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その境界の先  作者: nao 11
16/63

~剣と盾~ 3

 空が白み、辺りを夜明け独特の澄んだ空気が満たしていく。幸い俺達が襲撃されることはなく、無事に朝を迎えることができた。

 「流石に、ちょっと眠いか……」

 「夜中から朝までだからね。おはよう竜一君」

 「兄ちゃんおはよー」

 瞼が重いが、無事に夜を過ごせた方が大きいか、俺は目を擦りながら起きてきた面々に挨拶を返した。ここからバルカニアまでは半日程度らしい、昼頃までにはこの国の首都に着ける訳だ。テントと野営の跡を片付け、長居は無用と出発の支度を整える

 「では行こうか、野営を済ませたし後は余裕の行程だね」

 「じゃ、厄介事に巻き込まれないようさっさと進もうぜ」

 再び馬車に乗り込み、揺られながらバルカニアに着くのを待つ。夜中の見張りのせいか、振動が酷い馬車にも関わらず俺はぐっすりと眠り込んでしまった。そして肩を揺すられ目を覚まし、座ったまま寝たせいでバキバキに痛む体を伸ばしていると、俺を起こしたニーナから外を見る様に促される。

 「見てごらん、あれが我らがバルカニア。ボク達が守る、この国の中心さ」

 「すげー! 初めて見た!!」

 「でけぇな…… 真ん中のは何なんだ?」

 動いたままの馬車は小高い丘を通っていた。その場所から見えたのは、そびえ立つ塔とその下の城、そしてそこから広がる城下町。これまで寄って来た町とは桁が違う。流石は首都と言ったところか。

 「あれは城の一部だよ。ここまで来れば後は1時間くらいかな? 町に入るまでもう少しの辛抱だよ」

 これでとりあえずの目的地に辿り着けた。次は膨大な魔力を持つと推測されるあの銀髪女、手がかりは少ないが該当する人物は少ないはず。どこにいようと探し出す。



 馬車が門を通過し、住居が広がる町並みに入っていく。ニーナのおかげで見張りの門番に顔パスだったのは助かった。検問、とまではいかないがバルカニアに入る者達は長い列を作り、この都市に入る為長い時間を要している。そして町に入った俺は、遠目での印象とのギャップに驚いた。あんな立派な塔や城があり、その周りの建物もさぞ立派かと思ったが、今通過している区域、都市の外周部分の家々は思ったよりみすぼらしい。

 「なんつーか、こんなこと言うのは失礼だろうが、この辺りの家ってよ……」

 「ああ、言わんとしてることは分かるよ。バルカニアは皇帝のお膝元ってこともあって移住者がとても多くてね。だけどそんなに受け入れるだけの家は無かった。だから都市の端から拡大するようにとりあえずの家が作られたんだ。中心に行く程本来の町並みだけど、端は後から作った移住者用の家々だから、どうしても見劣りするのさ」

 「隊長さん、俺もこの辺りに住むのかい?」

 アジリオを抱えたトニーが尋ねた。自分は外から来た人間ということもあり、単純に気になったのだろう。しかし正直なところ、この辺りの町並みはストーラと大差ない。環境としてはあまりよろしくないだろうなと思っていると、ニーナが今後について答えた。

 「君はアジリオ君と一緒に城内の空き部屋に住んでもらうつもりだよ。流石に豪華な住まいとは言えないし、城の出入りには制限もあるけど、この辺りよりは随分マシだと思うよ」

 どうやら以前話した通り、生活の保障もしてくれるらしい。これなら多分大丈夫だろう。俺は一安心し、待遇を聞いて目を輝かせるトニーに喋りかけた。

 「これで大丈夫だな。落ち着いたらピクシーにも会いに行ってやれよ?」

 「うん! もちろんさ!」


 城の目の前の広場、円形の綺麗に整備されたその場所で俺達は馬車を降りた。間近で見る城は豪奢と言うより無骨で堅牢と言った表現がしっくりくる。そんな城を背景に、一人の女が立っていた。銀の長髪、騎士のスーツに黒いロングコート、右腕にはその長身のほとんどを隠せる装飾のされた巨大な盾。だが何より驚いたのは、その顔があの日見た銀髪女にそっくりだったことだ。

 「……おいニーナ。あいつは誰だ?」

 「? おやシリウスちゃんじゃないか、こんなところで珍しい」

 やぁやぁお疲れ様と、ニーナが歩み寄って行く。名前を知っていてお互いに話しているところを見ると知り合いらしいが、風体を見るに隊長だろうか。ニーナと話しながらも、時々こちらに視線を送るその顔はひどい無表情だ。

 「……あんた、どっかで会ったことはないか?」

 「貴様の様な無礼者と会った覚えは無い」

 近づいて話しかけると気に障る返事が返ってきて随分気の強い印象だ。あの時会ったあの銀髪女とはかなりギャップがある。奴はもっとこう、無表情というか無感情といった感じだった。とても似ているが、どこか違う。だが無関係という線は薄いだろう。俺は駄目元で核心に触れてみた。

