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高田わたるは勇気をだした

 高田わたるは異世界へと転生するはずだった。確かにするはずだったのである。しかし、しなかった。

 なぜそのようなことになったかは、あえて考えないようにしよう。この世界は奇蹟の連続でできているのだ、などという薄ら寒い結論をださぬように。


 その後の高田わたるはガソリンスタンドでアルバイトをはじめた。高校卒業後、家を出て上京しようと思い立ったからである。運転免許を取得するか上京するかで迷ったが、大きく環境を変えることを望んだようである。

 人見知りで臆病な高田わたるにとってガソリンスタンドの業務自体も辛いものだったが、なにより辛かったのは1つ年下のアルバイト、山中あきらを中心とした同僚たちの苛めであった。

 もう辞めてしまおうかと高田わたるが思いはじめた時、なにやらわけのわからない改造を施したオートバイに跨がった内田ゆうやが客として来店。高田わたるがそこに存在していることがなぜかとても嬉しかったようで、親愛の情のこもったちょっかいをしつこく敢行する。高田わたるにとっては同僚たちの苛めとそう大差ないものであったが、同僚たちの目にはそうは映らなかったらしく、以来、苛めはぷっつりと途絶えた。


 高田わたるのここ最近で一番の衝撃は、白石つぐみと加藤かずひこの交際であった。

 その事実を遠藤けんじから知らされたときは、天地がひっくり返るほどのショックを受けた高田わたるであったが、高田わたるの口からでた言葉は「ふうん、関係ないね」であった。遠藤けんじは悔しそうに「ちくしょう、よくもおれのつぐみんを、リア充爆発しろ」などとわめいていたが、高田わたるは白石つぐみが爆発してしまったらもっと悲しいだろうな、と思った。


 あの日以来、ひとつだけ変わったことがある。高田わたると白石つぐみが毎朝挨拶を交わすようになったのだ。


 勇気をだしたのだ。高田わたるが。なけなしの勇気を振り絞ったのだ。高田わたるが。実行しようかそれともやめようか、迷いに迷った挙句に白石つぐみに、自分から声をかけたのである。

「つぐみ、おはよう」

 声をかけた瞬間に高田わたるは後悔した。白石つぐみが戸惑っているようにみえたからである。事実、白石つぐみは戸惑っていた。

 きょとん、とした後、シマリスのような目をぱちくりさせて、その後、白石つぐみの顔にみるみるうちに笑顔が広がっていった。

「ええー? なになに? わたるからおはようなんてどうしたの? 超めずらしー! びっくりしたー!」

 あはは、と笑いながら白石つぐみは高田わたるの背中をばしばしと、力強く叩くのであった。ばしばしと、何度も叩いたのであった。




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