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僕は食べて強くなる。  作者: 箸野不仕付
第一幕 孵化する蟲達
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1-1 能力主義世界

物心付いた時、僕は小学3年生だった。

それ以前の事は全く覚えていない。


通常、物心が付く年齢は3から4才と言われていて、その倍の年齢でも兆しを見せない僕は、世間から発達障害、記憶欠乏症等と言われて月に一度特殊学級に通っていたらしい。


つまり僕は、小学3年生、年にして9才になるまで脳が未発達で物事を記録することができない正真正銘の獣だったのだ。


物心が付いたのも母親が目を離した隙に外に出て、半日迷子になって、帰ってきてからだった。


迷子の内容は分からない。自分が迷子になって傷だらけで帰ってきたという事実が僕の記憶にある一番古い思い出なのは確かだ。


その時、同じ市内で同じくらいの年の男の子が遺体で見つかったニュースが流れていて、本気で心配したという両親の昔話も飽きるほど聞いた。


医者は危険な環境下で身を守る為に本能的に呼び覚まされたと、まるで漫画の主人公のような事を言っていた。


実際に物心の付き方は、そういうものらしい。食物連鎖の頂点に君臨する人間は他の動物に比べて、圧倒的に安全な環境で育つ為、通常の3から4才でも遅い方なのだとか。


皮肉になってしまうが、僕は母が目を離したおかげで獣から人間になった。



「胎児の時の記憶ってある?」

「あーなんか、ゆらゆら水に浮いてる感覚ってあれ?」

「そうそう。俺は無いんだけどさ、お前らある?覚えてると天才の可能性があるとか無いとか…」

「じゃあ、ある」

「じゃあってなんだよ。嘘つくな。お前程度が覚えてるなら俺はお前の10倍覚えてる」

「あーそういうのいいや。長くなる。修造は?」

「僕さ、実は覚えてる」

「マジ?赤い部屋で温泉入ってて、紐で遊んでたって?」

「いや、そんなんじゃなくて…」


僕の物心付く前の唯一頭に浮かぶ映像。


緑がかった暗い場所で、とにかくウネウネと動いていた。


僕自身も、僕の周りも、とにかくウネウネ動いていた。


なんとなく勝ち残るという強い意志がそこにあった気がする。


内容を話すと二人の笑い声が響く。


「下ネタ?それ胎児じゃなくて精子の話だろ」

「お前そんなキャラだっけ?急だったから笑っちまったわ」


二人の言葉を理解するのと、熱を帯びた恥ずかしさが足の先から昇ってきて、僕の顔を真っ赤にするまでには時間は掛からなかった。


「ち、違うよ!マジなんだって!本当!」

「まさか今までのキャラを違うと全力で否定するとは…」

「お前がマジで本当に精子の話をしてたのは伝わった」


これ以上言っても火に油と、今堂々と遅刻している授業に行くために荷物を整理して、食堂の席を立つ。


友人二人は、少しやりすぎたかな?なんて顔は一切せず、変わらずニマニマと憎たらしい笑みを浮かべている。


いいのだ。僕も本気で気を悪くしている訳じゃない。


ここまでが僕達のパターンなのだ。


「あ、明後日の成人式、忘れんなよ。忘れたらニートだぞ」

「夜に能力発表会飲み会なー」

僕は返事の変わりに右手を挙げてヒラヒラ動かす。

「「ダッサ!!」」


いいのだ。ここまでが僕達のパターンなのだ。




日本名、世界共成人類能力開発式。何処の国でも、どんな人間でも、世界共通の法律として定められている人生一回の大イベント。


通称成人式。


満20歳の日本時間だと1月9日に、全ての人間が様々な能力から一つランダムで付与される。


小さなものだと、自身を含めて触れた物の温度を体感上げる能力。


大きなものになると土を鉄に変える能力などがある。


この制度が導入される以前は、能力が大規模な犯罪に利用される事が懸念されたらしいが、犯罪をするのは弱い能力を与えられ自棄になった人が大半で、そこらにいる自分より強い能力を持つ人があっさり無力化するケースが多く、最終的に犯罪率も導入以前より低下。


凶悪な犯罪を可能とする戦闘能力を持つものは、その大小によって治安維持組織、自衛組織、特殊組織に振り分けられ、高額な給料と国による厳重な監視下にある事が犯罪率低下の背景として存在するらしい。


また、ランダムの能力によって収入が変わるようになった事で、上流階級の子供が上流階級に居座り続け、下流階級の子供が下流階級に留まり続ける負のスパイラルも一部改善。


他、様々な社会問題も解決に向かっているとして、国ないし世界の管理の下で能力至上主義世界へと移行。


核による均衡から能力による均衡へと力の性質は変化を遂げた。


その待ちに待った成人式が明後日に迫るとして、天国か地獄か訪れるはずの祭典に、僕だけがどちらにも行けずに取り残された。


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