表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/112

キーリのお使い ~剣術指南≒模擬戦~

何とか街に入れた……。

「ヤバイな。かなり時間食っちまった。サーヴァインさんに詫びを入れないとなぁ……」


 ワグナーはギルドでの確認を終えて、直ぐにキーリ達が待っている建物を目指した。

 扉を潜りキーリ達が居る部屋へと入る。


「あれ居ない?」


 ワグナーはキーリ達が居たはずの部屋に入るも、そこにキーリやヴェッツェーニアの姿どころか誰一人として人が居なかった。


「何処に行ったんだ?」


 他の部屋を探してみても、何処にも居ない。

 もしかしてと思ったワグナーは、建物の外へと足を運んだ。


「なあ少し聞きたいんだが、こっちに角と羽根が付いた美人と、小さなウサギの獣人の少女が来なかったか?」


 外に出ても目に見える範囲に彼女達が居なかったので、検問の列に並んでいた男に話しを聞く事にした。


「はい。来ましたよ」

「やはり外に出ていたのか……。済まない、そいつ等が何処に行ったか分かるか?」


 その話に依ると、少し前に西の荒野の方向に向かったとの事。


「ありがとう、助かった。」


 そして礼を言って聞き出した場所に着いたワグナーが見たのは、キーリとヴェッツェーニアが対峙している姿だった。

 その光景を疑問に思いながら辺りを見渡すと、キーリ達に付いているようにと言った筈の後輩を見つけた。


「おい! これはどういう状況だ?」

「あ、先輩! 遅かったですね?」

「キュイ!」


 ワグナーの声に彼の後輩が振り返る。

 良く見ると、彼の肩にはうーちゃんが乗っかっていた。

 ヴェッツェーニアが彼に預けたのであろう。


「ああ、すまん。少し確認に手間取ってな。それで、これはどういう事だ? 俺はサーヴァインさんに付いていろと言った筈だが?」

「はい! ですから、今も付いているっす!!」


 はぁ……。マジか……。


 当たり前だが、あの状況での付いていろと言うのは、言葉通りの付き人になれと言う意味ではない。

 早い話、サーヴァインさんを監視しながら、あの建物に軟禁しておけと言う意味だ。

 それを、この馬鹿ときたら……。


「はぁ……、過ぎた事は仕方ない。それで、どうしてこうなった?」

「良く分からないっすが、こうなったのは――」


 コイツが言うには、ニアがサーヴァインさんに剣を教えて欲しいと言ったそうだ。

 サーヴァインさんがオーガから助けてくれたとは聞いていたが、ニアが教えを請う程の剣の腕前なのだろうか?


 俺がそんな事を考えている時、地面に何かが打ち付けられる音がした。

 

 音がした方向に振り返った俺が目にしたのは、あのニアが息を乱しながら地面に手をついている姿だった――。


「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

「どうした? もう終わりか?」


 ニアの得物は、彼女がいつも持っている大きめのナイフだ。

 それに比べてサーヴァインさんの得物は、鞘が抜けないように紐で縛った状態の剣だった。


「まだっ! まだだよっ!」


 立ち上がりながら息を整えたヴェッツェーニアは、ナイフを逆手に持ちキーリの右手側に一気に迫る。


 対するキーリは、鞘付きの剣で大きく薙ぎ払いをする。


 その攻撃を読んでいたヴェッツェーニアは、左手側にジャンプをしながら避けた。


「隙ありっ!」


 なんだ。ニアの息が乱れているから、どんな強さなのかと思ったが、あんな隙を晒すなんて、大した事は無いじゃないか。

 そう思ったんだが――。


 ガキンッ!


「何処に隙があるって?」

「くっ……」


 ヴェッツェーニアが悔しそうな顔をしながら、元の位置に戻った。


 何が起きたんだ?

 ニアが大振りの攻撃を避けたまでは良い。

 だが、なんであの状態からニアの次の攻撃を防げるんだ?

