Work Agency
昼食もたらふく食べて、街を歩いている。
「次はどこ行くの?」
「仕事斡旋所に向かってる。」
「仕事斡旋所?」
「おぅ。 Work Agency―通称、Double Aつって、まぁあんまり誰もやりたがらない仕事を紹介してくれる所だ。」
「誰もやりたがらないって、危険な仕事ってこと?」
「危険な仕事から、地味な仕事や子供でも出来る様な仕事まで、色々だ。健はまだ簡単な仕事しか、紹介してもらえない筈だから、安心しろ。…おっと、ここだ。」
目の前には盾の前に、剣と杖が交差している看板の上に―Work Agency―と文字が書かれており、周りの建物よりかなり大きい建物があった。
「おい、何ボーっと突っ立ってんだ。さっさっと中に入って、健の登録するぞ。」
中に入ると、何だかホテルのロビーみたいな作りで、受付には同じ服を着た人が10人程並んでいた。ここの職員なんだろう。
ガルムは、ズカズカと入って行き、
「ギリアム所長はいるか?」
と、たまたま列の真ん中にいた女性に聞いた。
「お客様、アポイントはお取りですか?」
表情を変えず、クールビューティな女性は答えた。
ザワザワ…
「んなもん、取ってねぇよ。良いから所長を呼んでくれ。」
ザワザワ…
…ん?
「申し訳ございませんが、アポイントのない方はお取り継ぎ出来かねます。お引き取り下さい。」
「ガルムが会いに来たと言えば良い。」
ザワザワ…
何かすごい注目されている…。
「申し訳ございませんが、日を改めて…」
「ガルム様っ!申し訳ございませんっ!彼の者は新人でございまして、ご無礼をお許し下さいぃぃぃっ!」
ロビーのフロントの裏から、ロビーの責任者みたいな人が出て来た。
「ほら、お前も頭下げなさい。」
「どうしてですか?悪くもないのに何で私が頭を下げなきゃならないんですか?」
やはり、淡々と答える女性。
ガルム相手によくそこまで、物おじせず答えられるものだと感心してしまう。
「お、お前はどなたを相手してるのかわかっているのか?!」
「ハッハッハッ!お前、名前は何てぇーんだ?」
ガルムはご機嫌の様子で聞く。
「リーンと申します。」
「リーン、悪かったな。ただこちらも緊急なんだ。これが登録カードだ。」
と言って、銀行のキャッシュカードの様なものを手渡した。
「こ、これは…。Sランクのカード…。すぐにお取り継ぎを致します。」
リーンさんの態度が一転した。驚愕の表情が現れる。
「あっと、それから、おい。」
「はいっ!わたくしでございましょうか?」
ガルムは責任者みたいな人に話掛ける。
「良い人材を確保したな。くれぐれも“大切”にな。」
うわぁ〜。あの言外のプレッシャーはあんな間近で受けたくない…
「は、はいっ!」
これでリーンさんを褒めることはあっても、罰則は与えられないだろう。
「お待たせいたしました。7階までお越し下さいとのことでございます。」
「サンキュー。あっと、それから、あいつの登録もお願いするわ。俺の“友達”なんだが、ここのこと全く知らないから、よく説明してやってくれ。」
「畏まりました。」
「じゃ、俺は行くから、しっかり説明聞けよ。」
「了解。リーンさんお願いします。」
「あと、ついでに何か自分で出来そうな仕事も受けとけ。ナンパなんてしてんなよっ!」
「する訳無ねぇっ!俺にそんな勇気ないわっ!」
ガルムは笑いながら去って行った。
ガルム様にあんなこと言えるなんて、勇気有りすぎだろっ!っと従業員達は心の中でツッコンだ。
今までの張り詰めていた空気が、緩んでいくのを感じながら、リーンさんの前まで来た。
「えーっと、聞いての通り、登録をしたいんですけど…。」
「はい。それでは、まずはお名前を伺っても宜しいでしょうか?」
また初のクールビューティな冷静な態度に戻った、リーンさんが聞いてきた。
「黒木 健と言います。家名が黒木で名前が健です。」
「ケン・クロキ様ですね?では、生年月日をお願いします。」
「えーっと、変なこと聞くけど、今って、何年何月?」
「はいっ?あっえー、2011年3月10日ですが…」
リーンは素っ頓狂な声をあげ、目を丸くしながら答える。
こんな表情もするんだ。可愛いなぁーなんて思いながら…
この世界は日本にいた頃と時間軸は同じなのか。そう言えば、気にしてなかったけど、話してる言葉も日本語だよな?
