新しい仲間
あれから数日が経過し、畑は順調に拡大されていった。
今では、計五つの畑が神殿の周りに出来ている。
そんな中、カケル達はいつもの様に樹海の部屋へとやって来ていた。
「今日は何を取るつもりだ?」
「うーん、いつも通りに適当な食材と、苗が見つかればターメリックやクミンとかが欲しいかなぁ……」
唐辛子が手に入った事で、カケルはカレーを作ってみたくなっていたのだ。
日本においてカレーは子供でも作れる簡単な料理の一つだが、市販のルーを使用してはならないとなると難易度は一気に跳ね上がる。
そんなカレーだが、今回考えているのはキーマカレーである。
レシピは既にミミから聞いており、それによるとスパイスはクミン、コリアンダー、ターメリック、ガラムマサラ、胡椒、ニンニク、生姜などを使うらしい。
特に、ガラムマサラ、クミン、ターメリックが重要になるらしいので、最低でもこのスパイスは確保したいところである。
そんな事を話しながら、いつも通りに樹海の部屋の中を歩くカケル達。
そして、樹海の中に入ってから少し経つ頃――。
「待てカケル! 気のせいかと思っていたがやはりおかしい」
「キーリ様も気付きましたか?」
「えっ? 何かあるの?」
「ああ、魔物の姿が無いんだ。植物系統の魔物は居るが、虫や動物系統の魔物を全く見ない。幾らなんでもここまで出会わないのは有り得ない」
言われてみれば確かに。今日は一度もバッタや狼、熊とか見てないな……。
そんな事を考えていると、キーリが鋭い声を上げる。
「気を付けろ!! 何かが凄い勢いで近付いてくるぞ!!」
「主様、戦闘に入る用意を」
「え? あ、ああ……」
僕がミミ特製のローカストソードを構えると、森がざわめき始め木々の葉っぱを揺らしながら、何かが高速で近付いて来るのが分かった。
「来るぞ!!」
「っ!」
身構えたカケル達の前に姿を現したのは、とても変な生物だった。
「よう! 楽しそうやな、ワイも混ぜてーや!」
そんな陽気な声が木霊する。
何だろう、あの生物は?
「なあ、何やってるんや? 何時も楽しそうに会話しながら、森で何かしてるようやけど」
「猫蜘蛛とは珍しいですね」
猫蜘蛛……。なるほど、確かに猫蜘蛛と言われればそうかも知れない。
胡散臭い関西弁で話し掛けてきた生物は、八本の脚と猫耳、尻尾を持つ珍妙な姿だった。
色は薄めの紫をベースに白色と黄色の三毛である。脚を始め胴体や顔は長い毛で覆われ、脚と同じくらいの長さの尻尾は途中から丸まっていた。
眼は毛に覆われて見えず、代わりに毛の模様が猫の眼の様にも見える。
そんな生物の、体高はカケルの胸辺りで、体長はカケルの身長を超えているような大きさだった。
「それで、その猫蜘蛛が何の用だ!?」
「つれないなぁ、龍の嬢ちゃん。冬眠から目覚めたら、面白そうな事してる奴等がおるから声を掛けただけやんか? そんなカリカリしてると、嫁の貰い手がおらんくなってしまうで?」
「なっ!?」
「……キーリ様、私が話しますので黙っておいて貰えますか?」
軽口に煽られたキーリを、軽くいなしてミミが前に出る。
「おっ、ウサギの嬢ちゃんが聞いてくれんのかいな?」
「はい。猫蜘蛛様、改めまして要件は何でしょうか?」
「おっと、ワイとした事が名乗ってなかったわ。ワイは地獄の猫蜘蛛種の最後の王族、ツィード・ヘルナートっちゅう者や。宜しゅうな、龍とウサギの嬢ちゃん、それに骨の坊っちゃん!」
そう彼は足を、器用に一本上げながら挨拶した。
「地獄の猫蜘蛛ですか!? しかも王族とは……」
「ミミ、知っているの?」
「はい。神話の時代……、私達よりも昔の激動の時代に絶滅されたとされる種族の一種で、猫蜘蛛種の最上位種だったと思います……」
ミミの追加説明を聞くと、猫蜘蛛種は本来スロナート種と呼ぶ魔物みたいだ。恐らく、小鬼とゴブリンの様な関係なんだろう。
でもこの猫蜘蛛って、地獄と言うほど恐ろしい性格ではないみたいだし、見た目に関しても寧ろ綺麗なくらいな気がするのだが……。
「おっ、ウサギの嬢ちゃん物知りやなぁ。そうやで、ワイの種族は恐らくワイ以外残って居らへん。せやから、暇で暇でしゃあないねん」
ツィードは、心底暇である事を強調するように声を上げた。
「えっと、ヘルナートさん?」
「ツィードでかまへんよ、骨の坊っちゃん!」
うーん、さっきも気になったけど骨の坊ちゃんは勘弁して欲しいかも……。
「えと、じゃあ僕の事もカケルと呼んでください」
「カケルか、良い名前やな!」
「ありがとうございます。それで、ツィードさんは暇だから僕達と仲良くなって遊びたいって認識で良いですか?」
「平たく言えばそう言うこっちゃな。ワイ暇やねん! 面白い事してるなら混ぜてえな!」
「だそうだよ?」
そう言ってカケルは、キーリとミミに確認を取る為に振り返る。
「良いんじゃないですか? 敵意も在りませんしね」
「ミミ!? だが、コイツは……」
「キーリ?」
「言いたい事は分かりますよ。正直、キーリ様ではヘルナート様には勝てないと思いますし……」
「くっ……」
驚きである。
キーリがツィードさんに勝てないだって?
