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Happy Halloween?

作者: 更紗 佳奈

 この学校はおかしい。


 体育祭や文化祭はもちろんのこと、ちょっとした行事でもすぐ大騒ぎしたがる。家から一番近いからといって学校見学もせず受験してしまったのを今更後悔していた。入学してから半年ちょっと。たったそれだけだが、そろそろ我慢の限界だ。なにしろ、少なくとも月二回はあるイベントに、全校生徒強制参加なのだ。いや、それなら他の学校と大して変わりはしない。何がおかしいかといえば。


「あれー、瑞貴、ごきげんななめー?」


 クラスメートの早紀が声をかけてきた。大きな黒い三角帽をかぶり、床まで届くマントをはおり、先のまるまったステッキを振り回している。……どこの魔女っ子だ。


「もーなんで仮装するものもってこなかったの?せっかくのハロウィンなのに」


 そう、今日は10月31日。どっかの国ではハロウィンなるものが全国的に認められていて、学校にも仮装してやってきて授業をするというが、ここは日本だ。もう一度言う、ここは日本だ。インターナショナルスクールでもなんでもない、ただの高校だ。


「ここは学校だから。それにい・ま・か・ら授業でしょ」

「えー。その学校が認めてるのにい。先生たちだっていろいろ着てきてるよ」

「聞こえません。認めません」

「もーそろそろこの学校に慣れてもいいんじゃない?楽しーよ?」

「早紀はどうぞこのまま楽しんでください」

「……まあ、いいけど」


 周りを見渡せば、皆思い思いの格好をしている。かぼちゃをかぶってる人、吸血鬼の格好をしている人、包帯を体に巻きつけている人、その他。ハロウィンに限らず、なにかある時には仮装をするのがこの学校では当たり前のこととなっている。入学当初は戸惑っていた一年生たちも、今では随分と楽しそうだ。自分は除いては。


(まあ、仮装しなきゃ先生からお咎めがあるんじゃあ、やったほうが無難よね)


 なんでも、この学校の創立者だが理事長やらがお祭りが大好きで、通常の行事のほかに世界の祭りデーなるものを何日も設け、その日は学校関係者は皆仮装することを義務付けたらしい。まったく迷惑なことだ。ただのコスプレ好きにしか思えない。私にはコスプレなんてする趣味はない。


 そんな私が義務から逃れる方法、それは。



「わー!おいしそう!!」


 昼休み。空き教室。私は今日のために大量に作ってきたお菓子を机の上に広げた。ハロウィーンにちなんでかぼちゃ尽くしだ。


「かぼちゃプリン、かぼちゃパイ、かぼちゃケーキ、かぼちゃクッキー、です。先輩、どうぞお納めください」


 大量のお菓子をきらきらとした眼で見つめるのは、ひとつ上の先輩だ。背は低めだが、女の子のように綺麗な顔にその人懐っこさで学校の人気者だ。ちなみに今日はサンタクロースの格好をしている。時期が違うだろ。そう言ってやったら、某ハロウィンの国の王様が大好きなんだ、と返された。意味がわからない。


「さすが、瑞貴ちゃんだね」

「それほどでも。では今回もこれでいいですか」

「うん、おっけーおっけーおーるおっけー」

「相変わらず軽いな……」


 ぼそりといった言葉も先輩には聞こえたらしい。どこに隠し持っていたのか、レースの付いた服を取り出す。……かわいい先輩がまさかメイド服なんてものを出すはずがn。


「……やっぱり、これ着る?」

「全力で遠慮します!!」


 そもそもなぜ先輩とこんな関係なのかといえば、先輩が理事長の息子だか孫だか親類だかだということだ(詳しく覚えていない。興味がないので)。そんな先輩はやはりわけのわからないひとたちの血縁者らしく、全校生徒に仮装や祭りの楽しさを説いて回っており、そんな中仮装をしない私が目についたのだ。