 何かの防御系のスキルか?


「ああ、言うまでもないが私はスキルも魔法も使ってないぞ?」

「分かってるよ!! ボクが相手じゃ、どちらも使う必要が無いんでしょ!?」

「そうだな――。ニア、お前は弱い。身のこなしは大したものだが、如何せん速度が遅すぎるぞ?」


 ニアの速度が遅い?


「ならっ! ”瞬間加速”!!」

「ほう……」


 その瞬間俺には、ニアの姿が一瞬掻き消えたように見えた。


「だが、まだまだだな」


 ガッ!


「嘘……?」


 ニアの瞬間加速が効かない!?

 あの速さを捉えられる奴が、上位冒険者達以外に居たのか……。


「瞬間的な速度は少し上がったみたいだが、動きが単調だし何よりまだ遅すぎるぞ?」

「それなら!! ”瞬間加速”! ”気配遮断”! ”風景同化”!」


 あれは……!


「先輩、ニアちゃんが消えたっすよ!?」

「キュウッ!」


 ワグナーの後輩は驚き、彼の肩の上のうーちゃんはドヤ顔をしているみたいだった。


「あれはスキルを三つ同時に発動した結果だ。まずはさっきと同じ瞬間加速にて、一気に速度を上げる。次に気配遮断を使って、ニアの気配を相手から隠蔽する。そして最後に風景同化によって、周囲の景色の色に同化したのさ」

「へぇ! スキルって同時に発動するの簡単なんすね!!」


 そんな後輩の発言に、ワグナーとうーちゃんは呆れた様に返事をする。


「馬鹿が……。あんな事が簡単に出来るヤツはそうそう居ねぇよ!!」

「キュイ……! キュ、キュー!」


 ワグナー達が会話している最中も、戦況は刻一刻変化していく。


 ヴェッツェーニアが踏み締めたと思われる箇所が爆ぜた様に土が飛び散った。

 一回、二回、三回……。更に続けて地面が抉られる。


 ヴェッツェーニアは左右前後と高速移動しながら散発的な攻撃を加え、キーリに対して揺さぶりを掛ける。

 その攻撃をキーリは難なく避けていた。


 尤もそれは、ヴェッツェーニアも承知の上だ。

 狙うは本命の一撃だ。その為にキーリの体勢を崩すべく、ヴェッツェーニアは冷静に攻撃を加えていた。


「先輩! ニアちゃんもですけど、キーリさんも速すぎて見えないっすね!!」

「キュウッ! キュー!!」

「ああ……。さっきの攻撃の時もだが、彼女あの速度のニアを捉えているのか?」


 そして、ついにその時はやって来た。


 ヴェッツェーニアのフェイクと散発的な攻撃に、僅かにキーリが体勢を崩したのだ。


 それを見ていたヴェッツェーニアは、キーリの後ろへと回り込む。

 そして背後から、強烈な一撃をキーリに加えた。


 ガキンッ!


「なっ!!」


 だが、キーリは完全な死角からのヴェッツェーニアの攻撃を、体勢を崩しているのにも関わらず剣を背後に回す事によって防いでいた。


「フェイクも良いが、背後からの攻撃に遠慮があるぞ? せめて、足や腕を斬り落とすくらいでこないと」


 あの攻撃を退けるのか……。

 確かにあの一連のスキルを合わせた攻撃は、景色への同化の違和感と音が消せない欠点がある。

 だが、だからと言ってそうそう避けれるものではない。


 優れた剣士程気配を読む事に長ける。高速での打ち合いは目で追えない事もあるからだ。

 その重要な気配を遮断されると、大抵の人は最後の攻撃を受けてしまうのだ。


 さっきの欠点によって打ち破られる事もあるだろう。

 だが景色への同化の違和感は、高速移動によって殆ど問題ない筈だ。

 それに音の欠点も、あの高速移動の中において有用に活用出来る奴なんて、片手で数える程しか居ない筈だ。


 それを彼女は、易々と打ち破った。彼女の実力と言い総合ギルドの支部長の言葉と言い、彼女は一体なんなんだ……?


