キーリのお使い ~お金の確保と新しい料理の啓蒙活動~
明けましておめでとう御座います。
今回はまた一旦キーリ側に戻ります。
カケルとツィードの話しはもう少し後になると思います。
「さて、そろそろ来る頃かの?」
「あの、お祖父ちゃん? ワグナーさんの用件は何だったの?」
「ワグナーが連れてくる者が、下手したら王族よりも重要な者でのう。儂が迎えないといけない様な方なのじゃよ。後仕事中は、お祖父ちゃんじゃなくて支部長じゃよ?」
「王族よりも重要な方……?」
「そうじゃな。皆にも注意しておくが、彼女と敵対するんじゃないぞ? もし、彼女とお前達が敵対したら、儂は容赦無くお前達を切り捨てるからそのつもりでな!」
お祖父ちゃん――支部長――が軽く威圧を含んだ注意を行った。
注意の対象は、冒険者達と職員全員である。
支部長は昔かなりの実力者だったみたい。
私にとっては現場を掻き回す、困ったお祖父ちゃんにしか見えないけど、たまにこう言う威圧をされると本当に強かったのだと認識する。
と言うか、今彼女って言ってたから相手は多分女性?
いや、それよりも――。
「あ、あの、支部長? 支部長がそこまでするなんて一体どんな方なんですか?」
「なーに、それは来たら分かるじゃろうて」
ギイッ……。
エルティナが支部長へ問い掛けをしていたその時、ギルドの扉が開く音がした。
「ここだ。入ってくれ」
最初に入ってきたのは、先程ギルドに来たばかりのワグナーさんだ。
そして――。
「ああ、分かった」
ワグナーさんへの返事と共に入ってきた来たのは、一人の長身の女性だった。
まず目に飛び込んできたのは、金色に輝く角と純白の翼だった。
次に目につくのは白銀の髪の毛である。
サラサラと靡く髪が、窓から入る日の光に照らされてキラキラと輝き、彼女の周りだけ明るくなったようだ。
そして最後にその美貌。女の私ですら見惚れてしまう様な美しさで、同僚達も声が出ないようだ。
特に男性陣が熱に浮かされて居る様子で、何人か既に一目惚れしていそうな人達も居た。
だが、すぐに彼女の異様な雰囲気に気付く。
冒険者部門の受付として、長いことやっていた数人は同じく気付いたようだ。
彼女の纏う強者の雰囲気に……。
「ほう。お前さんが、キーリ・サーヴァインかね?」
「そうだが、お前が私を呼んだ者か?」
「ああ。ここの支部長をやっているローグ・ヴナンと言う者じゃ」
「宜しくなローグ。既に知っている様だが、私はキーリ・サーヴァインと言う。宜しく頼む」
支部長と綺麗な女性――キーリさん――が、互いに挨拶をしていた。
私の印象としては、キーリさんは言葉遣いこそ男っぽいが、そんなに怖い人には見えなかった。
尤も、角と翼と髪の色から人間でない事は確実だが……。
支部長は彼女の何を気にしているのだろうか?
それに、王族よりも重要って一体……?
「ああ、宜しくじゃ」
キーリさんへの返答をした支部長に対して、ワグナーさんが割り込んで話し掛ける。
「じゃあ支部長、俺は報告を上げてくるな」
「ああ、案内ご苦労じゃつたな」
「ワグナー、今日は助かったぞ」
「気にするな。機会があればまた会おうぜ!」
「ああ、またな」
ワグナーさんは案内までが仕事だったらしく、キーリさんと支部長を会わせるとそのまま帰って行った。
多分、キーリさんの事の報告かな?
「さて早速じゃが、キーリ。お前さんを呼んだのは――」
支部長の話だとキーリさんのカードは古すぎて、本人確認が門では出来ないのだとか。
だから、ギルドで直接確認する運びになった様だ。
と言う事は、ワグナーさんは監視役だったのかな?
