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モフモフと難敵到来

すいません、予約日間違えてました。


後、一応注意を。

今回出てくる敵は、結構気持ち悪いので食事中などは閲覧しない事をお勧めします。

 ツィードが仲間に入ったからと言って、日常がそこまで変わる訳では無かった。

 ただ、幾つかには変化は生じていた。


 例えば料理に関しては、格段にやり易くなっていた。

 下拵えや食器並べばミミやキーリにも頼っていたのだが、ツィードの場合は驚異的なスピードで料理を覚えていき、ついにはツィードだけで単品を作れるようになっていたのだ。

 そんな状況なので料理は常に二品になっており、日本の食卓に少しだけ近付いたと言えるだろう。

 尤も、未だに炭水化物系統が無く、一日一食のみではあるのだが……。


 そして、もう一つ。ツィードは予想外に面倒見が良かったのだ。

 今までライトフェアリー達は、たまにカケルと遊ぶくらいだったのだが、今は毎日のようにツィードと遊んでいるのだ。

 どう言う原理か分からないが、ツィードは宙を駆ける事が出来るらしく、ライトフェアリー達はそんなツィードに乗るのが楽しいらしい。

 カケルは彼等自身が飛べるのだから、あまり意味はないのではと思っていたのだが、飛ぶのと宙を駆けるのでは全然違うとライトフェアリー達から怒られていた。


 そんなツィードと言う人物を、カケルは未だに上手く捉えられていなかった。


名前:ツィード・ヘルナート

種族:地獄の猫蜘蛛(ヘルスロナート)

状態:正常

カルマ:+8,929

称号:次元を駆ける者、王たる資格の持ち主、糸術士、森の支配者

説明:猫蜘蛛(スロナート)種の最上位種族と言われている存在。

 どんな環境にも住む事が出来ると言われており、その適応性の高さは計り知れない。一説に依ると、元々は地獄に住んで居たとも言われている。

 糸の扱いに長けており、そこから紡ぎだされる糸は最高の肌触りと、鉄壁の防御力を誇る。

 どんな種族に対しても社交的であり、高度な文明を築いている種族でもある。

 一方で猫の様に気紛れであり、日向ぼっこをしたい為に全てを投げ出す様な事もある為、貿易等をする際等は時間に余裕を持つ事をお薦めする。

 また、強力な次元種でもあり、万が一にも敵対すれば生半可な種族では対抗する事すら出来ないだろう。


 鑑定させて貰ったけど、色々と突っ込み所があるね……。

 一番気になるのは次元種って単語だ。次元種とはなんの事だろう?

 単語からすると四次元以降の事を扱いそうではあるけど。

 結局考えても分からなかった為、ミミに意味を聞いてみた。


 それに依ると、次元種とは次元の(さかい)を越える事が出来る種族の総称らしい。

 ここで言う次元とは、同じ場所に重なり合う様にして存在する別次元の事で、そちら側に行くと姿が見え声も聞こえるのに触れない等の事が起こるのだと言う。

 また、次元種は一方的に攻撃を仕掛ける事が可能な為、敵対した次元種からは即逃げろと強く警告された。

 

 そして称号にあった”次元を駆ける者”とは、この次元の境を自由自在に行き来し深度も自在に操る存在らしい。

 深度とは何だろうと聞くと、別次元を海と考えた時にどれだけ潜ったかだと言われる。深度が深ければ通常空間に対して情報は伝わらないし、逆に浅ければ大量の情報が伝わる訳だ。

 そんな深度だが、一般的な次元種では扱いきれない代物らしく、大抵は浅い領域に棲息するらしい。

 逆に深い領域に暮らす種族も居るが、その場合浅い領域に出てくるのがキツいらしい。

 深海魚みたいな物だろう。

 だが、ツィードの場合はその深度を自由自在に行き来出来、誰かを連れていく事すら可能だとか。

 尤も、別次元は環境が酷い為、人間のような打たれ弱さでは耐えられないらしいのだが……。


 貿易の箇所も突っ込みどころではあるけど、猫の気まぐれな習性が出てる箇所なんだろうね……。

 貿易についてもそうだけどツィードが言っていた通り、かなり文明的な暮らしをしている種族みたいだ。

 後、糸に関しては必要があれば頼んでみようかな?