 攻撃に失敗したヴェッツェーニアは、一旦キーリとの距離を空ける。

 同じようにキーリも、ヴェッツェーニアの方向へと体の向きを変えた。


「なんであの攻撃が避けれるんですか!!」

「基本的にお前の攻撃は遅すぎるんだ。速度を上げれないなら、手数とフェイクを増やせば良いと言うのは間違ってはいないだろう。だが、それが全部読まれていては意味が無い」


 彼女が言っている事は分かる。だが、それが可能かどうかは別問題だ。

 彼女はそれを容易く実行した。つまりそれは、彼女にとっては普通の事なのだろう……。


「さて、そろそろ私から攻めさせてもらうぞ?」


 キーリはそう言うと、剣を構えてヴェッツェーニアとの距離を詰める。


「くっ……!」


 そしてキーリはなんの変哲も無い、ただの振り下ろしを行った。


 速度は少し速いが単調な振り下ろしだ。俺の想像通りニアは、後ろに跳ねる様に避ける。


「やはり、この程度は避けるか」

「当たり前です!!」

「なら、少し速くしよう」


 キーリがそう言ったかと思うと、先程よりも速い速度でニアに詰めた。

 だが攻撃は先程と同じ様な振り下ろしだ。速度が少し速くなろうと、避けられない程の攻撃ではない筈だ。


 ワグナーの思ったとおりにヴェッツェーニアは、その攻撃を危なげなく避けた。


「キーリお姉さん! ボクを馬鹿にしてるんですか!?」

「いや、そういう訳では無いんだがなぁ……」


 サーヴァインさんはそう言うが、正直俺から見ても手を抜いてるのがはっきりと分かったレベルだ。

 先程の交戦状況からすれば、手を抜いていると言われても仕方が無いだろう。


「仕方ないな……。少し本気で行くぞ?」


 その言葉の直後に、あり得ない程の威圧感を感じた。

 これを彼女が?


「せ、先輩……。キーリさんが怖いっす……」

「キューン……」

「心配するな……。俺も同じだ……。それに、お前の肩の上のうーちゃんも同じみたいだぞ……?」


 キーリは威圧感を辺りに撒き散らし、ヴェッツェーニアに向けて殺気を発した。


「あ、あぁ……」

「ニア耐えろよ?」


 そしてサーヴァインさんの姿が掻き消える。

 それとほぼ同時に、ニアの体が宙に浮いた。


 全く見えなかったが恐らく、ニアを持っている剣で弾き上げたのだろう。


 宙にニアが浮いた瞬間、一瞬だけサーヴァインさんが見えたからだ。


「ニアちゃん……!?」

「キュイ!?」


 その後、またサーヴァインさんが消える。

 それと同時にニアが右上に高度を上げた。どうやら追撃を食らったようだ。


「かはっ……」

「ニアっ……?」


 ニアは大丈夫だろうか?

 あんなに打上げられて……。


 これが、剣術指南だから黙っているが、本当にこのままで大丈夫なのだろうか……?


「まだ行けるだろう?」


 キーリはそう言いながらも、ヴェッツェーニアに対して追撃を続ける。

 右上の後は左上、それが終わればまた右上。まるで羽根突きの羽根の様な状態だ。

 だが、不思議と辺りに大きな音が響かなかった。


「せ、先輩っ!! 早く止めないとニアちゃんが死んじゃいますよ!!」

「キューイ、キューイ!!」

「あ、ああ……」


 俺は、余りにも異常な光景に唖然としてしまっていたが、横から聞こえた声で我に返った。


 コイツ達の言う通り、これは流石にやりすぎだ!

 これ以上は見てられん!!