ツィードさんはそんなに強いのだろうか?
正直、陽気で変な姿からは想像が付かないのだけれど……。
「ですが、最悪私が止めれば良いだけだと思いますよ?」
「だが、ヘルスロナートの能力と言えば……!」
「そちらも大丈夫です。一方的になることはありませんから」
「……そこまで言うのであれば信じるぞ?」
「無論です!」
「えと、話は纏まったみたいだね。――ツィードさん、友達になりましょう!」
「友達……、友達か……。良いな、良い響きや! 皆よろしゅうな!!」
ピロリロリン。
陽気な猫蜘蛛が仲間になった!
ゲームならこんな感じの場面だろうか?
「ところで何してたんや? 龍の嬢ちゃん」
「キーリだ! キーリ・サーヴァイン!」
「私も自己紹介を。カケル様の従者のミミと申します。宜しくお願い致します」
「おおっ、おおきに! ワイの事はツィードでええで! カケル坊も堅苦しい喋りは止めてな?」
「……ああ宜しくな、ツィード」
「ツィード様、宜しくお願いします」
「えーっと、うん、宜しくねツィード!」
「おお、よろしゅうな! それでキーリちゃん、ここで何しとったんや?」
キーリちゃんって……。ツィード凄いな。
僕には真似出来ないよ……。
「キーリちゃん!? 気持ち悪い呼び方をするな! 呼び捨てにしろ!!」
「ええやんか。キーリちゃん可愛いんやし、ちゃん付けくらい大目に見てえな」
「かっ、可愛……!」
「キーリ様は使い物にならなそうなので私から。私達は明日の食料を確保していました。また、そのついでに野菜の苗や種を探していました」
「畑作っとんのか!? 何を植えるつもりや?」
植えたい作物をミミが告げると――。
「って事は誰か料理する奴が居るんか? ミミちゃん? それとも、まさかキーリちゃん!?」
「まさかって何だ!?」
「いやぁキーリちゃん不器用そうやし、料理作ったら劇物になったみたいな事やらかしそうやん?」
「…………劇物にはならない!」
「その間は近しい何かがあったんやな?」
「……黙秘する」
因みにキーリが黙したのは、少し前に嘆きのラットステーキをキーリ自身で作った時の事だ。
キーリはフライパンで焼くのを面倒に思ったのか、ファイアで直接肉を炙ったのだ。
これをカケルが行うのであれば問題なかったのかも知れないが、キーリが使ったファイアは火力が強すぎて一瞬で肉を炭へと変えたのだ。
これ以来カケルは、キーリに火を扱う部分は頼んでいなかったりする。
「ツィード様、料理を作ったのは主様でございます」
「へっ? でもカケル坊はスケルトンやろ? 食べる事も出来ないのに、何で料理が出来るん?」
まあ普通に考えて、スケルトンが料理するとか変だよね……。
「ミミ、僕が説明を引き継ぐよ」
「畏まりました」
「それでその疑問だけど、そこは人間だった時の知識と、ミミの”ファントムテイスト”でカバーしてるよ」
「ほお、人間だった時の記憶が在るんか!? 言われてみればスケルトンが喋るとか、そうでも考えんと説明つかんしなぁ」
これは前にも言われた気がする。
やっぱり、スケルトンが喋ったり魔術使ったりするのは変なんだろうなぁ……。
でも、今の僕は一応頭にグレーターが付くよ? まあ、大して変わらないのだろうけど……。
「それで毎回取りに来るのは時間が掛かるし、畑を作りたいなと思って採取していたんだよ」
「よし決めた! ワイも料理するで!」
「えっ? ツィード料理出来るの!?」
「意外だな……」
「流石ヘルスロナートですね」
「いや、出来へんで?」
「なんでやねん! ――はっ、ついツッコんでしまった……」
「「…………」」
「良いツッコミやったで!」
ミミとキーリが弱冠呆れてる気がする……。
「そりゃどーも。それで、料理作れないツィードが何で料理を作ろうと?」
「だって面白そうやん! ワイにも料理教えてえな!」
「ツィードにもって、別に他の人に教えてる訳じゃないよ?」
「なんやて? キーリちゃんやミミちゃんに教えてる訳や無いの? そらアカンて! キーリちゃんもミミちゃんも、料理くらい作れるようになっとかんと、結婚した時苦労するで?」
「さっきから聞いていれば何だ! 余計なお世話だ!」
そもそも、結婚後に料理の技術が必要になるのは人間だけなのでは無いだろうか?
