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新宿の絶叫

 

 ――新宿駅、ホーム AM8:14。


 朝の新宿駅を降りたころ、俺こと神塚かみつか 虎吉とらきちはある異変を感じた。

 後ろ髪が逆立つようなこの感覚……常人には決して分からないだろうが、俺になら分かる。近くのサラリーマン、そして通学者の彼らと一斉に同じ方向を見ると、ホームの一角には真っ黒いブラックホールじみたものがあった。


 いや、常人には分からないだろうけど、みんなもう常人じゃないんだよ。

 ……まあ、今はそれは良いか。


 バリバリと紫色の雷が帯電している様子に、思わずゴクリと喉が鳴る。

 あの大きさ、それにこの威圧感……とんでもない化け物が出てくるぞ。周囲はまだ落ち着いているが、そう悠長に構えていられなそうだ。

 俺はニヤリと笑い、そして手首についた金属片を口元へ寄せる。


「――ステータス、オープン」


 にぶい輝きをした特殊金属は、こうして対魔に特化した装備を与えてくれる……はずなのではあるが、お金をケチったせいで感度があまり良くない。

 仕方なくもう少し大きな声、大きな声、と繰り返しているが、微動だにしない。……へっ、とんだじゃじゃ馬だ。


「スッテーータスッ、オーープンッ!!」


 近くのおっさんたちがビクッ!としたが、この緊急事では恥ずかしがってもいられないさ。被害を出さないよう、俺自身があの脅威を食い止めなければならないからな。

 しかし、これでも微動だにしない特殊器具デバイスに俺は「やれやれ」をした。


「スットゥーーーータスッ、オーープンッッ!!」


 小さな「ッ」がついているのが不思議かもしれないが、これが俺の編み出した「聞き取られやすい発音」である。この特殊器具デバイスは声で反応をしてくれるが、費用を抑えたためそれほど優秀ではない。その代わりにこの優秀な俺が、伝わりやすい機械語マシンコードを編み出したというわけさ。

 ちなみに最高位機種はボタンを押すだけで済む。


 正直なところ頭の血管は切れそうだったが、じゃじゃ馬はようやく動いてくれる。ヴンと宙へ俺のステータス画面が現れ、俺専用の装備画面を見せる。レベルは22。ちょうど俺の年と同じだ。


 さて、そんな事をしているうち敵は姿をあらわし、周囲へ襲い掛かっていた。野獣の発する声、そして彼ら彼女らの悲鳴を耳に、慌てず騒がず装備を厳選する。

 と、そんな俺の耳に女生徒たちの声が聞こえてきた。


「わ、ベヒモスじゃない。朝から大物じゃないコレ」

「A級なんて珍しいわね。寄り道してこ?」


 おやおや、身の程を知らないお譲ちゃんたちだ。あれがただのベヒモスだって? はっ、これだから女子供は。けどビッチJKっぽくて俺好みだなぁー……。うふぅ、ガム風船と太もも丸見えの超ミニスカとの組み合わせがすげえ……おっと、いかんいかん。


 そのころには周囲の人たちも一斉に「ステータスオープン」を繰り広げており、ホームはなかなかの騒々しさだ。流石は大都会、高額な特殊器具デバイス持ちがゴロゴロいやがる。俺の住む所沢では大声で「スットゥーータスッ!」と叫ぶ奴らが多いというのに。


 そして通勤に勤しむサラリーマン達は一斉に守備魔法を展開していた。鋼の意思を持つ彼らはたいそう強い障壁を張る。ベヒモスからのブレスでさえ弾き、時計をチラチラ見ながら改札口を歩き去ってゆく。今日もお仕事ご苦労様です。


「まったく、あの力を平和のために使えば日本は救われるかもしれないのに」


 などとボヤいていても仕方ない。彼らもまた契約という名の運命により縛られているのだから。

 さて、ようやく俺の装備は決まった。オーソドックスな片手剣、それに盾だ。あのようなデカブツが嫌がるのはつかず離れず攻撃を繰り返すことだろう。


 ぎゅい、と音を立てて俺の特殊器具デバイスはようやく本来の姿を生み出してゆく。研ぎ澄まされた魔剣イグニトゥ、それに対物理に全力を注いだ盾がそれぞれの手に握られた。


 ぐしゃぐしゃに入り乱れての特殊連携攻撃レイドはこうして始まった。デタラメに飛び交うパーティー申請をことごとく俺は無視し、ぶすりぶすりと丁寧に傷を与えてゆく。


 これだけ人々が群がるのは意味がある。大型の魔物を倒せば政府から報酬を出て、それが市場へ流れて景気を上向かせるのだ。活躍した上位5名、とどめを刺した1名、そしてランダム配布に数名という形式で「とりあえず一発くらい入れておくか」という参加者は数多い。


 どおお、おおーーッッ!!