「分かった。血を此処に垂らせば良いんだな?」
「そうじゃ」
彼女は左腰に付いていた剣を軽く鞘から抜き、鞘と柄の間に右の親指を押し付けた。
すると――。
「ヒッ!?」
誰の口から漏れた悲鳴かは分からないが、悲鳴を上げるのも仕方無いかも知れないと思う。
私だって震えが止まらないのだから。
何が起きたのか。
キーリが指を切り血が出てきた瞬間から、濃厚な魔力の奔流が彼等を襲ったのだ。
それは生物としての格の違いを、まざまざと見せつけるような奔流だった。
その為、彼等は本能的に恐怖してしまったのだ。
「ああ、済まないな。魔力は漏れ出ない様にしているのだが、体に傷が出来ると上手く制御出来なくてな」
「なんつう魔力じゃ……。流石に、この魔力量の血を使ったら装置が壊れそうじゃ。キーリ、血は此方の器に一滴垂らせば良い。水で希釈してから使うことにするわい」
キーリさんが器に血を垂らす。
すると、垂らした血からキーリさんの魔力よりも弱いが、強い魔力が漂って来た。
そこへ、支部長が水を注ぐと血の魔力がマトモなレベル下がったみたいだ。
「ふむ、こんな物かの? キーリ、その傷は治せんのかの? 流石にこの魔力じゃと、皆が怯えてしまうでの」
「ああ、分かった。”ライトヒール”――」
キーリの唱えた魔法で、傷が塞がると同時に魔力の奔流も収まった。
あちこちで安堵の声が聞こえ、人によってはその場に座り込んでしまった人も居た。
かく言う私もその一人だ。
でも、あれは仕方無いと思う。殺意を向けられた訳でも無いのに体が震えた。
彼女は駄目だ。絶対に敵対するなと言ったお祖父ちゃんの言葉が良く分かる。彼女は人間の敵う相手では無い。
そんな相手に震えもせずに、対峙出来るお祖父ちゃんは凄かった。改めて只者では無い認識したよ……。
「ああ……、済まなかったな。怖がらせるつもりは無かったんだ……」
その済まなそうな顔を見て、恐怖が薄れ代わりに疑問が湧き出た。
「あ、あの……。貴女は一体……?」
気付いたら私は、キーリさんに質問をしていた。
「ふむ、私か? 私はキーリ・サーヴァイン。種族はホーリードラゴンだよ」
今度は間違いなく、空気が凍り付いた。
ホーリードラゴン? あの伝説の龍?
でも、目の前のキーリさんは明らかに人型だ。ドラゴンの様な巨体では無い。
確かにそれが事実なら、先程の魔力も納得出来るけど……。
「キーリ、言うても良かったのかの?」
「ん? 何をだ?」
「お前さんがホーリードラゴンだと言う事をじゃよ」
「ああ。別に隠している訳じゃないからな」
「ならば、他の者にも報せても構わないじゃろうか?」
「ああ、問題ない」
支部長との会話を聞いて確信する。
ホーリードラゴンと言うのが、ホラでも何でもなく事実だと言う事を。
「皆も聞いての通り、彼女はホーリードラゴンじゃ! 二千三百年程前に、この街に訪れた事があるらしいんじゃが、その時もこんな騒ぎになったようじゃ。ある程度騒ぐのは兎も角、彼女の逆鱗に触れぬようにな!」
支部長、それ洒落になりませんよ……。
「――えと、キーリさん?」
「何だ?」
「この街にはどうして来たんですか?」
彼女がホーリードラゴンだと言うなら、何をしにこの街に来たのかが気になる。
ホーリードラゴンと言う種族と彼女の先程の行動から見て、他のドラゴンみたいに街を壊しに来た訳じゃなさそうだけど……。
「砂糖を買う為だな」
「砂糖ですか……?」
砂糖って、あの砂糖だよね?
ホーリードラゴンである彼女が砂糖を欲しがるの……?
「ああ、私の仲間がお菓子を作るらしいのでその買い出しだ。ふむ――」
キーリさんが私の顔を見たまま黙り込んでしまった。
もしかして、さっきの質問か勘に触った訳じゃないよね?
「なあ? ギルドを通して、砂糖を買うことは出来ないか?」
「ギルドでですか?」
「ああ。私は商店を碌に知らない、そもそも私は通貨を持っていない。その代わりに、魔物を始めとするの素材を持ってきたのだが、コイツらは店の支払いでは使えないのだろう?」
「はい、それはそうだと思います」
「素材をギルドで買い取って貰って、砂糖に交換出来るのであれば助かるのだがどうだろうか?」
キーリさんの言う事は分かる。だけど、それはギルドの負担が大きいだろう。
「キーリさん、すいませんが――」
「良いんじゃないかの?」
「お祖父ちゃん!?」
お祖父ちゃんがキーリさんの依頼を断ろうとしていた私を遮って依頼を受けた。
なんで!?