ドラゴンやウサギに料理技術が必要なのだろうか?
でも、そんな話がツィードから出てくるって事は――。
「まあまあ。それより何かツィードの話を聞いている限り、殆んど人間と変わらない文明レベルを持ってそうだよね?」
「当たり前や! あの時代ヘルスロナート種族は、人間よりも文明的な暮らしをしとったんやからな!」
ツィードの話は聞けば聞く程に魔物とは思えなかった。
家を立てて家族で住み、妻は育児や家事を行い、夫はお金を稼ぐ為に働きに出掛ける。
子供は近所同士集まって遊びながら、家事や仕事を学ぶ。
驚いたのは通貨や仕事の概念がある事だ。しかも家の形状や機能を聞くと、どうも材料は違うものの人間の家と遜色無い。風呂やトイレ台所まで備えていると聞いたときには、思わず聞き返してしまった程だ。
また、畜産や農業も行っており、下手したら少し昔の日本のレベルに到達していそうである。
「なるほど、って事は女性は料理とかを子供の時分に習うって事?」
「そうや。自分の子供にしっかりとした飯を作る為に料理も学ぶんや」
「でも、ツィードって男だよね? その説明からすれば、料理の技術は必要無い気がするけど?」
「それなんやけどな、ワイの種族は恐らくワイ以外居ないと言ったやんか?」
「うん」
「そうなるとワイは他種族から嫁はん貰わなアカンねん。種族によっては男女逆転する事もあるやろうし、出来るだけ自分磨きしときたいねん」
なるほど、切実な婚活の一環と言う感じか……。
あれ?
「えっと、ツィード。嫁さんが欲しいって事は、もしかして子供も欲しいの?」
「そらそうや。子供が欲しいのは当然やんか!」
「ツィード、猫蜘蛛って他種族との間に子供出来るの? ツィードが言ってる相手って、猫蜘蛛じゃないんだよね?」
「そこは私から説明致します。この世界の生物ですが、全ての種族間で子供が生まれる可能性があります」
「え? それって、生物学的にあり得るの?」
確か理科でそんな感じの事を学んだと思うんだけど……。
「ヴァルトロ様が、仲良き事は美しきかなと言って世界に手を加えたらしいですよ?」
「そうなんだ……。まあ、仲が良いことは良い事ではあるよね」
「ワイも最初は悩んだんやで? ヘルスロナート種は無理でも、スロナート種で良い子が居ればって。まあ、直ぐにそんなまやかしは捨てよったがな……」
「まやかし?」
「簡単に言えば言葉が通じんのや! 姿形は近いんやけど、動物や低位の魔物と対して変わらん知能しか無いねん。ワイも流石に長年連れ添う相手に話が通じんのは勘弁やねん。仕方ないから今はヒューマン系に目をつけているところや。正直見た目的には最悪やけど、性格が良ければもう良いやんと思ってな」
疑問に思い更に詳しく聞くと、手足入れて四本が有り得ないらしい。多ければ良い訳じゃないが、最低でも六本は欲しいところとの事。
他の外見的魅力も基本的に殆んど脚が関係しており、たまに毛並みや色合いがのぼる程度で、顔やスタイルとかどうでも良いとの事。
「異種族の壁は厚いなぁ……。でもヒューマン系って事は人間もありなんだよね?」
「せやな。数が一番多い種族やし、一番狙ってる種族やな」
