1-2 成人式
「成人を迎えた皆様、本当におめでとうございます。尽きましては、能力の付与に移らせて戴きたいと思います」
モニターに映し出された世界能力開発機構日本代表、日本の実質的トップ、多摩正義。
この老人の一言で式場がざわつく。
これから自分の人生が決まるのだから無理もない。
先ほどまで派手な格好をして騒いでいた男が静かにしていたり、おとなしそうで見た目通りおとなしくしていたやせ型の眼鏡の男は、目を見開いて何か喚いている。
人生決定が怖いのか化粧を崩して泣く女、それを片手間でなだめて人の心配をしている暇がない友達の女。
インターネットで何度も不思議な空間になるなんて体験談を見て「面白そう」と思っていたが、いざ目の当たりにすると楽しむ余裕も無く、ただ異様な雰囲気に身体が支配されて、地に脚が付いていない状態が続くばかりだった。
「代表者、前へ」
「はい」
式場のノイズで聞き取りにくいはずだが、響くような鋭い声は中段の席に座る僕にも届いた。
高そうなスーツに身を包んだ高身長の男が緊張する素振りも無く、壇上へ上がっていく。
壇上に上がりきり、やがてマイクの前まで行くと成人代表者としてスピーチを始めた。
内容は自分の父親が良い能力だから家庭は幸せ、そんな父親を尊敬していて、皆様の前で良い能力を手にいれて、一族を繁栄させて行きたいという金持ちにありきたりなものだった。
内容はどうであれ、大勢の前でスピーチし、能力の付与を一番に勝手でる勇気は凄い。
僕にはまず真似できない。
「では、腕を出してください」
市長が合図をすると看護服に身を包んだ女性が、代表者の男の腕に注射し、液体を注入していく。
行為中も特に男に異変はなく、遂に全部入れ終わり針を抜いて消毒液を染み込ませたガーゼで注した所を軽く拭く。
拭いてから代表者の男は暫く動かなかった。
ただ顔色だけはみるみる青くなって、尋常じゃない汗を流している。
僕の席からでも分かる程に。
「嘘だ…この僕がこんな…」
「どうしましたか?貴方の能力はなんですか?発表をお願いします」
「嫌だぁ!僕を誰だと思ってる!?千代田財閥の御曹司だぞ!?…嘘だ嘘だ嘘だ!」
「しょうがないですね。解析者。彼の能力を教えてください」
能力は注射を打たれると、自分で理解できる。常識だ。
彼は、よほど気に入らない能力を手にいれてしまったのだろう。
壇上に上がっていく彼の姿からは、想像できない到底かけ離れ乱れた姿があった。
代表者は、一早く能力を付与される代わりに、手に入れた能力を余興として発表する義務がある。
仮に拒否しても人間の能力がわかる能力者によって発表を止める事はできない。
但し、数例のイレギュラーとして国単位で極秘にすべき能力が代表者に当たった時は発表が中止された事があるらしい。
世界能力開発機構、日本代表の多摩正義もその一人というのは余りにも有名な噂だ。
実際、彼の能力を知る人は居らず、ネットでは様々な憶測が飛び交っている。
「わかりました。彼の能力は『種から育てたお花がちょっぴり綺麗に育つ能力』です。大切にしてください。皆様、盛大な拍手を」
「ああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
式場から拍手と笑い声と哀れみの言葉が壇上へ注がれた。
可哀想だったが、自分じゃなくて良かったと心底思った。
最低もいいとこ。最低中の最低の能力だ。
わざわざ能力にしてくれなくても努力で補えてしまうのだから。
あそこまで酷いのは無いだろう。
普通の能力で普通に就職して人生を終えるんだ僕は。
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「既に能力をお持ちのようですね。ご存知とは思いますが2回お並びになりましても付与できる能力は御一人様に一つとなっています」
「は…?いや、まだ、あの始めて並びましたけど」
「そういう方は毎年いるんですけど。解析者が居ますので。バレますから。後にも並んでるのでもういいですか」
「じゃ、じゃあ僕の能力はなんですか!?」
「自分でわかってる癖に。ちょっと見てあげて、それで満足するでしょ」
「ん~モヤがかかってうまく見えないです。まだ発現してない可能性があります。それで自覚できていないのでしょう」
「あー能力の発現には個人差がありますので、どうしてもと仰るなら後日、機構に問合せください。検査致しますので。もう宜しいですね」
「……」
僕の人生は、あの代表者の男以上に終わりを告げた。
呆然と立ち尽くしているとケータイの振動が僕をハッとさせた。
友人からだ。
約束していた、能力の発表会。
乗り気にならず断ると、既に友人のもう一人が断ったらしく、一人じゃつまらないとダダを捏ねられ、遂に折れた。
元々約束していたし、友人なら僕の話をちゃんと聞いて、解決とまでは行かなくても一緒に悩んでくれると思ったから。
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次の日、機構から電話で呼ばれ、検査を受けると能力が発現していた。
自分でも能力がある事を理解をしてたので当然だった。
昨日遊んだ友人の持っていた能力を。