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僕は食べて強くなる。  作者: 箸野不仕付
第一幕 孵化する蟲達
12/24

1-11 第一部隊

「辞めろ保谷!二人が許しても俺が許さん!俺が殿を務める!」

「隊長。俺がそれをやらなきゃ壊滅しますよ」

「なんだと!?」

「保谷君の言う通りだ。あの翼…増幅でかなりの機動力を持つはずだ。加えて邪炎も持つとなれば…」


分かってはいた。俺が奴の前に立ちはだかっても、なんの壁にもならない事。


「義弘ぉ。おめぇは隊を壊滅させてぇのか?おめぇの立場は、役割はなんだ?…どうせ女房子供に逃げられた身、死に方と死に場所くらいてめぇで選ばせろ」

「…勝算はあるんですか」

「増強と増幅は足し算じゃない。掛け算だ。増幅で上がった力に増強を掛ける。隊を逃すくらいは粘れるはずだ」


全ては自分が招いた判断の末。誰よりも尊敬する二人を贄にする役割を押し付けてしまった。


あの時決めたじゃないか。二人が死ぬ処が俺の死に場所だと。


「…わかりました。貴方が言うなら間違い無いんでしょうね。但し条件があります。保谷君。俺も殺すんだ」

「おめぇは俺の話を聞いてたか?隊長なら隊を守ってなんぼだと…」

「だからですよ。あいつと違って戦闘経験までは奪えないでしょ。それなら能力は一つでも多くあった方がいい。隊を逃がせる確率も跳ね上がるでしょ」

「いいんですね隊長」


俺をここまでの男にしてくれた二人と共に。


「あぁ。その代わり、絶対に隊を逃せ。自衛組織大佐と中佐、特殊組織第一部隊長の(たま)を取るんだ。その責、果たせよ」

「任せてください」


「お前…。クソ餓鬼が暫く見ないうちに隊長らしくなりやがって」

「これで遂に卒業ですね」


目の前の肝の据わったクソ餓鬼の能力になるなんて死に方も酔狂じゃないか。


》》》


俺は特殊組織入隊時、手が付けられない悪ガキだった。元々地元で番を張っていた俺は、本来人を守る為の能力を良い道具(おもちゃ)くらいに思っていて、自分の力を誇示する為に使っていた。


当時はまだ物珍しかったタイプの能力で鼻につく奴を片っ端からぶっ飛ばしていた。そうしてりゃ認められるはずだ。地元の奴等はそうしてりゃついてきた。


「あの新入り…立川だっけ?どうよ。あいつ」

「ありゃ駄目だ。手に負えねぇつって流れ者の荒くれ集団で有名な第一部隊に配属だとよ」

「あの一年前新設されたって少数特攻部隊の?能力だけが取り柄でエリートコース乗ってたってのに、勿体ねぇ馬鹿もいたもんだ」


「…」

待っていたのは、孤立だけだった。面と向かって俺に楯突く奴は居なくなった。普通に話しかける奴も居なくなった。特殊組織入隊の代償として地元の友達を失った。特殊組織の関係も失った。


寂しがり屋のクソ餓鬼だった俺は、社会というものを知らなかった。クソ餓鬼がただクソダサい事をしているだけだったとわかった。


それでも今更仲良くやりましょうなんて言える程、俺は大人じゃないし器用でも無かったのだ。


「今日から第一部隊に配属になった立川義弘君でーす。おめぇら仲良くしてあげてくださーい。ハイ。連絡終わり」

「強さ試しなんて称した喧嘩も良いけど、その後にはしっかり仲直りすること。いいですね」

「…俺ぁ仲良くする気なんてねぇぞ。俺より弱ぇ奴と仲良くなんてできっか」

「それなら全員仲良く出来るな。よろしく義弘」

「そうですね。よろしく立川君」

「…どういう意味だ!てめぇら!」

「全員てめぇより強いって事だよ。クソ餓鬼」

「そういう事ですよ。クソ餓鬼」

「ぶっ飛ばす!!」


俺は人生で初めて、特殊組織に入って初めてコテンパンにされた。コテンパンにされたのは身体だけじゃない。本気で向かったのに、手を抜かれて動けない程度にボコボコにされた。小さいプライドまでコテンパンにされたのだ。


聞こえてきたのは笑い声だった。それでも今まで聞いてきたクスクスと嘲笑う陰湿な笑い声じゃなかった。豪快な笑い声。友達(つれ)と酒の席で談笑した時のような軽快な心地よい笑い声。