「エルティナ、支部長じゃ! それとキーリ、請け負っても良いがお前さんの売買額が一定以上な事と、ギルドが手数料を貰うのが条件じゃ!」
「ああ、それで構わないのだが……。ローグとお前は家族なのか?」
そう疑問を私に投げかけてきた。
って私!?
「えと、あの……、はい。私はエルティナ・ブナンと言います。そちらのローグ・ブナンは祖父に当たります」
「そうか。よろしくな、エルティナ」
「は、はい!」
「とと、会話の途中だったな。ローグ、さっきの話しの砂糖だがヴォルのルト商店に話しをしてあるから、そこをメインに使って欲しい」
エルティナとの会話が終わったキーリは、ローグに向かって取引先を提示した。
ルト商店?
あの、堅実な商いで有名なルトの店だよね?
あそこの商品、全部一定以上の品質で外れが無いんだよね。
「ほう、既にルト商店とコネを持っておったか」
「ああ、それは――」
キーリさんの説明によると、ヴォルナートさんの妹さんを助けた際に知り合ったらしい。
「来て早々人助けとは、流石はホーリードラゴンと言ったところじゃのう?」
「偶然だ」
「そういう事にしておくかの。砂糖の事は素材の査定が終わってからじゃ。どれだけ砂糖を確保すればいいかも分からんからのう」
「ああ、分かった」
「でさ早速じゃが、素材を見せて貰う事は出来るか? ギルドで砂糖を買わないにしても売るのじゃろ?」
「そうだな。人間の間では通貨が無いと、買い物が出来ないらしいからな」
キーリはそう言うと右腰に付いていた、ポーチを開けようとして止まった。
「キーリさん、どうしたんですか?」
「ああ……。素材は私の仲間が詰めたんだがな? 私がポーチを開けようとすると発動する、メッセージを仕込んでいたらしい」
「そのメッセージは何だったんですか?」
「素材の注意事項だった。下手に開けると、周りの人間が死ぬ可能性があったらしい」
え? 周りの人間が死ぬ可能性がある素材って一体…。
「危ない素材の名前は分かるかの?」
「ああ、少し待ってくれ――」
ポーチに入っているらしい素材の中で、キーリはヤバい素材を上げていく。
危ない理由は主に、毒と呪い、後は重量と大きさの問題だったらしい。
「毒系統は兎も角、ジャガイモがマズいのう」
ジャガイモって確か、あの呪われた実の事だよね?
見付けたら抹消が推奨されてた筈だけど、あれって素材になるのかな?
「マズイのか? 結構美味しいと思うのだが」
「アレを食べるのか!?」
支部長が驚いていたが、それは職員と冒険者の心の代弁でもあった。
「ああ。処理せず食べると、苦くて食べれた物じゃないんだが、正しく処理してから調理すると、呪いも消えるし結構美味いぞ?」
キーリさんが処理せず食べたのには、周りの皆もドン引きしていた。
当たり前だが、人間が処理せず食べれば向かう先は死か、運が良くても大量の呪いに掛かって地獄の苦しみを味わうだけである。
「あの実の呪いが無くなるのか……。試しに、後で実演して貰っても良いかの?」
「それは構わないが、私はそんなに上手くは出来ないし、呪いが消えたかの安全確認も出来ないぞ?」
「そっちの確認作業は、此方でやるから大丈夫じゃよ」
「分かった。それ以外の素材はどうする? 一部、ここでは取り出せない大きさなのだが」
「ああ、それなら――」
キーリさんや支部長や私達一部の職員の他に、何人かの野次馬連中を加えて街の外に出て来た。
キーリの素材が危険過ぎたし、単純に場所が足りない為だ。
「じゃあ、先ずは毒や呪いが無い魔物から出してくれるかの?」
「ああ、分かった。危ないから、私の前に出ないでくれよ?」
そう言ってから彼女は収納ポーチから素材を出し始めた。
すると、大量の素材が出てくる事出てくる事……。
嘆きのラット、オーク、オーガ、シェルスパイダー、フレイムフィッシュ、アイスウルフなどなど……。
終いにはクラーケンやソードローカストと言った、超巨大クラスの魔物も出てきた。
