少女の心を縛る鎖 ~人助けの代償~
今回は胸糞に加えて汚い表現があります。
お食事中の方はご注意下さい。
「イタタタ……。えっと、此処は……?」
目覚めた私を迎えたのは、冷たい金属の感触と真っ暗な暗闇でした。
「そうだ! ミナ!! 大丈夫!?」
私は、暗闇の中でミナを探しました。
冷たい金属の感触は地面だけでなく、手首と足首からも感じられて、辛かったですがそれよりもミナの安否が気になりました。
「……うーん、お、おねえちゃん……?」
「良かった……。ミナ無事なのね!」
「うん……」
ミナの声が聴こえる方から、ガチャガチャと金属音も聴こえてきます。
「おねえちゃん、てとあしがいたいよ……。ミナのてとあしに、なにかついてるの?」
「それはお姉ちゃんもよ。多分、手枷と足枷かしら?」
「てかせ……? あしかせ……?」
ミナは言葉が分からなかったのだろう。
レナの言葉に疑問符を浮かべていた。
そんなミナにレナは側まで近付くと、あやす様に抱き締めて気にしなくても良いわと言った。
その後レナは取れない枷の事は忘れて、辺りの観察を始めた。
すると、そんなに時間が経たない内に地面がガタガタと揺れ始める。
「おねえちゃん、じしん……!?」
「いえ、違うわ……。これは、地面が移動してる……?」
その時は暗くて分かりませんでしたが暗闇に慣れてくると、私達は檻の中に入れられている事が分かりました。
そして、恐らく此処が馬車の中だと言う事も……。
檻の中に入れられて枷が着いてる状況で、何も気付かない程に私は馬鹿ではありません。
何処かに売られるのか、それとも他の理由があるのか。
いずれにしても、このままだと良くない事になるのは目に見えてました。
ですが、檻には鍵が掛かっており私達のような子供だけで逃げ出す事は無理だったんです……。
私は一縷の望みを掛けて檻の中から外に向かって助けを呼んでみたんですが、結局外の男達から罵倒されるばかりで最後まで私達に助けが来る事はありませんでした……。
あの馬車の中は最悪でした。
男達は何処かに急いでいる為か、そもそも私達に構う気すら無いのかは分かりませんでしたが、私達は檻から出して貰う事は出来ずトイレすら行かせて貰えませんでした。
食事や水は一応檻の中に入れられましたが、自分達の排泄物がある隣だったので正直食べたくはありませんでした。
しかも、馬車が揺れるので排泄物が器に入ったりもしました。
ですが、そんな強がりも十日くらいが限界でした。
その後は感覚が麻痺したのか空腹に耐えかねたのか、排泄物が入ろうともお構い無しに食べるようになったのを覚えています。
滑稽ですよね……。私達はあの時、家畜以下の存在だったんです……。
馬車に乗せられてから二十日くらい経ったでしょうか。もしかしたら一ヶ月以上かも知れません。
思考が鈍って時間の感覚も分からなくなった頃、初めて私達が入れられていた檻が開かれました。
男達は私達に近寄ろうともせずに、ただ出ろと命令してきました。
私達はそれまでの道中で衰弱していて、手枷と足枷があってはまともに歩く事も出来ませんでした。
そんな私達の動きを見ると、男は後ろから手に持っていた鞭で私の身体を打って来ました。
「おら! チンタラしてんじゃねえよ! さっさと歩け!!」
「ッ……!! 痛い……です。止めて……下さい……」
「だったら、さっさと歩けよクソガキ」
「やめて! おねえちゃんをイジメないで!」
「ふん! テメエ等は俺達に従っていれば良いんだよ!!」
私はミナに同じ様な被害が及ばない様に、気力を振り絞って男達の指定した方向へと歩いて行きました。
ミナが何度も私を気遣ってくれましたが、正直どう答えたかは覚えていません。
あの時の衰弱が、私の方が著しかったのも原因だと思います。
私の方が衰弱していたのは、食事や水を選ぶ際にいつも汚い方を選んでいたからだと思います。
男達は私やミナの事を、罵倒しながら嗤っていました。
衰弱している私達を見るのが楽しかったのでしょうか? 私には理解出来ませんでした。
男達の嘲笑や罵倒に耐えながら、着いた先は森の中にある浅瀬の川でした。
そこで男達は、川の中に入れと言います。
反抗する気力もなく、言われたままに川へと入ります。
目の前の男は川に入ったのを確認すると、腰に挿してある剣を引き抜きました。
その時は此処で、私達を処分するつもりかもかと思ってました。
川に入らせたのは、返り血を洗い流す為でしょう。
だから私はミナを守る為に、妹にに覆い被さりました。
「私はどうなっても良いから、ミナは助けてください!」
「おねえちゃん、ダメだよ!」
ミナは私の下から、這い出そうとしていました。
