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騎士団

「どうかしましたか?」

後ろからため息が聞こえハンナは振り返り空を眺めるドレイルにそう尋ねた。

「いや、この世界には月が3つあるんだなって思ってさ」

「?」

不思議そうな顔をした彼女にごまかすように笑いながら行こうと彼女を促した。




しばらく歩くと畑と家らしき建物が見えてきた。

「あそこです。あそこが私の住む村、デア村です」

村を指さしながら彼女はそう言った。振り返りドレイルに告げる少女の顔には安堵があった。


ドラゴンとの戦闘の後、真っ先に考えたのは村についてだ。こんなところになぜドラゴンが現れたのかは不明だが、飛行してここまで来たのであればもしかしたら村も被害を受けているのではないか?と、気になっていたのだが、彼のこと(ドレイル)もあり急いで戻ることができなかった。

村の無事な姿を眺め、嬉しそうに笑う。

その顔を見てドレイルは自らの失態に気づく。少女は村のことが気になっていたはず。急いで戻りたかったのにドレイルの森での行動のせいでここまで遅くなってしまったのだ。申し訳なくなったが、今謝れば、彼女にかえって気を使わせることになるのは確実である。

彼は心の中で深く頭を下げた。



彼女についていき畑の間を進むと村の奥の方でガヤガヤとした人の声が聞こえた。

多くの人が集まっているようだ。そう思いながら道なりに進むと、小さな広場に出た。

そこでは広場の真ん中に置かれた小さなやぐらのような物の上に白銀の鎧にマントを身にまとった男が立ちその隣には同じく白銀の鎧をまとった女が立っている。マントをつけているがそれは男性とは色が違い男の方は赤、女性は白のマントを着ていた。

男は40くらいの外見をしていて髪は薄いブラウンで染まった短髪。歴戦の戦士といった風格を漂わせている。顔には刃物の傷がいくつかあるが、それを含めても女性に人気がありそうな渋いかっこよさがあった。

女性は、うすい青色の髪を肩まで伸ばしたものを後ろにまとめている20代ぐらいのかなり若い女性だった。そこそこ男性に人気のありそうな顔立ちだが、今の表情は硬くどちらかというとイライラしているようだ。男性の方の表情も固いがこちらは何かを覚悟しているような感じだ。

そのやぐらの周りを囲むかのように銀色の鎧をまとう兵士らしき姿もあった。数はおよそ20人といったところか。囲んでいる兵士たちはフルフェイスの兜をかぶっており表情は分からない。その兵士の一人が国旗を携えていた。国旗には紋章らしき上に剣を咥えた大きな鳥が描かれている。

その周辺には村の住人と思われる人達が兵士たちを不安げに眺めていた。

「王国の騎士団?なんで村に?」

ハンナがぽつりと言った。ドレイルはそんなハンナを見て騎士団を静かに眺めている。

「おお、ハンナ!戻ったか!」

「おじさん!」

ハンナは声をかけた相手に駆け寄る。

「いったいみんなどうしたの?それにあの騎士団は?」

「それがさっきいきなりやって来たかと思えば村の住人を全員集めろと命令されてな。わけを尋ねても答えてくれんのだよ」

「なんでそんなことを……」

2人が話しているのを聞きながらドレイルは男の騎士が一歩前に出るのを見た。

「ハンナ、どうやら説明してくれるようだぞ」

「ん?あんたいったい……」

おじさんと呼ばれた男がようやく彼に気づき、訪ねようとしたタイミングでやぐらの男が遮った。

「みなさん、どうぞ静粛に」

その言葉を受け、話していた村人達は静かになり、その人物に注目する。

「みなさん、私たちはマリアール王女殿下旗下のレスバード騎士団です」

その声に村民達の驚きの声が広がる。ハンナも「あの噂の…!」と呟いている。

(有名なのか)