 次に称号もそれぞれチェックしてみた。


次元を駆ける者:自由自在に次元のを駆ける者に与えられる称号。境だけでなく深度も自由自在に移動出来るようになる。


王たる資格の持ち主:王の器と資格を持つ者に与えられる称号。カリスマと威光にプラス補正が掛かる。


糸術士:糸を使った戦術に長けた者に与えられる称号。糸を使う様々な場面でプラス補正が掛かる。


森の支配者:一つの森を支配下に置いた者に与えられる称号。支配下の森の中でのカリスマ、威光、身体能力、その他様々な能力にプラス補正が掛かる。


 次元を駆ける者はミミの説明で分かったから良いとして、王たる資格の持ち主は多分ツィードが最後の王族だと言っていた事に関係するんだろう。

 少し本人に聞いてみると、どうも生まれ故郷では彼は王子の立場だったらしい。


 糸術士はそのままだろう。猫の頭文字が付くとは言え、彼は蜘蛛なのだから糸の扱いに長けていても不思議ではない。


 森の支配者はもしかして、樹海の部屋の支配者って事かな? あの部屋の管理者はキーリだと思っていたんだけど違うのかな?


 カルマ値も高いし全体的に見ても、悪い人じゃないのは確かだと思う。

 後、多分子供好きなのかな? ライトフェアリー達の遊んでいる時かなり楽しそうだし。

 まだ分からないところが多いけど、この人とは仲良くは出来ると思うかな。


 そうしてツィードが仲間になって暫く経った後に、例のケーキ事件が起こったのだ。


 ◇ ◇ ◇


 キーリを送り出した僕達は、残りの食材を採取する為に樹海の部屋に来ていた。

 狙うはミノタウロスの牛乳と、コカトリスの卵である。


 今はその内の、ミノタウロスの村落に向かっている所だ。

 どうもツィードが村落を知っていたらしく、その場所へと向かっているのだ。


 その場所はカケルの歩きの速度では、下手すると十日以上掛かるとの事だった為、カケルは現在ツィードの背中に乗っていた。


「ツィード、重くない?」

「全然やで? ちゅうかカケル坊で重い言うてたら、カケル坊の前世である人間は超重量級やで?」


 カケルの身体の重量は、人間の骨の重さと殆ど変わらない。

 人間はそこに肉と内臓等の重量が加算される訳で、太る事もないカケルの体重はその身長からすれば超軽量級にあたるのだ。

 因みに人間の骨の重さは体重の五パーセント程度で、体重が六十キロの人の場合でもたった三キロしか無い事になる。


「確かにそうなんだけど……。ツィードの足って細いからさぁ」


 カケルを乗せているツィードのベースは蜘蛛だ。

 そのベースの通り足は八本あるが、そのどれもが異常に細い。


「ワイはこれでもヘルスロナート種やで? そんな軟な身体な訳無いやん」

「うーん確かに、軟なと言うより柔らかいと言う感じだよね……」

「うん? 何の話や?」

「主様?」


 カケルが乗っているツィードは、蜘蛛であると同時に猫でもある。

 つまり、フサフサである。フワフワなのだ! そしてモフモフなのである!!


