くぅ?…くぅっ!
木の温もりが嬉しい素敵な部屋。
「素敵な部屋だな。豪華では決してないけど、かなり落ち着く。」
部屋の広さや設備自体は、ビジネスホテルと何ら変わりない。
テレビもポットも冷蔵庫もないが…
それを差し引いても、俺はこちらの方が好きだ。
ベッドに荷物を降ろして、武器選びの際に破れてしまった服を脱ぎ、替えの服を着る。
「さてと…くぅっ!覚悟は良いか?嫌なら、無理しなくて良いんだよ。」
お爺さんに貰った首輪を取り、くぅに聞いた。
くぅは大切な相棒だ。
くぅの意志を出来るだけ尊重させたい。
「にゃっにゃにゃっにゃ〜〜〜っ!」
くぅは早く首輪を付けたいそうだ。
「じゃー付けるよ。ただで貰ったものだけど、これが初めての俺からくぅへのプレゼントだ。」
そう言いながら、くぅに首輪を付ける。
「よしっ!うわぁ〜〜〜…」
くぅに首輪を付けた瞬間、強烈な光が辺り一帯を照らした。
俺は眩し過ぎて、目を閉じ、左手で目を押さえた。
「…け…ん…けん…健っ!」
誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる…
「健っ!」
ゆっくりと目を開ける。
強烈な光を見てしまったせいで、あまりはっきりと見えない。
「誰?誰かいるのか?」
「健っ!こっちだよっ!」
声のする方を見る。
「へっ?ってわぁ〜〜〜っ!」
慌てて目を閉じる。
目を閉じても脳裏に焼き付いてしまってる。
黒いネコミミとシッポを付けた、十代前半と思われる可愛い少女が素っ裸で…
「ちょ、ちょっと待てっ!君は誰?ってか服っ!服を着てくれっ!」
「あぁそっかぁ〜。ちょっと待っててね。健の服借りるね。」
そう言って、謎のネコミミ&シッポ付き美少女は、ゴソゴソと鞄をあさって…
「健っ!目開けて良いよっ!」
ゆっくり目を開けて、彼女の方を見る。
彼女は、俺の着替えの服を着ていた。
ホッとしたが、何だか少し残念…
「え〜っと…、君誰?」
「くぅだよっ!健の相棒の黒猫のくぅっ!」
「…へっ?君がくぅ?」
周りを見渡して見る。さっきまですぐ側にいたくぅがいない。
自称くぅを観察する…
黒い髪…
黒い瞳…
黒いネコミミ…
黒いシッポ…
超可愛い…
やべ…
十代前半の女の子をいやらしい目で見てしまった…
俺犯罪者じゃん…
そうやって、自称くぅを自分の煩悩に苦しみながら、観察していると…
「…あっ、ピンクの首輪…本当にくぅ?!」
くぅに先程付けた首輪が、彼女の首に付いていた。
「だから、くぅだよって、言ってるじゃんっ!」
頬っぺたを膨らませながら、プンプン怒ってる。
可愛い…
「マジでかー。その首輪って、猫を人の姿にする力があるってこと?」
「何かわかんないけど、健とちゃんとお話したいって思ったら、こうなってた。また猫にも戻れるっぽい。何度でも猫にも人間にもなれるみたい。」
「そぅなんだ…まぁ俺もくぅと話が出来るのは歓迎だし…細かいことはいっかっ!」
…可愛いし…
でも猫だよな…
猫でも可愛いものは仕方がない。と無理矢理に自分を説得。
コンコンっ…
誰かがドアをノックしている。
「誰ですか?」
「リーンよっ!いつまで待たせるつもり?入るわよっ!」
そう言って、リーンは部屋に入って来た。
「健っ!いつまで………あなた誰?」
「くぅですっ!リーン姉さんっ!」
「は、はぁ〜〜〜?!」
まぁ当然の反応だな…
俺はリーンに今まであったことを全部話した。
もちろん女将さんとのやり取りの後のことを全部だ…