 見えぬ衝撃波に、ゴミのよう弾き飛ばされる者が出てくる。

 怒り狂うベヒモスは手近な者たちをなぎ倒し、全身麻痺を誘う暗黒ブレスが撒き散らされた。


 新宿ホームは大混乱である。だがしかし決して電車は待ってくれない。彼ら車掌は時刻通りの到着を何より優先しており、対物理、魔法、精神攻撃を無効化する障壁を展開し、どっと乗客を降ろしてしまう。


 すると急げ急げと降りてきた連中はステータスオープンをし「記念の一発」祭が始まるわけだ。


「ちょっと、そんなに固まってたら魔法が撃てないわ!」

「うるせえ、その細い杖で殴ればいいだろう!」


 そしていつもの醜い言い争いが始まる。仲間への攻撃フレンドリーファイアには罰則ペナルティがあり、安全圏からの攻撃はなかなかに難しい。


 あのように特殊器具デバイス(デバイス)が生み出す装備には杖という物もあり、いわゆる魔法を放つことが出来る。知性が高い者は魔法を使えることが多いものの決して俺は馬鹿ではない。


 さて、彼女らが言い争いをしている間に、俺は着々とダメージを与える。人の背後からブスリ、ブスリと確実にだ。


 ドオ、オオオーーッッ!!


 おほ、効いてますなぁ。俺の魔剣には毒属性がついており、同じ場所を刺し続けることで無視できないダメージへ変わる。こりゃあもう報酬間違い無しだ。

 そいつは気が狂ったよう暴れ狂い、俺の目の前にたまたまいた重騎士装備の上半身を食いちぎる。悲鳴ごと飲み込み、ゴウと口内から黒い炎を上げた。


 ああ、おっかねえ。気がつけば周りはモザイクだらけだ。特殊器具デバイスはこうしてグロ表現を隠してくれるので安心である。俺のは安物だからちょびっと見えたりしちゃうけど。

 いや、おっさんに濡れ衣をしたように見えたかもしれないけど俺は悪くないよ。だってそういうシステムだし、そもそも気配を隠せるのは俺の数少ない技能スキルだし。


 さて、この死者を救ってくれるのは俺ではなく、改札の外でぼーっと立っている連中、治療術師だ。あいつらはとことん性格が悪い。戦闘には一切治療魔法を飛ばさず、死ぬのをじっと待っているハゲタカみたいな奴らだ。


 放っておいても30分で蘇生するが、あいつらに金を払えばすぐ戻れる。金と時間、どちらで解決したいかと聞かれれば半分くらいが金を選ぶだろう。

 そうして小銭を得た彼らは競馬場などへ旅立つわけだ。本当の戦場にな。


「30秒後、一斉に下がって! 魔法詠唱、開始ぃーーっ!」


 ああクソ、バカが統制を取りやがった。どこから湧きやがった、委員長体質のビッチめ! やめろやめろ、魔法系はダメージが高いから俺の報酬が遠ざかる!


 このように近接はどのフィールドでも通用するが、よく死ぬしあまりダメージは与えられない。

 魔術組は特定のフィールドであれば強い。しかし遠隔攻撃でバンバン仲間キルをするので嫌われる。ついでに言うと弓系や特殊系と呼ばれる者もいるが、戦闘の有利さにはあまり繋がらないことが多い。


 最後に、希少な「勇者」という誰もがあこがれる職業がある。ごくごくごく低確率な特殊器具デバイスにまぎれており、当たり前のように強い。だからこそお金持ちから買われ、結果として戦場に出てくることはほとんど無い。むしろ人前に勇者として現れることがあれば、帰り道はかなり気をつけないといけないレベルだ。



 さて、最後の最後まで粘っていたが、大量の魔法が弧を描いて襲い掛かってくればこれまでだ。あばよとベヒモスに笑いかけた瞬間、尻尾に叩き潰されて俺は死んだ。


 あー、そうか。粘りすぎてて俺しか残って無かったってオチね。

 とんでもないクソゲーだな、と思いつつ俺はモザイクスパゲティとなった。

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