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キーリのお使い ~鬼とウサギとドラゴンと~

そろそろストックが……。


※12/5 完全に書き忘れていた箇所があったので追加しました。(追加箇所は生クリームの加工についてと、ノンホモ牛乳の無駄知識なので、読み直す必要はないと思います)

「食材が足りない!!」

「なんや?」

「いきなりどうしたんだ?」


 カケルが脈絡もなく喋り始めた。

 ツィードが仲間になってから暫く経ち、今は食後の一休み中だ。


「この頃料理の幅が広がってきて、色々な味を楽しめるようになったよね?」

「ああ、最初の頃からは考えられないな!」

「前はそんなんやったんやなぁ」


 そうキーリが、しみじみと頷いた。


「うん、だよね! ただ、そうするともっと色々な食べ物を、食べたいって欲が出てくるよね?」

「ん? まあ、そうかもな」

「食欲は生物の基本やからなぁ……」


 ただ、彼等は本来数ヶ月に一回食べれば良い訳で、現在の食事は肉体の栄養補給としては過剰だった。


「そこで、少し問題が発生しました」

「問題?」

「うん。ライトフェアリー達から、もっと他の食べ物は無いかって聞かれたときに、ついポロっとお菓子の話しをしちゃったんだよね……」

「お菓子?」

「それのどこが問題なんや?」


 キーリ達の顔には疑問符が浮かんでいた。


「うん……。ポテチとかの塩気が効いたお菓子なら問題ないんだけど、ケーキの事を教えちゃったんだよね……」

「主様、それは……」

「そう、それからライトフェアリー達からの催促が激しくて――」


 ライトフェアリー達からの催促は凄かった。

 二十名程居る彼等が、数分置きに聞きに来るのだ。

 肉体が疲労しないカケルとは言え、精神疲労は避けられなかった。


「それで、余りにも一生懸命だから、つい……」

「ケーキを作る事を、約束してしまったと?」

「うん……」

「そらアカンわ……」

「んん?」

「主様、それは自業自得と言う物です」


 ミミとツィードが呆れたような顔を向けてくる。

 一方のキーリは、ケーキの想像がついていないようだ。


「そうなんだけどさ……。子供のお願いって、何回もは断りにくいんだよ……」

「カケル坊の気持ちはよう分かるわぁ……」

「はあ……」

「なあ、ミミ。ミミは分かっているみたいだが、ケーキってのは具体的に何なんだ?」

「主様が言っていたように、食事の後に食べる甘いお菓子ですね。フルーツよりも甘い食べ物と、例えれば良いでしょうか?」

「フルーツよりもか!? それは、食べてみたいな……」

「それで、主様はケーキの材料が欲しいと?」

「うん」

「主様の世界の、ケーキを作る材料は――」


 簡単なケーキの材料は、小麦粉、卵、生クリーム、バター、砂糖、フルーツである。

 この内カケルは、小麦粉とフルーツは樹海の部屋で既に見つけているのだが、卵、生クリーム、バター、砂糖が足りないのだ。


 それに対し、生クリームとバターは加工品のため、牛乳が手に入れば作れるだろうとミミが話す。


「卵はコカトリスの卵で良いなら当てがあるで?」

「コカトリスって……」

「コカトリスですか……。少し大きいかも知れませんが、問題ないと思います」


 コカトリス卵は、地球で言うところのダチョウの卵の様なものだ。

 尤もダチョウの卵の場合、味が全体的に薄いらしいのだが……。


「それなら後は、生クリームと砂糖だな。砂糖は兎も角、生クリームとバターとは何だ?」

「何だろう? 牛乳から出来ているのは知ってるけど、どうやって作られてるのかは知らないかな」

「生クリーム――。牛乳を遠心分離機に掛けると、脱脂粉乳と生クリームに分離するみたいです。因みにバターとは脂肪分量の違いだけみたいです」


 詳しく聞くと日本で作られている生クリームは、生乳から遠心分離機で分離させた乳脂肪分を濃縮して作り出されているらしい。

 但し、消費者が一般的に手に入る牛乳から作れる物では無いとの事。

 これは脂肪球と呼ばれる脂肪分が破壊されている為で、もし生クリームを牛乳から造るためにはその脂肪球が破壊されていないノンホモ牛乳――ノンホモジナイズ牛乳の略――を使う必要があるとの事だった。

