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目覚め

(とても静かだ)

気を失っていたドレイルは意識を取り戻すとまぶたを閉じたままそう思った。

時間が経つにつれて頭がはっきりとしてきたドレイルはゆっくりとまぶたを開けた。

開いた視界は真っ暗だった。瓦礫に埋もれているのだから当然だと思った。

しかしある疑問が頭をよぎった。


(なんで痛くないんだ?)


ドレイルは意識を失う瞬間、無数の瓦礫が自分に向かって降り注ぐのを確かに見ていた。実際そのために意識を失っていたのだから当たり前だ。しかし体には一切痛みがない。感覚がマヒしているかとも思ったが、自分が横たわっている地面の冷たさや感触が手のひらを通して伝わることで感覚が正常であることを理解した。

仰向けに寝そべったまま手を持ち上げてみた。指も問題なく動く。足も同様に動かし問題がないことを確認した。

ドレイルはジャケットをまさぐり胸ポケットに入っていたライトを取り出した。スイッチを入れる。

明かりに浮かび上がったのは予想していた瓦礫の山ではなく、石の天井だった。いや正確には洞窟の天井だろう。

「…なんだ…、ここ…」

ゆっくりと体を起こすと周囲を照らしてみて、ドレイルはかなり大きい洞窟の中の空洞に寝そべっていることが分かった。

立ち上がってみても天井まで2メートルくらいの高さがあった。横幅もかなり広い。

「洞窟?なんでこんなところに?」

どう考えてもわからない。

自分を照らしてみるが怪我などは見当たらない。

「とりあえず生きてはいるのか」

とほっと一息はいた。死を覚悟したとはいえ、ドレイルに自殺願望はない。助かったとなればうれしいものだ。

周りを照らしていると横穴が見えた。出入り出来そうな所はそこしかない

そちらへ向かって歩き出そうと一歩踏み出すと何かを蹴った。足元を照らしてみるとそこにはドレイルの装備していた銃が落ちていた。

P90TRカスタム

P90を改造したP90TRにサイレンサーとホロスコープを取り付けてある。任務の際は必ずと言っていいほどこの装備を持っていくほどのドレイルの愛用装備だ。武器があったことに多少安堵してライトを口にくわえ銃を手に取る。簡単なチェックを行ったが問題なかった。と近くにもう一つ何かが落ちていた。

「こへは……ハンナのは」

ライトを咥えたままそう言った。

M870MCS(ポンプアクション式ショットガン)

たぶん突き飛ばした際に落としたのであろうハンナの装備も回収して点検した。こちらも弾も銃の動作も問題なかった。

他に落ちていたメットなどの装備を拾い残っているものがないか確認し、ハンナの銃のベルトをかけ背後に回し、P90を構えそ俺は横穴へと移動した。

(とりあえずはここから出なくては考えがまとまらない)

早くここを出て隊長たちに連絡を取らなければ。どうして助かったかなどはそのあとで考えればいいと思いつつ歩みを速めた。

(…あ、でもなー………)

と歩みが遅くなった。

(あの時、死ぬの覚悟してかなりかっこつけた言い方してたからな。そんで生きてたらかなり恥ずかしいよな)

さらに遅くなる。

(しかもなんだよ!最後のあのセリフ!いみわかんねー!!)

思い出してあまりの自分らしくない発言に恥かしさのあまり転げまわりたくなるのを何とか抑え、最初に比べてはゆっくりだが歩みを進めた。

しばらく進むと明かりが見えた。

「お、よかった出口か!」

と早足で進んで外に出た。まぶしさのあまり目がくらむ。そして……驚愕した。

「な、なんだよこれ!」




そこにはうっそうと生い茂る木々が立ち並んでいた。そう森だ。10年以上前に全滅したはずの植物がそこにはあった。


「あ、ありえない!こんなこと絶対にありえない!」

戦争の最中、戦いの戦火によって木々は焼かれ土壌は汚染し2度と植物が生えない大地になってしまった。それにより動物も死滅し、今残っているのは人類と、それによって生み出された生物のみ。人々は大気処理プラントを作り酸素を、処理プラントにより食料と水を作り出し確保できるようにした。だがそんな状態になっても戦いを続けた。今の地球は、すべて工場で作り出されたもので持っている。これは子供でも当たり前に知っている知識だ。

そう教わってきたことが今、目の前で否定されている。とても信じられるわけがない。

「そ、そうだ!た、隊長に連絡を!」

いつも表情に出さないように作っていたポーカーフェイスもさすがに崩れた。普段なら出ないような焦った声を出しながら無線機のインカムをつけた。

「こちらドレイル!隊長!応答願います!」

インカムに向かって叫ぶが応答はない。数回繰り返したがいずれも応答はなかった。

「くそ!」

腹立たしげに叫ぶと八つ当たり気味に近くの木を殴りつけた。殴った衝撃で驚いた何かが何羽か木から飛び立った。

そんなことに気も留める余裕もなかった。正直かなり焦っていた。ただでさえあり得ないこと続きで冷静さを欠いているのだ。その上、自分のいる土地もわからず仲間と連絡も取れないとなると完全に見知らぬ地で迷子だ。そしてもっと最悪な可能性もある。

ここが敵地だという可能性だ。だとすれば絶望的だ。せっかく助かった命なのにその命をすぐにでも落としてしまうだろう。

「夢だと言ってくれよ……」

そうぽつりと呟いたがそれにこたえる者はいないし、ドレイル自身先ほど殴った際の痛みでこれが夢でないことは分かっている。

爆撃の際は、感覚がマヒしていたのもあって覚悟を決めることができた。だが、助かったと思い気をゆるませたとたんにこんな状況なのだ。ドレイルは木にもたれ掛るようにしゃがみ込み額に手を当てた。

上げて突き落とされる。上げられていた分だけ落とされた時の絶望は壮絶なものだ。

しばらくそのままの状態が続いた。

「ッ!あーーーーー!くそ!!悩んでも仕方ねえ!!」

そう叫びながらドレイルは腹をくくったような顔をした。

(まずは情報を集めねえと。居場所がわからないんじゃどうしようもない)

そう思い周辺を探索しようとマスクとゴーグルをはめ直しメットを被る。

一度深呼吸をし、森の中へと足を踏み入れた。



しばらく森の中を注意深く見渡しながら進む。森の中とあっていろいろな動物の気配がする。その気配に警戒しつつも前に進んだ。動物たちもドレイルの気配に気がついてはいるが手出しをしてこない。それはドレイルに隙がないこと、そしてドレイルにまとわりつく血の匂いに警戒してのことだった。気配はするが手を出してくる様子がないのでドレイルも無視することにした。

そのまましばらく突き進むと森の奥から何かが聞こえた気がした。

「……れ…か!…」

「?」

ドレイルは耳を澄ませた。

「……だれか!助けて!!」

少女の叫び声だ。

途端、ドレイルはためらいもせず声のした方に走り出した。

読んでくださってありがとうございます。


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