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Winter 後編

前編の続きです。

列車の中で青年は仰向けになっていた。

冬の厳しい寒さを帯びた風でガラス窓が揺れる音や、列車の音は耳に心地いい。

青年は少し破けた上等そうな服を手で固く掴みながら自らに問いかける。

俺は、誰だ。

目が覚めたとき、冬にもかかわらず布一枚に包まれ川岸に打ち捨てられていた。

思い出そうとしても、何も浮かばない。

起き上がってこれからどうしようかと考えたとき、この格好のまま都会に行けば好奇の目に晒されてしまうだろうということがまず頭に浮かんだ。

なら逆に誰もいないようなところへ行けばいい・・・・・・通りすがりの馬車に乗っていた男から力ずくで服を奪った。

・・・・・・そこまで考えて青年は苦笑する。

何故か、惨めだとは思わなかった。

ふと視線を横にずらすと、誰かのため息が聞こえた。

少し興味がわいたので声をかけてみる。

「これが底辺というものか」

それはなんてことない、青年の空っぽの心の中の本音だった。

その誰かは咳き込むような変な音を何度か漏らした後に、それに応えてくれる。

「・・・俺、なんか・・・まだ・・・マシ、だ」

少しだけ月の光が射し込み、目が合う。

眼球の動きが何かおかしかった・・・・・・しかし青年はそのボロボロの衣服を見た瞬間、空っぽの心に何かが積もった気がした。

「例え君にはそうだとしても、私にはこれが底辺だよ」

それは嘘偽りでもない、青年のほんの少しだけ積もった心の中の言葉だった。

少年は何も返さない。

もう少し話してみたいな・・・・・・という想いを何かまた思い出しそうな予感と共に膨らませたが、変に関わってはいけないという不思議な予感にそれを萎ませる。

ガタガタと大きな音をして更に列車が揺れた。

どうやら橋に差し掛かったらしい。

焦らなくてもいいだろう・・・・・・夜はまだ長い。



本当にありがとうございました!

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