 脂肪球を破壊する工程を均質化(ホモジナイズ)と呼び、これをする事で牛乳の液体成分と脂肪成分が分離しなくなるのだと言う。

 これを行う事で殺菌処理などが円滑に進み、大量生産を可能にしているとの言葉でミミは話を締めた。


 正直さっぱり分からない上に、後半の部分は興味が惹かれない内容だったので、僕は最初の部分の言葉だけ拾う事にした。


「遠心分離機か……。流石にこれを作るのは無理だよね……」

「いえ、可能ですよ。それに、私やキーリ様、ツィード様であれば、振り回すだけでも十分に分離するかと」

「マジか……」

「要は牛乳があれば良いんやな? なら、ミノタウロスの乳でどうや?」

「ミノタウルスから、牛乳って採れるの……?」

「多少味は違うかも知れませんが、問題ないと思います」

「となると、残りの問題は……」

「砂糖ですね」


 カケルを置いてきぼりにして話が進んでいるが、いつの世でも女性が甘味に惹かれる証拠だろうか。

 約一名猫蜘蛛が混じってはいたが……。


「えと、砂糖黍(さとうきび)とか甜菜(てんさい)って、樹海の部屋に無いのかな?」

「残念ながら、見たこと無いな」

「ワイもあらへんなぁ」

「――調べてみましたが無さそうです」


 甜菜(てんさい)とビートとも言う大根と蕪を合わせたような姿の野菜で、北海道を中心に栽培されている砂糖の原料の一種だ。

 日本国内に限れば砂糖の原料の、約七十五パーセントもを占める野菜でもある。


「となると後は、街に買いに行くくらいしか無さそうだね」

「せやなぁ」

「ふむ、そうなるか」

「となれば――」


 ミミとツィードの視線がキーリに向かう。

 それに少し遅れて、カケルの視線も加わった。


「な、なんだ?」

「この中で街に買いに行けそう方が、キーリ様しか居ないのでは無いかと思いまして」

「うん。僕はアンデットだから論外だし、ミミも喋るウサギでツィードに至っては猫蜘蛛とか言う良く分からない生物だしね」

「その点キーリ様は、翼と角にさえ目を瞑れば十分に人間に見えるかと」

「そんでもって美人やしな!」


 美人かどうかは一見関係なさそうだが、助けになる人が多くなる効果はあるだろう。

 尤も対応をミスれば反感が増えるだけの可能性もあるが……。


「それにキーリは、確か種族的にも人間と友好的なんだよね?」

「まあ、確かにそうかも知れないが……」


 アンデットや喋るウサギや猫蜘蛛が砂糖を買いに来たよりも、聖獣と呼ばれるキーリが買いに行った方が混乱が少ない。――かも知れない……。


「キーリお願い! ライトフェアリー達を、喜ばせる為だと思って!」

「キーリ様、私もケーキ食べてみたいです」

「ワイも甘い物を久々に食べたいで!」


 カケルはキーリを説得していたが、ミミとツィードのは単なる自分の気持ちの暴露である。


「ああもう! 分かったから!!」

「よっしゃぁ!」

「キーリ、ありがとう!!」

「これで、ケーキが食べられますね!」

「それで私は、街に砂糖を買いに行けば良いのか?」

「うん。ケーキみたいなお菓子だけじゃなくて、料理にも使えるから少し多目に欲しいかも……。あ、でもお金どうしよう……」

「それでしたら、街に行くのは少し待って下さい。そうですね、明日まで待って貰えますか?」

「それは構わないが……」

「では行ってまいります」


 そう言うとミミは、何処かに走って行ってしまった。


「行っちゃったね……」

「ああ。ミミは何をするつもりなのだろうな?」

「金目になる物集めてるんとちゃう?」

「金目の物か……。このダンジョンにあるのかなぁ?」