「この手触り癖になりそう……。少しくらいなら剥ぎ取っても……」

「なあ、ミミちゃん……。ワイ、少し身の危険を感じるんやけど……」

「奇遇ですね。私も今の主様は少し怖いですね……」


 カケルは生粋のモフラーと言う訳では無いが、それでもモフモフするのは好きだった。

 ミミには何度か撫でさせて欲しいと頼んだのだが、乙女の柔肌に触るなど言語道断言われて断られていたのだ。

 そこに来たのかツィードと言う、極上のモフモフである。


 ツィードの体毛は猫の中でも長毛種に属するらしく、モコモコと言うよりもサラサラに近い。

 それでもフワフワしていて、触る側を飽きさせない。

 しかも手入れがしっかりされているらしく、獣臭が全くしない為顔を埋めてそのまま寝たい程の感触なのだ。


 出来れば刈り取ってクッションなり、毛布なりを作りたくなっても仕方無いだろう。


「でも、僕寝られないんだよねぇ……」

「なあ、ミミちゃん。ワイ、さっきからカケル坊の言うてる事がよう分からんのやけど……」

「単にトリップしてるだけだと思いますよ?」

「さよか?」


 カケルが怪しい眼光を光らせながら、ツィードに再度話し掛けた。


「ねぇ、ツィード」

「お? 正気に戻ったんやな。それで、なんや?」

「ツィードの体毛刈り取って良い?」

「全然正気やなかった!!」


 カケルは頭の中で考えるだけでなく、実行するつもりのようだ……。


「お代はツィードにだけ特別料理を一週間でどうかな?」

「うっ……。それは心が惹かれる提案やな……」


 カケルは刈り取った毛で何かを作るつもりらしいが、どうやって完成まで漕ぎ着ける予定なのだろうか?


「ツィード様、騙されてはいけません! ツィード様は今後裸で過ごされるおつもりですか?」

「はっ! せやった。ワイの一張羅が取られたら着る物が無いんやった」


 ツィードの体毛を刈り取ったら、無毛の猫であるスフィンクスの様になるのだろうか?

 尤も目と足は八つあるだろうし、ベースが蜘蛛なので普通の蜘蛛に近付くだけかもだが……。


「ちっ!」

「カケル坊!? 今舌打ちしたやろ!?」

「ツィードは何言ってるのさ? 僕は舌が無いんだから、舌打ちなんか出来ないじゃないか」

「そう言われたら確かに……」

「仕方無いから、ツィードの毛を集めて作った毛布は諦めるよ。代わりに、今この瞬間に味わっておく事にする」


 そう言ったカケルは顔を、ツィードの天然毛布の中に突っ込んで、思う存分モフモフする事にした。


「カケル坊……。なんか、こしょばゆいんやけど……」

「ツィード様、諦めた方が楽かと思われますよ……?」


 無駄話をしながらもカケル達は、樹海の部屋を突き進む。

 なおツィードの走りは八本足のせいか、非常に安定しておりカケルは思う存分モフモフ出来るのである。

 尤もこれは、そこまで速度を出していないからなのだが……。


 樹海に入ってから暫く経つが、一向に魔物と遭遇しない。

 それに疑問に思ったカケルは、二人に質問してみた。


「ねぇ、今日は魔物と会わないけどなんでかな?」

「ワイ等の速度と、ワイが発している威圧のせいやな」

「速度は分かるけど、威圧って馬鹿な魔物には効かないんじゃ?」


 その筆頭はソードローカストである。

 あれは自分よりサイズが小さければ襲い掛かる、チンピラの様な存在である。 

 そのソードローカストさえも見える範囲に居ないのだから、カケルが不思議に思っても仕方無いだろう。


「そりゃワイの威圧やからな。ワイはこの森の支配者に当たるんや。相当に頭が悪く無い限り、敵対する馬鹿は居ないんとちゃうか?」

「そう言えば森の支配者って称号があったね。でも、キーリはどうなるの?」

「キーリ様は、ダンジョンの管理者側ではありますが、この樹海にとっては侵入者でもありますしね」


 あぁ……、所謂現場とトップの確執だね。

 現場は自分が認めた存在にしか従わず、トップが直接現場を指揮しても現場は従わない的な?


