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緊急招集会議 -後編-

 紅茶で高ぶった神経が納まった頃合に、休憩時間を終了して再び話し合いが始まった。


 さてさて、騒ぎ立てる原因となった月夜の悪魔を初めとする魔物達の滞在要求だが、本来であればまず許可を出す事などしないだろう。

 だが……。


「私はこの滞在許可を出すつもりだ」

「「「陛下!?」」」

「何故です!? 従魔を滞在させるのとは訳が違うのですよ!?」


 王都にも獣魔が滞在する事ならそこそこある。

 王都にも総合ギルドは存在し、冒険者達の中にテイマーも少なからず存在するからだ。


 だが、今回の件はそれとは訳が違う。

 あの月夜の悪魔を滞在させると言うのだ。そんなチャチな問題と一緒な訳が無い。


「それはな……。我が国の力では絶対に勝てないからだ」

「確かに月夜の悪魔は強力です! ですが、我が国の戦力ならば……!」


 貴族の一人が藁をもすがる様な顔で、ゴルディーガに進言する。

 だがそんな言葉を遮り、ゴルディーガは顔を横に振った。


「それは無理だ」

「何故……、何故なのですか!? 確かに伝説の魔物ではありますが、屈強な我が国の軍ならば勝てるのではありませんか!?」

「先程、複数の魔物がシャンティナを救ったと説明にあったな?」

「……? はい……」

「お前達は月夜の悪魔を頂点とした魔物達と言う認識なのだろうが、それは少し違う」

「……?」

「少なくとも、月夜の悪魔の様なレベルの魔物が四体いるのだ」

「「「……!?」」」

「更に実力不明なのがもう二体だ。そして、これが最も重要なのだがこの六体全てがネームドなのだよ……」

「「「ネームド……」」」


 ネームドの脅威性は殆どの者が知っている。

 ユニークと違い実際の実力の落差は激しいが、楽観視するには厳しい情報なのだ。

 例えば、ネームドのオークは実力的にオーガレベルにまで上がったなんて報告もあったりするのだ。


 そんなまるでお通夜の様な雰囲気になってしまった所で、この雰囲気に突き落とした張本人が追加で説明を行う。


「ただ、悪く無い情報をあるぞ」

「悪く無い情報ですか?」

「あぁ。その魔物の内の二体は、ホーリードラゴンとフェンリルだ」

「月夜の悪魔が、聖獣と行動を共にしていると言うのですか!?」

「そうだ。種族で言うのであれば、今回シャンティナを救いに来たのは――」


 レナも含めて、カケル達メンバーの事を説明する国王。


「は、ははは……。常闇ウサギ、リッチ、ホーリードラゴン、フェンリル、プラントヴァンパイア、ヘルスロナート、そし人間……」

「伝説級の魔物が四体も……」


 その呟く様に溢れた言葉に、一人の貴族から否定の言葉が入る。


「いや、五体だ……」

「何か知っておられのですか?」

地獄の猫蜘蛛(ヘルスロナート)。それは、過去に滅びたとされている神獣だ」

「神獣? 大層な呼び方の割に聞き覚えが無い種族なのですが、そんなに有名なのですか……?」

「いや、恐らくそこまで知名度は無い。だが、糸を扱う者であれば絶対に知っている魔物だ。卿等もスロナート製の布と言えば思い浮かぶ物があるのではないか?」


 スロナート。それは、猫蜘蛛とも呼ばれる摩訶不思議な姿をした魔物の事だ。

 猫蜘蛛の糸は服を作るのに適しており、王国でもスロナートを育てて糸を採取する産業が確立している。

 その糸は非常に肌触りが良く、貴族のドレス等には欠かせない高級な糸として使われているのだ。


「そうか……。スロナートか」

「あぁ。ヘルスロナートはグレータースロナートよりも上位の種族だと言う話だ。お伽噺の存在かと思っていたのだが、本当に存在するとはな……」

「その魔物は戦力としてはどうなのですか?」

「いや、そこまでは文献に載ってなかった。だが、彼等は我々人間と同じ様に、国を作って暮らす社会性を持つ種族だった筈。侮るのは危険だと考えるぞ?」


 それ以外にも、様々な意見が飛び交う。

 そして、意見が堂々巡りになり始めた頃、ゴルディーガは静かに声を上げた。


