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野菜を確保せよ

野菜回です。

 一番の目的は胡椒ではあるが、巨大バッタも手に入れた訳だし野菜も欲しい所である。

 と言う事で、胡椒までの道のりの中でも、野菜があれば採取する事にした。


「主様、ここに人参が居ます」

「人参が居る(・・)?」


 カケルはミミの変化言葉遣いを疑問に思い、彼女が指し示す方向を見てみた。

 そこには確かに人参が居た(・・)


「人参が沢山!? それも走り回ってる!?」


 そう、人参らしき逆円錐状の何かが、そこを走り回って居たのだ。

 形は日本で見る人参とほぼ同じだ。根の部分から足が生えていなければだが……。


 色合いは優しいオレンジ色ではなく、パプリカの様な真っ赤な色合いをしている。

 そして何よりも大きさが問題だった。


「大きい……」


 どれくらいの大きさかと言うと、茎部分を除いてもカケルと同じくらいの高さがある。

 足の長さもカケルと同じくらいあるのだが、足の付け根は円錐状の根の中央少し下辺りから生えている為、そこまで高さを稼いではいない。

 つまり、普段食べる人参の根の部分だけでカケルレベルの大きさがあると言う事だ。

 因みにカケルの身長は進化した影響で、生前よりも十センチくらい伸びていた。


「主様? 採取しないんですか?」

「あれを捕まえるんだよね? それって、採取と言えるのかな?」


 どう見ても魔物みたいな人参である。採取と言うか、討伐後の剥ぎ取りの間違いでは無いのか?

 そうカケルが思っても仕方ない見た目である。


「採取で合ってますよ。私がお手本を見せるので、その通りに採取して見てください」


 ミミはそう言うと、人参らしき物に近づく。

 そして、一気に間合いを詰めたかと思うと、人参の足を二本とも切り落とした。


「おう……」

「なるほどな。そうやって採取するのか」


 あんなのでも一応植物だったらしく、足を切り落としても血は出て来なかった。

 その代わりに、瑞々しい汁が滴り落ちている。


「では、やってみてください」

「ああ! 任してくれ!!」


 キーリは腰に付いていた剣を使い、目にも止まらぬ早業で足を切り落としていく。


「主様はやらないのですか?」

「いやぁ、僕剣とか持ってないしね」

「そう言えばそうですね。ここはキーリ様に任せましょうか」

「うん」


 まあ、カケルが剣を持っていたとしても、採取出来たかは不明なのだが。

 何故なら、キーリの人参の処理速度が速すぎるからだ。

 恐らく、カケルが人参に向おうとした瞬間には、人参の足が斬り飛ばされているだろう。

 それほどまでに、キーリの速度は速かった。


 結局、数百は居たであろう人参の群れは、せいぜい五分程度で綺麗に処理された。


「終わったぞ?」

「お疲れ様」

「早かったですね」

「この人参はどうする? また、ミミの魔法で収納するか?」

「そうですね。私が持っておきます」


 ミミが人参の山を収納する。


「この足の部分はどうする?」


 確かに、どうするんだろう?


