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少女の心を縛る鎖 ~心が壊れる時~

胸糞、グロ・流血表現があります

 街の中に入った私達は、ある店へと向かいました。

 お店の名前は、確かジャンナ奴隷商会だったでしょうか……。

 私達が、売られる事となるお店でした。


「おい、良い商品持って来たぜ!!」


 森で助けた男が、店の誰かに話し掛けた。


「ほほう? 貴方がそんな表現するとは珍しい」

「ああ、とびっきりの上玉だからな」

「なるほど。それで、商品は何処ですかな?」

「おい、来い!!」


 その男の言葉で私達は、先程の会話の相手の前に出された。

 その相手は、気持ち悪い笑みを浮かべている太った中年の男だった。

 その見た目はガマガエルを彷彿とさせ、思わず私は目を背けてしまいます。

 ですが、私達を連れてきた男が頭を掴んで、無理矢理ガマガエルの方を向かせます。


「ほぅ……」


 その男は私を舐め回す様に頭から足まで見ると、更に気持ち悪い笑いを浮かべながらこう言いました。


「素晴らしい! 良くこんな上玉を捕まえられましたね? そうそう落ちているレベルではありませんよ?」

「だろう? それで二人合わせて幾らになる?」

「そうですね……」


 その後に男達の口から出ていたのはお金の交渉でした。

 私達に値段を点けると言う、(おぞ)ましい行為がずっと行われていて気持ち悪くなって来ますが、枷が付いている状況では逃げ出すのは無理でした……。


「では、これで如何ですかな?」

「よし、それで売ろう」

「毎度ありがとうございます」


 私達を売った男はお金の入った革袋を手にすると、私達の方へと向き直ります。


「んじゃここでお別れだな。お前達に出逢えて良かったわ。神様に……、いやお前達の両親に感謝しねえとなぁ?」

「貴方は何処までっ……!」


 頭に血が登った私は、男を殴ろうと飛び掛ります。

 ですが――。


「おっと……。おいたは駄目ですよ? 既に貴女達は私の持ち物なのですから」


 そう言ったガマガエルは、私の首輪の鎖を引っ張ってその行動を阻止してしまいます。


「がっ……」


 結局両親を悪し様に罵った男を殴る事は出来ず、男達は嗤いながら去って行きました。


 ガマガエルの商人の扱いは、あの男達の扱いよりはマシでした。

 ただ人として扱われていない事は同じです。ガマガエルの場合は、商品として価値を損なわない様に扱っていただけでしょうからね……。

 それでもそこでの暮らしは、まだ我慢出来るレベルでした。あの日が来る時までは……。


 ◇ ◇ ◇


「はぁ、はぁ……」


 そこまで話したレナの瞳孔は開ききっており、呼吸も非常に速くなっていた。


「レナ、どうしたの!?」

「どうした!?」

「レナちゃん!?」

「だ、大丈夫です……」

「ほんまに大丈夫なんか……?」

「だが、その様子は……」

「主様、恐らく今から言おうとしている事が精神疾患の原因では無いかと」


 今までは記憶の穴抜けによって心を保っていたが、今はその防御も無くなっている筈だ。

 その状態で精神疾患の原因を話すなんて、相当の苦痛を伴う筈である。

 勿論、カケルからすれば想像するしか無いのだが、先程の話よりも酷い事があるのは明白なのだ……。


「本当に大丈夫? 辛い様なら話さなくても良いんだよ?」

「カケル様……。大丈夫です。聞いて欲しいんです」

「そこまで言うなら分かった……」

「はい。では、続けますね」


 そして、続きがレナの口より語られる――。


 ◇ ◇ ◇


 奴隷として売られてから、一ヶ月程が経ちました。

 その中で、分かった事があります。

 あの奴隷商会は奴隷に対して、そこまで酷い扱いはしません。

 その証拠に馬車での生活でガリガリに痩せていた私達の身体は、今ではふっくらとしておりあの頃の面影はありません。


 また、私達には分不相応な高そうな服も着せられています。やや露出度が高いのは、そう言う客に売り込む為でしょう。

 更に、歳上の同じ奴隷の方からマナーや言葉遣いも学ばされました。

 それだけを見ればどれも優遇されているとも思えますが、結局の所全ては私達の商品価値を高める為の物に過ぎません。

 その頃の私にも、それは痛い程理解出来ました。


 そんなある日の事です。


「レナ、ミナ、此方に来なさい!」


 ガマガエルに呼ばれて彼の所まで行くと、そこにはガマガエルの商人が霞むような今まで見た事の無い程気持ち悪い豚が居ました。

 ぶくぶくと肥え太り、顔中にデキモノと脂を滴らせ、豚が着ている一目で高価と分かる様な服が可哀想なくらいでした。


「ぐふ、お前が勧めるだけの事はあるな……」


 前にガマガエルから感じた視線は、私達の価値を探る様な視線でした。

 でも今回のは違う……。明らかに嫌らしい視線だと理解出来ます。

 奴隷商会に一ヶ月も居れば、そんな視線は慣れっこになっていた筈でした。

 そんな慣れた状態ですら鳥肌が立つ程の気持ち悪い視線が、私の足から頭まで流れていきます。