 カケルがしたり顔で頷いていたが、当然彼には社会人経験など皆無である。

 花火師としての修行がそれに当たるかも知れないが、カケルがしたり顔に出来るほどものではないだろう。

 因みにカケルが思い描いたのは、ドラマ内で出てきた場面からの回想である。


「まあ、そんなに難しく考える事あらへん。今日は魔物と出会わないとだけ認識しとれば問題ないやろ」

「了解、あまり気にせずに居ることにするよ」


 実際問題支配者がツィードだろうと、キーリだろうと大した問題では無いのだろう。


「話は変わるけど、ツィードはミノタウロスを知ってるんだよね?」

「せやな、知ってるで」

「じゃあ、ミノタウロスってどんな種族なの?」

「そうやなぁ――」


 ミノタウロス。ギリシャ神話において、牛頭人身の巨人として描かれている怪物である。

 ファンタジー系の物語にも多数存在しており、

 この世界でも似たような存在らしく、二足歩行の牛と言った感じであるらしい。

 そして何よりも色々と大きいらしい……。


「ふーん。聞く限りは、僕の知っているミノタウロスとあまり違わないみたいだね」

「なんや、カケルもミノタウロス見た事あるんか?」

「いや僕の場合は、想像上の生き物としてて知ってるだけだよ。前世では魔物自体が想像上の存在だったからね」

「せや、せや、そう言っとったなぁ」


 カケルの行動範囲は、未だに嘆きの洞窟内のみだ。

 その為、見た事がある魔物が偏っていた。

 尤も、普通の洞窟内では無く、洞窟内にあるダンジョンの中が行動範囲なので、これでも大分バラエティに富んでいるのだが……。


「主様、ミノタウロスの情報集めも良いですが、道中で採取したい素材は無いのですか?」

「うーん、素材かぁ……」


 今回は牛乳と卵と採取目的が決まってはいるが、別に道中寄り道しては駄目な訳ではない。


「はい、それにキーリ様は恐らく何日か泊まるでしょうしね」

「え? なんで?」


 カケルの疑問にミミが説明する。

 理由としては幾つかあるらしいが、一番の理由は大量の換金と大量の購入による人員の不足を挙げた。


「人員不足?」

「はい」


 その疑問に対してカケルは本来受け入れる事が可能な量を、遥かに超えて処理する為に人員が不足するのだと言われた。


 あぁ……、あれだ。レジに大量の客が押し寄せてる様な状況だ。


 更にカケルは単純に注文の砂糖の量が、あの街で確保可能な量を超える可能性もあるのだと言われる。


「あれ? そんな大量に頼んだっけ?」


 カケルはキーリにお願いした時の事を思い出す。


「いえ、あの際キーリ様に具体的な量は伝えて無いですね」

「あれ!? そうだっけ?」


 あぁ……、ミスったなぁ……。

 量を伝えず買い物頼んでも大丈夫なのは、いつも頼んでいる人に限りだよなぁ……。


「はい。ですので私が預けた素材の価格一杯を、買ってくるかと思いますよ」

「そう言う事か……」


 ミミが収納ポーチに入れた素材の量は知らないけど、恐らく相当値が張る物が含まれているか、さもなくば量が段違いなのだろう。

 あれ? これって、僕が大量にお菓子作る流れだったりする!?

 そう思って、ミミを見ると――。


「主様、お菓子作り頑張って下さいね!」

「うん……」


 あれ? もしかして、嵌められた?


「それで、素材の採取はどうしますか?」

「ええっと……」


 素材……、素材ねぇ……。

 後欲しいのはスパイス系と、主食系だよなぁ。

 あっ! スパイス系ってカレーの方向しか思い付かなかったけど、甘い系統のスパイスもあるじゃないか!


「ミミ! 決まったよ。出来たらで良いけど、シナモン、バニラビーンズ、カカオを集めよう! 後、幾つかのフルーツも!」


 最初は作れてもショートケーキくらいだと思うけど、シナモンやバニラが手に入ればアクセントを付けられる筈だ。

 カカオだって、上手く行けばチョコレートケーキが出来る筈!