 足の部分は人参の根と違いかなり細い為、そこまでの量では無い。

 とは言え、これだけの人参から刈り取ると、結構な量になっていた。


「これは、私達のオヤツにでもしましょうか」

「え゛っ!?」


 これ食べるの!? いや、まあ確かに人参の一部ではあるのだろうけど……。


「美味しいのか?」

「私は結構好きですね」

「ふむ。なら、食べてみようか」


 キーリは特に恐れも無く、足を拾って軽くウォーターで水洗いして口に入れた。


「どう?」

「おお……。これは、味はそこまでだが食感が面白いな」

「どんな感じなの?」

「ポリポリしていて、シャクシャクしている感じだな。味はやや甘みがあるぞ?」


 うん? それって……。


「まあ、人参ですからね。少し味が薄いですし身も硬いですが、結構美味しいですよ」


 そう、足を食べながら話すミミ。

 うん、ビジュアルは酷いけど、人参を齧っているウサギと言う、良くある光景なんだろうな……。


「ミミ。結構道中にも食べたいから、仕舞っておいてくれないか?」

「分かりました」


 道中のオヤツをゲットしたらしい。


 その後も、ツッコミ所満載な野菜をゲットしていく。

 大根、トマト、ブロッコリー、玉ねぎ、ジャガイモ。


 大根は沢庵(たくあん)みたいな黄色だった。

 しかも空を飛んでる姿を見た時、カケルはあんぐりて口を開けてしまった。その姿に名前を付けるなら、沢庵ドローンとでも言うのだろうか。


 トマトは汚れが見当たらない様な真っ白な色をしていた。

 この野菜も移動するタイプらしく、カニの様に横歩きをしていた。

 勿論、ミミとキーリが足を斬り飛ばしていた。

 見た目に反して果汁は良く知っているトマトに近かったらしく、勢い良く噴き出した果汁は血の様にも見えた。


 ブロッコリーは真っ黒な姿をしていて、初めは近くに居ると言われても何処に居るのか分からなかった。

 詳しく聞いたら、なんと土の中に居ると言われた。

 ドリルの様な形の頭で、土の中を移動しているらしい。

 野菜の種類が違わないかと疑問に思い聞いてみると、あれはブロッコリーではなくロマネスコだと言われた。


 ロマネスコって、あの幾何学(きかがく)模様のカリフラワーの親戚のヤツだよね?

 どちらにしても、土の中には潜らないだろ!? と思ったのだが、軒並み野菜が歩いたり飛んだりしてるのを見ると、反論しても無意味だと思う。


 玉ねぎは移動しない野菜だった。

 じゃあ、動いて居ないかと言われるとそれはノーである。

 玉ねぎは皮の部分を高速で回転させながら、触れる者を切り裂いていたのだ。

 そのせいか、実は赤や青に染まり恐ろしい雰囲気を醸し出していた。

 本当に食べれるのかとも思うのだが、血を洗い流せば問題無いらしい。


 そんな個性豊かな野菜達を見た時の衝撃が、霞んで見えた存在が最後のジャガイモである。

 あれを見た時の衝撃と言ったらもう……。


 ◇ ◇ ◇


「主様、あちらにジャガイモがあるみたいですよ」

「はぁ……、どうせ巨大で移動するんでしょ?」


 僕は今まで見てきた野菜から、ジャガイモの姿の当たりを付けていた。


「――すぐに見えてきますよ」


 何故か含んだ様な言い方をされたが、どうせ似たような見た目だろう。


「着きましたよ。アレがジャガイモです」

「何さアレ……」


 巨大だったり移動するくらいなら、驚かなかった筈だ。

 だが、そんな想像を打ち砕くだけの物が目の前にあった。


「アレがこの世界のジャガイモですよ。人間の間では呪われた実や、悪魔の実、化け物の卵等と呼ばれています」

「うん、納得の見た目だよね……」


 ジャガイモは全体的赤黒く、カケルくらいの大きさだった。

 まあ、それに関しては想像の範疇であろう。

 ジャガイモのくせに土の中に居ないのも想像の範疇だ。


 だが、ジャガイモ全体に口の様な物が付いており、その口からは言葉にならないような不愉快な擬音を上げていたのだ……。


「ミミ、あれ本当に食べられるの?」

「確かにそれは疑問だな。あんな気持ち悪い物を食べられるのか?」

「はい、食べられますよ。正しく処理すれば問題ありません。尤も、人間の間では食べられていないそうですが……」


 人間達が食べないのは、仕方ないだろうなこの見た目では……。

 しかし、これは食べられる実なのか……。

 名前こそジャガイモかもだけど、ゲテモノの代表格の様な食材だよね。


「その口ですが、主様に分かりやすく説明すると、芽に当たります」

「口じゃなくて目?」

「いえ、眼球ではなく、新芽です」


 目じゃなくて芽か!?