「止めてください、サーヴァインさん!! もうそれ位で良いでしょう!?」

「ふむ……」


 俺の言葉でサーヴァインさんは攻撃を止めた。

 そして、宙に浮いていたニアが地面に叩きつけられた。


「がふ……」

「おいニア! 大丈夫か!?」

「ニアちゃん!?」

「キュイッ!」


 ワグナーと後輩の門番は、ヴェッツェーニアを診る為に近くへと移動する。


 あぁ……、ニアこんなにボロボロになって――。



 ――無いな………。



 あんなに打上げられていたのに、大した怪我が無い?

 あるのはせいぜい、今さっきの落ちたときの擦り傷くらいか?

 なぜだ……?


「さてニア、自分の無力さは自覚出来たか?」

「キーリさん!? ちょっとその言い方は酷いんじゃないっすか!?」


 ワグナー達が傍に寄って、ヴェッツェーニアの看病をしているところに、キーリが近づいて話して掛けてきた。

 それに対して門番が反論した。


「はぁ、はぁ……。い、今のは?」


 だが、彼女の興味は自分の怪我やキーリの物言いでは無く、先程の自分が受けた攻撃に向いていた。


 それに対してキーリが、先程の光景の事をヴェッツェーニアに説明する。


 説明されればなんの事はない、キーリがヴェッツェーニアの打ち上げを丁寧に行っていただけの事だ。

 まず打ち上げる瞬間にヴェッツェーニアの体に鞘を当ててから放り投げる事で、打ち上げの際のヴェッツェーニアへの打ち付けの威力を削ぐ。

 そして更に、落ちてきたヴェッツェーニアを鞘で勢いを削ぎながら受け止める事で、大した怪我の無い空中散歩になった訳だ。


 尤も、説明が理解出来たからと言って納得出来るとは限らないが……。


「ボクはお姉さんにとって、そんな事をする余裕がある程に弱いの?」

「ああ、弱い」

「キーリさん!?」

「大丈夫だよハンクさん。でもそっか……、ボクはそんなに弱いのか…………」


 キーリはヴェッツェーニアの事を、ハッキリ弱いと断じた。


「キーリさん、もっと他の言い方が無かったんすか!! これじゃあ、ニアちゃんが可哀想っす!!」


 それに対して、後輩の門番――ハンク――が反論した。


「止めろ」

「でも、先輩!!」

「ニアよりも弱い俺達が、何を言っても意味がねえよ……」

「それは……」

「キューン……」


 ニアが弱いなら、俺達は何なんだろうな……。

 だが、サーヴァインさんの強さは本物だ。ニアに対してあんな遊びを混ぜれるくらいには……。


 そんな俺達がニアに何を言うんだ? サーヴァインさんにどう反論するんだ?


「だが!!」


 サーヴァインさんは、そんな俺達のやり取りを遮るように強く声を発した。


「だがニアは、私なんかよりも余程才能があるぞ?」


 それに続く言葉は先程とは正反対であった。


「慰めてくれなくても良いよ……」

「慰めじゃないさ。私が剣を練習し始めた時なんか、よく剣だけ飛んでいったり刃先が砕け散ったりしたものだ」


 刃先が砕け散ったのは怪力や剣の質の問題かも知れないが、剣だけ飛ぶのはどういう状況だ……?