「シナモン、バニラ、カカオですか」

「ワイはこの森にあるかどうかは知らんけど、ミミちゃんは知ってるんか?」

「少々お待ち下さい――。探知した結果ですが、カカオとシナモンは見付けました。ただバニラは有りませんでしたね」

「その二つが手に入るなら上出来だよ!!」


 こうしてカケル達一行はミノタウロスの村への方向を外れて、二つのスパイスを取りに行く事にした。


 そしてツィードに揺られる事数刻……。


「や、やっと着いた……」

「何言うとるねん。カケル坊は疲れとは無縁やろ?」

「確かに肉体疲労とは無縁だし、今回はツィードに乗ってたから楽だったけど、それでも精神的には結構疲れるんだよ?」


 時間で言えば少なくとも五時間は揺られて居たので、カケルがそう言うのも無理ないかも知れない。


「主様、そんな様子で花火師になれるのですか?」

「ん? どう言う意味?」

「主様は最終的には人間に花火を見てもらう為に、様々な場所を巡るんですよね?」


 花火師は限られた場所の会場にしか参加しない場合もあるが、場合によっては遠くの会場に参加をする場合もある。

 その周辺に花火師が居ない場合、移動量は顕著になるかも知れない。


 それを念頭に置いてのミミの疑問は、この世界の移動手段の貧弱さにあった。

 そもそも都市と都市が離れている上に、移動手段は馬車くらいしか無いのが問題になる訳だ。

 キーリやツィードに頼ると言う手もあるにはあるが、二人とも用事があったりすれば移動は歩きか馬車になるだろう。

 もしくは相手側が交通手段を用意してくれているのであれば、それを断るのは場合によっては難しいかも知れない。

 それらの場合、数日から数十日は移動し続ける事となる訳だ。


「それはキツいね……」

「それに比べれば、今の移動時間は大した事がありませんよ?」

「分かったよ……。頑張って慣れるよ……」


 何はともあれ採取である。

 この辺りにあるのは、シナモンである。

 シナモンとはセイロンケイヒもしくはカシアと言う木の樹皮を乾燥・加工した物の事だ。

 香り付けとしてよく使われるスパイスであり、血糖上昇や血管修復などに効果があるとされている。

 但し、これは適量を摂取した場合であり、過剰摂取の場合は肝機能を損なうリスクがあると言われている。


 が、ここは異世界であり、今までの野菜等を見ても地球の常識は当てはまらないだろう。


 そんな無駄知識を思い出しながら見付けたシナモンは、いつも以上のインパクトだった。


「キモい……」

「せやなぁ……」

「はい、気持ち悪いのには賛成ですね」


 この世界のシナモンは直径二ナレイ程の木の実の様な姿なのだが、その実には実の半分を占める様な口が一つ付いており、開いた口からはデロデロと何かが垂れていたのだ。 

 その口の中には鋭い歯も見えており、見た目通りなら肉食植物に分類されるかも知れない。


「なぁカケル坊……。あれ本当に採取するんか?」

「うーん、確かに採取しても使いたくないかも……」


 ジャガイモも似たように口はあったが、汚くてキモいイメージではなくホラーのイメージだった。


 それに引き換えシナモンは実自体もヌメヌメしており、口からは臭い息とも言うべき臭気が漂って来る。

 色合いはヘドロ色とでも言うのだろうか? 茶色と緑と黒を混ぜた様な酷い色合いで、口から覗く歯は実の色合いを更に酷くした様な有様だ。