「なるほどね。でもそんなアイテムや魔法なんて、噂でも聞いたことがないわ。でも目の前で見ると信じざる得ないわね。」
中々信じて貰えず、結局見てもらった方が早いということで、くぅに猫に戻って貰った。
どうやら、強烈な光を発するのは、最初の1回だけの様だ。
「じゃー今日はまず、くぅの服を買いに行きましょう。」
「こんな時間にまだやってる店あんの?」
「ないわよ。でも知り合いの店なら、頼めば何とかなるかも…早く行きましょっ!」
猫姿のくぅを連れて、リーンの知り合いの店に来た。
リーンは裏口にまわり、
「シャルっ!リーンよっ!開けてくれない?」
大声を張り上げる。
建物の中から、ゆったりとした声色で返事が返ってきた。
「は〜い。ちょっと、待っててねぇ〜。」
しばらく待っていると、トテトテトテとゆったりとした足音が聞こえ、
「リーンちゃん?どぅ〜したの〜?」
という声と同時にゆっくりと裏口のドアが開いた。
「シャルっ!悪いんだけど、ちょっとだけ、店開けてくれない?」
「あらあら、リーンちゃんどうしたの〜?とりあえず、こちらにいらっしゃいな〜。」
「ごめんね。こんな時間に…。くぅちゃんの服を買いたいのよ。」
「くぅちゃん?ですかぁ〜?」
「そうそう、この子。」
そう言って、猫姿のくぅを指差す。
「ねこちゃん?」
「ちょっと待ってね。くぅ、人の姿になってっ!」
くぅは、“にゃっ!”っと鳴くと、人の姿に変わった。
人の姿になっても、ネコミミとシッポは健在で…
しかも、今気付いたのだが、服を着たまま、猫の姿になると、普通の黒猫になるのだが、また人の姿になると、今度はちゃんと服を着ているのだ。
猫の姿になった時、服がどこかに消えてしまったので、まさかとは思ったんだが…
これはどういう仕組みなんだ?
そんな疑問をよそに、女の子3人?組はなぜだか、すぐに意気投合して、服を選んでいる。
リーンもそうだけど、シャルって子も順応性高すぎるだろっ!
「ねぇねぇ、健っ!これ似合う?」
くぅがフリフリの付いた可愛い服とスカート姿でくるりと回ってみせた。
「とても似合ってるよ。」
そう言うと、
「えへへっ…」
と顔を赤らめながら、モジモジしていた。
本当に可愛い。
胸がペッタンコなのが残念だが、そんなことはどうでも良い様に感じる。
あれ?
なんか胸がドキドキしてる…
「リーン姉さん、シャル姉さん、くぅこれにするっ!」
くぅは2人に言った。
「シャルさん、こんな時間に店を開けてくれてありがと。これは全部でいくらになります?」
シャルさんはニッコリ笑って、
「今日は特別にくぅちゃんにあげるわぁ〜。あと、この帽子も。ネコミミが見えたまんまになってるのは、何かと都合がよろしくないと思いますのでぇ〜。」
そう言って、着てる服に似合いそうな、麦藁帽子をくれた。
「何から何まで、ありがとうございます。今度はお店のやってる時間に買いに来ますね。」
俺はシャルさんの好意に甘えることにした。
「そうして下さいなぁ〜。また来てくださるのを楽しみに待ってるわぁ〜。」
くぅが一段と可愛くなった姿で、リーンと3人でご飯を食べて、Work Agencyに戻った。
シャルさんも誘ったのだが、まだお店の片付け等があるとのことで、また今度ということになった。
しかし、今日は色んなことがあったな…
マージさんの色気にあてられたり、くぅの可愛い姿にドキドキしたり…
あれ?
俺って、守備範囲広くね?!
自分がこんなに節操なしってか、女好き?だと初めて知った、三日月の夜でした。