 カケルの頭に浮かんだのは装飾品だ。

 だが金目の物と言っても、別に金属である必要はない。

 例えば、前世であれば象牙などは、非金属だが裏でかなりの値が付いただろう。


 それと同じ様にこちらの世界でも骨董品や珍しい食べ物などなら、高く売れるかも知れない。


 ◇ ◇ ◇


 そして次の日の朝。

 ミミが何かを持って、戻ってきたようだ。


「ミミお帰り。それで、それは何?」

「はい、ただいまです。それとこれは収納ポーチです」

「ポーチ……?」


 何かの毛皮を使っているだろうそれは、材料の毛が長過ぎてハンディモップの様にしか見えなかった。


「それで、それをどうするんだ? ポーチはそもそも収納する物だろう?」

「ただのポーチでは有りません。私のアイテムボックスの魔法を埋め込んだ魔道具になります。中の時間は殆ど停止しており、容量もこの部屋くらいはあります」


 魔道具。それは、道具に魔法や魔術を埋め込んだ物で、通常の道具よりも便利になった道具の事だ。

 機械の様な物と言う認識で良いだろう。

 因みに、カケルがいつも使っているあの石も魔道具の一種である。


「この部屋くらいって……」

「つまり、これに砂糖を入れて来れば良いのか?」

「はい。後、私達はお金を持っていませんので、代わりにお金になる素材を入れておきました」

「なら、後は行くだけだな」

「キーリ様、まだ街に入る為の手段がありません。街では、身分証の提示が必要だとか」

「ああ、それなら大丈夫だ。昔作ったギルドカードがあるからな」


 ギルド、やっぱりあるんだ……。

 冒険者ギルドがあって、中級冒険者に絡まれたりする訳だ。

 キーリに絡んだ冒険者は、ボコボコにされそうだけど……。


「では大丈夫ですね。主様、私達は卵と牛乳を取りに行きますよ? ツィード様、案内よろしくお願いします」

「あ、うん……」

「任しとき!!」

「ミミとカケルも気を付けろよ。――一応、そこの猫蜘蛛もな」


 相変わらずキーリとツィードは仲が悪いようだ。

 それでも、数日間でマシになった方なのだが……。


 ◇ ◇ ◇


 ミミとカケル、あの猫蜘蛛が出て行った後に、私はライトフェアリー達に外に行く趣旨を伝えてから、ダンジョンの外へと出て来ていた。


「相変わらずの所だな」


 ダンジョンから外へ、更に嘆きの洞窟を抜けると、外には薄暗い森が広がっていた。

 樹海の森が爽やかな雰囲気なのに対して、この森は陰気な雰囲気を感じさせる。

 木々のサイズは樹海の森と比べて小さいが、キーリの人化した身長と比べれば十分に大きい。

 つまりは、普通サイズの木々である。

 木々の葉や枝は入り来る日の光を隠し、枯れ木や木々にまとわり付く蔦が鬱蒼とした雰囲気を出していた。


「今回は急ぐ必要も無し、この姿で飛んで行くか」


 キーリはそう言うと、木々を踏み台にして森の上空へと躍り出た。

 そして折り畳んだ翼を広げると、羽ばたきだした。


 彼女の全力では無いにせよ、かなりの速度で風景が後退して行く。


「大地が荒れているな。昔見たときは綺麗な草原だったのに残念だ……」


 キーリの目の前には広い荒地が、ただ静かに砂埃を舞い上げている。


 キーリが向かっている街は、混沌都市シャンティナと呼ばれる大都市だ。

 シャンティナは嘆きの洞窟から一番近い大都市で、多くの人と物が集まる貿易都市でもある。

 人間以外の獣人やエルフやドワーフなどの亜人も数多く生活しており、貿易で集まった珍品が更に人を呼ぶ。

 そんな色々な文化と人が混ざり合い、煩雑な雰囲気を形成していた。