だから、私は強くミナを抱き締めました。
「ウゼえな……」
男はそう言うと私の肩に手を掛けて、剣で服を剥ぎ取ってきました。
もしかしてと思うと、身体が竦んでしまいます。
「どけっ!」
ですが男は私の事に構う事無く、私を突き飛ばしました。
そして、ミナの肩を掴むと私と同じ様に服を切り裂きました。
まさか、ミナの方なのかとも思ったのですが、どうもそれも違ったようでした。
男達は汚いなと文句を垂らしながら、裸になった私達を襤褸切れで洗い始めました。
人を洗うと言うよりも物を洗う様な強さでゴシゴシと洗われて、更に頭を洗う為に水の中に無理矢理押し込まれて息が出来ない事が何回もありました。
そして暫くすると排泄物塗れだった私達は、ヒリヒリとする肌の痛みと引き換えに村で暮らしていた頃の清潔さを取り戻していました。
男達は私達を洗うのに使った布を捨てて、飛び散った汚物を洗い流すと私達に大きな布を渡しました。
私は川の水で洗われた事で、少し頭のモヤが晴れました。
私たちに渡された服を見ながら、頭を回転させます。
確かこれは貫頭衣と言う服の一種で、奴隷等が主に着る服だった筈です。
今まで確定はしていませんでしたが、これで確定だと思います。
男達は私達を、奴隷として売るのでしょう。
そしてこれは、私達の価値を上げる為の掃除なのでしょう。
だとすれば、恐らく近くに私達を売る先がある筈です。
貫頭衣のみを身に着けた私達は、馬車へと戻らず歩かされ続けました。
あの檻に入れたら、また汚くなるのですから当たり前と言う事でしょう。
そして、歩き続かせられる事半刻程でしょうか?
石造りの立派な壁が見えてきました。
どうやらこの街が、移動の終着点のようでした……。
◇ ◇ ◇
レナはそこまで話すと、少し俯かせていた顔を上げた。
そこにはカケルを含めた皆が、怖い表情を浮かべていた。
特に顕著なのがセレナとキーリで、彼女達は普段の表情が嘘の様な非常に怖い表情を浮かべている。
「あ、あの……」
「殺す……」
沈黙に耐え切れずにレナが言葉を掛けると、セレナの口から普段からは考えられないような冷たい声で呟きが漏れ出した。
「ヒッ!!」
「落ち着けセレナ! レナが怖がっているぞ!」
「せやで。セレナちゃん、少し落ち着きいや!」
キーリとツィードがセレナに声を掛けて、彼女を正気に戻した。
「あ……。ゴメンねレナちゃん。物騒な事言って……」
「そうだぞ。そいつ等はただ殺すのは生温いからな。生きたまま八つ裂きにしようじゃないか!」
「あら、キーリちゃんも言うわね! 確かに殺すだけじゃ勿体無いわよね……」
「二人共、怖過ぎやろ……」
止めたと思ったキーリは、寧ろ更に残虐な事を述べていた。
止めたのは殺す事では無く、やり方への不満からだったらしい……。
こんな時に真っ先に止めそうなカケルはと言うと、表情こそ骸骨なので変わらないのだが、やはり怒っているのかなんと言うか纏っている空気が重かった。
ミミは分らない。興味が無いようにも見えるし、静かに怒っているようにも見える。ただ、セレナやキーリ程に取り乱していないのは確かだ。
ルガルドもいつもは我関せずと言った具合なのだが、今回はルガルドも怒っているのか不機嫌な表情を隠せていなかった。
そしてリリアンはと言うと、怒りの表情ではなく非常に悲しげにレナを見ていた。
それはレナへの憐憫か、起こってしまった出来事に対する悲嘆なのか。それとも、別の何かなのか。悲しさの中にほんの少しだけ別の感情が紛れているようにも見えた……。
感情が昂ぶり過ぎたのはレナだけでも無かったようなので、一旦クールダウンする意味でもカケルを除く全員に紅茶を入れる。
この紅茶は、シャンティナで仕入れてきた物だ。レナが宿で飲んで気に入って、それを見ていたミランダが帰る際に持たせてくれたのだ。
茶葉の種類は地球で言うところのヌワラエリアで、緑茶に似た渋みと華やかな香りが特徴の茶葉である。
因みにそんな紅茶を入れる役割は、レナ、カケル、セレナ、ルガルドである。
「ふぅ……」
「少しは落ち着いたか?」
「えぇ、ちょっと昂ぶり過ぎたみたいね。レナちゃんも、さっきは怖がらせてゴメンね?」
「い、いえ……。セレナ姉様は私の為に怒ってくれた訳ですし……」
「それでもよ。お姉ちゃんとしては良くなかったわ!」
「え、えっと……」
「でも、もう大丈夫よ! しっかり、落ち着いたわ! レナちゃんも、しっかり落ち着いてから再開するのよ!」
「は、はぁ……」
セレナの言い回しは少し変だったが、レナは言葉の通り自分がしっかり落ち着けたのを見計らって再開する。
物語の続きを……。諦観に塗れたあの過去の事を……。