「嘘言わないで!!」

「別に嘘じゃないさ。私は不器用だったからな。ただ地道に剣を振ってここまでの力を得たんだ」


 キーリが言う通り、彼女はけして剣術の才能がある訳ではない。

 寧ろ才能に関してはかなり低い方だ。だが、それを捻じ伏せる程の期間剣を振っていた為、今の実力にまで上がっているのだ。

 一方のヴェッツェーニアは、精々五年程度期間しか剣を扱ってない筈だ。文字通り年期が違うので比べても仕方ないとも言えるだろう。


「キーリお姉さんは、どれくらいの年月剣を振ってきたの?」

「そうだなぁ、最低でも一万五千年前から振ってきたのは確かだな」


 一万年って……。

 カードの件もあるから一概に嘘だとは思えないが、もし本当ならニアに勝ち目は無いのも仕方無いだろうなぁ……。


『先輩、一万年なんて嘘っすよね?』


 キーリとヴェッツェーニアの会話に疑問を感じたハンクが、ワグナーに小声で質問をした。


『さあ、どうだろうな? 少なくともギルドで確認してきたカードは本物だったみたいだぞ?』

『マジっすか!?』


 それに対しての返答は、ハンクの予想とは裏腹に本当の可能性もあるというものだったが……


「ボクも、キーリお姉さんみたいに強くなれるかな?」

「腕力や速度は無理だろうが、技術でなら追い付く事も可能だろう。少なくとも、今の私でも勝てない様な剣士の人間が昔居たのだからな」


 キーリが言っているのは、ホーリードラゴンの優位性を覆す程の技術を持った人間が過去に居たと言う事に他ならない。


 流石にあの速度を捌く技術なんて、想像がつかないのだが……。

 いや、もしかするとアイツなら可能なのか……?


「凄い……。キーリお姉さんはその人に剣術を教わったの?」


 ヴェッツェーニアがそう聞くのはキーリの話し方が、単なる知人の事を話している様には聞こえなかったからだ。


「ああ、直接教わった訳ではないがな。アイツが死んだ後、ずっと見てきたアイツの剣技を思い出しながら練習したんだ」

「あ……、ごめんなさい……」

「気にするな。もう整理の付いた事だ」


 少し気まずい空気が流れる。

 それを打ち破る様に、キーリが話題を変えて発言する。


「なあニア。私はさっきお前が才能があると言ったな?」

「え? はい……」

「だが、お前が弱いと言ったのも本当だ」

「うん…………」


 サーヴァインさんはさっきの話を蒸し返す気か?


「それを自覚したなら、今後は一人で外に出るのは控えろ! うーちゃんが居てもだ!」

「うっ……」


 そうか、彼女はニアを心配してわざと打ちのめしたのか……。

 ニアが子供だからだろうな。サーヴァインさんも優しい所があるじゃないか。


「良いか? ニアはオーガにすら勝てないのだ。最低でもオーガ程度倒せる様にならないなら、外に出るべきではないぞ!!」


 ……前言撤回だ。オーガに勝てるのが最低レベルとか、サーヴァインさんの条件は厳し過ぎだ!!

 そんなレベルになるまで駄目とか、子供どころか一般の冒険者ですら外に出れねぇよ!!