 そして色々な物が混ざり合った結果新しい物が産まれる下地が出来ており、様々な流行の発祥地にもなっていた。


「ん? あれは?」


 そんな彼女の行く手にある光景が飛び込んできた。


 ◇ ◇ ◇


「こないで! うーちゃんは私が守るんだから!!」


 小さな少女右手にナイフ、左腕に毛玉を抱き締めながら、目の前の敵に対して果敢に吠える。


「グオォォ!!」

「ひうっ……」


 だが、目の前の敵はそれを嘲笑うかの様に唸り声を上げた。

 少女の目の前に居るのは、オーガと呼ばれる鬼型の魔物だ。

 身長は一ナレイ半程あり、顔は正に悪鬼羅刹の様相で、頭からは角が二本生えている。

 体は隆起するような筋肉質の上半身に、下半身だけが蓑で覆われている格好だ。

 そんなオーガの手には、巨大な斧が握られていた。


 そんな化け物と対峙しているのは、まだ十歳程の少女で腕の中には真っ赤な毛玉が抱えられている。

 意志の強そうな赤い瞳と、赤み掛かった茶色の髪に、日に焼けた健康的な肌。

 服は淡い赤色なオーバーオールの下に白シャツを着たような感じで、腕と足が外気に晒されている。

 だが、なによりも目立つのは頭の上から生えた二本のウサ耳だった。


 オーガの様な化け物を目の前にして、少女が吠える事が出来ただけでも大した物であろう。

 だが、ナイフを持つ手はカタカタと震えており、顔の色も悪く気力を振り絞って対峙しているようだ。


「ガァァァ!!」


 オーガが声を上げながら斧を振り上げる。

 そして斧が降り下ろされ、(ひる)んでいた少女の首が飛ぶかの様に思えたのだが――。


「キュイ!」


 左腕に抱えられていた赤い毛玉が声を上げたかと思うと、少女の頭程もある火の玉が出現しオーガの顔に撃ち込まれた。


「グアァァァ……!?」

「うーちゃん? ありがとう、助かったよ!!」

「キューイ!」


 先の攻撃が直撃したとは言え、オーガはまだ生きているし痛みで暴れているところだった。


「うーちゃん逃げるよ! ボク達じゃコイツには勝てない!」

「キュー!」


 彼女達はオーガが痛みで暴れている隙に、街に向かって走り出す。


 だが、悲しいかな。少女の足ではそこまでの速度が出ない。

 況してや此処は荒野であり、隠れる場所が全く無いのだ。


「ゴァアァァァ!!」


 そうしてるうちにも、オーガは怯み状態から抜け出したようだ。

 先程の侮った獲物からの反撃に、怒りを感じている様だ。


 オーガは斧を振り上げながら、少女達を走って追い掛ける。

 少女とオーガでは走る速度が段違いであり、少女が稼いだ距離もすぐに縮まってしまう。


「グラアァァァ!!」


 オーガが斧を降り下ろす。


 少女は大振りのそれを、横に飛び込む事で避けた。


「もう追い付いたの……? まだ、街までかなりあるのに……」


 街までの距離は一リアナレイは無いものの、まだ十分の一リアナレイ――二キロメートル位――はあるだろうか。

 今の少女にとっては絶望的な数字だ。


「ゴァアァァァ!」


 オーガが少女に追撃を掛ける。


 少女は追撃を避け、お返しとばかりにオーガの脇腹にナイフを突き立てた。

 だが――。


 ガキン!


 硬い物が触れ合う音がして、ナイフは弾かれてしまう。


「なんて硬さなの!?」


 少女はオーガから距離を取りながらも、ナイフを一瞥してそう呟いた。


 ナイフがオーガの皮膚に競り負けて、一部欠けてしまったのだ。


 このままでは街まで逃げる事も叶わない。何とかして、この化け物の足を止めないと!

