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情報交換

「なんだこれは?」

森でドラゴンの死体を確認したロバートは呟いた。

確かにドラゴンは彼らの目の前で死んでいる。だがその死に方が問題なのだ。

ドラゴンはまるで爆発したかのように内側から破裂していた。ドラゴンの右腕は千切れかかっているのを皮一枚でつながっているような状態だ。周囲には、はじけたドラゴンのかけらが飛び散っている。

1人の騎士が恐る恐るドラゴンに近づく。そして剣を抜きその先でつつく。

みっともない格好だが、誰も馬鹿にする者はいない。

むしろ彼に敬意を示しているくらいだ。


村でレイノールが話したように一般のものにはドラゴンの情報はほとんど与えられなかった。だからその怖さも理解できない。しかし彼らは騎士となったその瞬間からドラゴンの強さを様々なものから伝えられていたのだ。

先輩騎士、上官、隊長、そしてハンナの父でもある戦士長。

その彼らからドラゴンの強さを散々語られ彼らの中でドラゴンは人が太刀打ちできない災害の一種として捉えていた。それだけ恐ろしいのだと刷り込まれていたのだ。

人が太刀打ちできないと、決して勝てないと言われ、災害とまで呼ばれたドラゴンは今その騎士たちの前に骸をさらしている。たった一人の人間の手によってこれがなされたとは到底思えなかった。

まだ、ドラゴンがもう一体現れ、ドラゴン同士で殺しあったとか、神が降臨して倒したとかの方が本当に聞こえてしまう。

もしも目撃したのが別の人物だったら騎士団の人間は誰一人として信用しなかっただろう。

目撃したのがハンナであったからこそ彼らは信用する気になったのだ。



ハンナ・ディーゼルト。戦士長の娘である彼女も優れた身体能力を持っていた。

それはスキル「肉体強化」によるもので、うまく使えば成人男性10人分の力を発揮できる。

しかし彼女には大きな欠点があった。

それは心。

彼女のスキルは彼女の心に過剰に影響される。そのため恐怖や悲しみなどの心の大きな変化によって能力が発動しなくなった。彼女自身も恐怖や悲しみを感じやすかったこともあり、能力は発動しない事がほとんどだった。