「でも流石に蜘蛛と結婚してくれる人って、居ない気がするんだけど……」
「そこや!! やっぱり姿形ってのは大事やからな。ワイも相手に合わせる気になったんや!」
そうツィードが宣うと、彼の身体が光りながら形を変えていく。
光りが収まると、そこにはこの世の者とは思えない美を兼ね備えた一人の美丈夫が居た。
やや白い肌をした彼は、金色の髪をかき上げながらエメラルドグリーンの瞳を此方に向ける。
薄紫をベースに金色や白を扱った、見るからに高位の者が羽織りそうな服に、淡いブルーに輝くブレスレット。
アクセサリの類いは殆んど無いのに、彼自身が宝石とでも言うかのように輝いて見える。
そして彼は、やや色素の薄い唇を動かしながら言葉を発する。
「どうや、ワイの人化は? 結構イケてるやろ!」
「……その一言で台無しだよ」
「確かに見た目とのギャップが凄まじいですね」
「……ふんっ、まあまあだな」
見た目は完璧以上、似非関西弁を垂れ流さなければ王族レベルに見えるであろう。
「そんなら、これでどうや!!」
ツィードはそう言うが、別に見た目が変わった訳では無さそうだ。
「どうって、何……が……」
が、先程と雰囲気が一変していた。見た目だけでなく、とても高貴な雰囲気が漂ってくるのだ。
と言ってもカケルの場合、高貴な雰囲気が分からないので、何か凄い雰囲気に変わったとしか分かっていなかったのだが……。
「どうですか、私の”人化”と”王の風格”のスキルは?」
「私!? ツィード、その言葉遣いは?」
「私の”王の風格”のスキルの効果ですよ、カケル殿」
「殿!?」
「これは凄いですね。見た目、言葉遣い、佇まい、どれを見ても王族レベルだと思いますよ」
「中身がアレだと思うと、気持ち悪いけどな……」
その後も色々な言葉を喋って貰ったり、色々な行動をとって貰ったりしたが、そのどれもが恐らく一流の所作や会話だった。
「スキルを解除致しますね?」
再びツィードの身体が光り、猫蜘蛛の身体に戻っていく。
「ふう、スッキリした。やっぱ此方の身体の方が楽やな」
「何だろう、なんか詐欺な気がする……」
「別にええやろ? 見てくれを整えただけなんやから」
整えたと言っても、整形や化粧の比じゃないだろとカケルは思ったが、彼の性格自体は悪くなさそうだし相手には自分から言うだろうと思い、まあ良いかと思考を放棄した。
その後、今回は苗や種を諦めて、そのままツィードを連れて聖域に向かう。
「此処が聖域かいな。えろう強固な結界が張っているがな」
「あっ、結界の事忘れてたね。ツィード大丈夫?」
「酷いなぁ。この結界、下手したら存在ごと消滅する類いやて?」
「えっ? そんなに強力なの!?」
「そうだな。邪悪な存在で力が私より低ければ死滅するだろうさ」
ヤバかった……。もし、ツィードが邪悪判定されていたら、消滅していたかも知れないって事か。
でも邪悪判定されていたら、そもそも友好関係結ぶのも危ういのかな?
「まあ、そもそも私がそんな邪悪な存在を許すはず無いがな!」
「そらそうやな!」
何かキーリが怖い笑い方している。ツィードの方は受け流してるみたいだけど……。
この二人さっきから思ってたけど、相性が悪いのかなぁ……?