 その姿を敢えて別の物で喩えるなら某最後のファンタジーの、臭い息を吐く緑色のモンスターの頭のみを切り取った姿が近いだろうか……。

 但しこちらは、頭から生えている触手が無い代わりに実が所々割れており何かが滲み出しているが……。


「と言うか臭いです……。あれを口に入れるのはどうかしていると思います!」


 確かに臭いよなぁ……。

 そう言えばあの臭い息、少し色が付いてる気が……。


「ねぇミミ、あの息色が付いてない?」

「付いてますよ。あの息には魅了の状態異常にする効果を含んでいるみたいです」


 魅了……。

 それを踏まえて見てみると、息に付いている色はピンクっぽい事が分かった。


 つまり、シナモンを扱う為にはキモさと臭さと魅了の状態異常を何とかする必要があると……。


「うん。却下だね! シナモンを使うのは諦めよう」


 使うには色々と問題があり過ぎる。

 それにあれは僕も味見しなくないしね。


「ミミ、ツィード。次に行こうか?」

「分かりました」

「せやな。それが良いと思うで」


 諦めて他に行こうとしたところ、いきなりシナモンが襲って来た。


「ヴォズローッ!!」

「うえっ……!?」

「こっちに来ますね……」

「見付かったしもうたな」


 シナモンは木に生っている訳ではない。

 と言うか、現在の姿を見る限り地面と繋がっていない。

 つまり、もし動けるのであれば行動範囲が無制限と言う事だ。


「ちょっと!! これ植物じゃなかったの!?」

「いえ、アレは植物系の魔物ですね」

「あんな植物は勘弁やな」


 シナモンはまるで、ボーリングの玉の様に高速回転をしながら追いかけて来る。

 速度は回転の割には遅いだが、気にするべきはそこではない。

 回転の勢いに合わせて、何か水っぽい物がシナモンから飛んでくるのだ。


「ヴォッズロー!!」

「汚いよ!?」

「あれ、唾ですかね……」

「当たりたくはないわな」


 そんな会話をしながら三人で同方向に逃げていたが、やや開けた場所に出るとミミとツィードが横に避ける。

 すると、シナモンはミミとツィードを無視して、一直線にカケルを追い始めた。


「ヴォズロバー!!」

「なんでぇ!? なんで僕だけ追い掛けられてるのさ!!」

「主様を気に入ったのでは?」

「一番弱い獲物からって可能性もあるやろ」


 今はミミとツィードは歩みを止めており、カケルとシナモンがその周りをグルグルと回っている状況だ。


「そんな気に入られ方嫌だー!!」

「ズロバーッ!!」

「丁度良いですし、主様が倒してみれば宜しいのでは?」

「まあ、そんなに強くはあらへんし、カケル坊でも十分対処可能やで!」

「そんなに弱いならミミかツィードが倒してよ!!」

「嫌です!」「嫌やな!」


 カケルの要望はアッサリと却下された。

 まあ、あの生物にワザワザ対峙したい人は居ないだろうし仕方無いだろう……。


「僕だって嫌なんだよぅ!!」

「ですが現在対峙しているのは主様です」

「人間諦めが肝心と言うやないか」

「うぅぅぅ…………」


 カケルが泣き言を言っている最中も、シナモンはカケルの後を追い掛ける。

 そんなカケルを尻目にミミとツィードは、液体か掛からない様にか何かの魔法で自分達を囲っていた。


「ああっ! もうっ! 分かったよ」


 こうなったら、シナモンを加工して二人の食事に入れてやる!!