でもWork Agencyって英語だし…
まぁ困る訳じゃないし、今は良いか…
「1982年4月1日生まれです。」
「承知致しました。後はここにある機械に両手を載せて下さい。」
フロントの上の右側にある、長方形の箱の様なものを指して言われたので、両手を広げて載せる。
10秒ぐらい載せていると、
「はい。もう宜しいですよ。これで手続きは完了です。カードが出来るまで、簡単にこの施設のことをご説明致します。」
「宜しくお願いします。」
「フフフ。健さんってとても丁寧な人ですのね?!ここに来る人は変わり者が多いみたいなのに、何か健さんって、とても普通よね。でも友達にSランクの方がいるってだけで、十分変わり者かぁ〜」
急にリーンさんはとても親しみ易い感じに変わった。
「急に態度が変わって、びっくりした?さっきも話した通り、ここに来る人は、大抵常識がぶっ飛んでいる人がほとんどなのよ。だから、あえて、表情を隠してたのだけど、あなたは、常識ありそうだし。それにガルムさんにも見抜かれてたみたい。表情隠すの自信あったんだけどな。」
何となく分かる気がした。日本で営業していた時は、相手に心で何考えているのか、悟られない様に、常に笑顔を張り付けていたから。
それにしてもガルムって人の心を読めるのだろうか…
「なるほどね。ところでSランクって、そんなにすごいの?」
「それはそうよ。すごいってもんじゃないわよっ!Sランクの人なんて、この世界に30人もいないのよっ!本当に何も知らないのね。じゃーランクについてから説明するわね。
まず、ランクはSからGまであるの。G、F、E、D、C、B、A、Sという具合に上がっていくの。AとSには更に段階があって、シングルA、ダブルA、トリプルA、シングルS、ダブルS、トリプルSとなっているわ。ガルムさんは、SランクでもシングルSよ。ダブルSは世界に10人ぐらい。トリプルSは3人しかいないの。」
「じゃーガルムはトップ30の一人ってことかぁ〜。すごいはずだ。」
「あなたは、Gランクからのスタートよ。ガルムさんからの推薦状があれば、最高Cランクからスタート出来るけど…」
「Gからで良いです。初仕事でおだぶつしたくないんで。」
「賢明な判断ね。徐々に慣れながらの方が良いわ。それにあなたも魔法は使えないみたいだし…仕事は、受付でも探せるし、あそこにある端末機からでも出来るわ。」
「俺、魔法使えないの?ちょっと期待してたのに…“も”ってことは、リーンさんも?」
「リーンで良いわ。その代わり、私も健って呼ぶから。私も使えないけど。カード見れば、魔法を使えるか使えないか分かるんだけど、ガルムさんも使えないみたいよ。Sクラスの人で使えない人がいるなんて、知らなかった。恐らく、魔法なしだと、ガルムさんは断トツでトップなんじゃないかしら。」
「なんだ、ガルムも使えないのか…まっガルムの場合は使えても、使えなくても、関係なさそうだけど。」
「話がそれてしまったけど、丁度カードが出来たみたいだから、端末機の使い方教えるわね。先に端末機まで行ってて。」
そう言って、リーンさんはフロントの裏側に行った。
端末機はパソコンにそっくり、右側にカードに差し込み口があった。
「お待たせ。はいっ!これが健のカードよ。なくしちゃだめよ。このカードは、身分証明としても使えるし、銀行のカードとしても使えるの。ここには銀行の機能もあるから、ここに登録すると同時に、口座も開けるの。だから健の口座も既にあるわ。仕事の報酬は、すべてここに振り込まれるわ。お金を卸すのは、ここでも出来るし、他の銀行でも可能よ。大体こんな感じ。あとは実際にやって覚えた方が早いわ。
まずは、カードをそこに入れて。」
言われるがまま、カードを端末機の側にある機械に入れた。
「その次に画面に向かって、両手をかざして。」
両手をかざすと、パソコンもどきが何かを読み取り、俺の名前が出て来た。5秒すると、画面が変わって、Gランクでも受けられる仕事の一覧が出て来た。
「初仕事の内容を選んで、画面のエントリーの部分を右手の人差し指で触れれば、完了よ。受ける前に必ず詳細を読んでね。詳細の部分を同じく右手の人差し指で触れると、仕事内容や報酬、仕事によっては、罰則なども載ってるわ。」
詳細の画面を見ながら、仕事を探してみる。
最初だから、簡単に出来るもの…っと。
“迷い猫の捜索
ランク:フリー
仕事:猫の捜索
期限:無期限
報酬:銀貨5枚
罰則:なし
備考:受付にお寄り下さい。”
よし。これにしよう。てか、食堂を出てから、くぅをずっと胸元に入れていたのを忘れてた。通りでリーンさんは俺の胸元をチラチラ見る訳だ…
「猫探しにするのね。備考にある通り、受付に行くわよ。」
そしてまた受付に戻る。何か端末機の意味がないような…
でも受付が混雑してる時は、端末機で仕事選べるから意味はあるのか…
それにしても、リーンさんって可愛いなぁ〜