「ええ、そうでしょうとも! オートン様にはピッタリの商品だと自負しております!」

「ぐふふふ……。気に入った買おう! 幾らだ?」

「二人合わせて金貨千枚で如何でしょう?」

「良いだろう。爺!」

「はっ!」


 その豚が気持ち悪過ぎて目を背けていたが、隣にはもう一人連れが居たようです。

 そしてその連れは金貨千枚と言う途方も無い金額を、ガマガエルへと躊躇もせずに払いました。

 その後奴隷紋を首に埋め込まれ、私達はオートンと呼ばれる豚の持ち物となったのです。


 オートンの物となった私達は、馬車にて豚の館へと運ばれます。

 私はこの時呑気にも、売られる前の馬車の時よりはマシになると思ってました。

 あの場所よりも、一層酷い地獄が待ってるとも知らずに……。


 数日して馬車が到着したのは、非常に大きな建物の前でした。

 恐らく館などと言われる様なその建物の中に、私達は連れて行かれます。


「此処に入って待ってろ!」


 私達二人が入れられたのは、幅一ナレイ、奥行き二ナレイくらいの小さな小部屋でした。

 館の中にしては非常に小さいサイズの部屋だと思いますが、もし此処が私達二人の部屋ならば十分なサイズでした。

 オートン、後に子爵と分かった豚の従者らしき男は私達を置いて、部屋の外へと出て行きました。


「おねえちゃん、ここミナたちのへやなのかな?」

「うーん、どうだろね? だとしたら十分なんだけど……」


 もしあの時の私に会えたなら、ぶん殴ってやりたいと思う。

 暫くすると豚が、先程お金の支払いをしていた執事を連れて部屋へと入って来ました。


「ぐふ……。お前は利用価値があるが、お前は要らないな。爺、コイツを捨てて来い!」

「はっ!」


 事もあろうにこの豚は、ミナを捨てろと言ったのです。


「え……?」


 ミナのポカンとした声が耳に入る。

 そんなミナに向かって、執事が声を掛けて来ます。


「さて娘。貴女は私と一緒に来ていただきましょうか?」

「ま、待って下さい!」

「お、おねえちゃん……」

「何でしょうか?」

「ミナを何処にやるおつもりですか!?」

「取り敢えず、スラム街にでも捨てて来ようかと」


 スラム街。私でも聞いた事がある街のゴミ捨て場。

 そこは街の中の汚い物全てが集まる所だと聞いている。薄汚れた孤児、薄暗い過去を持つ者達、犯罪に手を染めている者達など。

 どう考えても、ミナが生きて行ける様な場所ではありませんでした。

 そう思った私は、思わず執事に対して頼み込んでいました。


「私が、私が何でもしますから、ミナだけは解放して下さい!!」

「坊ちゃま、如何致しますか?」

「ぐふふ、何でもすると……?」


 怖い……。気持ち悪い……。

 でも、ミナを守る為なら……!


 レナは顔を上げると、オートンに対してしっかりと返事をする。


「はい!」

「ぐふふふ、良いだろう……」

「あ、ありがとう御座います!!」

「爺、例のアレで行け」

「畏まりました」


 私はこの時舞い上がっていた。ミナだけは助かるのだと、本気で信じていたんです……。

 だから、次に起きた事が理解出来なかった。

 いえ、理解したく無かったのです……。


「ミナ、良かったね! ミナは助かる……ん……だ……よ…………」


 ゴトリ……。


 私が、横に居た筈のミナを見ようと体を向けると、ゴトリと言う音が鳴り響き私の身体を濡らす生暖かい物が降り掛かって来ました。

 そして、何よりそこには何かが立っていました……。


「なんで……」


 そこに居たのは、私の最愛の妹でした……。

 いえ、最愛の妹だった物です……。


「なんで……!? ミナ! ミナ!!」


 私は駆け寄って、崩れ落ちるミナの身体を抱き締めました。

 でも、その身体にはあるべき物が無かったんです……。


「どうして……。どうして…………」


 私が豚の方を振り返ると、横には執事が大型のナイフを持って血を滴らせていました。

 そして、その床にはある物が転がっていました……。


「あ……、あぁ…………」

「ぐふ、どうだ? これでお前の願いは叶ったぞ?」

「願い……?」

「ぐふ、お前が願ったんだろ? 妹を辛い人生から解放させて欲しいと」

「違う……。私が願ったのはそんな事じゃ無い……」

「ぐふふ、違わない。お前が願ったんだろ?」


 オートンはそう言うと、床に転がっていたある物を持ち上げた。

 呆気に取られたままの表情で固まっている妹の首を……。


「お前が願ったから、コイツはこうなったんだ」

「私……が…………?」

「ぐふふ。そうだ、お前のせいだよ。お前が妹を殺したんだ」


 その言葉が、スルリと私の中に入って来ました。


「あぁあ、可哀想に……。こんな姉を持たなければ、この娘もまだ生きていられただろうにな……?」

「あ、ああぁ………。ああああぁぁぁ………。ああああぁぁぁぁぁ………!!!!!!」


 そこで私の意識は闇に閉ざされました……。


次の投稿は二週間後になりそうです

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