 カケルは不穏な事を考えながらも、後ろの脅威に対処する方法を考え始める。

 こういう時にアンデッドは疲れる事が無くて便利である。


 先ずは手始めにファイアーボールを試してみる。


「”ファイアーボール”!」

「ヴォズローッ!!」


 飛んで行った火の玉は、シナモンに当たって霧散した。

 その際シナモンが飛ばす液体に当たったのか、ジュワッと言う音と共に甘臭い匂いが辺りに充満する。


「臭っ! なんやねん、この臭さは!!」

「鼻が曲がるとはこの事ですね……」


 同じ所を走っているカケルも影響を受ける。


「おえぇ……」


 そのカケルは喉が無いくせにえづいていた。


「はぁ……、はぁ……。アレは臭過ぎる……。火気厳禁だな……」


 漸く息を整えたカケルは、火属性を使わない事に決めた。


「わりと早めに決着を付けないと、臭さでショック死するかも……」


 シナモンは、その言葉を一笑に付す事が出来ないだけの臭さを誇っていた。


 とは言え、どうやって倒そうか……。


「”ウォーターボール”!」

「ヴォロバーッ!!」


 カケルは作戦を考えつつも、次の魔術を発動する。

 だが、その選択肢も後から見れば悪手だった……。


 ウォーターボールを受けたシナモンは何事も無く回転し続ける。

 ウォーターボールは威力が足りず、ただの洗車のような状態になっただけだった。


「ウィンドウカッター」

「ズローッ!?」


 その結果を見ながら、次の魔術を行使する。

 風の刃は正確にシナモンに当たった。

 コレに関しては有効だったようで、シナモンの一部を削り取る事に成功した。

 だが、中央を狙った筈が高速回転のせいか当たる位置がズラされてしまい致命傷には至らない。


 とは言え有効だったのは事実なので、数度狙いを変えて撃ってみる。


「”ウィンドウカッター”! ”ウィンドウカッター”! ”ウィンドウカッター”……!」


 だが、上にズラしても下にズラしても、左右にズラしてもしっかりとは当たらなかった。


 そして走っている内に例の攻撃が、悪手だった事を示す事象が発生する。


「へ? あわわわっ! ぐへっ……!」


 カケルは焦った声を上げながら、足を滑らせてその場に転んでしまう。


「ミミちゃん、カケル坊はなんで転んでしまったんや?」

「さっきのウォーターボールが原因ですね」

「ウォーターボール?」


 先程のウォーターボールはシナモンを丸洗いする効果があった。

 つまり、シナモンの身体から染み出していた臭くてヌメヌメとした液体まで洗い流してしまったのだ。

 そして、その液体はウォーターボールの水と混ざる位では効力を失わず、まるで地面に油を撒いたような状況になってしまったのだ。


「と言う訳です」

「うわぁ……。ならカケル坊は今、ヌメヌメで酷い臭いを発しているちゅう訳やな……」


 それを裏付ける様にカケルが叫んでいた。


「うわぁ! なんかヌメヌメする……。しかも、鼻がもげそう……」


 そうなるのは仕方無いのかも知れないが、本来そんな事をしている暇は無い。

 何故なら――。


「ヴォズローッ!!」


 シナモンが迫って来るからだ。


「やばっ!!」


 カケルがシナモンに気付いて、シナモンを避けようとした時には既に手遅れだった。


「がはっ!!」


 シナモンに轢かれて弾き飛ばされたカケルは、きりもみしながら再び地面に衝突する。

 地面との衝撃によるダメージは先程も合わせて殆ど無かった。

 これはカケルの進化の影響だろう。

 しかし、先程の衝突の瞬間にシナモンはカケルの左の小指を食い千切っていた。


「カケル坊っ!!」

「…………」


 シナモンはすぐには止まらずに、十ナレイ程進んでから停止しすぐさま反転して来た。


「クソッ!」


 カケルが痛みを無効化する事と、食い千切られたのが足の小指で無かった事が幸いし、カケルはすぐさま逆方向に走り出した。

 勿論、ヌメヌメの液体が無い場所をだ。


 だが、先程の液体は粘度もかなりの物なのか、足の裏から中々取れてくれない。

 その為、バランスに気を付けながら走る必要があり、カケルは攻撃のチャンスを失いつつあった。


「――なあミミちゃん、流石にヤバくあらへんか? カケル坊さっきから攻撃出来てへんで?」

「多分、大丈夫だと思いますよ」


 カケルは逃げながら必死に思考を巡らす。


 シナモンの強みはあの強烈な臭いを発する液体と、高速回転しながらの移動である。

 だから火属性を止めようと思ったし、魔術の効きが悪かった原因になっていた。


「危なっ!?」


 速度が落ちている為再び轢かれそうになりながらも、カケルは何とか避けつつ反転して再度逃げ始めた。


 危なかったぁ……。それよりも対策だ。

 まずあの臭い液体だけど、もしかすると冷やして凝固させる事で無効化出来るかも知れない。

 後はあの高速回転だけど、壁を作るか穴でも掘れば何とか出来るかな?


