は言った。
「翔、上手くなったな。そろそろ、もっと本物に近い花火玉作成体験セットをやろう」
そう言った輝明が後日持ってきたのは、ボール紙製の玉殻、黒鉛製の割薬、現場で使っている色合いの黒鉛製の星、更に上貼紙としてクラフト紙、竜頭としてしめ縄だった。
ここまでの材質となると、本物と殆ど違いが無く玉貼りでの強度の確認や、肌で材質を覚えることも可能になるとの事。
ここからの修行は、前回までのお遊びの比では無かった。玉詰めは手が黒くなり、玉詰めの度に父のチェックが入った。玉貼りも強度が足りなかったり、張りすぎていたりすればやり直し。
これだけならば、そこまできつくは無かったが、通常の割物だけでなく、打ち上げ後の形がハートなどになる型物、ここに花火玉の中に小さな花火玉を入れる小割物、収納した星や細工を放出するポカ物なども一緒に作るように言われた。
作っては怒られ、作っては壊されと繰り返されると、悔しくて泣いてしまう事が何回もあった。その度に母が慰めてくれた。
「翔ちゃん。辛かったら辞めても良いのよ? 貴方が花火師にならなくても、パパもママも怒らないから」
「ぐす……。ううん、ぼくがんばる。だって、はなびしになるためには、とおらないといけないみちだもん」
「翔ちゃん……」
翔は諦めなかった。時間が掛かるとは言われていたし、確実に上達もしていた。父は段々と厳しくなってきたけど、これが花火師になるために通る道なんだと思うと頑張れる気がした。
本格的な練習セットになってから二年が過ぎた。この頃になると、割物や型物などの玉詰めもある程度綺麗に出来るようになってきた。
そんなある日、父さんに玉詰め工程を見てもらっていると、待ち望んでいた言葉が飛び出した。
「翔、そろそろ本物を作ってみるか?」
「良いの!?」
実は個人でも花火を作ることは可能だ。ただし、四百グラム以下の火薬量で無ければならないため大きい玉を作ることは出来ない。
また、打ち上げには資格や許可が必要だが、二号玉が五十個以下、二・五号と三号玉の合計が十五個以下、四号玉の合計が十個以下であれば許可は要らないらしい。
今回の場合は、作る玉を制限して輝明の資格の元、無許可で打ち上げる事が可能だ。
四号玉で三百五十グラムの火薬量になるので、作れてもこのサイズまでである。
翔は、輝明の薦めのもと、四号玉をチョイスし、基本中の基本の割物の菊を作ることにした。
菊とは伝統技術の粋を集めた花火で、炸裂した後に星が中央から尾を引きながら放射状に飛び散り、菊模様になるものを指す。
まずは、外側の星を玉詰めする作業だ。僕は慎重に菊星を敷き詰め、間断紙で間仕切りをした。その後、割り薬を詰め、導、竜頭を付けて玉貼りを完了する。
菊はシンプルな形状故に、炸裂時の形の歪さが目に付きやすい。だからこそ、僕は菊を作って父さんに認めて欲しかった。
「翔、花火玉が出来上がったそうだな」
「うん、わり物のきくを作ってみたんだ。パパにチェックしてもらったら、これを打ち上げてみたい」
そう言って、翔は花火玉を渡す。父がチェックしている時間が妙に長く感じる。
長いようで短い時間が過ぎ、父は顔を花火玉から僕に向けた。
「よし、玉貼りも問題ないようだな。早速打ち上げてみたいところだが、何かと準備が要るから、打ち上げは十日後にしよう」
「良かったぁ、これで最初のなんもんをクリアだね」
そして、瞬く間に時が過ぎ十日後の打ち上げの日がやって来た。打ち上げ会場は、家の近くの河川敷。何故かギャラリーとして、父さんの仲間の花火師さん達が全員来ている。
成功したとしても、花火玉は一つしか無いんだよ? それなのに、こんなに沢山花火師さん達が来てて良いのかな?
