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僕は食べて強くなる。  作者: 箸野不仕付
第一幕 孵化する蟲達
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1-4 悪運

保谷龍二(ほうやりゅうじ)様、お手数おかけしますが別ブースに案内させて頂きます」


これが例のか、と感動するよりも先に恐怖の方が大きかった。


俺に発現した能力は、他の能力者を殺す事でその能力を得るというものだった。


案内が何なのかと言えば、戦闘用能力を発現した者が特殊組織に加入する手続きを行うもの。


俺の将来は決まってしまった。


有事の際に戦わなくてはいけない。


比喩だが、戦争の武器に就職する事になったのだ。


今まで戦闘経験なんて当たり前に無くて、格闘技の経験すらない俺だ。怖いに決まっている。


高い戦闘能力のうち、戦闘にしか使い道の無いもの、国の指定特定の能力は強制的に特殊組織へ入隊させられる。


高給と引き替えに一生国に管理され、訓練漬けになり、身内とも好きには会えない。


怖いのは戦闘だけじゃない。これも怖い理由の大部分を占める。


「あ、あの。その前に家族と友人に連絡取りたいんですけど」

「家族との連絡の機会は、用意してあります。友人の方には…そうですね、わかりました。内容を聴かせて頂く条件で許可致します」

「…わかりました」


家族以外の人間に特殊組織に所属することを言ってはいけない。噂通りだった。


「…もしもし」

「なんだぁ?飲み会待ちきれないか?俺は今スーパーで酒買ってるとこだ。お前と修造の分も奢りで買ってやる。感謝しろ。とても良い気分なんだわ今」

「お?お前にしては気前がいいな。さては良い能力でも貰ったか?でも…飲み会なんだが、悪い。俺行けなくなっちまったんだ」

「おい!まさか微妙な能力貰って気分最悪か?任せろ。俺がお前も、そうだな修造のやろーも養ってやってもいいぜ」

「どんな能力だよ。羨ましいぜ」

「だから、それを今日発表する為の飲み会だろうが」

「そうだったな。でも悪い。マジでいけねーんだ」

「…お前。わかったよ。今日は修造と二人で飲む。暇ができたら飲もうぜ」

「物分かり良い町田(まちだ)はなんか気持ち悪いな」

「ありがとうって素直に言えよ馬鹿」

「ありがとう。じゃあな。修造にもよろしく」

「おう」


龍二は、自分から電話を切らなかった。切れなかった。


これから日常から隔離される彼は、どんなに小さくても身近な人間との繋がりを求めたのだ。


繋がったまま、暫しの沈黙を経て、やがて小さな効果音と共に電話が切れる。


誰の声も聞こえてこない、今日の日付と時間を表示したスマートフォンを暫く見つめると、龍二は案内人を見て、大丈夫ですと伝え、手続きに入った。



町田力也(まちだりきや)は、彼の友人がどういう状況に置かれているかをなんとなくだが察していた。


保谷の声色と電話越しの微妙な空気、事情を言ってこないとなれば、そう思わずにはいられなかった。


来ないのならとカゴにパンパンに詰め込まれた缶とビンのうち、保谷の分は棚に戻そうと考える。


しかし、勝手に先に就職を決めたお祝いと激励をしてやろうとレジに持っていく事にした。


…微妙な能力と戦闘能力ならどっちが良いのだろうか。


微妙でもなんとか生きていけるのと、危険な場所に身を投じる方、不意に死が訪れない分、まだ前者の方が良いのではないか。


苛立ちを含んだ、袋はご利用なさいますかという女性店員の声に、自分がぼーっとして、その質問を何度も無視していた事に気付く。


慌てて、くださいと伝えると、仕返しとばかりのバツの悪そうな顔でパンパンの買い物カゴの隙間に、雑に一番大きいサイズのビニール袋を二枚突っ込まれる。


カゴを持って、ビニール袋に酒を詰めてる時に、あんなに怒らなくてもいいじゃないかと遅れて少し苛立つ。


詰め終えて、自転車のカゴに袋を入れた時にスマートフォンに修造から電話が来た。


行く気分じゃないとの声に、気分じゃないってなんだよと龍二の事を考えるとまた苛立ったが、今日はとにかく楽しく飲みたかったから、努めて明るく来るようにお願いすると、わかったと返事がきた。


声色が少し神妙だったので、気になったが、来るなら龍二以上の事は無いだろうしと、重くなった自転車のハンドルを操作しているうちに気にしなくなっていた。


微妙な能力で、生きて行けないって言うならほんとに養ってやってもいい。


なんて、よく考えたら相当気持ち悪い事考えてたって喉がイガイガして、わざとらしく咳払いをした。


家に帰ってから、数十分で修造が家に来た。


乾杯したら、龍二の事と飲み会は龍二の激励も兼ねてる事を話そう。


家に来た時から、修造は珍しく焦った顔で話を聞いてくれと、とにかく自分が自分が状態。


微妙な能力だけで何をそこまで焦るのかとまた苛ついてしまった。


…今日は少し苛つきが溜まってのだ。


不貞腐れたように乾杯をしてきた修造に、龍二が特殊組織に入ること、スーパーの女性店員の事も併せて爆発してしまった。


能力を付与された時は、最高の一日だと思った。


とても良い気分だった。


それを修造にはさっきまで良い気分だったなんて言い方をして、自分は良い能力貰って如何に幸せかと自慢してしまう。


「僕は能力を貰ってない」


いくら意地を張ってても、そんな嘘を付くような奴じゃないのはわかっていたから、すぐに本当なんだとわかった。


焦ってた理由はこれだ、と。


でも、色々引っ込みが付かなくなった。


友人の話も聞かないで、威圧的な態度を取って、たくさん嫌味を言ったのだ。


「しょうもない嘘を付くな」


もっと引っ込みが付かなくなった。


こいつを意地っ張りと思っていたが、俺も相当だと。


そう言えば、こういう時にいつも止めてくれたのは、あいつだったな。


修造が能力を貰えなかった事、龍二が特殊組織に入るくらいの能力を貰ってしまった事、俺が良い能力を貰った事、全部が悪く噛み合ってこうなってしまったんだ。


「くれよ」


修造が襲ってきた時に、しょうがないとか、しょうがないんじゃなくて俺が悪いとか考えた。


クビに噛み付かれた時に、抵抗すれば、間に合ったかもしれない。


それでも、一日で友達を二人も失うのは耐えられそうに無かったから、俺は食べられるのを耐える事にした。



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