 そう考えていた少女に向かって、オーガの攻撃が迫る。


「グラアァァァ!」

「はっ! ――うーちゃん、お願い!!」


 再度の反撃を避けつつ、腕の中の毛玉に指示を出す。


「キュイ!!」


 再び火の玉が出現し、オーガに向かって飛んでいく。

 だが――。


「なっ!?」


 オーガは火の玉を体を逸らして避けたかと思うと、少女に向かってニヤリと笑った。


「くっ! うーちゃん、まだいける?」

「キュイ、キュイ!!」

「よし! じゃあ、一緒にやるよ!!」

「キュイ!!」


 オーガの正面に立った少女は、真っ直ぐにオーガの正面に走り向かう。


「グガ?」


 対するオーガは真正面から来る獲物に疑問を感じながらも、手に持っていた斧を降り下ろした。


「うーちゃん今!!」

「キューイ!!!」


 少女は降り下ろしを左に避けた直後に、うーちゃんが火の玉を至近距離から二発、胴と顔に向けて放った。


 流石に攻撃直後に至近距離からの二発を避けるのは難しかったらしく、オーガに隙が生まれた。


「”瞬間加速”!! はっ――! やあぁぁ!!」


 その隙に合わせてうーちゃんをオーガの背後に放り投げると、少女はスキルを使用して素早くオーガの頭に飛び乗った。

 そして、その勢いのままオーガの目にナイフを突き立てる。


「グギャアァァ……!?」


 肌に突き立てられなくとも、目には有効だったようで、オーガは苦しそうな声を上げながらのたうち回る。


 少女は直ぐに飛び降りるつもりだったのだが、運悪くオーガの振り回す手に当たってしまった……。


「がはっ……!!」


 宙を錐揉(きりも)みしながら、地面に落ちる少女。

 何とか生きてはいるのだが、腕と足はネジ曲がり、口からは血が溢れ出てくる。

 恐らく、内臓をやってしまったのであろう……。


「キューイ、キュイ!?」


 うーちゃんが少女の心配をしながら、彼女の顔を舐め始める。


「に、逃げて……」

「キュー……」


 うーちゃんはそれを拒絶するように、首を横に振った。


「う、うーちゃんも、頑固者だね……」

「キュイィ……」


 あーあ、上手くいったと思ったのになぁ……。

 ボク、ここで死ぬのかな……。

 せめて、うーちゃんだけでも生き残って欲しいんだけどね……。


「キューイ! キュイ!!」

「ご……ん……ね。う……ちゃん……」


 オーガは残った目に怒りを浮かべながら、少女とうーちゃんの方に足を向ける。


 そして、大きく斧を振り上げた。


 もうお別れか……。

 ミリーちゃん、ニーナちゃん、ナック……。


 まだ……、まだ死にたくないよぅ……。


 少女の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。


 オーガはそれを見て何を思ったのか、嘲け笑いながら斧を降り下ろす。



 ガキン!!



 だが、彼女の命運はそこで尽きなかった。


「なあ、随分と愉しそうにしているな?」


 オーガの斧の一撃を、剣で受け止め弾き返した者が居たからだ。


「グ、グガアァ……?」


 天使さ……ま……?


 そこに居たのは、あまりにも綺麗な女性だった。

 それはまるで昔話の天使が、地上に舞い降りたかの様に――。


「なんだ? 攻撃しないのか?」

「グ、グラアァァァ!!」


 挑発じみた声を掛けられたオーガは、硬直が溶けたように攻撃を再開した。


 ガキャン!


 唐竹(からたけ)、横薙ぎ、逆風(さかかぜ)、袈裟斬り……。

 だが、その(ことごと)くが受け止められ弾き返される。

 

「どうした? そんな物か?」

「ガ、ガグラアァァ!」


 オーガは、戸惑いと恐怖にも似たような表情を浮かべながらも攻撃を続ける。


 凄い……。

 あの化け物の攻撃を、真正面から受け止めて弾き返すだけでも凄いのに、天使さまは更に反撃まで行っているみたいだ。


 でも、ボクには天使さまの反撃が見えない。

 化け物の一撃を弾き返したと同時に、化け物の体から血が滲み出してくるんだ。

 もしかすると、スキルや魔術かも知れないけど、なんとなく違う気がする。


 そんな正体不明の攻撃を受けているからだろうか。あの化け物が少し及び腰になってきたのが見て取れる。


「どうやって反撃をしているか、分からないって顔をしているな?」

「グ、グアァァァ?」

「単にお前の目では、捉えられない速さがあるだけの事だよ」


 それはどう言う意味なんだろう?