「お前達、よく集まってくれたな。これから、息子が初めて作った花火のお披露目を行う。意見があったら、打ち上げが終わった後、直接息子に言ってやってくれ」
「大将、俺達はおべっかが使える様な器用な人間じゃないが、それでも大丈夫か?」
「ああ、別にお世辞を言う必要はない。ありのままの意見を言ってやってくれ」
そう言った父さんは打ち上げ位置に着く。
これから、自分の花火が打ちあがると思うと緊張する。しっかりした評価を貰えるだろうか……。
「よし、じゃあ打ち上げるぞ。点火!!」
父さんの掛け声に対して、弟子の方の一人が筒に僕の花火玉を入れて打ち上げると同時に点火する。
無事に打ちあがった花火は、上空で炸裂し一輪の花を咲かせた……。
「ほう、玉の座りは悪くないな」
「盆の形は上々だ!」
「肩の張りもなかなかだが、星の抜けがあるのがもったいないな」
「消え口は割と揃っていたが、まだまだ不揃いがあるな」
口々に花火師さん達が評価を述べる。
玉の座りとは、打ち上げからの炸裂のタイミングを示す言葉だ。早い段階で炸裂してしまうと上側に星が流れてしまい、遅い段階で炸裂すれば下側に星が流れてしまう。また炸裂せずに落ちてしまった花火玉を黒玉と呼び、非常に危険である。
盆とは、割物の破裂した形が、本来目指していた形にどれだけ近いかを示す言葉である。今回の場合であれば真円に近ければ盆の形が良い事となる。また、大きさも表し小さく炸裂してしまったものは盆が小さいと呼ばれる。
肩の張りとは、星の飛び出し方を示す言葉だ。炸裂した際に一斉に星が勢い良く飛び出すが肩の張りが良い事になり、逆に勢いが無く星がフラフラすることを肩の張りが弱いと呼ぶ。また、星に火がつかないで見た目には抜けているように見えることを抜け星と呼び、星が好き勝手な方向へ飛ぶ事を星が泳ぐと言う。
消え口とは、星がすべて消えるまでの揃い方を示す。星同士が全て一斉に消えることを消え口が良いと言い、星同士がバラバラに消える事を消え口が揃わないと言う。
「翔君」
「はっ、はい」
「初めて作った打ち上げ花火としては、かなり出来が良いものだった。星の抜けを始めとして、幾つか甘い点は残るが見事な菊だった。これなら、割物は後一年くらい練習すれば売り物レベルになるだろう」
「あ、ありがとうございます。これからもしょうじんして、パパみたいな立派な花火師になります!」
嬉しい! 初めて両親以外の人に、花火を認めてもらった!!
今まで我武者羅に励んできたけど、やっぱりお客さんに対して見てもらって評価をもらうってのは重要だ。やってきた事が無駄ではなかったと改めて分かる。これでもう一歩、父さんみたいな花火師に近づけたのだろうか?
「翔、良かったな。だが、慢心するんじゃないぞ?」
「まんしん?」
「自分が凄いと思い込んで、上を目指さなくなることだ」
「大丈夫だよパパ。パパの実力に並んですらいないのに、まんしんする訳ないよ! それに僕は、世界一のはなびしになりたいんだ!!」
僕はそう言って、父さんに微笑んだ。
「あの花火の魔術師に並ぼうとは恐れ入るな!」
「しかも世界一の花火師とは大きく出たな!」
「坊主は大きくなるな。俺らも、うかうかしてられないぞ」
「そうだな、あの魔術師の息子だ。俺らこそ慢心していたらすぐに抜かされそうだ」
お弟子さん達がそんな事を話していたらしいが、あまり聞いていなかった。
翔は、初めて本物の打ち上げ花火を手がけてからも、練習セット同様に何回も花火玉を作り上げた。
割物、型物、ポカ物、それぞれを作る度に賞賛と駄目出しを沢山貰い、その度に修正をして再び挑む事を繰り返していく。
ある程度上手くなってくると、翔の花火玉も実際の花火大会に使われるようになり、花火大会の裏側で作業を手伝うようになっていた。
そして裏側で手伝うようになってから、花火の取り扱い資格である煙火打揚従事者手帳を輝明の推薦の元取得したのだった。
そして現在。初めて父さんの花火を目にしてから十一年経ち僕は十四歳になった――。