ハンナの父は彼女を騎士にしようと鍛えていたがそれを見て、彼女を鍛えるのをやめた。

『心が共あわないのに無理に戦士にしたところで死ぬだけだ』

そう言ったそうだ。

ハンナ自身も自らの心について理解していたため何も言わなかった。しかし彼女は心の中で根深い後悔が生まれた。

自らの心が強ければこんなことにはならなかったと。

彼女は父親が望んだ騎士にはなれない、ならばよい娘になろうと父のために努力した。

その結果彼女は、心優しき戦士長の立派な娘として周囲に理解されるようになった。


彼女は心優しくも彼女は父の名誉を汚すようなことは決してしない、そう言い切れる。

そのため絶対嘘をつくことはない。

そんな彼女が父の名を出してまで断言した。間違いはない。

騎士の一人がドラゴンの死亡を確認し終わっても、ロバートたちはしばらくその場でドラゴンの死体を眺めつづけた。





ロバートたちが村に戻るころには周囲はもう暗くなっていた。建物に明かりが灯り、外にはかがり火がたかれている。

「ご苦労様です!隊長!」

「ああ、留守をご苦労。……変わったことは?」

「いいえ、ありません!」

「そうか」

ロバートはレイナールの顔の擦り傷を見ながら答える。

「何もなかったんだな?」

「…はい」

「わかった」

そう言いレイナールを引き連れドレイルの前に立つ。

そして、

「ドレイル殿、ドラゴンを倒していただき、ありがとうございました」

頭を下げた。

周囲の騎士や、村人たちは驚愕している。

騎士が頭を下げる、しかも騎士団長が下げるというのはそれほどの事態なのだ。

「あなたのおかげでこれから出るはずだった被害も未然に防げたのです。本当にありがとうございます」

頭を下げたまま言う。彼は純粋に感謝しているのもあるが、これほど大きな感謝を示すのには別の理由もあった。

彼はドレイルに少なからずの恐怖を抱いている。それはその強さと素性がわからないことが原因である。

彼自身がドラゴンを倒せるほどの戦闘力を持っていること、あの死体を見た全員が理解している。そんな彼をへたに怒らせるようなまねはしたくないのだ。

それにもし今後何かあった場合、彼と友好的にできていれば、少なくとも更なる問題が発生することはないだろう。

そういう打算も含まれていた。

そして彼らは騎士である。騎士は階級的には上から2番目であるが、国への忠誠度は確かである。

皆、自らを省みず国に尽くす覚悟をしている。

そんな彼ら、その中のトップであるロバートは、彼を敵に回すより味方に引き込む方が国にとって得策と考えたからでもある。だが警戒はしておかなければ。

「失礼ですが、あなたはどこの国の出身で?」

彼は質問する。

「あなたのその髪と目の色。あまり見かけないものでして」

それらしい質問をして情報を少しでも引き出そうとする。

無論、ドレイルも予想していた。与えていい情報、与えてはいけない情報それをわけ、会話を続ける。

「ええ、お話します。こちらもうかがいたいことがありますし。しかし…」

ドレイルは周りを見渡しこちらに視線を向ける村人を目で示す。

「よければ、どこか建物の中がいいのですが…」

「これは失礼をした!」

ロバートはそう言い、近くの建物を借りようと村長の方に向かおうとした。

「それなら、私の家を使ってください」

ハンナがそう言うとロバートはそれでいいか尋ねる。

答えは聞くまでもなかった。



「それでは、お話します」

今彼らがいるのは、ハンナの家だ。

テーブルを囲んで座る者が4人いた。

ハンナ、ドレイル、ロバート、レイノール、だ。

彼らほそれぞれ真向かいに2人ずつ座っている。

ドレイルの正面にロバート。ハンナの前にレイノールだ。

「まず説明しておきます。俺はこの世界の住人ではないです」

「この世界?」

「異世界人、と言って意味が分かりますか?」

「え、ええ。つまりはあなたは国や大陸といった話ではなく、この世界とは違う別の世界から来たということでよろしいのでしょうか?」

「ええ、そうです」

さすがに予想していなかった答えに部屋の中全員が言葉をなくす。

ドレイルは話を続ける。

自らの世界、自分の国、部隊、戦争、そしてある任務中に死亡し、気が付いたらこの世界にいたことを話した。

当然、機密にかかわる事項、任務の内容や武器(銃など)については説明していない。

彼らも当然ドラゴンを倒した武器について尋ねたが、彼が『国家機密』と言うとすんなり引き下がった。

一通り説明し終え、ドレイルは机に用意されたお茶に手を伸ばし飲んだ。

「そんなことがあるなんて……」

ハンナの呟きはほかの二人の心境を代弁するようだった。

しばらく沈黙が続いた。

「今度はこちらから聞かせていただきたい。」

ドレイルがそう言うと3人が彼のいる方を向きなおす。

「さっき言ったとうり俺はこの世界に飛ばされて訳が分からないままここにいる。だからこの世界についていろいろと教えてくれないか?」

「…わかりました」

そう言いロバートはうなずく。

ドレイルが説明したように彼らも自らの世界について説明を始めた。

その話を聞いている中で、一番気になったのは『スキル』という言葉だ。

「スキルとはなんですか?」

ドレイルが発した質問に部屋の中の3人は驚いた顔をする。

「あなたの世界にはスキルが存在しないのですか?」

「いえ、スキルという言葉は存在するのですが、どうもあなた方の言うスキルとは違うようなので」

ロバートはそれを聞き納得した顔をした。

「そうですか。たしかに、あなたの話を聞いているとこちらには存在しない物の話がかなりありました。逆にあなた方の世界に存在しないものがあってもおかしくないですね」

その説明に残る二人も納得の表情をする。

「どう説明したらいいか…。スキルというのは世界すべての生物が持つ能力といったものでしょうか」

「能力?」

「ええ。たとえばレイナールは風を操る能力を所持しています」

横にいるレイナールを示す。

「その名の通り、風を操ることができます。ですが、武器などに風をまとわせることしかできません。大きな突風や竜巻など風そのものを操ることはできないのです」

「つまりスキルとは我々の世界でいう特殊能力のような物ということですか」

「たぶんそうなんだと思います」

「…あまり驚かないんですね」

ハンナがドレイルを見てそう言った。

「驚いてますよ」

「ですがあまりにも落ちついているように見えたので。私なんかあなたの話を聞いただけっで驚きっぱなしで今でも心臓がドキドキしているんですよ」

「まあ俺は何でもありえそうだなだなって心構えでいましたから」

「…すごいですね。本当に」

笑うドレイルにハンナは少し赤い顔を向けている。

「あの、お話を続けても?」

気まずい感じにロバートが尋ねる。

ハンナはあわててそっぽを向き、ドレイルはどうぞと言った。

「……」

そんな二人に何とも言えない表情をしたものの、気を取り直し話を続ける。

「ちなみに私は反射神経を強化する能力。これは能力を発動している間のみ反射神経が強化されます。ですが、体は強化されないので人間の限界を超えた動きはできません」

そのあとハンナの能力、そして弱点などを教えられた。

それを聞き納得したようにつぶやく。

「つまり、スキルというのは様々な能力を強化、または異能の力を発動するものということですか。そして必ずデメリットがあると」

「でめりっと?」

「あーと、悪条件という意味です」

レイノールの問いに答えるドレイル。

「ええ、呑み込みが早いですな」

「これでも軍ではエリートの部隊でしたから」

誇るようにドレイルは自分の腕章を見た。

ロバートとレイノールはドレイルに親近感を覚えつつ説明を続ける。

「スキルはだいたいすべての生物が持っています。中には発動しないもの、発動できても能力自体が役に立たないものもあります」

一旦話を切る。

「スキルはほとんどの生物は、1つしか身に着けていません。無論、人間も一つのみです」

「ほとんどてことは…」

「ええ、知られているだけでも3つまでスキルを持っている魔物が存在します。それがあなたの倒されたドラゴンなのです」

「…ドラゴン…」

そのつぶやきに周囲も少し静かになる。3人が静かになる中ドレイルは

(そんなに強くなかったけど、結構すごい奴だったんだ)

と3人が聞いたら頭が痛くなりそうな事を考えていた。

次も若干説明が続きます。

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