『先輩、オーガってそんな簡単に倒せるものでしたっけ?』

『そんな訳ねぇだろ! 普通は数人から数十人で囲んで相手にする魔物だ!』

『キュイ、キュイ!』


 ハンクが馬鹿な事を言うから、少し声を荒げてしまった。


「あ、あのう……。その条件だと、ボクどころか他の大人の人も外に出れないと思うんだけど……」

「そう言えば、人間が弱体化した話をさっき聞かされてたな……」


 別に人間が弱体化した訳ではなく、彼女の人間の普通の基準がおかしいだけである。


「弱体化なのかな……?」

「ん? 違うのか?」


 下手したら他の事に飛び火しそうだった為、俺はサーヴァインさんの話を打ち切って別の話題にする事にした。


「サーヴァインさん!」

「ん? どうした?」

「先程ギルドで調べてもらったところ、サーヴァインさんのギルドカードが本物と証明されました」

「そうか、では無事に入れるのだな?」

「はい。ですが、ギルド支部長が直接会いたいと言っておりました。カードが古すぎる為、直接確認する必要があるようです」


 ワグナーはそう言いながら、キーリにカードを返した。


「ふむ。ニア、悪いが剣技を教えるのはここまでで良いか?」

「あ、うん」

「よし、なら今から行こうか」


 キーリ達は門横の先程の建物へと戻る。

 そして、そこまで戻るとワグナーはハンクに告げた。


「おいハンク! 俺はサーヴァインさんを案内して来るから、お前は少し先に休んでいろ!!」

「あ、はい。分かったっす!」


 ハンスを除いたメンバーは、先程の建物経由で門を潜り街へと入った。


 そして門を潜ってすぐに、彼女達に話し掛けてくる者が居た。


「ニア!!」

「兄貴?」


 ヴェッツェーニアの姿を認めると、彼は彼女をきつく抱き締めた。


「馬鹿野郎が……。心配掛けやがって」


 俺等に頭を下げて、居なくなったニアを探す依頼をしたニアの兄貴だ。

 ニアとその兄のヴォルデルクは中規模の商人の一家で、ヴォルデルクは家の商家を継ぐ予定だ。

 あの馬鹿の兄とは思えない程の秀才で、親にも期待されてるらしい。


 一方のニアは冒険者になりたいなんて言ってる奴で、悪知恵は回るくせに頭が悪い基本的に脳筋の人種だ。

 あのアホとヴォルデルク――ヴォル――が兄妹なのが、未だに信じられないくらいだ。


「兄貴、どうして……?」

「お前が一向に帰って来ないからだろ!?」

「仕事は?」

「親父に任せて来た」

「でも……」

「でもじゃない!! お前は心配掛け過ぎなんだよ!!」


 何時もは冷静なんだが、家族想いで特にニアに対して過保護な一面がある。

 今も口調が崩れてるしな……。


「ニア、此方の御仁はお前の兄か?」

「あ、はい……。兄貴はボクの兄貴です」

「ん?」


 ヴォルデルクは今初めて、キーリの存在に気付いたらしい。

 ヴォルデルクが抱き締めたヴェッツェーニアの後ろに居た、キーリに視線を合わせた問いかけた。


「貴女は?」

「申し遅れたな。私はキーリ・サーヴァインと言う。ここに来る途中に、ニアを拾った者だ」

「拾った?」

「兄貴、キーリお姉さんは――」


 ヴェッツェーニアがシャンティナを出てから、キーリに会うまでの事を説明する。

 オーガに襲われた事、オーガと一戦交えた事、キーリに助けられた事……。


「オーガ!? ニア、無事だったのかい!?」

「大丈夫だよ! キーリお姉さんが助けてくれたから!」


 オーガに襲われたと聞いてヴォルデルクは、ヴェッツェーニアの身体に怪我が無いか調べていた。


「そうか……。良かった……」


 ヴェッツェーニアの身体に異常が無い事を確認したヴォルデルクは、立ち上がってキーリの前に立つ。


「キーリ・サーヴァインさん、ニアを助けて頂き本当にありがとうございます!! そして、挨拶が遅れて申し訳ありません。私はニアの兄のヴォルデルクと申します。実家はルト商店を営んでおります」