 最初のイベントのとき、私は仮装を必ずしなければいけないなんてことを思っておらず(脳が拒否していたともいえる)、とにかく祭りを楽しめ、ということだと解釈していた。そのため、趣味で作った料理をみんなに振舞おうと持っていったものの、仮装なんてしていなかった。そこに校内を見回っていた先輩が通りかかり、今に至る。まあ、つまり、仮装しないかわりに料理をふるまうってことです。前日、準備のために寝不足になろうともコスプレに比べたら何百倍もましです。……口調が変わってますが気にしないでください。


「ねえ、今日はお菓子ばっかりだね」

「いけませんか」

「僕、昼ごはんまだなんだよね」

「はあ、私もですが。あ、友達待たせてるんで戻っていいですか」


 昼休みすぐに呼び出されたのでまだご飯にありつけていない。早く戻らなければ早紀が待ちくたびれてしまう。


「へえ?」

「え?なんですか」


 いつも明るい先輩の声のトーンが下がったような気が。顔はいつもどおり笑顔なのに、なにか、何というか。……怖い。


「うん。いいよ。戻っても」

「ありがとうございます」

「これ着てくれたら」


 そう言ってさっき出した服を広げ、私に押し付けてくる。私はそれを押し返す。


「いやいや、着ませんよ!!着たくないから先輩にこうやってお菓子あげてるのに!!」

「……うん、まあね、瑞貴ちゃんがそういう子だっていうのは知ってるけどね」

「なんなんですか、嫌がらせですか」

「瑞貴ちゃんには言われたくないかな」


 その言葉に、堪忍袋の緒が切れた。ああ、今まで耐えていたのに。


「私が何したっていうんですか。先輩が言うようにしてるじゃないですか。コスプレだけはしませんけどね!」


 先輩の動きがぴたりと止まった。


「な、なんですか」

「ねえ、仮装以外だったらなんでもする?」

「はあ?」

「コスプレだけはしないってことは他の事はしてくれるってことだよね?」

「超解釈!いや、できないことは他にもたくさんありますよ!」


 なんだろう、この人。前から思っていたが、まるで言葉が通じない。私は大きく息を吸って、吐いた。


「……もういいですよね。友達待たせてるんで、これで失礼します」


 相手が聞いてくれないなら、あとは強行突破しかない。先輩にくるりと背を向けて、教室のドアに手をかけた。


「待って」


 さっきまでと違う、焦った声の先輩に手をつかまれた。


「放してください」

「ごめん、待って」


 すぐ後ろに先輩がいて、どういうわけか心臓が早く胸を打ち始めた。手以外は触れていないのに、先輩の体温を感じるような気がする。背も、そんなに高くないと思っていたのに、意外と自分より高いのだと気づく。手も、大きい。女の子よりも可愛い顔をしているくせに。

 

「ねえ、瑞貴ちゃん」

「……なんですか」


 声も、なんだかいつもより低くて男らしい。気づきたくないことに気づいてしまいそうだ。いや、今はまだ気付くべきではない。


「……」


 待てども先輩は何も言わない。握られた手の熱だけを感じる。怪訝に思い振り返る。


「先輩?」

「Trick or Treat」

「はい?」

「トリック オア トリート」

「……お菓子ならさっきたくさんあげたじゃないですか」


 がくっと肩の力が抜ける。こんなに時間をかけて言うことではない。それとも、ハロウィンらしく、どうしても言いたかったということだろうか。お菓子を渡す前に言ってほしい。


「トリック オア トリート」

「……もう、お菓子ないんですけど」


 教室に戻れば、みんなに配る用のは残っているには残っているけれど。さてどうしようか。


 ふと、先輩の顔が悲しそうに見えた。もしかしたら、先輩のこんな顔を見るのは初めてかもしれない。いつも私ばかりが先輩に遊ばれているから。それなら、今日くらいは。

 

「先輩」

「……はい」


 先輩の目をしっかり見つめて、とびっきりの笑顔で。


「Trick or Treat?」 





先輩ヘタレ過ぎ、主人公ガード固すぎ。



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