「さて、この状況をどう思うかね?」

「絶体絶命ですな……」

「まぁ、普通ならそう思うだろう。さて、諸君。もう一つ朗報だ。彼等は此方の法を、出来る限り守ると言っている」

「そんなの口だけではありませんか!?」


 ゴルディーガへの反論は尤もだろう。

 もし法を犯したとしても、それに対する刑罰を拒否するだけの力を持っているのだから……。


「まぁ聞け。今彼等は何処に居ると思う?」

「何処、ですか……?」「森の中等ではないのですか?」「洞窟と言う可能性もあるかも知れないぞ?」

「どれも違うな。答えは、シャンティナの宿屋だ」

「「「…………は?」」」


 再び口を開けて呆気に取られる者達に、ゴルディーガは更に詳しい説明を行う。

 彼等が現在シャンティナの中で寝泊まりしており、更には冒険者として登録を行い日銭を稼いでいると……。


「それは……、予想外ですね……」

「そんな事があり得るのか……?」

「魔物に化けた人種(ひとしゅ)と言う可能性は無いのですか?」

「テイムされている可能性もあるかも知れん。確か、一人人間が付いてきていたのですよね?」


 恐らく、自分の常識で考えられないからだろう。

 先ほどの種族では無く、幻覚を使った人種(ひとしゅ)やテイムされているのではないかと言った意見が出て来た。


 だが――。


「その可能性は低いでしょう。天元のガルクが居てもどうにもならない様な状況から、彼等は一瞬でシャンティナの危機を救ったようですから。また、テイムの可能性も無いと思われます。何故なら、付いてきていた人間と言うのは、まだ年端もいかない少女ですから」

「それは……」


 そもそも彼等は伝説級の魔物である。

 ならば、伝説級の剣や魔術の腕前で無ければテイムされる可能性は皆無だろうと彼等は考えたようだ。

 だが、彼等はもう一種類のテイムの可能性を思いついていなったらしい。

 尤も、今回は実際にテイムされる訳ではないのだから関係無い話であった。


 重要なのはテイムもされていない伝説級の魔物が、シャンティナで宿暮らしをしていると言う点である。

 つまり、法を守ると言うのが言葉だけで無く、事実の可能性が高くなるのだ。

 勿論、今現状はと言う注釈が付く訳だが……。


「つまり、陛下はその状況を(かんが)みて、魔物の言う事を信じると……?」

「完全に信じると言う訳では無い。が、他に道も無いだろうな。それとも卿は他のやり方を思い付くのかね?」

「それは……」


 その言葉に質問した者のみでなく皆が黙り込んだ。

 因みにゴルディーガはこれしか道は無いと言ったが、一応もう一つ道も存在したりする。

 それはミミ達の滞在を断り、ヴァイスを切り捨てる方法だ。

 こうすれば、相手が約束を破らない限り、ヴァイスの命一つで取り敢えず乗り切れるのである。


 但し、その後にコチラをどうにかする可能性もある以上、選択肢としてはかなり微妙であった。

 そもそも、相手が敵意を持って此方に手を出した時点でアウトな為、できる限り友好的な手段を取る方が可能性としてはマシだと言えよう……。


「ふむ、皆も答えは出たようだな?」


 そんなゴルディーガの質問への答えは沈黙だった。

 反論出来ないだけとも言えるが……。


「さて、これで受け入れる事は決定した訳だが、私としてはこの後の相談が本題だ」

「本題ですか……?」

「そうだ。皆に相談したいのは、滞在をどう許可するかだ」


 例えば、城の中のみだとしても滞在許可とは言える。

 完全な滞在許可を与えるとしても、段階的にする事も可能なのだ。

 テイムしていない魔物を街中に入れるのだから、王都民への説明は必須である。

 だが、説明したからと言って受け入れられる訳でもないだろう。


 結局どれだけ議論しても結論は出ず、一先ず城の離宮に秘密裏に受け入れて彼等の要望を聞いてから、民衆への説明をどうするかと決めたのだった……。


次はカケル達の話に戻る予定です。

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