「ああ、構わない。私も偶然見付けただけだからな」

「それでもです。出来れば私にお礼をさせて頂けませんか?」


 ヴォルデルクはキーリに対して、お礼を申し込んだ。

 キーリは何回か断ったのだが、ヴォルデルクとの問答の末にキーリ側が折れたのだった。


「分かった、分かった! 確か商店をやってると言っていたな? なら、砂糖を都合出来るか?」

「砂糖ですか?」


 キーリはこの街に来た目的を話す。


「分かりました」


 キーリの希望を聞いたヴォルデルクは、何度もキーリに頭を下げながら頭にうーちゃんを乗せたヴェッツェーニアを連れて帰って行った。


「ワグナー待たせて済まない。ギルドに行こうか?」

「分かりました」


 ◇ ◇ ◇


 街に入ったキーリとワグナーは、ギルドへと向かう。


「サーヴァインさん、総合ギルドまでは少し掛かりますがご辛抱下さい」

「なあ、ワグナー。サーヴァインさんと言うのは止めないか?」

「それでしたら、キーリさん?」

「いや、呼び捨てで良い。後、敬語も必要無いぞ?」

「ですが貴女はニアの恩人ですし……」

「私が構わないのだから、別に良いだろう?」

「分かりました。いや、分かったよキーリ」

「ああ、それで良い」


 ワグナーが諦めたかの様に肩を(すく)めた。


「まだギルドまでは少し掛かるからな、何か聞きたい事があれば答えるぞ?」

「そうだな……」


 道すがら、ワグナーはキーリの質問に答えていた。

 二千年以上昔の光景に比べて余りにも変化していた為、何処に何があるかが全く分からなくなっていたと言う。


「今向かっているのは総合ギルドだよな?」

「ああ、そうだな」

「なら、総合ギルドについて教えてくれるか?」

「総合ギルドか。そうだなぁ、何処から話すか――」


 総合ギルド。単にギルドとも呼ばれるこの組織は、主に三つの部門から成り立っている。

 まずは冒険者部門。冒険者ギルドとも呼ばれるその部門は、所属している冒険者達の力を用いて魔物の駆除や護衛などを請け負う。

 その他にも採取した素材買い取りや、冒険者に必要なアイテムの販売も行う部門である。


 次は商業部門。商業ギルドとも呼ばれており、主に店を出す許可や税金について取り扱っている。

 また、店舗を扱う事から不動産の管理もしており、新しく作られたアイテムの著作権管理もここで扱っている。


 最後が職業部門。こちらは職業ギルドとも呼ばれている。この部門は他の二つに比べて雑多な名前だが、一部の特殊な職業を除き人の斡旋を行う重要な部門である。

 日本に当てはめると、ハローワークや転職サイトに近いかも知れない。

 また、斡旋以外にも基礎の職業訓練などもやっており、就職活動の強い味方である。


 この三部門を合わせたものが、総合ギルドと呼ばれる組織であり、この大陸の殆どの国に存在する大組織だ。

 また、独立した組織でありながら、国の土地の売買の代行や納税代行等を行う特殊な組織になっている。


「――そう言う訳で、国民にとっては無くてはならない存在だな」

「ふむ。なあ疑問に感じたんだが、冒険者の力が国に取り込まれる事は無いのか? 確か、人間は戦争が大好きなんだろう?」

「嫌な言い方だな……。まあ良い。力が取り込まれないかだったな? それはな――」


 冒険者の力とは、分かりやすい暴力の具現化だ。

 国がその力を吸収すれば、勿論他国との戦争で有利になる。

 ならば、吸収しようとした国は居なかったかと言えば、それはノーである。


 実際過去には冒険者部門を吸収しようとした国もあったのだが、すぐ後に総合ギルドによって滅ぼされている。

 総合ギルドは、それ自体が独立した国家のような存在で、無理矢理取り込めば中から食い荒らされて滅亡させるだけの力を持っているのだ。


 噂では総合ギルドの最上位者が、単体で国とやりあえる程の力を持っているらしいとか何とか……。


「ふーむ。干渉を絶つ為に、報復が過激な訳か……」

「そう言う事だ。さーて、着いたぞ?」

「む? 此処か」


 キーリ達の目の前には、三階建の木造の建物が広がっていた。

 そして正面には大きな看板が掲げられていた。


 その看板には盾と剣のマーク、お金らしきマーク、そして様々な職業の人々が描かれたマークがある。

 それらのマークは各部門を示しており円状になっていた。

 その三つのマークは三角形を作っており、一番上の頂点には冒険者部門のマーク、左下には商業部門のマーク、右下には職業部門のマークが並んでいた。


さて、今回はニアがボコボコにされてましたね。

二回戦ってどちらもボコボコにされているので、どうも弱い印象がありますが戦っている相手が悪いだけです。

どこかで格好良いニアを出したいですけど、いつ書けることやら……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