「これで、毒や呪いを持たない魔物は終いだな」
「やっと終わったかの……。その収納ポーチは一体どれだけ入るやら……」
「具体的な容量は分からんが、神殿が丸々入るくらいの余裕はあった筈だな」
「そうか……」
支部長が少し疲れた様に返事をしている。
キーリさん自身もそうだが、付随する物も規格外で驚き疲れたのだろう。
あの収納ポーチも伝説級レベルだが、出てきた魔物も相当な物なのだから、それも仕方無いと思う。
「よし、お前達! 気を取り直して剥ぎ取りをするのじゃ! 数日間は忙しくなるぞ!!」
「「「おおーー!!」」」
剥ぎ取り要員は先程剥ぎ取りに掛かる。
更に支部長の指示で離れた場所に毒持ちの魔物、別の離れた位置には呪い持ちの魔物はいなかったのジャガイモを出して貰っていた。
毒持ちの魔物は特に毒が溢れだしている事も無かったので、専用要員に任せていた。
私達受付と残った野次馬、それに支部長はジャガイモの周囲に集まる。
周囲と言っても十五ナレイ――三十メートルくらい――は離れているだろうか。
これ以上近付くと危険だから仕方無い。
「それで私は、呪いの部位を消去すれば良いのだな?」
「そうじゃ。皆にも見せて欲しいから、ゆっくりと作業をして貰えるかの?」
「ああ、分かった」
「皆もそのつもりで見るんじゃぞ? キーリ、始めてくれるかの?」
「ああ」
キーリさんが左腰の剣を抜いた。
そして、ジャガイモに付いている口と口の間に突き刺した。
その直後にジャガイモから悲鳴が上がる。悲鳴を聞くとこれだけ距離を取っているのに、気持ち悪くなってくる。
「ジャガイモの呪いは、この口の様な見た目の新芽が原因だ。だから、新芽を全てやや深めに取り除けば中は普通の野菜になる」
キーリさんが説明をしながら、気持ち悪い口――新芽だったらしい――を取り除いて行く。
剥ぎ取り用のナイフでも無いのに、解体は凄くスムーズだ。
「取り除く時に浅すぎると呪いが残ったままだし、深すぎると食べる部分が減ってしまうので注意だ」
暫くすると、ジャガイモの悲鳴が聞こえなくなっていた。
「これで完了だ。後はジャガイモの状態を見れれば、呪いがどうなっているか分かる」
「分かった。お前達、鑑定を行うのじゃ!」
「「「分かりました!」」」
数人の職員が前に出てきた。
呪いを防ぐ魔術を何重にも掛けられた三人の男性が、更にジャガイモへと歩を進める。
「アイテム鑑定!」
「野菜鑑定!」
「状態鑑定!」
ジャガイモに辿り着いた三人は、ほぼ同時に鑑定を行った。
一人目のアイテム鑑定は、色々なアイテムを鑑定出来る優れたスキルだ。
二人目の野菜鑑定は野菜に特化した鑑定スキルで、汎用性は無い物の詳しい情報が入手出来る。
最後の状態鑑定は主に病気や怪我の状態を知る際に使うスキルで、医術師やその助手が使える事が多い。
今回は呪いの状態を知る事が出来るスキルを知る為に、三人に鑑定して貰っているのだろう。
そうこうしている内に鑑定が終了したようだ。
「アイテム鑑定で状態の項目は出ませんでした。呪いの状態は不明です」
「野菜鑑定にて状態の項目を確認。正常との情報を確認しました」
「状態鑑定にて状態をチェック。正常と確認された為、問題は無いかと思われます」
「ご苦労じゃったの。野菜鑑定と状態鑑定が有効じゃったか」
支部長が少し考え込みだした。
ジャガイモが安全に食べれて美味しいのであれば、採取対象になるのだから考え事をしてもおかしくはない。
「唸っていても仕方無いのう。一度食べてみるしかあるまいて。キーリは料理方法を知っとるのかの?」
「ああ、一応な。前に仲間が作ってくれた料理がある」
「なら、料理方法はお前さんので試してみようかの」
と言う訳でジャガイモ組は、ギルド内にある食堂へとやって来た。
「あれまあ。皆さんお揃いでどうしたんだい?」
話し掛けてきたのは、食堂の女将さんだ。
皆のおっかさんと言う感じで、皆から愛されているご婦人である。
