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とりとめのない世界の話

 初の短編です。

 あたたかく見守ってください。

 

 日が沈みかけている夕暮れ。

 

 そんな心躍る時間帯に僕は高校の部室にいる。

 

 一見すると殺風景とも見える狭い部室の中は、よく見るとそれなりに物が置いてあったり散らばったりしていて一概に殺風景とはいえない空間となっている。

 部室の中央には少し大きめの長方形のテーブルが置いてあり、それを囲むようにして学校の椅子が四つ並べられている。その椅子のうちの一つに僕は今座っている。

 

 僕が何をするでもなく椅子に座っていると、ふいに部室の扉が開いた。


「まだいたんですか、部長」


 部室に入ってきた女生徒は、僕を一目見てそんなことを言った。


「うん、ここから出られないんだ」


「…はあ」


 僕の返答にただそう一言返すと、彼女は僕とはテーブルを挟んで対角線上に位置する椅子に座ると、鞄から文庫本を取り出し、テーブルの上に置いた。


「表と裏ってさ」


「はい?」


「表と裏ってさ、誰がどういった判断でどういう風に決まってるのかな」


「はい?」


「たとえばさ、日本の硬貨では絵が描かれている面が表で、数字の面が裏だっていうでしょう?」


「はい」


「じゃあ、テーブルの上に数字の面が上になった硬貨が置いてあるとするじゃん」


「それは確かに硬貨が裏返った状態でテーブルの上に置いてあるということになる。だけど僕には裏面の硬貨が表を向いてテーブルの上に置いてあるんだと思うんだ」


「…はい」


「君の名前は何だっけ」


「忘れたんですか?」


「ううん、忘れてない」


「つまりさ、僕からすれば裏面が表になってて表面が裏になっているんだよ。そうしたら、表が裏で裏が表ってことだろう? そう考えると、その硬貨は本当にテーブルの上で裏になっていると言っていいのかな?」


「…表も裏も決めるのはその人の認識次第って言いたいんですか?」


「黒はさ」


「…はい」


「黒は何でも塗りつぶすからずるいんだ」


「そうなんですね」


「だから白とパートナーを組んでいるんだ」


「白は黒に塗りつぶされないんですか?」


「塗りつぶされるよ? でも白はなんでもないから。無から有に変わるのは世界の理だから」


「他の色が白を塗りつぶすのも世界の理なんですか?」


「世界の限界を画定させるには、世界の意義が世界の外になければならないとした人がいる」


「ウィトゲンシュタインですね」


「でも僕の世界は僕の中にあるんだ」


 彼女は何も言わず僕の話を聞いている。


「僕の世界は考えることからできているんだ」


 思考を止めれば


「だから思考を止めれば僕の世界はなくなる」


 だけど暗闇


「でも考えれば考えるほど僕の世界はどこまでも暗闇であることがわかるんだ」


「暗闇に出口はないんですか?」


「本」


「…はい」


「本、読まないの?」


「読んだほうがいいですか?」


「もうすぐ世界が落ちてくる」


「世界がですか…」


 彼女はしっかりと僕の話を聞いてくれている。


「うん。だから出られないんだ」


 外の世界が暗闇につつまれていく。

 その闇は僕を狙い済ましたかのように迫ってくる。

 目の前の世界は真っ黒暗闇で、どこまでも黒で塗りつぶされている。そこに白は見当たらない。そしてその世界には裏も表もなくて、暗闇の空間の中で僕は一人ぼっちで漂うことになる


 僕の見ている君は皆から見ても同じなのかな。僕という存在はちゃんと皆から認識されているのかな。認識するものは認識されるものを認識して認識の枠をでることなく認識しているのは自分もまた認識の枠を出ることなく認識されているからで、アイスクリームといえば冷たくてそれは冷やしているからで、冷たくないアイスクリームは冷やしていないからだけどそれもアイスクリームであることには変わりはない僕は男。左と右は半分で裂けるように避ける食いしん坊の熊を狩るうさぎ。ティッシュを結んで開くのは黒い僕らの七変化。余ったジャムはクッキーにつけて食べて胃の活動と心拍数の関係。だけど―――――。





「だから出られないんですね」





 どこまでも僕一人で漂っていた暗闇の世界に、もう一人。



「部長は自分の世界が嫌いですか? 私は部長の世界、嫌いじゃないですよ」



 気づけば目の前はすでに暗闇ではなくて、外は相変わらずの夕暮れ。



「僕の思考はおかしいのかな?」


「おかしくないですよ」



 

 僕の質問に彼女は微笑みながらそう答えてくれる。


 僕の話をいつも聞いていてくれる彼女。


 それだけで僕は世界で一人ぼっちではなくなった。



 いままでとは違ったジャンルに挑戦してみました(汗)


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