その笑い声から一本手が伸びてきた。


「青梅隊長と昭島副隊長に喧嘩売るなんざ、お前、並みの神経で出来ることじゃねぇぞ」

「…ムカついただけだ」

「まぁ副隊長じゃ相手が悪いぜ。なんせあの人は鬼みたいに強いからな。ほら早く手を取れ」

「自分で立てる」


背中に強めの掌が飛んでくる。副隊長…昭島さんだった。


「だったらさっさと立ち上がれ。歓迎会だ」

「歓迎会だ?そんなもんやるか」

「言ったでしょ。自分より弱い奴とは仲良くならないって。言ったでしょ。喧嘩の後は仲直りって」

「仲直りって元々仲良くした覚えはねーよ!」

「なら俺より強くなったら仲悪くてして良いから、それまで仲良くしよう」

「…」


第一部隊の奴等は、陽気だった。飲み会の席でしょうもない事で殴り合いの大喧嘩。収まると今度は、さっきの喧嘩が嘘のように肩を組んで飲み始める。


ぶっきらぼうな俺にも正面から向かってきてくれる。そんな部隊にしたのは青梅さんと昭島さんの人柄だと気付いた。


俺が第一部隊に溶け込むのにそう時間はかからなかった。俺は能力が国を守る為のものに変わり始めたのもこの頃だった。


力の使い方や仲間との連携を覚えた俺は、頭角を現し、能力と相まって切り込み隊長という副隊長に次ぐ部隊のNo.3まで登り詰めたのだ。


そのお陰で誰よりも近くで青梅さんと昭島さんの戦いを見れた。仲間も年上だ年下だ関係なく、俺を認めてくれた。


青梅さんと昭島さんを中心に第一部隊は功に功を重ねて気が付けば、第一部隊は特殊組織最強の先鋭部隊としてその座を確たるものにした。


国外からは『霧隠れの本隊』なんて異名で呼ばれた。援軍のはずの第一部隊が本隊を押し退ける勢いで敵を制圧する様からついた異名。そのせいか今まで蔑んできた特殊組織内からは賞賛の嵐とその影に隠れた妬みの声が飛び交った。


突如として青梅さんが自衛組織大佐、昭島さんが自衛組織中佐に任命される事になった。任命と言えば聞こえは良いが、特殊組織の格下組織である自衛組織に配属する事自体左遷と同義なのだ。


それに功績を挙げに挙げている第一部隊の隊長と副隊長なら将来の特殊組織幹部は必至。表向きな理由は第一部隊の改革、より一層の活躍の為の再編成として(ふる)い能力から新しい能力を持つものを主体にするというものだったが、その実は活躍を妬んだ他の部隊長が結託し、左遷の手引きをしたと言われている。


「納得出来ません!隊長と副隊長が左遷なんて!」

「滅多な事でけぇ声で叫ぶんじゃねぇぞ義弘。別の形で国を守るってだけだ」

「でも、そしたら誰がこの隊を率いていくんですか!?」

「お前しか居ねぇだろ」

「無理ですよ!俺なんかがこの部隊の隊長なんて…」

「大丈夫。お前は優秀だ。俺達の戦いを一番近くで一番長く見てきただろ」

「…」

「クソ餓鬼だったお前が根性だけで立派になったんだ。隊員もまだ見ぬ隊員も全員お前についていくさ」

「ハハッもう俺はクソ餓鬼卒業出来ましたか」

「馬鹿言うな。俺達の前じゃおめぇは一生クソ餓鬼だ」


俺は誓った。二人と共に戦って死ねる男になろうと。隊員達の為に死ねる隊長になろうと。


俺が死んでも部隊が残れば、続いていくはずだ。


この人達が作った第一部隊は。


》》》


「お前ら全員殺してやる!糞親父ぃ!!」


修造は自分の食べ残した残骸に夢中で食らいついて、忠彦に殴られて歪んだ頰を再構築していた。


その後、必要以上に空高く上がり、増幅で体重を増加。重力で急降下するという青梅がやった事を見真似たものだが、落ち切る前に体重を元に戻して、翼を広げて滑空するという一点のみ青梅のものとは違った。


右手に邪炎を纏い、恐ろしく速いスピードで突っ込んでいく。


「「さぁやれ!保谷!!」」

「…修造を止めてくれ」

「はい!!」



僕が貫こうとした戦闘できる三人は、手に貫く感触を覚える前に膝から崩れ落ちた。


その代わりに僕の目が捉えたのは、邪炎で強化されたはずの手を目を背けたくなる程眩しい雷光を纏った右手とその手の持ち主、保谷の姿だった。


でもこれは立川とかいう大柄の男の能力だったはずだ。それも火花ならともかく増幅で強化された邪炎を軽く受け止める程の能力だったか。それなら何故距離を取っていた。


「驚いたって顔してんな修造。地獄耳で聞く余裕もない程効いたかよ。親父さんの一発は」

「保谷の皮被った化け物か?」

「こっちの台詞だが、そうかもな。お前が成虫()なら…」


保谷は、手を振り払う。邪炎で相殺出来ていたからか、痛みはなかった。しかしその威力で僕は靴が磨り切れそうな勢いで後ろに滑る。咄嗟に飛んで摩擦(ちから)を逃した。


「俺は幼虫(ボーフラ)だ」

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