「あっ、キーリ姉ちゃん、カケル兄ちゃん、ミミちゃん、お帰り!」「おか~」「おかえりなさい」「……あれ誰?」
ライトフェアリー達が出迎えてくれた。
「ただいま。今帰ったぞ」
「ただいま~」
「ただいま帰りました」
「おおっ! 妖精かいな! おチビちゃん達、お邪魔するで~」
すっかり聖域が家みたいな感覚になった僕らは、出迎えてくれたフェアリー達に挨拶をした。
「それでカケル兄ちゃん、この蜘蛛? は誰?」「猫?」「誰だろう?」
「えーっと、彼は――」
「ワイは猫蜘蛛のヘルスロナート種が最後の王族、ツィード・ヘルナートちゅうもんや! 此処で厄介になるつもりやから、おチビちゃん達宜しゅうな!」
「まあなんだ。仲良くしてやってくれ」
キーリのその言葉にライトフェアリー達は一斉にツィードにまとまりついて質問を浴びせる。
「ねえねえ、何処から来たの?」「猫蜘蛛ってなあに?」「ふわふわしてそう。触っても良い?」
「樹海の部屋からやな。猫蜘蛛っちゅうのは猫みたいな蜘蛛の一種や。触ってもええで」
質問に答えた後に触っても良いと許可を出すと、フェアリー達が一斉に触りだした。中にはツィードの体毛の中に潜っていく強者も居るほどである。
「そろそろ飯にするから、あっちに移動するぞ?」
「ごはん!?」「わーい、ごはんだ~」「じゅるり……」
キーリの言葉に反応し、一斉にツィードから離れく。ツィードはそれを少し寂しそうに見ていた。
「此処が食堂やな? カケル坊、今回は宜しく頼むで!」
「余り知識がある訳じゃないから、知識部分はミミに聞いてね」
「ミミちゃんも料理出来るんか!」
「残念ながら、殆んど知識だけですね。実体験が伴っていませんから」
「そうなんか? それでも知識は重要やから、解らなくなったらその時は頼むで」
「はい、それで構いません」
「今回は時間が余り無いし、ツィードは見学でも大丈夫?」
「そうか、残念やな。なら今回は、カケル坊のやり方を見て学ばさせてもらうわ!」
話が纏まったところで料理を開始する。
今日は良いキノコと前と色違いのトマトを手に入れたので、嘆きのラットと合わせたトマトソース和えを作るつもりだ。
なお、ツィードは毛が気になるので人化して貰っている。
因みにミミは人化出来ないので仕方ない。
「あのキノコだけど、僕が料理しても大丈夫だよね?」
「合笑茸ですか? それなら主様は、精神系の状態異常を無効にするので問題無いですよ」
そう、ツィードに会う前に僕達は合笑茸と言うキノコを採取していた。
このキノコ、形は舞茸を寄せ集めて作った様な人型で、味はシメジに近いらしいが性質にとても異質な物を持っている。
名前からも想像出来るように笑うのである。それも隣り合った合笑茸の群生が一斉に不気味に笑い合うので、気持ち悪い事この上無しである。
しかも、土から引き抜けば泣きながら逃げ出そうとし、無理だと分かれば呪詛を吐き続ける精神的にキツいキノコである。
が、一方で味は非常に美味しく、高級食材として人間達にも親しまれているらしい。
なお、合笑茸の料理は地球のフグとは違った意味で非常に危険であり、気分が落ち込んでいる日などに料理を行うと、包丁を入れた際の断末魔で精神をやられて、最悪自殺をしたりしてしまう事があると言う曰く付きである。
その為人間達は、合笑茸を料理する担当者は当日かなり詳しく私生活を尋ねられ、少しでも精神がマイナス方向に向かう事柄があれば担当から外される事があるらしい。
とは言え、それは耐性の無い人間の場合であり、アンデットであるカケルには殆んど関係無い事であった。
「これが合笑茸かいな。不気味キノコやな」
「よし、じゃあ切るよ。ミミ、しっかり押さえていてね」
「はい、既に影縫いで拘束済みですので思いっきりどうぞ」
「やめてー!! 殺さないでー!!」
不穏な声が聴こえるが、そんな事は無視である。
ザクッ。
「ぎいやああああ!!!! 腕が、腕がー!! ――呪ってやる。呪い殺してやる!!」
サクッ!