「じゃあ、この口にも毒があるの?」

「いえ、毒ではなく呪いですね。石化の呪い、猛毒の呪い、致死の呪いなどがありまして、石化や猛毒の状態を治しただけでは再発する状態異常となります」

「ソレって駄目じゃない……!?」


 人間達が呼んでいる名前のままじゃないか!?

 こんなの食べちゃいけないヤツだろ?


「適切に処理すれば問題ありませんよ。それに、私達であれば例えそのまま食べても呪いには掛かりませんし」

「そうなんだ?」


 弱めの呪いって事かな?

 日本のジャガイモの芽くらいの、腹を下すくらいのレベルって事なんだろうな。


「――なら、因みにコイツをライトフェアリー達が、そのまま食べたらどうなる?」

「そうですね。恐らく、全部の呪いに掛かるかと思いますよ」

「そうか……」


 いやいや! ライトフェアリー達が掛かるって事は、キーリとミミが強すぎるから無効化されるってだけだよね!?

 それ明らかに劇薬だよね?

 フグみたいに、素人が手を出しちゃいけない食材だよね!?


「カケル、調理失敗するなよ?」

「いやいや、この食材は破棄すべきでしょ!?」

「カケルなら大丈夫さ。美味しい料理を待ってるぞ!」


 僕は、命を預かる料理人に成りたい訳じゃないからね?

 何とか断ろうとしていたが、ミミの処理した後に鑑定を使えば良いとの言葉で、ジャガイモを料理に使う羽目になってしまった……。

 因みに現在の状態で鑑定した結果はこうだ。


種類:ジャガイモ

品質:最高品質

状態:石化の呪いLv1、猛毒の呪いLv2、腹下しの呪いLv5、高熱の呪いLv4、幻覚の呪いLv3、致死の呪いLv1、腐毒の呪いLv1

説明:赤黒い見た目の野菜で、全体が数多くの口に覆われており、そこから時々悲鳴やくぐもった声が聴こえてくるらしい。

 口は一つ一つが新芽であり、放って置くとその場所に根付いてジャガイモだらけになるので注意が必要。

 また、口の部分には呪いが掛かっており、そのまま食べると死ぬ可能性がある。


 予想以上にヤバいね……。

 どう見ても、食べて良い物には見えない。


 状態……。恐らく、この項目が食べた時に掛かる呪いの一覧なのだろう。

 レベル表記は呪いの強さってとこかな?

 もしかすると、発症確率の強さかも知れないね。致死の呪いがあるのに、死ぬ可能性があるだけらしいし……。


 品質ってのは多分、食料として見た際の出来だろうね。

 最高品質って事は、ブランド物レベルのジャガイモって事かな? そもそもジャガイモってブランドあったっけ?


 一通り鑑定結果を見たけど、本当にこれを料理するの!?

 やはり止めておいた方がと思い、僕は既に決まった事ながら、ミミ達を相手に最後の抵抗をした。まあ意味は無かったけどね……。


 ◇ ◇ ◇


 結局あのジャガイモは今、ミミのアイテムボックスの中で保存中だ。

 あれを捌くのかと思うと気が重い……。


 それ以降は特に問題も無く、カケル達一行は無事に胡椒がある場所まで辿り着いたのだった。


「ミミ、これが胡椒?」

「はい、そうですよ」

「ほう、これがか……」


 カケルは、胡椒が自然に実っている姿を知らない。

 知らなければ、比べようが無い。


「見た目は普通だね」

「主様の世界とは、随分違う筈ですけどね」

「そうなの?」


 カケル達が見ている胡椒は、地面に根を張り巡らせて居た。

 その見た目的には、スイカやカボチャに近いだろうか?