 「そうかそれならそれでいい。もう一ついいか? あんたは世界を越える様な魔術を使えるか?」

 「……私はそんな物使えぬ。今度はこちらの番だ、貴様が“黒騎士”か?」

 “私は”使えないか、何か情報を持ってるな。しかし“黒騎士”? まぁ力を使った時は一部が鎧っぽくなるが、騎士かと言われると随分物足りないような気がする。何を指して“黒騎士”とするのかは分からんが、ここは信用を得る為にも正直に答えておくか。

 「その“黒騎士”ってのがなんなのか分からんが、鎧っぽく腕が変化する力は使える」

 「竜一君はボルトさんの報告にあった彼だよ」

 「そうか、ならば単純で助かる」

 その言葉の後、俺は突然向けられた巨大な盾に殴られ吹き飛んでいた。盾の面で殴るのではなく、地に向けられていた切っ先を刺されるように叩き込まれ、不意に襲われた抉られる痛みに悶えながら地を転がったのだ。

 「がっ…… はッ……! いきなり何しやがる!!」

 「人の真似をした紛い物が、この街と城に穢れを持ち込むことは許さん」

 「おっと、これは、不味いなぁ」

 ニーナはトニー達を連れて城へゆっくりと入って行く。ニーナはともかくトニーやアジリオが巻き込まれるのは不味い。ここはむしろ直接追及できるいい機会が出来たと思っておくか。やられっぱなしも性に合わないしな。

 「そっちがそのつもりならこっちも力づくでいくぜ。嫌でも話してもらうぞ」

 「貴様の益になる情報など吐かぬ、ここで潰えろ」

 相変わらず無表情で無愛想な顔で癪に障るセリフを吐きやがる。気に入らない女だが、ようやく見つけたかもしれん手がかりだ。ここでただやられて終わるつもりなんてねぇんだよ。

 「やるぜ、コネクトッ!!!」

 「私はボルトの様に甘くはないぞ。マギナイト兵装起動」


 相手にすると改めて実感するが、盾というのは凄まじく厄介だ。思い切り剣を振り下ろしても傷一つ付かないばかりか、弾かれる振動で腕が痺れて逆に攻められている感覚すらある。小さい盾なら弾いて腕や体を斬ることもできるが、これだけの大きさでは弾くどころか攻める隙間すら見えない。

 「力任せ、まるで獣だな」

 「そんな物持ってる奴に脳筋呼ばわりされたくなぇな! そこまで言うなら賢い戦い方を見せてみろよ!」

 盾でのバッシュ、チャージ、パリィ、織り交ぜてはいるが盾での戦い方なんて自然と限定されるものだ。だが払った後の隙に斬り込もうとしてもバックステップで距離を離される。自分の装備の間合いはしっかり理解しているらしく隙をカバーする動きで立ち回るが、それは攻めの機会を手放すものだ。お互いにガンガンを剣と盾をぶつけ合うだけで決定的な一撃を加えることができない。このままだと攻めている分スタミナ切れでこっちが負けるか。なら一発に賭けるしかねぇな。

 「ほっ、これでどうだ!」

 「! その程度、甘いわ!!」

 一度盾を斬りつけて構えさせ、俺は盾の上部を支えに飛び上がり奴の頭上を飛び越す様に後ろに回り込んだ。だが盾の防御が間に合わないと思って斬り掛かろうとした俺は、盾の切っ先をぶつけられ何かの炸裂音と同時に再度吹き飛ばされていた。そして裏に回ったことで、その盾の構造が見えた。一瞬見えた盾の裏側、その中心には太い杭が隠されており、盾自体が杭打機になっていやがった!!

 「がっ!! なんだそりゃ!? お前の方がよっぽど脳筋じゃねぇか!!」

 「これはこの国を護り、私の信念を貫く兵装。貴様のなまくら如きでは傷つけることも防ぐこともできはせぬ」

 さっきの炸裂音、何かを噴出して杭を撃ち出したのか。顔を庇った左腕がへし折れたかと思う程にズキズキと痛む。もう左腕は剣を握れないか、だがそれでも退きはしない。情報を掴むまで絶対に倒れるか。

 「無駄なッ…… 足掻きをッ!」

 「無駄かどうかは俺が決めるッ!!」

 先程までの戦い方にパイルバンカーが加わり、まるで大砲の様な衝撃が顔を掠めていく。喰らえば洒落にならんが、どうやら連発はできないらしい。一発一発の合間を狙い斬り込んでいくが、片腕の分押しが足りない。それにどうしても太刀筋が単純になってしまう。どうしても届かない、そんな焦りが悪い流れに繋がる。

 「それでは足りん!!」

 「ぐっ!? クソッ!!」

 振り下ろした隙を狙われ、逆にパイルバンカーを撃ち込まれてしまった。辛うじて剣を振り上げて腹で受け止めようとするが、その剣は呆気なく砕かれ凄まじい衝撃が腹を襲う。

 「咄嗟に防いだか。だがそれでは戦えまい」

 「畜生がッ…… 俺は……」

 吹き飛ばされた先で見下ろす奴を睨みながら、俺は意識を手放した。


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