「ヴォズロバーッ!!」

「当たりたくないって!」


 カケルは暴走シナモンを避けて反転する。暴走シナモンは一直線の猪突猛進だった為、反撃には出られないが何とか回避する余裕くらいはあったのだ。


 ふぅ……。今回も何とかなったかな……。

 それでアレをどうにかするにしても、液体の方の対処では効果は薄いだろうね。


 確かにあの(おぞ)ましい液体を何とか出来れば、火属性の攻撃を加える事は可能になるだろう。

 だが、それは攻撃が通る事になると言う意味ではない。


 やっぱり、何とかして回転を止めるのが先かなぁ……。


 そう思ったカケルは、試しに壁を作ってみる事にした。


「”アースウォール”!」


 シナモンを再度避けて、相手が反転すると同時にアースウォールで土壁を相手の目の前に作る。


「ズローッ!?」


 その試みは上手く行った。但し、一瞬の事ではあったが……。

 シナモンはアースウォールにぶつかると、一瞬動きを止め壁を避ける様に迂回してからカケルへと再度迫って行ったのだ。


「これだけだと駄目か……」


 それならっ!


 カケルはシナモンの猪突を回避しつつ、魔術の行使を開始する。


「”アースウォール”! ”アースウォール”! ”アースウォール”!」


 シナモンが反転して走り出す頃合も見計らい、アースウォールにて背後以外の三面を取り囲んだ。


「まだ終わらないよ! ”ピットフォール”!」


 カケルはシナモンが背後へと移動しようとしているところに、ピットフォールで落とし穴を作った。

 その策は見事に嵌り、シナモンは穴の中へと落ちていく。


「ヴォ……!? ズロッー……!?」


 こうなれば後は簡単である。回転していないのであれば、あの魔術が十分に効果を発揮するのだから。


「”ウィンドウカッター”!」

「ズ、ズロヴァー…………」


 いつもよりも魔力を込めて強めに打ったウィンドウカッターはシナモンを真っ二つにしたのだった。


「ふぅ、やっと終わった……」

「カケル坊、ご苦労さん!」

「主様、お疲れ様でした」


 そう言いながら、カケルの方へと近寄る二人。

 但し、ある一定の位置よりも内側には入ろうとしなかった。


「酷いよ二人とも!! って、なんでそんなに離れてるの……?」

「いえ、主様が酷い臭いなだけですのでお気になさらず」

「せやなぁ……、流石に今のカケル坊に近づくんはこれが限界やで」

「言い方が酷くない!? 僕だって好きでこんな臭いをさせてる訳じゃないんだよ!?」


 臭いの元はカケルの足から来ており、お前の足が臭いと言わんばかりの強烈な臭いを発している。


「主様、でしたら早くマナドレインでシナモンも一緒に吸収してください」

「なんでマナドレイン?」


 ミミが言うにはマナドレインで魔素を吸い上げれば、臭いの原因も断てるらしい。

 どちらにしても、シナモンは素材としてではなく完全に消滅させるつもりだったから問題は無い。

 無いのだが――。


「あの物体を吸収するのはちょっと……」


 マナドレインで分解吸収するとは言え、あれだけ臭い物が自分の身体の一部になると思うと気が進まないカケルであった。


「つべこべ言わずに吸収して下さい! 本当に臭いんですよ!?」

「あ、はい! 分かりました!」


 僕って一応ミミの主なんだよね? もう少し優しくしてくれても罰が当たらないと思う。


 心の中で文句を言いつつミミに脅される形で、マナドレインをする事になったカケル。


「”マナドレイン”……!」


 先ずは足元にへばり付いていた液体に対して……。


「”マナドレイン”……!!」


 次は、戦闘跡の液体に対して……。


「”マナドレイン”……!!!」


 そして、最後に本体であるシナモン対してだ。

 いつものように光がカケルの中へと入って行く。


 そして最後には、少し萎びた状態の実の様な物だけが残った。


「ふぅ……。やっと吸収し終わったよ。これで……お……わ……」


 安堵したカケルだったが、その身体がぐらつく。


「カケル坊!?」


 身体が痛くて動かない……。

 自分の意識が意識が遠のいて行くのを感じる。

 それにこの痛み、似た物をどこかで感じた事があるような……。


『主様、そろそろ次へと歩を進めましょう――』


 そんな僕の目に最後に映ったのは、焦ったようなツィードと怪しく笑みを浮かべた様に見えるミミだった……。


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