 (つる)の様な茎から、大きな実がある程度の間隔で実っている。


 大きさは、蕪くらいからスイカレベルまで様々な物がある。

 色は真っ黒で、外面には棘の様な短い突起が数多く付いていた。

 棘の長さこそ違うが、形はウニに似ているだろうか。


「とりあえず、収穫しましょうか」

「分かった」

「ああ、了解だ」


 カケル達は胡椒を回収して行く。


「これくらいで良いでしょう」

「いっぱい取れたね」

「ああ、これでステーキが美味くなるな」

「キーリはステーキの事ばかりだよね。でも、次に作る予定の料理はステーキじゃないよ?」

「なん……だと……」


 キーリは、そう悲観に暮れたような顔をして呟いた。

 だが、カケルとしては十日以上も同じ物を出していたのに、新しい食材が手に入ったにも関わらず、同じ料理を出す気にはなれなかった。


「なっ、なら次は何を作ると言うんだ!?」

「それはお楽しみかな」

「くっ! なんたる仕打ち!」

「いやいや、仕打ちって……」

「主様、キーリ様を苛めてないで帰りますよ?」

「ミミ!? 人聞きの悪い事を言わないでよ! 僕はキーリを苛めてなんて居ないよ!?」

「キーリ様も帰りますよ? ステーキは、また今度焼いて貰えば良いじゃないですか」

「ああ、分かった……」


 ええ? 何でそんなに落ち込んでるの?

 これじゃ、僕が悪いみたいじゃないか!?


 目的を果たしたカケル達は、聖域に戻ってきた。

 ただ結局聖域に帰って来てからも、キーリは気落ちしたままであった。


「ええっと、キーリ?」

「……何だ?」

「明日の食事も、楽しみにしておいて貰って大丈夫だよ?」

「だが、ステーキじゃないのだろう?」

「どれだけステーキの事気に入ってるのさ!?」

「あれは私の、食事の概念を覆した料理だ!! 気に入るのは当然だろう!!」

「食事の概念とか大袈裟な……」


 概念なんて大袈裟な話が、出てくる様な料理では無いよね。

 まあ、確かに味は良かったけども……。


「大袈裟では無い!!」

「っ!?」

「主様、私達は一万年以上の間、ただの身体の維持の為だけに食事をしてきたのです。それが、あのステーキで覆された訳です。けして、大袈裟な表現ではありませんよ?」


 確かにミミ達の寿命からすれば、今までの人生観を覆された事になるのか……。

 一万年以上か……。想像が出来ない長さだよね。

 現代日本からすれば、縄文時代とかか? 何れにしても、気が遠くなる様な時間の長さだね。

 僕だったら、そんな長い間調味料無しの生活とか耐えられないと思う……。


「なるほど……。本当に理解出来たかは微妙だけど、ステーキへの想いは少し理解出来たかな?」

「なら、ステーキを!!」

「でもステーキは作らないよ?」

「なっ!? 今、ステーキへの想いを理解出来たと言ったではないか!!」

「確かにね。でも、その想いってステーキと言うよりも、調理方法とかに向けるべき物だよね?」

「うっ。だ、だが……」

「キーリが言っているのは、単なる偏食だと思うよ? 嘆きのラットのステーキ以上に気に入る料理が在るかも知れないのに、その存在を無視するの?」

「そ、それは……」


 嘆きのラットのステーキによって、概念が書き変わったからと言う理由でステーキを大切にするのはまあ良い。

 だが、ずっとそれだけなのは体にも良くなさそうだし、飽きが来るのも早くなってしまうだろう。

 だからこそ――。


「先ずは食べてから決めてみてよ。例のバッタを使った料理を考えているからさ」

「分かった。だが、また今度ステーキも作ってくれよ?」

「うん、また作るからそれは大丈夫だよ」

「なら、今回は我慢するか」


 これは明日の料理は、気合いを入れないといけないね!


変な野菜が沢山出てきましたが、この世界の野菜全てが動いたりする訳ではありません。

因みに、胡椒をカケルは普通だと思っていましたが、当然の事ながら地球上にある胡椒とは異なっています。


次回はバッタを調理する予定です。

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