中々に美味しい料理を作ってくれる為、女性にとっては言い訳をぶつける相手にもなっていた。
かく言う私も、女将さんの料理のせいで何度苦汁を舐めさせられた事か……。
「済まんが、少し調理して貰いたい物があるんじゃ」
「調理して欲しい物かい?」
「ああ、ジャガイモじゃ」
「ジャ、ジャガイモかい!?」
「大丈夫だ。既に呪いの元は除去されているのを確認済みだ。調理方法はこのキーリの指示に従って貰えるかの?」
「それは良いけど、本当に食べられるのかい?」
女将さんが疑問に思うのも当然だ。鑑定結果を知っている私でさえも、未だに食べられるか不安なのだから。
「ああ、大丈夫だ。料理中の味見はキーリが行うし、完成後も儂が責任を持って毒味するでの」
「そこまで言うなら、やってみようじゃないの! キーリちゃんだっけ? あたしはジャガイモを料理した事は無いから宜しくね」
「ああ、宜しく頼む」
そう言った後、キーリさんと女将さんは調理場に入っていった。
「支部長? 正直、非常に不安なんですが……」
「奇遇だな。儂もじゃ!」
「そんなあっけらかんと……」
キーリさんはホーリードラゴンだ。
ドラゴンが料理なんてしなさそうだし……。
彼女では無く彼女の仲間が作った物らしいが、ジャガイモをそのまま食べるくらいだし、人間が食べられない物が出てきても不思議では無い。
彼女自身も雰囲気が人間で言うところの武人依りだし、安心出来る要素が何処にも無いのだ。
「ほう? これはバターの匂いかの?」
「――本当ですね」
バターはチーズと並ぶ高級食材だ。
そんな食材を、彼女や彼女の仲間が知っていたとは思えないのだけど……。
「支部長、出来たよ」
「これがジャガイモなのか?」
支部長の前に出された皿には、湯気を上げながら佇む乳白色の物体があった。
その物体の上にはたっぷりとバターが掛かっていた。
「ああ、肉より食べ応えは無いが、かなり美味いと思うぞ?」
「ふむ。では、早速頂いてみよう」
支部長がフォークでジャガイモを崩し、バターや塩と一緒に口に入れる。
「支部長? どうですか?」
「美味い……」
「本当かい?」
「ああ、味付け自体はシンプルなのにもっと食べたくなる味じゃ」
「そうだろう、そうだろう!」
「なら、私も食べてみようかね。他に食べてみる人は居るかい? まだ、結構余っているよ?」
女将さんが食べたいかの確認を取る。
中には食べないと言う人も居たが、皆が気になって居たらしく大半の人の前に皿が置かれた。
そして――。
「美味しい……!」
「美味いな!」
「これは、酒が呑みたくなるな!」
「確かに美味しいねぇ。メニューに加えても良いくらいだよ」
恐らくジャガイモと思われる物は、ホクホクしていてやや甘みが感じられる。
そこに加わった濃厚なバターと、塩と胡椒の適度な刺激。
何て言うか、ホッとする味だった。
驚くほどに美味しいかと言われると少し違うのだが、毎日食べても飽きにくいと思えるタイプの味だった。
「材料はジャガイモ、塩、胡椒、そしてバターじゃな?」
「その通りだ」
「味は十分。腹持ちも悪くはないのう。問題はバターと胡椒かの?」
「バターと胡椒が問題なのか?」
「そうじゃな。味は良いのじゃが、バターと胡椒の価格高いんじゃよ。女将、こいつを売るなら幾らになると思うかの?」
「そうだねぇ。ジャガイモの価格次第だけど、その一皿で銅貨八十枚かねぇ」
この大陸においては共通通貨が使用されている。
銅貨、銀貨、金貨、白金貨等が使用されており、硬貨百枚で上の硬貨と同等になる。
食べ物は安く、金属製品や服が高いなどの物価の違いがある為一概にも言えないが、銅貨一枚で百円、銀貨一枚で一万円、金貨一枚で百万円、白金貨一枚で一億円程の価値になる。
その通貨においてじゃがバターは銅貨八十枚、つまり八千円もすると女将は言った訳だ。
銅貨八十枚……。
高給料理としては良いかも知れないが、ギルドで出す料理としては高過ぎる。
