日本激動す
2027年、東京――。
世界などあっけなく変わるものだと人々が気づいたのは、もう6年も前のことだ。
ある日、異世界と呼ばれるところから舞い戻った青年は、移動の際に使用した門を閉じることが出来なかった。
それにより大量の魔物と呼ばれる存在が日本を襲うことになる。
自衛隊を動員するまで多数の被害を出し、結果として「東京事変」として歴史に刻まれた。
無論、政府も指をくわえて見ていたわけではない。
門の向こうへと核らしき何かを撃ち込み、その結果、送られてくる魔物の数はどっと増えた。ひょっとした無闇に怒らせたのかもしれないが……さておき問題の発端となった異世界から現れた青年をこれ以上なく徹底的に調査し――非人道的な問題はひとまず気にせずに――魔物と戦うための力を知ったのだ。
いわゆるレベルアップという概念がここで生まれた。
特殊な器具を装着することで倒した魔物の力を取り込み、かつ魔物から殺されたときは安全装置が働いて再構築できることが分かる。
ただでさえ強力すぎる火気を持つ人類だ。
魔物を殺戮することにより自衛隊は大幅強化され、それは不平等だと各国からも軍隊を送られることになった。なかでも戦車乗りはヤバい。大型魔物を倒すことで「最終兵器」と呼ばれるまで成長してしまい、それは不平等だからと遠方へ隔離されることになる。
最も困らされたのが市民だ。
日がな一日ドンパチしており、物騒なことこの上無い。そのくせ生活が改善される傾向は無く、むしろ悪化の一途をたどるばかり。
外国の軍が駐留し、それらが異常な能力を持ち合わせたらどうなる?
決まっている。新兵と入れ替わりで祖国へ帰還だ。
こうして各国の軍は着々と強化をされ、核のインパクトまで薄れるような事態になってしまった。
結果、日本は潤った。
人が集まればお金が集まるという言葉があるように、ドンパチ騒音と引き換えに国力は高まる。そうなると政府は指をくわえて見ているしかない。ぼーっとしていた方が儲かるのだし仕方ないだろう。昭和バブルのときと同じ流れだ。
それから2年が経ち、魔物をめぐる対応は大きく変わろうとしていた。
十分に強化した中国が「いいかげん門を閉めようぜ」という案を国連へ提出したのだ。これに対し日本ならびに繋がりのある国以外は賛同を示した。日本ばかり潤っていて腹が立っていたのだ。
米国が彼らを叩き潰そうとしていたまさにそのとき――異変は起きてしまった。
最悪の存在、魔人が現れたのだ。
そしてまた「最終兵器」である元戦車乗りが解き放たれ、血の滾るガチンコの末に殴り倒してしまった。
この一戦は大々的にテレビで取り上げられ、彼は一躍英雄になり、祖国ブラジルで裕福に暮らしたらしい。
その騒ぎのせいで世論の流れは旬を過ぎてしまい、だいぶうやむやになった。門の大盛り上がりに持っていかれた感は否めない。
いま水を差せば悪者として石を投げられかねないのだ。いかにとんでもない野党であろうと、もう少し待ってから審議すべきという状況となった。
それから2年が経ったころ。
日本は再び激動を迎えた。それまで1つだった門が各地へ広がり、一斉に襲い掛かってきたのだ。
ひょっとしたら向こうの世界にいるであろう親玉が本気を出したかもしれない。あるいは人類を好敵手だと認めたか。
いくら精鋭揃いの人類であろうとも、立ち向かうことは困難な状況である。とはいえやって出来ない事は無かった。そもそも感知や瞬間転移の技能を持った者は少なくなく、魔物の加工品が飛ぶように売れている時代だ。彼らは喜んで戦い、そして地元はものすごく儲けた。
魔物来襲は一攫千金として受け入れられ、このあたりで人々の感覚は完全に麻痺していた。
――特殊器具を市民にも配布すべき。
人権を振りかざし、そのような声が現れはじめたのは当然だったかもしれない。
もはや軍隊は無敵であり、魔物など恐れもしない。そして魔物を取り逃がすケースも年に5件くらい起きているのだから。
まだ大きな被害は無くとも、いつ彼らがまた本気を出してくるか分からないではないか。実際のところ向こうの世界には魔王というものが実在しており、既に超全力なのだが……まあ、彼らは知る由も無い。
とはいえ魔王としても門がある以上、魔物を送らなければ彼らが侵入して来る可能性もある。どうにかこうにか、騙し騙し、やつれる思いで日々を過ごしていた。ちなみに彼の口癖は「別に負けたわけじゃない」だ。搾り出すような声だったらしい。
つまり彼の性格が災いし、門は閉じれ無かったのだ。もし閉じればそれ即ち退却を表し、異界では敗者の烙印を押されてしまうだろう。ちなみに向こうの世界はもうとっくに平和だ。
そんなこんなで日本は2年で様変わりをした。
特殊器具は安価に販売され、電気屋さんで誰もが手にすることが出来るようになった。ついでに魔物達を生む門はランダム性に変わり、よりゲーム性を……いや、人類は困難に直面していた。
繰り返すが、この特殊器具は魔物から殺されても死ぬことは無い。
ついでにグロテスク映像で心理的な問題を受けないよう、モザイク機能など充実している。電話機能もあり、才能によっては瞬間転移などを扱えて通学通勤にも便利。ほら、もう買わないと損ですよ。
こうして町中に、いや日本中で「ステータスオープン」の声が響くことになったのだ。