ドレイルは言葉には出さずにそう思った。

「私が騎士団長のロバート・ブレイズです。彼女は副団長のレイノール・インフェル」

レイノールと言われた女性は、何も言わずただ立っていた。

ロバートは渋い顔をするが、気を取り直し話を続ける。

「単刀直入に言います。10日ほど前、国境付近にドラゴンが現れました」

ひときわ大きなざわめきが起きた。まさかそんなと口々に呟く。

そんな中、ハンナとドレイルは、あ、と気が付いた顔をした。

「その報告を受け、陛下は部隊の準備をすぐさま行いました。そしてドラゴンの動向に注意を払っていたのです」

ここで一旦切ると彼は、とても話しにくそうにしながら何とか続けた。

「その後の報告でドラゴンは国境を越えこの付近に飛来したと報告を受けました」

「な!」

ハンナの隣にいたおじさんが驚きの声を上げる。

他の村人も驚愕の声、「ウソだろ!」と恐怖した声を上げた。

「残念ながらこれは確実な報告です」

騎士団長は無情にも言い切った。

「その報告を受け、国王陛下はドラゴンの出没した地域の人間に避難命令を下しました。すぐに避難の準備を始めてください!」

「ひ、避難て、一体どこに?」

「城塞都市ドーレイスにです。みなさんの受け入れ準備はもう始まっています」

「確かにそこなら安全なのでしょうが……。しかし、避難の最中に襲われたら……」

「その際は、我々が全力で皆さんをお守りします!城塞都市までも皆さんと共に行動させていただくのでご安心を」

そう言いロバートは住人に準備を急がせる。

「待ってくれ!」

ドレイルが声を上げようとした瞬間、ハンナの隣にいたおじさんが大声で、ロバートの元へ歩み寄る。

「あんた、簡単に避難しろと言っているが、それは村を捨てろと言っているんだろ?」

静かだが軽い怒気を含めた声で彼は続ける。

「この村は我々に生活の糧で大切な家なんだ!それを捨てろというのか!?」

その言葉にロバートは、

「……はい。その通りです」

と静かに告げた。

その答えを聞き村の若者たちが憤りを見せた。

「ふざけるな!」

「そんなことできるわけがないだろが!」

次々にやぐらの上のロバートに罵声を浴びせる若者達。

自らの団長が罵声を浴びせられても騎士たちは動かない。同じやぐらの上にいるレイノールは、若者たちをにらみつけているが同じく動こうとしない。

睨まれたことで少しひるんだ彼らだがそれでも罵声がやむことがなかった。

「あんたら騎士団なんだろうが!騎士団なら村を守るために戦ってくれよ!」

「そーだ!何で戦ってくれないんだよ!」

「騎士団てのは騎士たちの中でも選りすぐりの騎士たちなんだろ!?ドラゴンぐらい簡単に倒せるんじゃないのか!?」

その罵声が響くと何かがブチと切れるような音がした。

「…ざけんじゃねーぞ……。…餓鬼ども…」

「な、なんだよ!」

レイナールが低い声で叫んだ青年の方を向く。

「ふざけんじゃねーよ!!糞ガキが!」

かなりの大声で叫んだ。

「レイノール、よせ」

「いやです、言わせてもらいます!」

隊長の制止を振り切り続ける。

「あんたら、ドラゴンがどれだけ強いのか知っていてそんなこと言っているのか!?」

若者たちは押し黙る。かつて多くの人々を苦しめたという伝承や昔話以外ドラゴンについて知らないのだ。


これには実は理由がある。かつてドラゴンは各地を転々とし猛威を振るった。そのためその強さを世界中の人間が知っていた。もちろん各国は、軍を率いてドラゴンに応戦したがどれも惨敗、傷一つつけることができなかった。人々はドラゴンにおびえ家屋や都市に内部に引きこもるようになった。そのため物流はストップし食糧問題や、財政難など様々な問題が発生した。しかしその後、ドラゴンは休眠期に入ったため何とかその問題は乗り切ることはできた。しかし、人々に根付いた恐怖は簡単には消え去らなかった。

やっと人々から恐怖が消え去り始めたころ、世界の国々では人々が恐怖し同じことを繰り返すのを避けるため、ドラゴンの明確な情報を隠すことにした。そしてドラゴン達についての詳細は国のトップや高官、ギルドなどの長、その他ごくわずかな人間だけが知ることとなった。

そのため現在の人々のドラゴンに関する知識は昔の人々が苦労した程度のことしか知られていないのだ。


「王国だけじゃない!!世界中の軍、兵士を集めても倒せるかどうかわからないんだぞ!!」

一気にすべてを話したレイノールはそう叫んだ。

ゼイゼイとレイノールが息をする以外に何も聞こえなくなる。騎士団の人間は知っていたのだろう。驚いた様子はない。村人は、ただ絶句していた。

ハンナはドレイルを見やり、ドレイルは露骨に視線をはずし、ひきつった笑みを浮かべている。

「…レイノール、それは国家機密だ。わかっているな」

「はい団長。覚悟はできています」

「……帰ってからお前の処分は決める」

「は!」

胸に手を当て敬礼をし後ろに下がる。その表情には迷いも後悔もなかった。

彼はそんな副長を眺め、目をつむり何かに耐えるようにして村人に向き直る。

「…避難の準備を始めてください」

そう言い切った。今度は誰も反対などしない。みなそれぞれ準備をするため自らの家に向かおうとする。



「あ、あのー。すみません」

と恐る恐る手を上げる少女がいた。

「なんだ!」

と副長が吠える。まだ何か言いたいのかと。家に向かおうとしていた住民達も立ち止り少女を見る。

「す、すみません!私、ハンナ・ディーゼルトと言います。」

その名前を聞き、団長と副団長が驚いた顔をする。

「ディーゼルト!?なら君は戦士長のお嬢さんなのですか?」

「はい、そうです」

「これは!お父上には大変お世話になっております!」

2人はやぐらから降りてハンナのもとまで行き、深々と頭を下げる。

「いえ、それよりもお話があるのですが」

「なんでしょうか?」

団長が尋ねると、彼女は少し言い辛そうにに言葉を続けた。

「あの、先ほど仰っていたドラゴンの事なのですが…」

「はい」

「実は………」

「実は?」

しばらく無言が続き、少し苦笑いを浮かべながらハンナは視線をそらし続けているドレイルを指し示し

「実は先程、この方がそのドラゴンを倒してしまいました」

と告げた。



「「………………………は?」」

村人と騎士団全員の声がきれいに一致していた。

今回の話の感想を一つ。


「2人とも……もっと早く言えよ!」

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