「ぎやああああ!!! ――覚えておけ……。俺を殺したことを後悔させてやる!! 末代まで祟ってやるから覚悟して――」
ストン。
「ふう、やっと煩い音が止んだよ。精神作用の効果が無くなっても、精神疲労は無くならないんだから止めて欲しいよね」
先程切り落としたのは合笑茸の首らしき部位である。一応絶命したらしく、先程までの呪詛は消えている。
アンデットと言えども強制的な精神作用を無効化するだけで、言葉の意味が与える影響が消える訳ではない。
それなのにカケルに影響が低いのは、カケルの食材に対しての考え方がある。人は生きているだけで命を奪う者であり、その奪う命に貴賤はないがカケルのモットーである為だ。
その為、合笑茸を殺すのは豚、牛、鶏等の家畜や魚、植物を捌くのと同等であり、嫌な気持ちにはなるものそこまで気にすることではないという結論に至るのである。
「カケル坊、容赦あらへんな……」
「主様、意外と容赦無いですね」
「ん? まあ、鼠だってバッタだって捌いているのに、キノコを捌かない理由にはならないでしょ?」
「――まあ、割り切りの良さは大切ですよね」
「そんなもんかいな?」
「そうそう」
カケルはミミとツィードの何か言いたげな顔に気付かずに、叫びながら呪詛を吐くキノコを綺麗に捌いていく。
次に白色ではなく真っ青の食欲が減退しそうなトマトをサイコロサイズに切り揃え、嘆きのラットも似たようなサイズに切り、味が染み込みやすいように隠し包丁を入れておく。
厚底の歪な鍋に嘆きのラットを入れたら、やや火が通るくらいに炒める。
その後、水、トマト、キノコを加え、軽く塩と胡椒を振る。
食材に火が通ったら、合笑茸と嘆きのラットのトマトソース和えの完成である。
「よし、出来た! それじゃあ、少し味見を――」
出来た料理を歪な小皿に移して、味覚石を投入する。
「うーん、嘆きのラットと合笑茸が割りと良い味出してはいるるんだけどなぁ……」
「不満な出来なんですか?」
「うん。ミミとツィードも味見してみる?」
「はい、では失礼して――」
「ワイも貰えるんか? じゃあ遠慮無く戴くで!」
カケルから小皿を受け取ったミミとツィードは、小皿からソースを口に入れる。
「これは――!? 主様、私にはとても美味しく感じられるのですが、何処が不満なのですか?」
「美味いやん!! これの何処が不満やねん!?」
「うーん、やっぱり調味料やハーブの少なさかな? 本当だったら、バジルやオレガノ辺りは入れておきたいんだよねぇ。コンソメに関しては食材を増やせば足りそうなんだけど……」
カケルは花火に対して並々ならぬ情熱を傾けるが、それは他の事に関しても言える事なのである。
勿論、花火に向ける情熱とは比べ物にならないが、たまに料理する程度のくせに味への拘りが強いのはその為であった。
尤も、影子の英才教育の成果とも言えるのかも知れないが……。
「そうなのですか。美味しいと思うのですが……」
「職人の拘りっちゅうやつかいな。カケル坊は料理職人やったんか」
「うーん、まあ今は食材や調味料が少ないからしょうがないかな。後ツィード、僕は料理人じゃないからね? とりあえず、皆待ってるしお皿に移そうか?」
「はい、お手伝い致します」
「ワイも手伝うで!」
カケルは深い底の鍋からトマトソース和えを歪な更に移し、それをツィードとミミが運んでいく。
今日はツィード用もよそった為六皿である。
皆に皿が行き渡ったとこらでカケルも食堂の席に着く。
「皆席に着いたね? では、召し上がれ」
「「「いただきます!!」」」
「いただきます?」
カケルの言葉に反応して、皆が食べ始める。
約一名”いただきます”が初めての者も居るが、流されていただきますと言っていた。
「美味しい!!」「美味しいよ」「うん、美味しい」
「さっきも食べたけど美味いやん」
「ああ、美味いぞ!」
「はい、十分かと思います」
口々に賞賛を受けるもカケル納得してないようだ。
ハーブ類はトマトソースを使った料理に欠かせない物であり、それを欠いてしまったのだから当たり前かも知れない。
「うーん、やっぱりハーブも欲しいね。今日採取しようとしたスパイスもそうだけど、バジルやオレガノとかのハーブ類って樹海の部屋から取れないかな?」
「確か一画に良い匂いのする葉っぱが生えていた気がするぞ?」
「本当!? そしたら、次はそこを目指してみようよ」
「料理が美味くなるなら望むところだ!」
「ワイも着いていくで~」
「良いんじゃないでしょうか」
次の獲物が決まり、食後はマッタリと過ごす事にした。
はたして新しい仲間は、何を齎すのだろうか? それはまだ誰も知らない。
猫蜘蛛のツィードが登場しました。
ツィードはミミやキーリよりも年上にあたります。
ヘンテコな種族ではありますが、メインキャラの一人です。
この人は種族と胡散臭い関西弁に目を瞑れば、イケメンで性格が良くて王族と言うかなりの優良物件です――。多分……。
後、ハーフに関して少し触れましたね。
人種の中ではそんなに多くはありませんが、魔物の中では親の種族が違うと言うのは割と頻繁に起こります。
ヴァルトロが世界に手を加えたエピソードも、多分どこかで軽く触れると思います。