バターの量と、何より胡椒を使っているのが致命的なのだろう。
「それは厳しいな……。キーリ、胡椒は使わないといけないのか?」
「無しなら無しでも大丈夫だぞ? 重要なのは塩加減と美味しいバターらしいからな」
「ふむ、女将。胡椒無しで、バターも最低限にすると幾らになりそうだ?」
「そうさねぇ……。銅貨七枚ってとこかね?」
まだ高いけど、それなら手が届く値段だ。
「その分量で作ってもらえるか?」
「あいよ」
暫くして出て来たのは、先程よりも胡椒の香ばしさとバターの香りが減った物だった。
「では先程の物と、食べ比べてみよかの」
私達も目の前の皿に手を付ける。
「ふーむ、及第点かのう……。皆はどうじゃ?」
「うーん。悪くはないですかねぇ……。もう少し安いと嬉しいですけど」
他の人の意見も似たような物だった。
贅沢さが失われたって意見もあったけど、そもそも胡椒がそんなにふんだんに使える訳もなく、黙殺されていた。
「値段に関してはバター次第じゃな」
バターは胡椒程ではないが、かなりの高級品である。
それが料理のメイン調味料なのだから、値段に関しては仕方無い部分があるだろう。
「女将、残りのジャガイモは置いていく。出来れば時間がある時に料理開発しておいてくれんかの?」
「あいよ! 全く、人使いが荒い大将だね」
「それが仕事じゃからな」
支部長は代金として、銀貨十枚を置いて食堂の外に出た。
そして元の受付に戻ってくる。
「さて、キーリ。お前から受け取った素材はあの量じゃ。今日中には終わらんが、お前はどうする?」
「そうだな、何処かに泊まるとするかな。何処かに広い屋根付きの建物は無いか?」
「広い建物?」
「今は人化しているが、寝る時は元の姿に戻りたいからな。ドラゴン形態で寝られる場所が欲しいんだ」
それってつまり、街中にドラゴンが寝そべってる状態って事!?
それって騒ぎになるんじゃ……。
「それは儂の口からは許可は出せんのう。領主様に確認せにゃならん。少し時間を貰えるかの?」
「ああ、分かった。どれくらいに、確認に来れば良い?」
「そうじゃな……。七の刻までには調べておくぞ」
「分かった。七の刻だな? それまでは少しブラブラしていよう」
「ああ、待て待て。先に少しお金を渡しておこう」
ローグはいつの間にか用意していた袋を取り出してカウンターの上に置いた。
「良いのか? まだ、査定が終わってないだろ?」
「問題ないのぅ。お前さんが持って来た獲物一匹で元が取れるからの」
「なら遠慮なく貰っておこう」
そう言ってキーリさんは出て行った。
「さて、儂は領主に会ってくるかの……」
支部長も出て行った。
抑える人が居なくなった途端に話し声が聞こえ始めた。
「彼女マジでドラゴンなのか?」
「信じられないよな?」
「だが、あの魔力は人種とは思えないぞ?」
「なあ、彼女超綺麗じゃなかったか?」
「ああ、前に見た姫様より綺麗だったな!」
好き勝手な憶測が飛び交うが、キーリさんなら仕方無いだろう。
恐らく彼女は本物のホーリードラゴンだ。あの伝説の龍なのだから、妄想も加速すると言うものだ。
ギルド職員までもが、それで良いのかと言う疑問はあるが……。
「でも、キーリさんお肌奇麗だったなぁ……。今度お肌のケア教えて貰おうかな?」
果たしてドラゴンに、スキンケアの概念などあるのだろうか?
もしかしたらあるかも知れないが……。
今回は総合ギルドでの一幕でした。
これで、キーリも大金持ちになるでしょう。
素材だけでなく、ジャガイモも卸しました。
芽一つずつが呪いを持っているので、ローグ達が警戒するのも仕方ないですよね。
後エルティナが言っていた事を一応説明しておくと、エルティナの言っていた言い訳をぶつける相手とは、「私のダイエットが成功しないのは、女将さんの料理が美味し過ぎるが原因だ!」と言うダイエットが成功しない言い訳に使う相手という意味です。




