少女の心を縛る鎖 ~復讐の狼煙~
今回はそこまで胸糞な文章は無いと思います。
「はぁ……、はぁ……」
レナはそこまで話し終わる頃には、異常な程瞳孔を見開きながら涙を零していた。
そんなレナを軽く後から、セレナが抱き締めながらあやしている。
僕は、余りの酷さに声が出せなかった……。
人間とは、そこまで残酷になれる物なのだろうか……。
レナの目の前で、彼女の妹のミナちゃんの首を刎ねたんだ。そんな事が出来るなんて……。
「赦せないな……」
僕が唖然としていると、隣から静かに怒りを押し殺す様な声が聞こえてきた。
「キーリ……」
「何故彼女が責められなければならない? 悪いのは全てミナを殺したそいつ等だろ?」
その通りだ。ミナちゃんを殺して、その罪の意識をレナに押し付けただけの事だ。
けして彼女のせいなんかじゃ無い。
感情を露わにしてるのは、キーリやセレ姉だけじゃない。
リリアン様も悲痛な顔をしているし、ツィードやルガルドでさえも静かに怒ってるように見える。
ミミだけは少し分からないけど、それでもいつもよりは不機嫌な気がする。
「ありがとう御座います。ですが、私がミナをあの時止めていれば良かったんです。これは私の罪です」
続けますねと言いながら、彼女は呼吸が乱れながらも説明を続けた。
ミナちゃんが殺された後の事も酷い物だった……。
オートン子爵は彼女を三年もの間弄び続けた挙げ句、彼女に病気が発生したと知るとカナリアの様な扱いで魔の森に送り出したのだ。
しかも前にミミから聞いた話だと、彼女の目には呪いを掛けて……。
「ねぇ、レナちゃん……。その豚野郎は何て名前だったかしら?」
「え? オートン子爵の事ですか?」
「そう、オートン子爵……、ね……」
そう呟いたセレナの声は、僕には何かを含む様に聞こえ少し不吉な予感がしたのだった――。
◇ ◇ ◇
「パパ、お仕事まだ終わらないの?」
「ミリーちゃん、もう少し待っててねー」
「もうミリー、ティザーク様の邪魔しないの!」
「じゃまじゃないもん!」
娘を膝に乗せたまま、ティザークは書類仕事をしていた。
どうやら、そこまで急ぎの書類では無いようで、シェーラの注意もキレが無い。
そんな、ある意味家族団欒の時間を邪魔するかの様に、部屋の外から声が聞こえて来た。
「か、勝手に入られては困ります!」
「少し、ティザークちゃんにお話があるのよ。すぐに済むからね」
この声は、イルナとセレナ殿の声か?
ティザークが、聞こえて来た声について想像を巡らせていると――。
コンコン、ガチャッ……。
ノックの意味がまるで無い様な速度で扉が開かれ、予想通りの人物とその仲間の姿が見て取れた。
但し、集まってる人数がいつもと違う。
セレナ、キーリ、ミミの女性三人だけのようだ。
他の仲間はどうしたのだろうか?
「イルナ、どうした?」
「すいません、ティザーク様……。セレナ様方が、どうしてもお話をしたいと聞かなくて……」
「ハロー、ティザークちゃん! ちょっと、私達とお話してくれない?」
セレナ殿の顔はいつもと全く違っていた。
口調こそいつもと同じなのだが、声音と表情からは非常に強い怒りを感じたのだ。
「ど、どうしたのだ?」
私がそう聞くと、彼女はチラッと目線をミリエラへと持って行く。
ミリエラには聞かせられない類の話と言う訳か……。
「ミリエラ、イルナと一緒に外で待っていてくれないか?」
「え、えと……」
「ミリエラ様、ティザーク様とシェーラ様はお仕事のようですから、お部屋に戻りましょうか?」
「わかった。パパ、ママ、またあとでね~」
ミリエラとイルナが部屋の外に出て行き足音が聞こえなくなると、ティザークがセレナ達と改めて向き合い口を開いた。
「それでセレナ殿、ミリエラには聞かせられない内容とはなんだ?」
「まず、オートン子爵と言う名前に心当たりはあるかしら?」」
「オートン子爵? それなら知っているぞ。シャンティナの隣街に位置するレヤヌと言う場所を治めている領主で、確かグライ・オートンと言う名前だった筈だ。それがどうかしたのか?」
「その街と領主について詳しく教えて貰えるかしら?」
「はぁ……。まぁ良いが……」
ティザークは、良く分からないまま説明を行う。
レヤヌ。それは、シャンティナに一番近い街と呼べる規模の王国領である。
この街の領主はグライ・オートン子爵。
特産品と呼べる物は無いが、シャンティナと王都を繋ぐ中継地としての機能もあり、人が訪れる数はそこそこ多い。
また、街の規模もそこそこで、重税が掛けられたり、非道な行いがされていると言う訳では無いようだ。
だが、レナからの話を合わせれば、街への印象も変わる。