「ガグラアァァ!!」


 馬鹿にされたとでも思ったのだろうか? オーガの攻撃が苛烈さを増す。


「なんだ。信じてないのか? 仕方無いな。少しは楽しめたし、冥土の土産に見せてやるとするか」

「グギャラアァァ!!」

「”烈火・旋連撃(せんれんげき)”――」


 より一層苛烈さを増した攻撃の中、天使さまが何かを呟いたと思うとその姿が掻き消えた。

 一体何処にと思って見回していたのだが、答えは化け物の後ろから聞こえてきた。


「我流だが、そこそこの斬れ味だろう?」


 天使さまは何を言っているのだろう?


 化け物もそう思ったのかは分からないが、振り返ろうとした時に異常が起きた。

 化け物がの片手が輪切りになって、崩れ落ちたのだ。


「グ、グガァア……?」


 更に他の部位も段々と崩れ落ちていく……。


 このままでは全てが崩れ落ちるのも時間の問題と思った化け物は、道連れにするつもりかボクの方に体を向けて突進して来た。


「ちっ!! 往生際が悪いぞ!?」


 キーリは少女に駆けて行くオーガに追いつくと、後ろから剣でオーガの胸を貫く。


 その衝撃で一瞬にして、既に斬れていたオーガの体が輪切りになって吹っ飛んだ。

 そして膨大な量の血飛沫を浴びながら、化け物の後ろからキーリが現れたのだった。


「全く……。私の名はキーリ・サーヴァインだ。お前を殺した相手の名前を覚えておけ」


 そう言って後ろから現れた天使さまは、血飛沫を浴びて真っ赤に染まっていた。


 もしかしてボクを守る為に、血飛沫を浴びてしまったのだろうか?

 だとしたら、申し訳ないなぁ……。


「さて娘。大丈夫か?」


 ボクに話し掛けてる?

 なら、返事をしなきゃ!


「だ……ぶ……い」

「キュイ、キュイ……!」


 先程まで忘れていた痛みがぶり返し、うまく返事が出来なかった。

 心配そうにうーちゃんが顔を舐めてくれるけど、それに応えるのもキツいくらいだ。


「ふむ、愚問だったな」


 確かに今のボクは誰が見ても、致命傷の域に達しているだろうね……。

 天使さま、折角助けてくれたのにごめんなさい。


 あぁ……。だんだん、意識が……遠退いて………………。


「えーと確か……。彼の者を癒し、彼の者が失った物を取り戻せ。”フルリカバー”!」


 キーリが呪文のような物を唱えると、淡い光りが少女を包み込み、意識が朦朧としていた少女の肉体に変化が表れる。

 ネジ曲がっていた腕と足が、淡い光に包まれたと思うと元に戻り始めたのだ。


「どうだ? これで動けるか?」


 天使さまは何を言って……。あれ? 腕と足の違和感と痛みが無い? それにお腹の鋭い痛みも消えてる……。


「えと……。――はい、動けます」

「キュイ!!」


 ボクは体を動かしながら、そう返事をした。

 先程までの怪我が嘘の様だ。

 天使さまが、魔術を掛けて下さったのだろう。

 治癒の魔術は初めて見たけど、噂以上に物凄い効果だった。


 そんな事を思っている中、うーちゃんはボクの肩によじ登って、しきりにボクの顔を舐めていた。


「なら良かった。私はあまり魔法が得意ではないからな。少し不安だったのだ」

「え!? あれでてすか!?」


 得意でもないのに、あの効果なんて……。あれ? そう言えば、魔術じゃなくて魔法って聞こえたような……。


「ああ、剣を振り回す方が得意ではあるな。才能が無いなりに練習したからな」

「は……い……?」


 今度は剣の才能が無い? どう見ても一流以上の動きだったよね?


