修業開始
あれから、ガルムさんとサラさんの惚気話を聞きながら、夕食をご馳走になり、死んだように寝た。
その時の惚気話で分かったのだが、ガルムさんの願いとは、妻になってくれる女性が欲しいということだった。
そんなことかと思ったが、確かにあの外見だと、普通の女性だと怖がってしまい、話にすらならないだろう。
実際そうだった様だ。
しかし旅の途中で出会ったサラさんは、ガルムさんの優しさに溢れた目が気に入った様で、なんとサラさんから、告白したようだ。
詳しいいきさつは知らないが、二人を見てると何だか、お似合いの様に思えた。
翌日、6時に起こされ、少し先にある街で、俺の服や武器を買いに行くと言われた。
武器と言われても、何だか遠い世界の気がしたが、そもそもここは、遠い異世界なんだし、ちゃんと選ぼう。
街に行くのに、「お前の格好だと目立ち過ぎるから、これを着ろ。」と言われて、麻の服を渡された。
支度も整い、出発する際に、
「ここから真っすぐ街まで向かう。大体5キロぐらいだから、走って行くぞっ!」
と言われた。
「そんなに体力がないです。」
と言ったら、
「大丈夫だ。嫌でも走らなきゃいけなくなるから。」
と満面の笑みで言われた。
走り始めて1分も経たない内に、巨獣が現れた。
初めて見たその巨獣は、熊の姿に良く似ており、全長が3m程あった。
ガルムさんが対処してくれると思ったら、ガルムさんはその脇を攻撃をかわしながら、走って行ってしまった。
遠くから「何してんだ!早く来い!」
とニヤついた顔で言われた。
生きて通れたら、一発殴ってやると思いながら、前にいる巨獣を見つめる。
気配読みによると、彼は腹を空かせており、俺を餌と認識していることが分かった。
俺は避けて通ろうと思いながら、彼のスキを伺うのだが、恐怖心でうまく観察出来ない。
そうこうしている内に、右腕を振り上げたたき付けてきた。
咄嗟に後ろに飛び、避けたが、体勢を崩してしまう。
体勢を立て直す前に、また左腕を横に振るう。
このままだと直撃すると思った時、急にくぅが俺の顔に飛び付き、体勢を崩していた俺は、後ろに倒れ込んだ。
巨獣の左腕は空振りに終わり、何とかまだ生きていた。
「くぅ、ありがとな。でもどうにかこいつから、逃げ出さないとな。」
俺は気配読みを使って、周りの位置を確かめる。
少し左側にそれれば、崖があることが分かり、近くに丈夫な木の蔦があることが分かった。
俺はすぐさま、くぅを胸元に入れ、左側に走り出し、蔦の先を掴み、崖からジャンプした。
巨獣は俺をすごい速さで追ってきたが、その速さが災いした。
俺は、崖の外へ身を投げたが、蔦が木に絡まっているので、木を中心に半円を描いて、ジャンプした崖から、ちょうど木を挟んで反対側へ着地した。
巨獣は俺に飛び付こうとしたが、半円の軌道に対応出来ず、崖の下へと落ちていった。
俺はガルムさんのいる所まで行って、文句を言おうとしたが、ガルムさんに先を越されてしまった。
「俺は“真っ直ぐ”街に向かうと言ったんだがな。何寄り道してんだ!」
「ガルムさんみたいに出来る訳ないじゃないですか!」
「それはお前がちゃんと“見て”ないからだ!ちゃんと手本も見せたろ?!」
「一回で分かれば、苦労なんてしませんよ!」
「だから、お前は“見て”ないって言ってんだ。俺の推測が正しければ、お前の気配読みを使って“見れ”ば、危険な領域、そうでない領域が分かるはずだ。本当はそんぐらい自分で気付けよ。最初から死なれたんじゃ、暇潰しにもなんねぇから、今回は教えたが、後は自分で考えな!」
そう言われると何も言い返せなかった。その通りだと思うし、自分で自分の今出来ることを把握していなかったし、甘えもあったんだと思う。
日本にいた頃と何も変わってねぇじゃん…
「何しけた顔してんだ。さっさと行くぞ!」
よし、今出来ることを精一杯しよう!
そう決意し、ガルムさんの後を追った。