要は住民に見せず聞かせず、奴隷にだけ非道な行いをしていたのであろう。
そこまで説明すると、ティザークはセレナに聞いた訳を尋ねた。
「――と、こんな感じだが、何故オートン子爵の事を?」
「ええ、単刀直入に言うわね。その街のオートンのクソ野郎を殺すから許可をくれない?」
「は? ちょ、ちょっと待て! オートン子爵を殺すだと? それはどう言う事だ!?」
「良いわ。話して上げる」
セレナ殿の口から聞かされたのは、余りにも酷い内容だった。
彼等の仲間の一人に、レナと言う少女が居た事は知っていた。
何故脆弱い人間の少女がと思っていたが、彼等が保護した少女だったらしい。
そして問題は、彼女が彼等と会う事になった一連の原因……。それこそが、彼等の怒りの大元であり先程の殺すと言う発言に繋がったのだ。
レナと言う少女は所謂使い捨て奴隷で、オートン子爵の元で三年もの間嬲られており、彼女の妹もオートン子爵に殺されたと聞かされた。
そして何より彼女がオートン子爵の元に来たのは五歳だと聞かされた時には、娘のミリエラの事を思わず思い出してしまった。
もし、ミリエラにそんな事をする輩が居れば、私は貴族の義務を投げ棄ててでもその輩を八つ裂きにするだろう。
だから、そのオートンとか言う糞野郎を殺したいと言うのは理解出来る。
だが――。
「貴女がたは何故血の繋がりも無く、種族さえ違うその子にそこまでするのだ?」
そう。分かると思ったのは、飽くまでも私が人間で人の親だからだ。
だが彼等は魔物で、レナはなんの血の繋がりも無い人間だ。
それなのに、何故……。
「何故ね……。そんなに大層な理由が欲しいかしら?」
「セレナの言う通りだ。大層な理由など必要ないだろ。ただ、レナを傷付けたソイツが赦せない。それだけだ」
「私は、どちらでも良いのですが、正直今回の人間は駆除すべきだと思いますよ」
彼等の言葉の裏には、打算など存在しなかった。
ただレナと言う少女を傷付けた人間が赦せないだけ、そこに種族の縛りは無いのだと言った。
参ったな……。
彼等の事は知っていたつもりだったが、飽くまでもつもりなだけだったらしい……。
彼等は優し過ぎる。
確かに敵に容赦をしない冷酷さが垣間見える事もあるのだが、それを差し引いても其処らの人間なんかよりも余程優しいだろう。
そんな彼等の怒りを買った子爵には、少しだけ同情してしまう。
いや、やっぱり同情する必要は無いな。
ただまぁ――。
「セレナ殿達の気持ちは分かった。だが、オートン子爵を殺す事は許可出来ない」
「へぇ……?」
その言葉を放った瞬間、部屋の温度が急激に下がった気がした。
「それはレナちゃんの仇討ちをするなと言っているのかな、ティザークちゃん?」
は、はは……。
これが彼等の殺気か……。
冒険者をしていた頃には、感じたことの無い様な濃度の殺気を感じる。
彼等と目を合わすのも怖い程だ……。
セレナ殿はあまり強く無いとの事だったが、この殺気の強さから察するに飽くまでも彼等の中ではと言う意味だと思える。
正直、ガルクの奴と比べても遜色が無さそうな気がする……。
そんな事を思いつつもチラリと後ろに目を遣ると、ガタガタと震えながらも彼等から目を逸らさないシェーラの姿が目に入った。
そんな姿を見れば、私が怖いなんて言ってられない。
そう決意したティザークは、セレナの目を真正面から合わせた後に続けて答えた。
「そうでは無い。殺すのを控えて欲しいだけだ。そんなクズでも一応はこの国の貴族だ。罪を裁くのは王でなければならない」
そう。どんなクズであろうと、貴族を裁くのは王である必要がある。
それがこの国の法であり、それを犯した者は罪に問われる可能性が出て来る。
流石に王が彼等と敵対するとは思えないが、不必要に法を犯すのは止めた方が良いだろう。
その言葉に一応の理解を示したのか、彼等からの殺気は霧散した。
だが、明らかに納得はしてない様子だった。
だから、私は言葉を続ける。
「控えて欲しいのは殺す事だけだ。殺す事さえ控えて貰えれば、何をしても構わない。その事は全面的に私が責任を負うと誓おう」
その一言を言った後の恐怖は、下手したら先程の殺気を身に受けた時よりも大きかったかも知れない……。
その言葉を聞いたセレナ殿は、ゾッとする笑顔を浮かべたのだ。
そして、一言楽しみねと呟いたのだ……。
もしかしたら、オートン子爵の精神は壊されるかも知れないな……。
だが違法奴隷に、しかもあんな幼い子供に手を出したのだ。
それを同情する気にはなれんな……。
私から必要な情報を得たセレナ殿達は、他のメンバーを連れて来ると言って館の外へと出て行った……。