 そんな会話中も、うーちゃんはボクの顔を舐めていたのだが――。


「ギュウゥゥ!!」

「うーちゃん、どうしたの? もう敵は居ないよ?」


 うーちゃんが、天使さまに向かって唸り声を上げたのだ。

 おかしいな。うーちゃんは他人に対して、無闇に威嚇するような子じゃないのに……。


「ふむ、火焔(かえん)ウサギか……。恐らくお前が元気になった事で、私と言う脅威を再認識したのだろうな」

「脅威……ですか?」


 この天使さまは何を言っているのだろう?

 だが、うーちゃんの威嚇は強くなるばかりだ。


「はあ、仕方無いな……。娘、気を強く持て!」

「え?」


 気を強くって、な……に……が……。


 そのすぐ後、途方もない大きさプレッシャーに襲われた。

 歯がガチガチ鳴るのを、自分の意思で止める事が出来ない。


 怖い……。先程の化け物なんか、比べ物にならないくらいに……。


 それはうーちゃんも同じらしく、肩の上でガタガタと震えている。

 その耳はボクと同じく、(しお)れた様に倒れていた。


 プレッシャーの発生源――天使さま――に目を向けると、先程と変わらない美貌なのに恐怖しか感じなかった。

 いや、血で真っ赤に染まった分、恐怖が増している気がする……。


 呼吸が苦しい……。

 立ち上がっているのもキツくなってきた頃、ふっとプレッシャーが掻き消えた。


「っはぁ、はぁ、はぁ……」

「キューン……」


 少女はその場に座り込んでしまう。


「これくらいで良いだろう。火焔ウサギのうーちゃんとやら、私に喧嘩を売るのは止めておけ。お前が敵う相手じゃないぞ?」

「キュン、キュン!」


 うーちゃんはキーリの問い掛けに、急いで同意するように顔を縦に振っていた。


「あ、あの。な、何をしたんですか?」

「ん? ああ、この火焔ウサギに力量の差を分からせる為に威圧したんだ」

「威圧……。あの、お姉さんは天使さまじゃないんですか?」

「はぁ? 私が天使?」

「違うんですか?」

「ああ違うぞ? 私はキーリ・サーヴァイン。種族はホーリードラゴンだ」


 ホーリー……ドラゴン……?


「単なる上位龍だと思えば良いさ」

「はえ?」


 上位龍!?

 龍って確か、人種では敵わないような相手じゃ……。そんな龍の中でも上位……?


「そう言えば、お前の名前を聞いてなかったな。種族はウサギの獣人か?」

「え? あ、はい、ウサギの獣人です。名前はヴェッツェーニアと言います」

「ヴェチ……何だって?」

「えと、ニアで良いです」

「そうか、ならニア。お前はシャンティナから来たのか?」

「はい。えと、それが?」

「よし、なら向かうか!」


 キーリはニアを抱き抱える。

 所謂お姫さま抱っこだ。


「火焔ウサギは落ちるなよ? ニアもしっかりと掴まっていろよ!」

「え? え?」

「キューン……」


 キーリはフワリと空中に舞い上がり、シャンティナに向かって羽ばたき始めた。


「ひっ、ひゃぁぁぁ…………」


 そして彼女達は、あっと言う間に豆粒大になり最後には見えなくなった。

今回はキーリがメインのお話でした。

暫くはキーリメインの話が続くと思います。


今回の話では獣人と赤毛玉が出てきました。

初の獣人の名前はヴェッツェーニアです。

出てくる頻度はそこまで多く無いと思います。


一方の毛玉の方は火焔ウサギで、ミミの種族の親戚のような物ですね。

他の毛玉もどこかで出てくると思います。

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